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解説記事2015年11月30日 【最新判決研究】 米国LPSの「法人」該当性─同LPSからの分配金の所得区分─(2015年11月30日号・№620)

最新判決研究
米国LPSの「法人」該当性
─同LPSからの分配金の所得区分─

名古屋地裁平成23年12月14日判決(平成19年(行ウ)第50号ほか)
名古屋高裁平成25年1月24日判決(平成24年(行コ)第8号ほか)
最高裁平成27年7月17日第二小法廷判決(平成25年(行ヒ)第166号)

 筑波大学名誉教授・弁護士 品川芳宣

一、事実

(1)本件は、原告、被控訴人及び被上告人(Xら4名)、処分行政庁(3庁)、所得税の年分(平成13年分ないし同17年分)、課税処分の日付等の違いにより、A事件ないしF事件の6事件(以下「本件各事件」という。)に区分される。また、Xらも、係争中に死亡した者もおり、その地位が相続人に承継されている。本件各事件に共通するのは、Xら投資家が、外国信託銀行を受託者とする信託契約を介して出資したLPS(米国デラウェア州改正統一リミテッド・パートナーシップ法(以下「州LPS法」という。)に準拠して組成されるリミテッド・パートナーシップ、以下「本件各LPS」という。)が行った米国所在の中古集合住宅(以下「本件建物」という。)の貸付けに係る所得(損失)が所得税法26条1項所定の不動産所得に該当するとして、その減価償却等による損失と他の所得との損益通算をして所得税の申告又は更正の請求をしたところ、各処分行政庁から、当該所得は不動産所得に該当せず損益通算ができないとして、それぞれ、所得税の更正処分及び過少申告加算税の賦課決定処分又は更正の請求に対する更正をすべき理由がない旨の通知処分(以下一括して「本件各処分」という。)を受けたことから、Xらが、国(被告、控訴人、上告人)に対し、本件各処分の取消しを求めているものである。
(2)Xらの本件各LPSに対する投資内容(投資契約)は、それぞれの取引銀行や契約方法等によって異なることになる。その代表的なスキーム(以下「本件スキーム」という。)では、1口2,000万円の出資に対し、出資期間7年において、初期の5年間においては、減価償却費等の損失負担が生じ、これがXらの他の所得から損益通算されることにより、本来負担すべき所得税額及び住民税額が合計2,350万円余軽減されることとなり、7年間における不動産賃貸事業による現金収入360万円余及び7年間の不動産売却による現金収入541万円余が得られることにより、合計約3,258万円余の利益及び税負担の軽減という税効果(投資利回り約163%)があるものと想定されている。
 このような税効果が成立するためには、本件各LPSが我が国の法人税法上の「法人」又は「人格のない社団等」に該当することなく、我が国においても、いわゆるパススルー課税(構成員課税)が行われることが前提となっている。これに対し、各処分行政庁は、本件各LPSが法人税法上の「法人」に該当するものとして、Xらの上記損益通算を否認したものである。
 なお、本件各LPSは、米国では、州LPS法に基づくLPSであり、信託(トラスト)に区分されるもの又は米国法の定めに従って特例の取扱いがされるもの以外のビジネス・エンティティであり、また、①財務省規則上の「corporation」として規定されている事業体にも該当せず、②2人以上の構成員を有するため、コーポレーションとしての課税又はパートナーシップとしての課税のいずれかを選択することができる適格事業体である。そして、本件各LPSは、連邦課税上、パートナーシップとしての課税を選択したものとみなされていることから、構成員であるXらの投資家が納税義務者となっている。

二、争点及び当事者の主張

1 争  点
 本件における争点は、本件各処分の適法性であるところ、本件各LPSが行う不動産賃貸事業(以下「本件不動産賃貸事業」という。)から生じる損益がXらの不動産所得に該当するか否かであるが、具体的には、次の4点が争われている。
① 本件各LPSの租税法上の法人該当性
② 本件各LPSの租税法上の人格のない社団該当性
③ 本件不動産賃貸事業から生じた損益の不動産所得該当性
④ 国税通則法65条4項の「正当な理由」の有無

