解説記事2014年03月03日 【ニュース特集】 BEPS行動計画、移転価格文書化で攻防(2014年3月3日号・№537)
産業界は事務負担増、機密情報漏えいの恐れを指摘
BEPS行動計画、移転価格文書化で攻防
BEPS(税源浸食と利益移転)行動計画に基づきOECD(経済開発協力機構)が公表した移転価格文書化の再検討(行動13)に係る公開草案に対し、産業界が反発している。多国籍企業(MNE)の親会社に新たにマスターファイル・国別報告書の作成を義務付ける案に対し、産業界は、事務負担の大幅な増加、形式的な数値情報の記載による新たな課税リスクの発生、機密情報漏えいの恐れなどを指摘。本年9月の多国籍企業の移転価格に係る報告義務の国際基準策定に向けて、早くもOECDと産業界の攻防が激化している。
2013年7月公表の「BEPS行動計画」を具体化
2012年後半、スターバックス、グーグル、アマゾン、アップルなど多国籍企業(MNE)による税制の隙間や抜け穴を利用した節税策が問題化した。BEPS(Base Erosion and Profit Shifting:税源浸食と利益移転)プロジェクトを開始していたOECD租税委員会は、2013年7月に「BEPS行動計画(1~15)」を公表。同月に開催されたG20財務大臣・中央銀行総裁会議では、G20諸国が「BEPS行動計画」の支持を表明し、麻生財務大臣も、「BEPS行動計画は、国際課税に関する国際的な協力の歴史において転機となる画期的な成果であり、日本はこれを強く支持する」との談話を公表した。
OECDは本年1月30日、「移転価格文書化及び国別報告に係る公開草案」を公表。これは、「BEPS行動計画」の行動13:移転価格関連の文書化の再検討(下掲参照)を具体化したものであり、移転価格ガイドライン第5章(文書化)の全面改定案となっている。
税務当局の調査に有益な情報を提供する目的
今回のOECD移転価格文書化案の主な目的は、現在、各国が導入している移転価格文書化制度を統一的なものとし、税務当局のリスク評価や調査に有益な情報を提供するための指針を提供することとされる(図1参照)。
マスターファイル・国別報告を義務付け 具体的に、公開草案は、①多国籍企業の親会社に対する新たにマスターファイル・国別報告書(下掲参照:テンプレートは6・7頁参照)の作成の義務付け、②多国籍企業の親会社が作成したマスターファイルと国別報告書の各国現地法人を通じた各国税務当局への提出などを明記している。
行動13の成果物の期限は本年9月とされており、移転価格ガイドラインの改定がなされれば、移転価格税制の文書化について定めた日本の国内法制(措規22の10)への影響も必至だ。
記載情報の削減、提出先限定を要求
上記の公開草案に対して産業界が反発している。たとえば、経団連は2月19日、「事務負担の大幅な増加(BEPSに無縁な他の多数の企業に過度な追加的負担を求めることは合理的・生産的ではないこと)などを理由に公開草案に反対する意見をOECDに提出した。
経団連意見では、事務負担増加のほかに、①形式的な数値情報の記載による(特に途上国における)新たな課税リスクの発生、②作成したマスターファイル・国別報告書が各国現地法人に共有されることによる多国籍企業の機密情報の漏えいの恐れ(JVパートナーへの漏えい等)を指摘。そのうえで、仮に新制度が不可避な場合でも、記載すべき情報を大幅に削減するとともに、作成文書の提出を親会社本店所在地国の税務当局に限定し、条約に基づく情報交換によってのみ当該文書を他国の税務当局と共有すべきとしている。
各国産業界も懸念を表明、総力戦の攻防へ
国際税務問題で経団連がOECDに直接、意見を提出するのは約20年振りとなる模様。
また、日本貿易会、日本機械輸出組合もOECDに反対意見を提出した。このうち日本機械輸出組合の意見は、「公開草案には実務面から有用性に疑問があると言わざるをえないアプローチや企業に課題な事務負担を強いる内容が含まれている」と指摘している。そのほか、銀行業界でも国際的な議論が行われているようだ。
続けて公開草案が公表へ さらに、日本のみならず各国産業界も強い懸念を表明しており、OECDのビジネス諮問機関であるBIACも、OECDに対して公開草案の大幅な修正を求める大部の意見を提出した。
