資料2010年01月19日 【主要判例】 平成21(受)96 不当利得返還請求事件
事件番号 平成21(受)96
事件名 不当利得返還請求事件
裁判年月日 平成22年01月19日
法廷名 最高裁判所第三小法廷
裁判種別 判決
結果 破棄自判
判例集等巻・号・頁
原審裁判所名 名古屋高等裁判所
原審事件番号 平成20(ネ)240
原審裁判年月日 平成20年10月09日
判示事項
裁判要旨 共有者の1人が共有不動産から生ずる賃料を全額自己の収入として不動産所得の金額を計算し,納付すべき所得税の額を過大に申告してこれを納付したとしても,他人のために事務を管理したということはできず,事務管理は成立しない
主文
原判決中,上告人敗訴部分を破棄する。
前項の部分につき,被上告人の控訴を棄却する。
控訴費用及び上告費用は被上告人の負担とする。
理由
上告代理人宮嵜良一,同堀江亮介の上告受理申立て理由について
1 本件は,上告人と被上告人との共有に係る不動産から生ずる賃料を被上告人
が単独で取得したとして,上告人が被上告人に不当利得返還請求をしたのに対し,
被上告人が,上記賃料収入のうち上告人に帰属する部分を含め被上告人の不動産所
得に係る収入金額に計上して所得税の確定申告をした結果同税及び市県民税を過大
に支払ったことが事務管理に当たるなどとして,事務管理に基づく費用償還請求権
との相殺を主張して争う事案である。
2 原審の適法に確定した事実関係の概要等は,次のとおりである。
(1) 上告人と被上告人は兄弟であり,第1審判決別紙物件目録1記載3~5の
各不動産及び同目録2記載の不動産(以下,併せて「本件各不動産」という。)
を,共有持分各2分の1の割合で共有している。
(2) 被上告人は,本件各不動産を第三者に賃貸するなどして管理し,平成元年
1月から同18年12月までの間に合計7091万1700円の賃料収入を得た。
被上告人は,平成元年分~同18年分の所得税の各確定申告において,上記賃料収
入全額を被上告人の不動産所得に係る収入金額として申告をした。
(3) 上記賃料収入の2分の1に当たる3545万5850円は,本件各不動産
の共有者である上告人に帰属すべきものであったから,上告人は,被上告人に対
し,同額の不当利得返還請求権を取得した。
(4) 他方,被上告人は,本件各不動産に係る固定資産税,修繕費等を支払い,
また,父及び母の相続の際に上告人が負担すべき相続税を納付したことなどによ
り,上告人に対し,事務管理に基づく費用償還請求権等として合計2151万22
91円の反対債権を取得した。
(5) 上告人の被上告人に対する不当利得返還請求権の額は,上記(4)の反対債権
との相殺の結果,1394万3559円となった。
3 原審は,被上告人が本件各不動産に係る賃料収入のうち上告人に帰属する部
分を含めて被上告人の不動産所得に係る収入金額として確定申告した結果過大に支
払うこととなった所得税及び市県民税合計230万7800円についても,被上告
人は,上告人に対し,事務管理に基づく費用償還請求権を有すると判断して,同請
求権と上告人の被上告人に対する不当利得返還請求権との相殺を認め,上告人の請
求を1163万5759円の支払を求める限度で認容すべきものとした。
4 しかしながら,原審の上記判断は是認することができない。その理由は,次
のとおりである。
所得税は,個人の収入金額から必要経費及び所定の控除額を控除して算出される
所得金額を課税標準として,個人の所得に対して課される税であり,納税義務者は
当該個人である。本来他人に帰属すべき収入を自己の収入として所得金額を計算し
たため税額を過大に申告した場合であっても,それにより当該他人が過大に申告さ
れた分の所得税の納税義務を負うわけではなく,申告をした者が申告に係る所得税
額全額について納税義務を負うことになる。また,過大な申告をした者が申告に係
る所得税を全額納付したとしても,これによって当該他人が本来負うべき納税義務
が消滅するものではない。
したがって,共有者の1人が共有不動産から生ずる賃料を全額自己の収入として
不動産所得の金額を計算し,納付すべき所得税の額を過大に申告してこれを納付し
たとしても,過大に納付した分を含め,所得税の申告納付は自己の事務であるか
ら,他人のために事務を管理したということはできず,事務管理は成立しないと解
すべきである。このことは,市県民税についても同様である。
5 以上と異なる原審の判断には,判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違
反がある。論旨は理由があり,原判決中上告人敗訴部分は破棄を免れない。そし
て,前記事実関係の下においては,上告人の請求を1394万3559円の限度で
認容した第1審判決は正当であるから,被上告人の控訴は棄却すべきである。
よって,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官藤田宙靖裁判官堀籠幸男裁判官那須弘平裁判官
田原睦夫裁判官近藤崇晴)