2 国の主張 (1)外国の法令によって設立された事業体が我が国の租税法上の「法人」に該当するか否かは、具体的には、当該事業体の設立準拠法の内容のみならず、実際の活動実態、財産や権利義務の帰属状況等を考慮した上、個別具体的に、我が国の私法において法人に認められる権利能力と同等の能力を有するか否かである。
 州LPS法によれば、本件各LPSは、権利の主体となり当事者能力を有する独立した法主体を意味する「separate legal entity」である。しかも、本件各LPSは、構成員である各パートナーの個人財産とは区別された独自の財産を所有し、自ら独立して負債等を負担するなど、その事業、目的に必要なあらゆる行為をすることができる能力を有する事業体である。
(2)本件各LPSは、これを組織する構成員が特定され、その管理及び運営に関する独占的権限がジェネラル・パートナーに、その解任権限がパートナーシップ持分の80%を超える持分を有する者の賛成又は同意を条件として各リミテッド・パートナーに付与されていること等から、団体としての組織を備え、多数決の原則が行われている。また、本件各LPS契約上、ジェネラル・パートナーの解任、新規パートナーの承認、リミテッド・パートナーの脱退、パートナーシップ持分の譲渡が認められていること等から、構成員の交代にもかかわらず団体が存続する。そして、本件各LPSが構成員の財産とは区別された独自の財産を有し、本件各LPS契約にはその管理の方法等や契約内容の多数決による変更に関する定めがあること等から、人格のない社団等としての主要な点も確定している。

3 Xらの主張 (1)外国事業体の「法人」該当性を本件について見ると、①本件各LPSの根拠法である州LPS法には、これに基づき組成されるLPSをコーポレーション等のように権限能力及び行為能力を有するものとして設立されたものとする旨の規定はなく、②本件各LPSは後記のとおり社団でもないから、我が国の租税法上の「外国法人」に区分けされることはない。
(2)本件各LPSは、ジェネラル・パートナー1名とリミテッド・パートナー1名又は2名間の契約関係が存在するにすぎず、意思決定のための内部組織を備えておらず、本件各LPSの管理運営・業務執行が原則的にジェネラル・パートナーのみにより行われることとされ、多数決は行われていない。また、本件各LPSは、構成員が1人になるとそのまま存続できないことから、構成員の変更にもかかわらず団体が存続するとはいえない。そして、本件各LPSは、現在の代表から次の代表を決めるルールが設けられておらず、総会の運営や財産の管理に関する規定もないから、正に当事者間の契約にすぎないのであって、団体としての主要な点が確定しているとはいえない。

三、一審判決要旨

請求認容。
(1)民法36条1項の「外国法人」とは、外国の法令に準拠して法人として成立した団体、すなわち外国の法令に準拠して法人格を付与された団体をいうと解されるから、外国の法令に準拠して組成された事業体が我が国の租税法上の法人に該当するか否かも、基本的には、当該外国の法令の規定内容から、その準拠法である当該外国の法令によって法人とする(法人格を付与する)旨を規定されていると認められるか否かにより判断されるべきである。
(2)上記で認定した州LPS法の規定内容によれば、州LPS法上、同法に準拠して組成されたLPSが法人である旨を明示的に定めた規定はないが、①州LPS法に基づき組織されたLPSは、独立した法的主体(separate legal entity)となる旨規定されており、加えて、②LPSは、州LPS法若しくはその他の法律又は当該LPSのパートナーシップ契約により付与された全ての権限及び特権並びにこれらに付随するあらゆる権限(当該LPSの事業、目的、活動の実行、促進及び達成のために必要又は好都合な権限や特権を含む。)を保有し、それを行使することができ、③パートナーは、特定のLPS財産(specific limited partnership property)に対していかなる持分も所有しない旨も規定されている。
 そこで、以下では、そのような州LPS法の規定等をもって、州LPS法がこれに準拠して組成されたLPSを法人とする旨を定めたものと解することができるのか否かを検討する。
 一般に、租税条約は、各締結国の租税法規やその前提となる私法上の法制度の異なることを考慮した上で、各締結国の公用語によりそれぞれ正文が作成されるものであるから、租税条約の正文で同一概念を指すものとして用いられた各締結国の公用語による概念は、特段の事情がない限り、同義であると解するのが相当である。
(3)①日米租税条約では「entity」が我が国の租税法上の「団体」と同一概念とされている上、「separate legal entity」又は「legal entity」という概念は、州LPS法以外の米国内の法律において、法人格のない協同組合(a cooperative that is not incorporated)や制定法上の信託(statutory trust)といったものにまで用いられていること、②2001年改訂統一LPS法で規定されていた「an entity distinct from its partners」は、そもそも集合体理論を基礎としていたパートナーシップに事業体理論が一部取り入れられたこと(混合型の組織(a hybrid organization)であること)を反映するものにすぎず、州LPS法に準拠して組成されたLPSは、その本質はパートナー間の契約関係であり、コーポレーションとは別個の機能を有するものと解されること、③州LPS法における「separate legal entity」は、我が国の租税法(私法)上の法人とは異なる法律効果を認容されていることなどの諸点を併せ考慮すれば、州LPS法の「separate legal entity」は、LPSがその構成員とは別個の「団体」であることを示す概念であるが、その団体は、法人ではないにもかかわらず、対外関係等の一定の範囲内で構成員とは別個に権利を取得したり義務を負担したりするような法的取扱いが認められるという概念であり、我が国では存在しない法概念である。
 よって、実質的観点からの検証によっても、本件各LPSは、我が国の法人と同様に損益の帰属すべき主体として設立されたものということはできない。