BEPS行動計画を巡るOECDと経済界の攻防は、序盤にして早くも総力戦の様相を呈している。
なお、OECDは、本年3月~ 4月に、行動1、2、6の公開草案を公表する予定。行動11についても作業が始まる。
BEPS行動計画、移転価格文書化で攻防
BEPS(税源浸食と利益移転)行動計画に基づきOECD(経済開発協力機構)が公表した移転価格文書化の再検討(行動13)に係る公開草案に対し、産業界が反発している。多国籍企業(MNE)の親会社に新たにマスターファイル・国別報告書の作成を義務付ける案に対し、産業界は、事務負担の大幅な増加、形式的な数値情報の記載による新たな課税リスクの発生、機密情報漏えいの恐れなどを指摘。本年9月の多国籍企業の移転価格に係る報告義務の国際基準策定に向けて、早くもOECDと産業界の攻防が激化している。
2013年7月公表の「BEPS行動計画」を具体化
2012年後半、スターバックス、グーグル、アマゾン、アップルなど多国籍企業(MNE)による税制の隙間や抜け穴を利用した節税策が問題化した。BEPS(Base Erosion and Profit Shifting:税源浸食と利益移転)プロジェクトを開始していたOECD租税委員会は、2013年7月に「BEPS行動計画(1~15)」を公表。同月に開催されたG20財務大臣・中央銀行総裁会議では、G20諸国が「BEPS行動計画」の支持を表明し、麻生財務大臣も、「BEPS行動計画は、国際課税に関する国際的な協力の歴史において転機となる画期的な成果であり、日本はこれを強く支持する」との談話を公表した。
OECDは本年1月30日、「移転価格文書化及び国別報告に係る公開草案」を公表。これは、「BEPS行動計画」の行動13:移転価格関連の文書化の再検討(下掲参照)を具体化したものであり、移転価格ガイドライン第5章(文書化)の全面改定案となっている。
◯BEPS行動13(移転価格関連の文書化の再検討) |
移転価格税制の文書化に関する規定を策定する。多国籍企業に対し、国毎の所得、経済活動、納税額の配分に関する情報を、共通様式に従って各国政府に報告させる。 |
税務当局の調査に有益な情報を提供する目的
今回のOECD移転価格文書化案の主な目的は、現在、各国が導入している移転価格文書化制度を統一的なものとし、税務当局のリスク評価や調査に有益な情報を提供するための指針を提供することとされる(図1参照)。

マスターファイル・国別報告を義務付け 具体的に、公開草案は、①多国籍企業の親会社に対する新たにマスターファイル・国別報告書(下掲参照:テンプレートは6・7頁参照)の作成の義務付け、②多国籍企業の親会社が作成したマスターファイルと国別報告書の各国現地法人を通じた各国税務当局への提出などを明記している。
行動13の成果物の期限は本年9月とされており、移転価格ガイドラインの改定がなされれば、移転価格税制の文書化について定めた日本の国内法制(措規22の10)への影響も必至だ。
▶マスターファイル |
グループ全体に共通する基本情報を記載(無形資産、金融活動、事業再編に係る情報、個別の事前確認や相互協議の説明などを含む)。 |
▶国別報告書(CBCレポート) |
国別かつ関連会社別の所得、納税額、経済活動のグローバルな配分に関する情報を記載。 |
【マスターファイル】 (国税庁公表の参考用概要を基に作成。正確には原文を参照。) |
組織のストラクチャー ●MNEの法的及び所有関係のストラクチャーと事業体の所在地を示した図。 MNEの事業説明 各MNEの主要事業分野に関して ●MNEの事業概要の書面説明(以下の内容を含む。)。 ○営業収益の重要なドライバー。 ○主要な製品及び役務提供のサプライチェーンを示す図。 ○R&Dサービスを除く他の重要なグループ内役務提供取極めを示す図。 ○主要な製品及び役務提供の主要な地理的マーケットの説明。 ○書面による機能分析(グループ内企業の価値創造に対する主要な貢献を説明、つまり、果たしている主要機能、負担している重要なリスク及び使用している重要な資産)。 ○対象年度における重要な事業再編取引、事業買収、事業売却の説明。 ○事業分野ごとの高額報酬従業員上位25名それぞれの肩書及び主要事業所の所在する国名(注:個人名は含まない。)。 MNEの無形資産 ●無形資産の開発、所有、活用に関するMNEの包括的戦略の説明(主要なR&D施設とR&Dマネジメントの所在地を含む。)。 ●MNEグループの重要な無形資産(グループ)及びそれらの所有事業体リスト。 ●無形資産に関する重要な関連者間契約リスト(費用分担契約、主要な研究の役務提供契約、ライセンス契約を含む。)。 ●R&Dと無形資産に関するグループ内移転価格ポリシーの説明。 ●対象年度中における無形資産の重要な持分の譲渡に関する説明(関係する事業体、所在地国及び対価を含む。)。 MNEグループ内金融活動 ●グループの資金調達方法の説明(非関連者との重要な資金調達取極めを含む。)。 ●MNEグループ内で主要な金融機能を果たす企業の特定(当該企業の設立に係る法施行国(どの国の法律に基づき設立されたか)及び実質管理地国の情報を含む)。 ●金融取極めにかかるグループ内の一般的な移転価格ポリシーの説明。 MNEの財務状態と納税状況 ●対象年度のMNEの連結財務諸表。 ●MNEグループに適用されるユニ又はバイ/マルチAPA及びアドバンスルーリングのリストと簡単な説明。 ●特定国への所得配分に関するその他の税務ルーリングのリストと簡単な説明。 ●未解決または直近2年間のMAPにおいて解決済みの移転価格上の論点リストと簡単な説明。 ●CBCレポート。 |

記載情報の削減、提出先限定を要求
上記の公開草案に対して産業界が反発している。たとえば、経団連は2月19日、「事務負担の大幅な増加(BEPSに無縁な他の多数の企業に過度な追加的負担を求めることは合理的・生産的ではないこと)などを理由に公開草案に反対する意見をOECDに提出した。
経団連意見では、事務負担増加のほかに、①形式的な数値情報の記載による(特に途上国における)新たな課税リスクの発生、②作成したマスターファイル・国別報告書が各国現地法人に共有されることによる多国籍企業の機密情報の漏えいの恐れ(JVパートナーへの漏えい等)を指摘。そのうえで、仮に新制度が不可避な場合でも、記載すべき情報を大幅に削減するとともに、作成文書の提出を親会社本店所在地国の税務当局に限定し、条約に基づく情報交換によってのみ当該文書を他国の税務当局と共有すべきとしている。
各国産業界も懸念を表明、総力戦の攻防へ
国際税務問題で経団連がOECDに直接、意見を提出するのは約20年振りとなる模様。
また、日本貿易会、日本機械輸出組合もOECDに反対意見を提出した。このうち日本機械輸出組合の意見は、「公開草案には実務面から有用性に疑問があると言わざるをえないアプローチや企業に課題な事務負担を強いる内容が含まれている」と指摘している。そのほか、銀行業界でも国際的な議論が行われているようだ。
続けて公開草案が公表へ さらに、日本のみならず各国産業界も強い懸念を表明しており、OECDのビジネス諮問機関であるBIACも、OECDに対して公開草案の大幅な修正を求める大部の意見を提出した。
BEPS行動計画を巡るOECDと経済界の攻防は、序盤にして早くも総力戦の様相を呈している。
なお、OECDは、本年3月~ 4月に、行動1、2、6の公開草案を公表する予定。行動11についても作業が始まる。
▶行動1:電子商取引課税 電子商取引により、他国から遠隔で販売、サービス提供等の経済活動ができることに鑑みて、電子商取引に対する直接税・間接税のあり方を検討する報告書を作成。 |
▶行動2:ハイブリッド・ミスマッチ取決めの効果否認 ハイブリッド・ミスマッチ取引(二国間での取扱い(たとえば法人か組合か)が異なることを利用して、両国の課税を免れる取引)の効果を否認するモデル租税条約および国内法の規定を策定する。 |
▶行動6:租税条約濫用の防止 条約締約国でない第三国の個人・法人等が不当に租税条約の特典を享受する濫用を防止するためのモデル条約規定及び国内法に関する勧告を策定する。 |
▶行動11:BEPSの規模や経済的効果の指標を政府からOECDに集約し、分析する方法を策定する。 |
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