カートの中身空

閲覧履歴

最近閲覧した商品

表示情報はありません

最近閲覧した記事

解説記事2012年01月30日 【解説】 24年度税制改正大綱と社会保障・税一体改革素案を読み解く(2012年1月30日号・№436)

解説
24年度税制改正大綱と社会保障・税一体改革素案を読み解く
 (社)日本経済団体連合会 経済基盤本部長 阿部泰久

はじめに

 1月6日に「社会保障・税一体改革素案」(以下「素案」)が政府・与党社会保障改革本部決定として閣議に報告され、3月末までには法案が国会に提出されることとされている。素案をめぐり、与野党間でどのような展開となるのかは予断を許さないが、本稿では素案の「第2部税制抜本改革」部分の要点を紹介しながら、自民党政権時代の平成21年度税制改正法附則第104条(以下「附則104条」)に規定された税制抜本改革が、素案においてどのように具体化されようとしているのかを考察していきたい。
 また、昨年12月10日には「平成24年度税制改正大綱」(以下「24年度大綱」)が閣議決定されているが、これも税制抜本改革の一環として位置付けられ、素案との関係を無視しては論じられない。

Ⅰ.平成23年度税制改正案から一体改革まで
 素案で示された税制抜本改革及び24年度大綱を理解するためには、未完に終わった23年度税制改正の顛末を整理しておくことが有用である(表1参照)。

 23年度税制改正は、ねじれ国会や東日本大震災により翻弄され、経済対策や雇用対策等の政策税制部分のみは昨年6月に成立したが、ミニ抜本改革とも称された主要部分は、その後も国会で審議されることなく、漸く11月10日に至り、震災復興財源に係る政治決着としての民主・自民・公明3党「税関係協議結果」により、法人税の実効税率引下げと課税ベース拡大のみが当初案通りに実現し、個人所得税や資産課税等は、この合意の中で「23年度改正事項のうち積み残し分については、平成24年度税制改正又は税制抜本改革に合せ成案を得るよう、各党でそれぞれ努力する。」とされて終わった。
 積み残し部分はすべて抜本改革に先送りすることもあり得たが、所得税における給与所得控除の上限設定、退職所得課税の見直し、及び地球温暖化対策としての石油・石炭税の段階的引上げは、24年度大綱に盛り込まれている。これらは、いずれも24年度改正で実施しなければならない緊急性はなく、むしろ、抜本改革の課題としてもよい内容である。にもかかわらず、あえて24年度改正とする理由は、厳しい財政事情の中で税制改正を全体として減税とすることはできないためと考えられる。また、石油・石炭税は、エネルギー対策特別会計の財源とされており、増収策がなければ新規施策ができない。
 一方、23年度改正の積み残し部分として素案に盛り込まれた項目は、相続税及び贈与税の見直しであり、その内容はいずれも当初案と同じである(平成27年1月1日より施行)。なお、所得税における成年扶養控除の見直しは「改めて検討する」として先送りされている。

Ⅱ.24年度税制改正大綱

1.24年度税制改正の位置付け
 政府税制調査会ならびに復活した民主党税制調査会における24年度税制改正審議は一体改革と並行でなされた上に、秋口からは復興財源、復興支援税制の第2段が優先された。さら
に平成23年度税制改正法案の決着に11月末までを要したため、実質的な審議期間は10日あまりでしかなかった。その結果、23年度改正の積み残しを除けば、24年度大綱の新規項目としては、車体課税の軽減、福島・沖縄関係、国際課税ぐらいでしかない。
 法人税関係についても、環境関連投資促進税制や中小企業投資促進税制の拡充ぐらいしか特筆すべきことはなく、それ以外は、研究開発税制の上乗せ部分(高水準型、増加型)や海外投資等損失準備金の延長等の期限切れを迎える政策税制の手当がなされているにすぎない。
 その意味で、24年度大綱は、24年度からの施行となった23年度改正と抜本改革との間のつなぎとして、必要最低限の措置を定めるものとも言えよう。