四、控訴審判決要旨

控訴棄却(請求認容)。
(1)当裁判所も、原判決同様に、本件不動産賃貸事業から生じた損益はXらの不動産所得に該当するものとし、本件各処分は違法であると判断するが、その理由は、以下のとおり付加訂正するほか、原判決の理由を引用する。
(2)国は、本件各LPSが独立した所有権の帰属主体となることを強調するが、本件各LPSの準拠法である州LPS法は、イギリス法を継承し受容した結果、コモン・ロー上の権原(legal title)とエクイティ上の権原(equitable title)の2つの概念を有し、州LPS法において両者が併存しているとされているところ、国の上記主張はこのことを無視している点で失当であるといわざるを得ない。
(3)結局、米国の私法上、パートナーシップは、権利義務能力や訴訟当事者能力の存在が認められた以後においても、構成員間の契約に基づいて組織される「集合体」としての本質が損なわれることはなく、その損益が直接構成員に帰属するとの扱いも一貫して維持されているのであるから、パートナーシップである本件各LPSにおいても、州LPS法及び本件LPS契約に照らし、損益がLPSに一旦帰属すると考えるべき理由はない。

五、上告審判決要旨

原判決中上告人敗訴部分破棄、一部原審差戻し(請求棄却)。
(1)本件においては、本件各LPSが行う本件不動産賃貸事業により生じた所得が本件各LPS又は本件出資者らのいずれに帰属するかが争われているところ、本件における上記の所得の帰属を判断するに当たっては、本件各LPSが所得税法2条1項7号及び法人税法2条4号(以下「所得税法2条1項7号等」という。)に共通の概念として定められている外国法人として我が国の租税法上の法人に該当するか否かが問題となる。
 我が国の租税法は組織体のうちその構成員とは別個に租税債務を負担させることが相当であると認められるものを納税義務者としてその所得に課税するものとしているところ、ある組織体が法人として納税義務者に該当するか否かの問題は我が国の課税権が及ぶ範囲を決する問題であることや、所得税法2条1項7号等が法人に係る諸外国の立法政策の相違を踏まえた上で外国法人につき「内国法人以外の法人」とのみ定義するにとどめていることなどを併せ考慮すると、我が国の租税法は、外国法に基づいて設立された組織体のうち内国法人に相当するものとしてその構成員とは別個に租税債務を負担させることが相当であると認められるものを外国法人と定め、これを内国法人等とともに自然人以外の納税義務者の一類型としているものと解される。このような組織体の納税義務に係る制度の仕組みに照らすと、外国法に基づいて設立された組織体が所得税法2条1項7号等に定める外国法人に該当するか否かは、当該組織体が日本法上の法人との対比において我が国の租税法上の納税義務者としての適格性を基礎付ける属性を備えているか否かとの観点から判断することが予定されているものということができる。そして、我が国においては、ある組織体が権利義務の帰属主体とされることが法人の最も本質的な属性であり、そのような属性を有することは我が国の租税法において法人が独立して事業を行い得るものとしてその構成員とは別個に納税義務者とされていることの主たる根拠であると考えられる上、納税義務者とされる者の範囲は客観的に明確な基準により決せられるべきであること等を考慮すると、外国法に基づいて設立された組織体が所得税法2条1項7号等に定める外国法人に該当するか否かについては、上記の属性の有無に即して、当該組織体が権利義務の帰属主体とされているか否かを基準として判断することが相当であると解される。
 その一方で、諸外国の多くにおいても、その制度の内容の詳細には相違があるにせよ、一定の範囲の組織体にその構成員とは別個の人格を承認し、これを権利義務の帰属主体とするという我が国の法人制度と同様の機能を有する制度が存在することや、国際的な法制の調和の要請等を踏まえると、外国法に基づいて設立された組織体につき、設立根拠法令の規定の文言や法制の仕組みから、日本法上の法人に相当する法的地位が付与されていること又は付与されていないことが疑義のない程度に明白である場合には、そのことをもって当該組織体が所得税法2条1項7号等に定める外国法人に該当する旨又は該当しない旨の判断をすることが相当であると解される。
