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解説記事2013年10月28日 【税務マエストロ】 多国籍企業の国際的租税回避問題③(2013年10月28日号・№521)

税務マエストロ 税務における第一人者“税務マエストロ”による税実務講座

今週のマエストロ&テーマ
多国籍企業の国際的租税回避問題③
#94 品川克己
日本公認会計士協会租税調査会専門委員(国際租税専門部会)
税理士法人プライスウォーターハウスクーパース(マネージング・ディレクター)

略歴 89年より大蔵省主税局に勤務。90年7月より同国際租税課にて国際課税関係の政策立案・立法及び租税条約交渉等に従事。96年ハーバード・ロースクールにて客員研究員として日米租税条約について研究。97年より00年までOECD租税委員会に主任行政官として出向(在フランス)し、「OECD移転価格ガイドライン」及び「OECDモデル条約」の改定、及び関連会議の運営に従事。01年9月財務省を辞職し現職。

次回のテーマ
#95 経営戦略に応える企業再編成税 税理士 朝長英樹 経営戦略の1つとして組織再編成税制を活用できる方法を、同税制等の創設を主導した筆者が事例形式で解説する。

※取り上げて欲しいテーマを編集部にお寄せください。
 e-mail:ta@lotus21.co.jp

マエストロの解説  2012年11月20日にOECDで立ち上げられたBEPSプロジェクトでは、2013年2月12日に準備報告書「Addressing Base Erosion and Profit Shifting」を公表している。そこでは次の6点が重点検討項目とされている。OECDは、これまで、これらの検討項目について、移転価格、租税条約、税務行政など個別の観点から取り組んできたが、BEPSプロジェクトでは、こうした項目をすべて集約して取り組む必要があるとし、具体的なアクションプラン(行動計画)として、本年7月19日に「BEPSに関する行動計画(15項目)」を発表したところである(脚注1)。

1 BEPS行動計画の概要  BEPS行動計画は、租税回避防止対策としての現行の国際課税原則を再検討するというものであるが、それぞれの検討項目において、一定の検討結果及び対応策の策定に期限目標を設定したことに特徴がある。さらに、行動計画そのものはOECDのものであるが、加盟国34か国のみならず、G20の中での非加盟国(中国、インド、ロシア、ブラジル等8か国)も行動計画を承認しており、きわめてハイレベルな政治的要素も感じとれる動きといえる。検討項目は15項目に上り、国際税務の論点を網羅し、内容的にもきわめて意欲的なものとなっている。以下、この15項目を順次解説する。

2 BEPS行動計画の個別項目
(1)デジタルエコノミー(電子商取引)に係る税務上の課題への対応(期限:2014年9月)
 デジタルエコノミーが、現行の国際課税原則の適用に当たって不具合と考えられる点を特定し、その対応策を検討する。なお、その対応に当たっては、直接税のみならず、間接税の観点からも検討する。具体的な検討ポイントとしては、次の点があげられる。
・企業が課税関係を生じることなく、かなりのデジタル活動を他国で行うことができるということ。つまり、電子書籍のネット配信などが該当しよう。(図1参照)

・デジタル商品・サービスの利用によって得られる顧客市場関連データから生じる価値の帰属。(無形資産の問題)
・新しいビジネスモデルから生じる所得の種類の特定
・関連する所得の源泉地ルールの構築
・デジタル商品・サービスの国境をまたぐ販売・提供に対する間接税(VATやGST:付加価値税や一般消費税)の適正な徴収
(2)ハイブリッド事業体・商品を利用したミスマッチ(租税回避)の解消(期限:2014年9月)  LLCやパートナーシップなどの課税上特別な扱いを受ける事業体を利用した租税回避を防止するため、租税条約の改定及び国内法制を再検討(改正)する。ここで対象となるものとして、次のものがあげられる。
・OECDモデル条約を改定し、いわゆるハイブリッド商品(脚注2)およびハイブリッド事業体(脚注3)(または二重居住事業体)を使って不当な租税条約の恩典の利用ができないようにすること
・支払者によって損金算入される支払いに対する非課税または非認識を防止する国内法の整備(支払利息の損金算入制限など)
・受取者によって益金算入されない支払(タックスへイブン税制、CFC税制によって課税対象とならないものも含む)に対する損金算入の否認規定
・損金算入される支払で、さらに他の国でも損金算入されるような支払(double dip)の損金算入を否認する国内法の整備
(3)+CFC税制(タックスヘイブン税制)の見直し(期限:2015年9月)  CFC税制(いわゆるタックスヘイブン対策税制)を強化する提案。CFC税制については、G20のうち16か国が導入済み(2か国が導入予定)であるが、各国の制度が整合的でなく、本来の機能を果たさなくなっているという指摘がある。これは、CFC税制が低税率での課税を標的としているが、参加国のほとんどが、その経済成長、競争力の強化、外国投資の促進を考慮して様々な優遇措置を有しているためであり、こうした措置との整合性を図る必要がある。(図2参照)