2.なぜ車体課税軽減か  24年度税制改正の焦点は車体課税の軽減であった。要望側では関係業界はもちろん、経済産業省の最重要事項であり、経団連の重点要望でもあった。しかし決定的であったのは、連合が事実上の最重要課題として取り組んだことである。
 自動車産業は、製造部門だけでも就業者86.6万人を要し、出荷額57兆円は製造業出荷額の17%を占める。輸出額(輸送用機械)は15兆円に達し、自動車輸出がなくなれば日本は貿易赤字となる。関連産業の裾野が極めて広いだけでなく、素材分野でも鉄鋼の2割、アルミの3割、繊維でも3~4割が自動車向けである。しかし、急激な円高等による競争条件の悪化により、輸出向け生産を国内で維持することは限界にある上、国内販売も落ち込んでおり、主要車種でさえ海外への生産移管が進行している。大手メーカーの完成車ラインが1つ失われれば、関連産業も含め直ちに3万人が失業する等、自動車産業の空洞化は雇用や地域経済にきわめて大きな弊害をもたらす。逆に自動車重量税・自動車取得税が廃止(減収額9,100億円)されれば、91.7万台の生産増加により、7.4兆円の需要創出、36万人の雇用維持・創出が期待できるとされた(経済産業省要望資料)。産業の空洞化防止と雇用維持が、車体課税が経済界と労組共通の最重要課題となった理由である。
 さらに、道路特定財源としての根拠を喪失しながら「当分の間税率」として維持された暫定税率の問題や、「附則104条」や2009年総選挙時の民主党マニュフェストにも車体課税の抜本的見直しが明記されていた。
 結局、自動車重量税の軽減、エコカー減税の3年間継続による約3千億円の減税に加え、23年度第4次補正予算においてエコカー補助金を復活することで(約3千億円)決着した。さらに24年度大綱の検討事項ならびに素案では、「自動車取得税及び自動車重量税については、『廃止、抜本的な見直しを強く求める』等とした平成24年度税制改正における与党の重点要望に沿って、国・地方を通じた関連税制のあり方の見直しを行い、安定的な財源を確保した上で、地方財政にも配慮しつつ、簡素化、負担の軽減、グリーン化の観点から、見直しを行う」ことが明記された。

3.個人所得課税  個人所得課税では、抜本改革の先取りとして、給与所得控除の上限設定(245万円、給与所得1,500万円水準)、特定支出控除の見直し、退職所得課税の見直しが盛り込まれている。なお、法人役員の給与所得控除の縮減は含まれていない。これは抜本改革として必須の内容ではなく、むしろ23年度改正案において法人税減税財源として浮上したものでしかなく、「引き続き検討」とはされているが、既に視界から消えたものと考えられる。

4.不発に終わった固定資産税見直し  固定資産税・都市計画税は、3年ごとの評価替えに当たり、本来ならば24年度改正の大きなテーマとなるはずであった。現に総務省からは、評価替え等により4,800億円の減収になるとして、住宅用地について課税標準額を評価額の1/6(200㎡超は1/3)とする特例の縮減、商業地・住宅用地の負担調整措置のうち据置特例の廃止、新築住宅への軽減措置の対象限定などが要望されていた。しかしながら、地価下落が止まらない中での固定資産税増税に対する抵抗は強く、住宅用地の負担調整措置の据置特例が廃止(25年までは、負担水準90%以上の住宅用地については据置き)された以外は、先送りとされた。検討事項では、固定資産税については平成27年評価替えまでに「総合的な検討」を行うとされ、新築住宅等への軽減措置は平成26年度改正までに、住宅政策の観点から他の住宅税制と併せて検討とされている。

5.復興支援・沖縄関連  東日本大震災関連では復興支援税制が2度にわたり講じられているが、原発事故について復旧・復興に長期間を要する等の特殊性があることから、福島再生特別措置法の制定を前提に、福島県全域を対象とする措置とともに、避難解除区域に対してはより深掘りした措置が講じられている。
 また、二重ローン対策や、非居住者が受け取る振替公社債利子等の非課税制度に、被災地自治体の100%子会社が発行する利益連動債(日本版レベニュー・ボンド)が加えられるなどの措置が講じられている。
 沖縄関連税制は、12月24日になって24年度大綱に追加されたが、いわゆる普天間基地移転対策としての振興策の性格が濃厚である。