 以上に鑑みると、外国法に基づいて設立された組織体が所得税法2条1項7号等に定める外国法人に該当するか否かを判断するに当たっては、まず、より客観的かつ一義的な判定が可能である後者の観点として、①当該組織体に係る設立根拠法令の規定の文言や法制の仕組みから、当該組織体が当該外国の法令において日本法上の法人に相当する法的地位を付与されていること又は付与されていないことが疑義のない程度に明白であるか否かを検討することとなり、これができない場合には、次に、当該組織体の属性に係る前者の観点として、②当該組織体が権利義務の帰属主体であると認められるか否かを検討して判断すべきものであり、具体的には、当該組織体の設立根拠法令の規定の内容や趣旨等から、当該組織体が自ら法律行為の当事者となることができ、かつ、その法律効果が当該組織体に帰属すると認められるか否かという点を検討することとなるものと解される。
(2)これを本件についてみるに、州LPS法は、同法に基づいて設立されるリミテッド・パートナーシップがその設立により「separate legal entity」となるものと定めているところ、デラウェア州法を含む米国の法令において「legal entity」が日本法上の法人に相当する法的地位を指すものであるか否かは明確でなく、また、「separate legal entity」であるとされる組織体が日本法上の法人に相当する法的地位を有すると評価することができるか否かについても明確ではないといわざるを得ないこと等から、本件各LPSがデラウェア州法において日本法上の法人に相当する法的地位を付与されていること又は付与されていないことが疑義のない程度に明白であるとはいい難い。
 そこで、本件各LPSが法人該当性の実質的根拠となる権利義務の帰属主体とされているか否かについて検討するに、州LPS法は、リミテッド・パートナーシップにつき、営利目的か否かを問わず、一定の例外を除き、いかなる合法的な事業、目的又は活動をも実施することができる旨を定めるとともに、同法若しくはその他の法律又は当該リミテッド・パートナーシップのパートナーシップ契約により付与された全ての権限及び特権並びにこれらに付随するあらゆる権限を保有し、それを行使することができる旨を定めている。このような州LPS法の定めに照らせば、同法は、リミテッド・パートナーシップにその名義で法律行為をする権利又は権限を付与するとともに、リミテッド・パートナーシップ名義でされた法律行為の効果がリミテッド・パートナーシップ自身に帰属することを前提とするものと解され、このことは、同法において、パートナーシップ持分(partnership interest)がそれ自体として人的財産(personal property)と称される財産権の一類型であるとされ、かつ、構成員であるパートナーが特定のリミテッド・パートナーシップ財産(以下「LPS財産」という。)について持分を有しないとされていることとも整合するものと解される。なお、本件各LPS契約において、本件各LPSが本件各建物及びその敷地の購入、取得、開発、保有、賃貸、管理、売却その他の処分の目的のみのために設立され、当該目的を実施するために必要又は有益な範囲で上記の処分の権限を有すると定められていることは、上記のような州LPS法の規律に沿うものということができ、構成員である各パートナーが本件各LPSのLPS財産につき各自の出資割合に相当する不可分の持分を有すると定められていることについても、LPS財産の全体に係る抽象的な権利を有する旨をいうものにとどまり、本件各LPSのLPS財産を構成する個々の物や権利について具体的な持分を有する旨を定めたものとは解されず、パートナーが特定のLPS財産について持分を有しないとする州LPS法の上記規定の定めとそごするものではないということができる。
 上記のような州LPS法の定め等に鑑みると、本件各LPSは、自ら法律行為の当事者となることができ、かつ、その法律効果が本件各LPSに帰属するものということができるから、権利義務の帰属主体であると認められる。
(3)そうすると、本件各LPSは、上記のとおり権利義務の帰属主体であると認められるのであるから、所得税法2条1項7号等に定める外国法人に該当するものというべきであり、前記(1)のとおり、本件各不動産賃貸事業は本件各LPSが行うものであり、前記(1)の特段の事情の存在もうかがわれないことなどからすると、本件各不動産賃貸事業により生じた所得は、本件各LPSに帰属するものと認められ、本件出資者らの課税所得の範囲には含まれないものと解するのが相当である。
(4)また、Xらの請求のうち、本件各賦課決定処分の取消請求については、本件が例外的に過少申告加算税の課されない場合として国税通則法65条4項に定める「正当な理由があると認められる」場合に当たるか否かが問題となるところ、この関係の諸事情につき更に審理を尽くさせるため、上記破棄部分のうち上記請求に係る部分につき、本件を原審に差し戻すこととする。

