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解説記事2014年08月04日 【ニュース特集】 損害賠償請求権の相続税評価と回収可能性(2014年8月4日号・№557)

審判所、評基通204・205による評価が相当と判断
損害賠償請求権の相続税評価と回収可能性

 被相続人が有していた定期預金の解約に係る損害賠償請求権を相続により取得したケースで、審判所は、当該損害賠償請求権は評基通204・205により評価するのが相当との判断を下した。審判所は、本事案における損害賠償請求権は、定期預金の預託の当初においては債務者に債権回収の引当てとなる財産が存在していたものが、不法行為・債務不履行によって損害賠償請求権に転化したものであると指摘している。また、「本件損害賠償請求権等は、あらゆる回収努力にもかかわらず債務者に返還する意思も行動もなく、もはや債権たる実体を有していない」との請求人の主張に対しては、「適法で有効な債権回収方法がある限り、債務者に返還する意思があるかといった事情の有無は有意な考慮要素とはなり得ないというほかない」としている点も注目される(平成26年3月27日裁決)。

債権が不法行為・債務不履行により損害賠償請求権に転化
 相続税の課税対象となる財産の評価は、財産の種類、評価単位ごとの評価方法が財産評価基本通達に定められている。しかし、相続により取得した損害賠償請求権自体の評価方法は、同通達に定められていない。
 本事案では、被相続人が有していた定期預金の解約に係る損害賠償請求権を請求人らが取得(図1参照)。その損害賠償請求権の評価が争点の1つとなった。

 審判所は、貸付金債権等の評価を定める評基通204(貸付金債権の評価)と損害賠償請求権の関係について、同通達に定める貸付金債権等は、発生当初に契約によって生じた債権や発生段階で債権回収の引当てとなる財産が債務者にあるものなどを対象としていると指摘。そして、損害賠償請求権には、債権の発生時から債務者に資力がなく全く経済的な価値を有しないものも存在することから、評基通204に定める貸付金債権等には該当するか否かは、損害賠償請求権の発生の経緯等、個々の損害賠償請求権の具体的内容によって判断するとした(次頁下掲参照)。

損害賠償請求権の評価に係る審判所の判断
 評価通達204は、貸付金、売掛金、未収入金、預貯金以外の預け金および仮払金を例示として挙げていることからすると、同通達204に定める貸付金債権等とは、発生当初に契約によって生じた債権や発生段階で債権回収の引当てとなる財産が債務者にあるものなどを対象としていると解されるところ、損害賠償請求権の中には、一般的な貸付金債権等に状況が類似したものがある一方、債権の発生時から債務者の資力がなく全く経済的な価値を有しないものも存在するから、損害賠償請求権の全てが、同通達204に定める貸付金債権等(その他これらに類するもの)の範囲に含まれるとすることには疑問がある。そうすると、損害賠償請求権は、その発生の経緯等、個々の損害賠償請求権の具体的内容によって同通達204に定める貸付金債権等に該当するか否かを判断するのが相当である。(下線:編集部)
(参考)評基通204(貸付金債権の評価)
 貸付金、売掛金、未収入金、預貯金以外の預け金、仮払金、その他これらに類するもの(貸付金債権等)の価額は、次に掲げる元本の価額と利息の価額との合計額によって評価する。
(1)貸付金債権等の元本の価額は、その返済されるべき金額
(2)貸付金債権等に係る利息の価額は、課税時期現在の既経過利息として支払を受けるべき金額

 そのうえで、本事案で請求人らが取得した約4億2,700万円の損害賠償請求権は、被相続人から預託された定期預金の解約を原因として生じたものであるから、当初、契約に基づいて生じた正常な債権であり、定期預金の預託当初においては債務者に債権回収の引当てとなる財産が存在していたものが、不法行為・債務不履行によって損害賠償請求権に転化したものであると認定。この損害賠償請求権は、評基通204に定める貸付金債権等に該当することから、評基通204・205により評価するのが相当とした。

債務者に返還意思・行動なく、架空の資産と主張
 また、本事案では、請求人らが取得した損害賠償請求権を回収の見込みのない債権として評価すべきか否かも争点となった。
 評基通204は、貸付金債権等は、貸付金債権等の元本の価額と利息の価額の合計額により評価するものとしている。一方、評基通205は、貸付金債権の評価の例外を定めており、具体的には、「債務者について次に掲げる金額(手形交換所の取引停止処分等に該当する事実があったときの貸付債権等の金額、再生計画認可の決定、整理計画の決定等により切り捨てられる債権の金額等)に該当するときその他その回収が不可能又は著しく困難であると見込まれるとき」には、それらの金額は元本の価額に算入しないとしている。
 請求人らの主張は、上記の「その他その回収が不可能又は著しく困難であると見込まれるとき」は、同通達に挙げられる「次に掲げる金額」とは別に、その回収が不可能または著しく困難であると見込まれるときにおいて、それらの金額は元本の額に算入しないと解すべきものであるというもの。請求人らが相続した損害賠償請求権は、あらゆる回収努力にもかかわらず、債務者に返還する意思も行動もなく、もはや債権たる実体を有していないことから、これを課税対象に含めることは、架空の資産に課税することであるとした。

債務者の返還意思は有意な考慮要素とならず
 これに対し審判所は、評基通205において、手形交換所の取引停止処分等に該当する事実があったときの貸付債権等の金額、再生計画認可の決定、整理計画の決定等により切り捨てられる債権の金額等に該当するときと並列的に「その他その回収が不可能又は著しく困難であると見込まれるとき」が定められていると指摘。この「その他その回収が不可能又は著しく困難であると見込まれるとき」とは、上記に列挙された場合と同視できる程度に債務者の資産状況および営業状況等が破綻していることが客観的に明白であって、債権の回収の見込みのないことが客観的に確実であるといい得るときをいい(図2参照)、かかる観点からは、適法で有効な債権回収方法がある限り、債務者に返還する意思があるかといった事情は有意な考慮要素とはなり得ないというほかないとした。

 一方で、本事案においては、債務者の保有する正味財産が損害賠償請求権等の金額を大きく下回り、また、同人らの所得は生活費程度の収入にすぎないものであり、その生活状況等に照らしても、同人らが、その信用や才能を活用して、将来において債務額と正味財産の差額を調達することができる見込みはないと認定。本件損害賠償請求権等の金額のうち正味財産の価額の合計金額を超える部分が、「その他回収が不可能または著しく困難であると見込まれる」部分に該当するとした(類似事案として平成24年9月13日裁決参照)。
債権者側の事情は……  上記の審判所の判断から、評基通205の「その他その回収が不可能又は著しく困難であると見込まれるとき」に係る判定基準は、回収不能の貸金等・金銭債権の貸倒れ(所基通51-12、法基通9-6-2)と同旨ということができそうだ。法人の金銭債権の貸倒れについては、債務者側の事情のみならず、回収に必要な労力など債権者側の事情も踏まえて判断されるべきとする、興銀事件最高裁判決があり、本事案では請求人らが「あらゆる回収努力にもかかわらず……」と主張している。しかし、裁決で債権者側の事情についての直接的な言及はなかった。

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