6.国際課税  24年度大綱で、例外的に内容が豊富であるのが国際課税である。
 徴収共助等に関する国内法の整備は、わが国が税務行政執行共助条約に加盟したことを受けて、外国租税債権の優先権を否定する等の国内法整備であり、居住者、内国法人を直接の対象とするものではない。
 国外財産調書制度は、年末において合計額が5,000万円超の国外財産を保有する者に対して財産の明細を法定調書として提出することを義務付ける制度の創設である。国外財産の価額は、原則「時価」であるが「見積価額」とすることも可能とされている。詳細は政省令・通達を待たなければならないが、現行の財産評価基本通達5-2「国外財産の評価」の注書きに「この通達の定めによって評価することができない財産については、課税上弊害がない限り、その財産の取得価額を基にその財産が所在する地域若しくは国におけるその財産と同一種類の財産の一般的な価格動向に基づき時点修正して求めた価額又は課税時期後にその財産を譲渡した場合における譲渡価額を基に課税時期現在の価額として算出した価額により評価することができる。」とされていることが目安となろう。価額の合計額が5,000万円超とされているのは相続税の基礎控除額並びと説明されている。なお、調書の提出・記載の有無により、過少申告加算税について、所得税額・相続税額の5%相当額の加減算がある。
 過大支払利子税制は、国外関連者へのネット支払利子が調整所得金額の50%を超えた場合に、その分を損金不算入とするものである。経団連では、昨年7月より課税当局との間で非公
式な折衝を重ねてきたが、大綱で提示された案であれば内国法人に影響を生じることはない。なお、今年内に予定されている日米租税条約改訂により利子の源泉徴収が撤廃されることを契機とするものであることから、施行は25年4月1日以後開始事業年度である。

Ⅲ.社会保障・税の一体改革

1.消費税率引上げと前提条件
 社会保障・税一体改革素案の税制抜本改革部分は、「附則104条」を具体化するため、昨年6月の「成案」において「2010年代半ばまでに段階的に消費税率を10%まで引上げ」とされていたものを、その時期、引上げ率を明確にすることが最大の焦点であった。また、国民に直接の関わりはないが、もう1つの重要な焦点は、国と地方の配分であった。
 税率の引上げ時期は、当初案から総理自らの提案で半年遅らせ、平成26年4月1日から8%(消費税6.3%、地方消費税1.7%)、平成27年10月1日から10%(消費税7.8%、地方消費税2.2%)とされた。加えて、国の消費税に係る地方交付税率も現行(29.5%=消費税率換算1.18%)以上に確保されており、最終的な消費税収の国・地方間の配分は、表2のようになる。
 引上げ分の消費税収(国・地方)については、「制度として確立された年金、医療及び介護の社会保障給付並びに少子化に対処するための施策に要する費用=社会保障四経費」に則った範囲の社会保障給付における国と地方の役割分担に応じた配分とされているが、地方交付税とされる分の使途を縛ることはできず、あくまでも地方の一般財源である。
 また、景気回復を消費税率引上げの条件とすべきとの主張に対しては、成長率等の具体的数値の達成を条件とすることを排除し、経済財政状況の激変にも柔軟に対応できるよう、消費税率引上げ実施前に「種々の経済指標を確認し、経済状況等を総合的に勘案した上で、引上げの停止を含め所要の措置を講ずるものとする旨の規定」を法律に設けることとされた。
 さらに、「国民の納得と信頼を得るため」に、消費税率引上げまでに、衆議院議員定数を80削減する法案等を早期に国会に提出し成立を図るほか、独立行政法人改革、公益法人改革、特別会計改革、国有資産見直し、国家公務員給与の引下げ等の行政改革を期すこととされている。

2.消費税率引上げに伴う措置  素案では、消費税率引上げに伴う課税の適正化、いわゆる益税対策として、事業者免税点制度の一部見直し(5億円超の課税売上高を有する事業者が直接・間接に支配する資本金1,000万円未満の新設法人の設立当初2年間については課税事業者とする)、簡易課税制度(みなし仕入率の水準の見直しの検討)、任意の中間申告制度が示されている。
 しかし、「基本的な方向性」としては、事業者免税点制度及び簡易課税制度については、中小事業者の事務負担への配慮という制度の趣旨に配意し制度を維持するとされている。
 複数税率を明確に否定し単一税率を維持するとともに、インボイス制度の導入も行わない。逆進性対策としては、「2015年度以降の番号制度の本格稼動・定着後の実施を念頭に」、総合合算制度や給付付き税額控除等、再分配に関する総合的な施策を導入するとされ、当面は暫定的、臨時的措置として簡素な給付措置を実施するとしている。
 一方、「円滑かつ適正な転嫁に支障が生ずることのないよう」、事業者の実態を十分に把握し、より徹底した対策を講じていくこととしている。価格表示に関する「総額表示」の義務付けについては「これを維持することを基本とする」とされている。
 社会保険診療は非課税扱いとし、医療機関等の仕入れに係る消費税については、診療報酬など医療保険制度において手当てされる。
 住宅取得については、「消費税率の引上げの前後における駆け込み需要とその反動等による影響が大きいことを踏まえ」、これを平準化、緩和する観点から、必要な措置について財源も含め総合的に検討するとして、最大限に配慮されている。 