六、解説

はじめに
(1)本件は、米国デラウェア州の法律によって組成されたLPS(本件各LPS)の構成員であるXら(所得税法上の居住者)が同LPSから配分を受ける分配金又は損失が、所得税法上、Xらの不動産所得(損失)として課税されるか否かが争われたものである。本件のような場合には、本件各LPSが我が国の租税法上の「法人」又は「人格のない社団等」に該当するか否かによって、その課税関係が異なることになる。
 しかし、本件各LPSのように、外国法に基づいて設立された外国法人で、かつ、当該外国において我が国とは課税方法が異なる場合には、当該事業体を「法人」等に該当するか否かを判断することは必ずしも容易ではない。
(2)そのため、本件各LPSが「法人」に該当するか否かについては、本件のほか、東京及び大阪の各裁判所においても、同種の事件が争われてきており、それぞれ別個の判断が行われてきた。すなわち、まず、本件各LPSの「法人」該当性について初めて判断を下した大阪地裁平成22年12月17日判決(平成19年(行ウ)第78号他)は、本件各LPSが「法人」に該当することを明確にした。そして、その控訴審である大阪高裁平成25年4月25日判決(平成23年(行コ)第19号)も、原判決を支持した。
 他方、本件の一審判決の先例ともなった東京地裁平成23年7月19日判決(平成19年(行ウ)第78号他)は、本件各LPSの「法人」該当性を否定した。しかし、その控訴審の東京高裁平成25年3月13日判決(平成23年(行コ)第302号)は、当該「法人」該当性を容認した。
 また、米国デラウェア州の本件各LPSとは異なって、英国領バミューダ諸島(以下「バミューダ」という。)の法律に基づくLPS(以下「バミューダLPS」という。)の「法人」該当性も争われてきたが、東京地裁平成24年8月30日判決(平成23年(行ウ)第123号)及び控訴審の東京高裁平成26年2月5日判決(平成24年(行コ)第345号)は、当該LPSの「法人」該当性を否定した。
 かくして、上記の各高裁判決はいずれも上告されたのであるが、本件上告審判決が下されたことに対応し、他の事件はいずれも上告不受理とされた。そのため、同じくLPSと称されるものであっても、米国デラウェア州の本件各LPSの「法人」該当性が容認されることになったが、バミューダLPSは、その「法人」該当性が否定されることになった。もっとも、バミューダLPSに関しては、後述するように、本件とは課税関係等を異にしている。
 以下、このように錯綜したLPSの「法人」該当性の論争について、検討することとする。

1 「法人」と「個人」の課税関係 (1)我が国の法人税法では、内国法人(国内に本店又は主たる事務所を有する法人をいう(法法2・三))は、この法律により、法人税を納める義務があり(法法4①)、各事業年度の所得について、各事業年度の所得に対して法人税が課される(法法5)。また、外国法人(内国法人以外の法人をいう。法法2・四)は、法人税法138条に規定する国内源泉所得を有するとき等には、法人税を納める義務があり(法法4③)、各事業年度の所得のうち恒久的施設(法法141)の所有形態に応じて所定の国内源泉所得について法人税が課される(法法9①)。
 また、法人税法では、人格のない社団等(法人でない社団又は財団で代表者又は管理人の定めがあるものをいう。法法2・八)は、法人とみなして上記の課税関係が適用される。
 他方、所得税法では、原則として、居住者(国内に住所を有し、又は現在まで引き続いて1年以上居所を有する個人をいう。所法2・三)又は非居住者(居住者以外の個人をいう。所法2・五)に対して、全ての所得又は所定の国内源泉所得に対して所得税を課すが(所法5、7)、内国法人又は外国法人であっても、源泉所得税の対象となる所得について納税義務を負うことになる(所法5③④、7①四、五)。また、人格のない社団等が法人とみなされて所得税法の適用を受けることは、法人税の場合と同様である(法法2・八、4)。
(2)また、所得税法では、居住者の所得を利子所得、配当所得等の10種類に区分される(所法21①)。この場合、法人の経済活動等を通して、居住者等が取得する利得(所得)については、利子所得、配当所得、給与所得、退職所得、一時所得又は雑所得として区分することが想定できるが、本件で問題となっている不動産所得が生じることは想定されていない。しかし、この不動産所得の区分は、次のパススルー課税において問題となる。
 他方、種々の経済活動を行う個人以外の事業体は、法人に限られるわけではない。法人ではない事業体の代表的な存在が、民法上の任意組合等であり、このような事業体を通して個人が稼得する(分配される)利得(所得)について、一般に、パススルー課税(構成員課税)が行われている。
 この点について、所得税基本通達36・37共-19は、「任意組合等の組合員の当該任意組合等において営まれる事業(〈略〉)に係る利益の額又は損失の額は、当該任意組合等の利益の額又は損失の額のうち分配割合に応じて利益の分配を受けるべき金額又は損失を負担すべき金額とする。」と定めている。また、この場合の「任意組合等」とは、民法667条1項に規定する組合契約によって成立する組合、投資事業有限責任組合契約に関する法律3条1項に規定する投資事業有限責任組合契約及び有限責任事業組合に関する法律3条1項に規定する有限責任事業組合契約により成立する組合並びに外国におけるこれらに類するものとされている(所基通36・37共-19注1)。このような規定からは、「法人」又は「人格のない社団等」に該当しない事業体の全てが「任意組合等」として取り扱われるものでないことが解る。
 なお、以上のような所得税基本通達の取扱いは、法人税基本通達においても同様である(法基通14-1-1、14-1-1の2)。