PDFファイルを表示(20100119141216.pdf)
事件名 不当利得返還請求事件
裁判年月日 平成22年01月19日
法廷名 最高裁判所第三小法廷
裁判種別 判決
結果 破棄自判
判例集等巻・号・頁
原審裁判所名 名古屋高等裁判所
原審事件番号 平成20(ネ)240
原審裁判年月日 平成20年10月09日
判示事項
裁判要旨 共有者の1人が共有不動産から生ずる賃料を全額自己の収入として不動産所得の金額を計算し,納付すべき所得税の額を過大に申告してこれを納付したとしても,他人のために事務を管理したということはできず,事務管理は成立しない
主文
原判決中,上告人敗訴部分を破棄する。
前項の部分につき,被上告人の控訴を棄却する。
控訴費用及び上告費用は被上告人の負担とする。
理由
上告代理人宮嵜良一,同堀江亮介の上告受理申立て理由について
1 本件は,上告人と被上告人との共有に係る不動産から生ずる賃料を被上告人
が単独で取得したとして,上告人が被上告人に不当利得返還請求をしたのに対し,
被上告人が,上記賃料収入のうち上告人に帰属する部分を含め被上告人の不動産所
得に係る収入金額に計上して所得税の確定申告をした結果同税及び市県民税を過大
に支払ったことが事務管理に当たるなどとして,事務管理に基づく費用償還請求権
との相殺を主張して争う事案である。
2 原審の適法に確定した事実関係の概要等は,次のとおりである。
(1) 上告人と被上告人は兄弟であり,第1審判決別紙物件目録1記載3~5の
各不動産及び同目録2記載の不動産(以下,併せて「本件各不動産」という。)
を,共有持分各2分の1の割合で共有している。
(2) 被上告人は,本件各不動産を第三者に賃貸するなどして管理し,平成元年
1月から同18年12月までの間に合計7091万1700円の賃料収入を得た。
被上告人は,平成元年分~同18年分の所得税の各確定申告において,上記賃料収
入全額を被上告人の不動産所得に係る収入金額として申告をした。
(3) 上記賃料収入の2分の1に当たる3545万5850円は,本件各不動産
の共有者である上告人に帰属すべきものであったから,上告人は,被上告人に対
し,同額の不当利得返還請求権を取得した。
(4) 他方,被上告人は,本件各不動産に係る固定資産税,修繕費等を支払い,
また,父及び母の相続の際に上告人が負担すべき相続税を納付したことなどによ
り,上告人に対し,事務管理に基づく費用償還請求権等として合計2151万22
91円の反対債権を取得した。
(5) 上告人の被上告人に対する不当利得返還請求権の額は,上記(4)の反対債権
との相殺の結果,1394万3559円となった。
3 原審は,被上告人が本件各不動産に係る賃料収入のうち上告人に帰属する部
分を含めて被上告人の不動産所得に係る収入金額として確定申告した結果過大に支
払うこととなった所得税及び市県民税合計230万7800円についても,被上告
人は,上告人に対し,事務管理に基づく費用償還請求権を有すると判断して,同請
求権と上告人の被上告人に対する不当利得返還請求権との相殺を認め,上告人の請
求を1163万5759円の支払を求める限度で認容すべきものとした。
4 しかしながら,原審の上記判断は是認することができない。その理由は,次
のとおりである。
所得税は,個人の収入金額から必要経費及び所定の控除額を控除して算出される
所得金額を課税標準として,個人の所得に対して課される税であり,納税義務者は
当該個人である。本来他人に帰属すべき収入を自己の収入として所得金額を計算し
たため税額を過大に申告した場合であっても,それにより当該他人が過大に申告さ
れた分の所得税の納税義務を負うわけではなく,申告をした者が申告に係る所得税
額全額について納税義務を負うことになる。また,過大な申告をした者が申告に係
る所得税を全額納付したとしても,これによって当該他人が本来負うべき納税義務
が消滅するものではない。
したがって,共有者の1人が共有不動産から生ずる賃料を全額自己の収入として
不動産所得の金額を計算し,納付すべき所得税の額を過大に申告してこれを納付し
たとしても,過大に納付した分を含め,所得税の申告納付は自己の事務であるか
ら,他人のために事務を管理したということはできず,事務管理は成立しないと解
すべきである。このことは,市県民税についても同様である。
5 以上と異なる原審の判断には,判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違
反がある。論旨は理由があり,原判決中上告人敗訴部分は破棄を免れない。そし
て,前記事実関係の下においては,上告人の請求を1394万3559円の限度で
認容した第1審判決は正当であるから,被上告人の控訴は棄却すべきである。
よって,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官藤田宙靖裁判官堀籠幸男裁判官那須弘平裁判官
田原睦夫裁判官近藤崇晴)
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