3.消費税以外の消費課税等  酒税、たばこ税、石油関係諸税等については、個別間接税を含む価格に消費税が課されることは「国際的な共通ルール」であるとして、消費税率引上げに際して特段の手当をしないことが示唆されている。特に酒税については、「類似する酒類間の税負担の公平性の観点も踏まえ、消費税率の引上げに併せて見直しを行う方向で検討する」とされ、発泡酒等ビール類似酒類の増税が既定路線化されている。
 印紙税については、建設工事請負契約書、不動産譲渡契約書及び領収書について負担軽減を検討することが明記されている。

4.その他の税目の改革  素案は「税制全体を通じた改革」とするが、消費課税以外での具体的項目としては、所得税の最高税率引上げ(課税所得5,000万円超:45%、平成27年分から適用)、及び23年度改正の積み残しとしての相続税・贈与税の見直しのみである。いずれも「再分配機能の回復」と説明されているが、所得税の最高税率の引上げによる税収増は数百億円でしかなく、相続税強化も3千億円弱である。実際の所得再分配効果はほとんどなく、消費税率引上げに対する国民の心理的抵抗を和らげようとする以上のものではない。
 法人税については具体的な言及はなく、「基本的な方向性」として、復興特別法人税課税期間終了後も引き続き、雇用と国内投資拡大の観点から、今般の税率引下げの効果や主要国との競争上の諸条件等を検証しつつ、新成長戦略も踏まえ、法人課税のあり方について検討するとされているのみである。むしろ、地方課税において、地方法人特別税及び地方法人特別譲与税は、「税制の抜本的な改革において偏在性の小さい地方税体系の構築が行われるまでの間の措置」であり、一体改革に併せて抜本的に見直すと明記されている。消費税収の地方への配分が
想定以上に確保されたこともあり、これから27年度改正までのいずれかの機会に前進する地合いは整ったものと考えたい。
 なお、社会保障・税番号制度の導入に伴い、税務分野において申告書や法定調書に「番号」を記載する等が必要となるため、次期通常国会への提出が予定されている「行政手続における特定の個人を識別するための番号の利用等に関する法律(マイナンバー法)」の整備法において、所要の措置を講ずることとされ、別紙3に詳細な記載がある。

おわりに
 一体改革の目的は社会保障の安定財源確保であるとされている。しかし、社会保障の安定財源⇒消費税率引上げ⇒社会保障の充実、との図式は正しくなく、消費税率5%引上げのうち社会保障の拡充に充てられるのはネットで2.7兆円、1%分強でしかない。機能強化3%とされる部分の大半が、基礎年金の国庫負担の増をはじめとする制度改正や高齢化の進展に伴う歳出増への対応である。1%は機能維持、1%は消費税率引上げによる社会保障支出の増分である。
 現状で特例公債等の借金に依存している分を現在の負担にできるだけ置き換え、社会保障制度の持続性を維持することが一体改革の目的であり、端的にいえば財政再建こそが真の目的である。その意味で、一体改革が不調に終わった際には、わが国は欧州諸国以上のソブリン・リスクに晒されることも危惧される。是非とも与野党間での真摯な協議を通じ、一体改革を実現させることが必要である。

当ページの閲覧には、週刊T&Amasterの年間購読、
及び新日本法規WEB会員のご登録が必要です。

週刊T&Amaster 年間購読

お申し込み

新日本法規WEB会員

試読申し込みをいただくと、「【電子版】T&Amaster最新号1冊」と当データベースが2週間無料でお試しいただけます。

週刊T&Amaster無料試読申し込みはこちら

人気記事

人気商品

  • footer_購読者専用ダウンロードサービス
  • footer_法苑WEB
  • footer_裁判官検索