2「法人」、「人格のない社団等」の意義 (1)前述のように、ある事業体が、「法人」に該当するか、法人とみなされる「人格のない社団等」に該当するか、によって、所得税及び法人税の課税関係は大きく異なることになる。また、法人でない事業体からその構成員が取得する損益については、原則として、その事業体に対して所得課税をせず、その構成員に対して所得課税を行うというパススルー課税(構成員課税)が行われる。しかし、この場合のパススルー課税が行われる事業体については、所得税及び法人税の取扱いでは、前述のように、民法上の「任意組合等」に限定している。
 かくして、本件の課税関係においては、「法人」、「人格のない社団等」及び「任意組合等」の意義が問題となる。「法人」の意義については、租税法上これを定義した規定はないので、いわゆる借用概念(注1)として、特別の事情がない限り、私法上の意義と同義に解されることになる(注2)。そのため、内国法人については、会社法等の法制度においても「法人」格が与えられている事業体を租税法上の「法人」として取り扱われており、解釈上も然程問題にはならない。
 他方、外国の法令に準拠して設立された社団や財団については、基本的に当該外国の法令の内容と団体の実質に従って判断するのが相当である。しかし、外国によって法令の定め方が様々であり、かつ、当該法令で法人格が与えられていても、我が国のように一律に「法人」として課税されるわけではなく、前述のパススルー課税の選択が認められている場合もあるので、我が国租税法における「法人」の認定を一層複雑にする。
(2)次に、「人格のない社団等」については、租税法上、「法人でない社団又は財団で代表者又は管理人の定めのあるものをいう。」(所法2・八、法法2・八)と定義されている。また、この人格のない社団等についても、民法上の「権利能力のない社団」とその概念が共通する(一種の借用概念)と解されるところ、民法上の判例では、「権利能力のない社団といいうるためには、団体としての組織をそなえ、そこには多数決の原則が行われ、構成員の変更にもかかわらず団体そのものが存続し、しかしてその組織によって代表の方法、総会の運営、財産の管理その他団体としての主要な点が確定しているものでなければならない。」(注3)と解されている。
 また、租税法の分野においても、この最高裁判決を受け、人格のない社団等に該当する要件として、「(1)団体としての組織を備えていること、(2)多数決の原則が行われていること、(3)構成員が変更しても団体そのものは存続すること、(4)その組織によって代表の方法、総会の運営、財産の管理その他団体としての主要な点が確定していること」(注4)の4点をあげるべきであると解されている。もっとも、この4点の要件については、個々の社団等の事業体としての活動状況や課税目的に応じて判断されるべき事実認定に依るべきところが大きいものと解される。
 なお、「法人」又は「人格のない社団等」に該当しないということでパススルー課税の対象となる「任意組合等」になるかについては、前述のように、所得税及び法人税の取扱いでは、国内法の定めるところにより限定的に定義されているところであるが、外国の事業体については、「外国におけるこれらに類するもの」として、個々の事業体について「類する」か否かの事実認定を伴うことになっている。