 なお、日本のタックスヘイブン対策税制は、租税回避防止をその主たる目的としている。それゆえ厳格な適用除外基準を設けているわけであるが、単に外国の子会社が低税率の恩恵を受けているということを租税回避とするのかどうか、議論の必要性が感じられる。
(4)利子等の損金算入の制限・適正化(期限:2014年9月及び2015年12月)  各国の税率差や金融取引の利用により、支払利息が過度に損金算入され、各国の税源(Tax Base)が浸食されているのではないかとの危惧が前提となっている。過度な利子の損金算入や免税ないし繰延所得の発生を伴う債務の利用、その他の金融商品で支払利息と同等に取り扱われる費用などの支払による課税ベースの減少を防止するルールを策定する。なお、OECD加盟国では、通常、過少資本税制や過大支払利子の損金算入制限など、一定の措置をすでに講じてきている。したがって、この作業では、各国がすでに導入している支払利息の損金算入制限等の効果の分析も同時に行われる予定。また、加えて、デリバティブ取引、キャプティブ保険などの保険取引を含む関連者間の金融取引の価格設定に係る移転価格ガイドラインの改定が含まれる(この部分の期限は2015年12月)。
(5)有害な税制への対応の強化(期限:2014年9月、2015年9月及び12月)  有害な税制措置に対する対抗措置の改善として、OECD加盟国の優遇措置(tax preferential scheme)の審査(review)を2014年9月までに、非加盟国の優遇措置の審査を2015年9月までに、「Project on Harmful Tax Practices」の報告書であげられた「有害な税制」の要素基準(脚注4)の改正を2015年12月までに行うこととされている。BEPSプロジェクトでは企業行動に焦点をあてているが、この項目は国の政策に焦点を当てている。これは、OECD加盟国が、BEPSの問題の多くは一部の国で導入されている有害税制が原因であるとの危惧を抱いているからと考えられる。そもそも、こうしたこの項目であげられた試みは、「Project on Harmful Tax Practices」の報告書(2004)で一応の決着を見ているが、再度、「Forum on Harmful Tax Practices」の作業が注目されることになると考えられる。(図3参照)


脚注
1 本年(H25)7月20日付の主要新聞でも一斉に主要記事として掲載している。
2 一般的には、たとえば、ある国では課税上負債(借入)として扱われ、対価として支払われる利息は損金算入される一方で、他方の国では資本として経理され、受け取る対価は配当(通常は益金不算入)と取り扱われるような金融商品(取引)をいう。
3 たとえば、ある国では課税上パススルーとして扱われ、課税主体(納税者)とならずにその構成員(出資者、参加者)が課税主体となるが、他の国では法人税の課税主体として認識する事業体をいう。
4 OECDにより定義された「有害税制(harmful preferential tax regime)とは、①金融・サービス等の活動から生じる「足の速い所得(mobile income)」に対して通常より低い実行税率を適用すること、②外国からの誘致企業や外国企業のみを優遇する「囲い込み」を行うこと、③透明性の欠如、④実効的な税に関する情報交換の欠如により、①に該当し、かつ②~④のいずれかに該当する優遇税制のこと。

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