3 本件各LPSの「法人」該当性と「正当な理由」 (1)以上のように、本件各LPSが「法人」又は「人格のない社団等」として課税されるか否かについては、①本件各LPSが米国デラウェア州の州LPS法において法人格が与えられているか否か、②本件各LPSが州LPS法の規定等に照らし、実質的に「法人」と認定し得るか、③本件各LPSが前述の「人格のない社団等」に該当するか否かの判断を要するが、それらとの関連において、④本件各LPSが前述の「任意組合等」に該当するか否かの判断も要することになる。
 このような「法人」該当性については、州LPS法等から直ちに判断することが困難であるため、前述したように、東京地方裁判所及び大阪地方裁判所の事案を含め、それぞれ判断を異にしているところであった。
 その中で、本件の名古屋地方裁判所及び名古屋高等裁判所は、いずれも、本件各LPSの「法人」該当性を否定したところであるが、その論拠は、次のとおりである。
 すなわち、一審判決は、前述のように、「基本的には、当該外国の法令の規定内容から、その準拠法である当該外国の法令によって法人とする(法人格を付与する)旨を規定されていると認められるか否かによって判断されるべきである。」と判示し、本件の州LPS法にはそのような規定は認められないとし、州LPS法の取扱いが我が国では存在しない法概念があるとした上で、「州LPS法の規定するLPSの成り立ち、組織、運営及び管理等の内容に着目して実質的に見ても、本件各LPSは、我が国の法人と同様に損益の帰属すべき主体として設立が認められたものということはできない。」と判示した。
 また、控訴審判決も、前述のように、州LPS法におけるLPSの法的性格を検討した上で、結局、一審判決の結論を支持している。
(2)これに対し、上告審判決は、「州LPS法や関連法令の他の規定の文言等を参照しても本件各LPSがデラウェア州法において日本法上の法人に相当する法的地位を付与されていること又は付与されていないことが疑義のない程度に明白であるとはいい難い。」と判示した上で、本件各LPSが法人該当性の実質的根拠となる権利義務の帰属とされているか否かについて、州LPS法におけるLPSの権限の行使実態、構成員である各パートナーがLPS財産の全体に係る抽象的な権利しか有していないこと等を認定した上で、「本件各LPSは、自ら法律行為の当事者となることができ、かつ、その法律効果が本件各LPSに帰属するものということができるから、権利義務の帰属主体であると認められる。」と判示し、本件各LPSが所得税法又は法人税法に定める「外国法人」に該当する旨判示した。
 かくして、米国デラウェア州の州法に基づいて設立されたLPSの「法人」該当性の論議については、東京及び大阪の事件を含めピリオドを打つことになったのであるが、本件の上告審判決が、今後の実務に及ぼす影響が大であるということで非常に注目されている(注5)。
 もっとも、外国の事業体が我が国税法の「法人」に該当するか否かの問題は、主として、当該事業体からもたらされる収益(損失)が所得税法26条1項に定める「不動産所得」に該当することから生じるものであるが、それらは租税回避的なタックスプランニングを伴うものであるから、当該「不動産所得」の定義を変えればほとんど解決されるはずである。すなわち、所得税法上の「不動産所得」は、その所得計算において帳簿記載を条件とする青色申告の対象にしている(所法143)ものであるから、本件のように、そのような帳簿記載を要せず、事業体を通して間接的に不動産を所有している場合には、当該収益(損失)を「不動産所得」から除外すれば良いはずである。
(3)次に、上告審判決は、過少申告加算税の各賦課決定に係る取消請求については、国税通則法65条4項に定める「正当な理由」があるか否かについて原審において審理を尽くさせるため、原審に差し戻すこととした。
 本件のような税法上の「法人」該当性という主として法律の解釈・適用に関する事項について「正当な理由」が認められるケースは、かなり限定的であると言える(注6)。現に、本件各LPSについて「法人」該当性を否定した前掲東京高裁平成25年3月13日判決は「正当な理由」の存否につき、「被控訴人らが本件各損失を不動産所得に当たるとして損益通算ができると判断したことは、被控訴人ら自身の法令の解釈の誤りにすぎないというべきである。」と判示している。また、前掲大阪高裁平成25年4月25日判決も、「正当な理由」を認めていない。
 しかし、上告審判決が原審に対し「正当な理由」の存否について審理するよう原審に差し戻したということは、「正当な理由」を認めるべき何らかの意図があるものとも解される。よって、名古屋高等裁判所がどのような判断をするのかが、注目される。

4 バミューダLPSとの対比 (1)前述したように、同じ「LPS」と称されるものであっても、バミューダの法律に基づいて組成されたLPSの「法人」該当性が争われた前掲東京地裁平成24年8月30日判決及び東京高裁平成26年2月5日判決は、当該LPSの「法人」該当性を否定し、納税者の請求を認容している。そして、最高裁判所も、国側の上告を不受理とし、原判決を確定させている。よってバミューダLPSと本件各LPSの差異が問題となる。
 前掲東京地裁判決等が認定した事実によると、まず、課税処分において本件との相違があり、それが本件LPSとバミューダLPSの差異に影響を及ぼすものとも思われる。すなわち、本件においては、本件各LPSが「法人」に該当するということで、本件各LPSの構成員であり我が国の居住者であるXらの不動産所得課税が最終的に否定されることになったのであるが、バミューダの事件においては、処分行政庁が、バミューダLPSが我が国の「外国法人」に該当すると認定し、同LPSが我が国の国内源泉所得を収受したことに対し外国法人課税を行ったものであり、そのことに対し、前掲東京地裁判決等が、同LPSが「外国法人」に該当しないということで、当該課税処分を取り消したというものである。そういう点(同LPSに納税主体を認めた点)では、同LPSについて一層強い「法人」該当性を認める必要があったとも言える。
(2)そのような事情はともかくとして、前掲地裁判決は、バミューダLPSに関係するバミューダ法において同LPSに法人格を与える定めはないとした上で、その実質論について、関係法を具さに検討した上で、次のとおり判示した上で、同LPSの「法人」該当性を否定している。
 「以上によれば、バミューダ法に準拠して組成されたリミテッド・パートナーシップは、経済的、実質的にみても、パートナー間の契約関係を本質として、その事業の損益をパートナーに直接帰属させることを目的とするものであるといわざるを得ないから、バミューダ法の規定するその設立、組織、運営及び管理等の内容に着目して経済的、実質的に見ても、明らかに我が国の法人と同様に損益の帰属すべき主体(その構成員に直接その損益が帰属することが予定されない主体)として設立が認められたものということはできない。」
 また、前掲東京地裁判決は、同様に関係法令を検討した上で、バミューダLPSは民法上の任意組合等に類似した組織であって、租税法上の「人格のない社団等」に該当するものではない旨判示している。そして、前掲東京高裁判決も、原判決を支持している。
 以上のように、デラウェア州の本件各LPSに係る上告審判決とバミューダLPSに係る東京地裁判決等を対比した場合には、いずれも、関係法令を検討した上で、当該各LPSについて、いずれも明文上「法人」格が与えられていないことを認定した上で、実質的な権利義務の帰属主体の点について、それぞれの関係法令に差異があることもあって、本件の上告審判決が積極的に解して「法人」格を認めたことに対し、バミューダLPSに係る東京地裁判決等が消極的に解して「法人」格を否定したものと考えられる。いわば両者の差異は、関係法令を踏まえた上での一種の事実認定に関わる事柄であるとも考えられる。そのため、最高裁判所は、バミューダLPSに係る東京高裁判決に対する上告を不受理にしたものと考えられる。

5 本件上告審判決の意義と問題点 (1)以上のように、本件においては、米国デラウェア州法において設立された本件各LPSの「法人」該当性について、前掲の東京高裁判決と大阪高裁判決がそれぞれ「法人」該当性を認めたことに対し、本件の名古屋高裁判決が「法人」該当性を否定し、それぞれ上告されたため、上告審判決の行方が注目されていたものである。
 かくして、上告審判決は、事実関係を認定した上で、「本件各LPSは、自ら法律行為の当事者となることができ、かつ、その法律効果が本件各LPSに帰属するものということができるから、権利義務の帰属主体であると認められる。」と判示し、本件各LPSの「法人」該当性を認めた。そして、最高裁判決は、前掲の東京高裁判決及び大阪高裁判決についての上告を不受理とし、デラウェア州の本件各LPSの「法人」該当性の論争にピリオドを打った。
 また、最高裁判決は、バミューダLPSの「法人」該当性を否定していた東京高裁判決に係る上告も不受理とし、本件各LPSとバミューダLPSの差異を明確にした。
(2)かくして、外国法に基づいて組成されたLPSの「法人」該当性の議論は、一応結論が出されたことになる。しかし、名目がLPSであっても、それぞれの実態に応じて、「法人」該当性が異なることも明らかにされた。そのことは、類似の事業体を組成して、新たなタックス・プランニングの出現が予測されることとなり、新たな論争を惹起することも予測される。
 しかし、このような不毛とも言える論争は、所得税法26条1項に定める「不動産所得」の定義が惹起しているものでもある。したがって、前述したように、「不動産所得」の定義を変更すべきであると考えられる。例えば、所得税法26条1項に定める「不動産所得」の定義について、不動産等の貸付け・使用について、「居住者が直接所有・管理しているものに限る。」と定めることが考えられる。そうすれば、本件のように、事業体を介在した利益(損失)分配契約に基づく所得(損失)は、「不動産所得」から除外されるはずである。
(注1)借用概念とは、他の法分野で用いられている概念であり、他の法分野から借用しているという意味で借用概念と呼ばれる(金子宏『租税法 第20版』(弘文堂、平成27年)117頁等参照。)
(注2)前出(注1)118頁等参照。
(注3)最高裁昭和39年10月15日第一小法廷判決(民集18巻8号1671頁)。
(注4)前出(注1)147頁。
(注5)税務弘報2015年11月号は、特別企画「最高裁平成27.7.17 デラウェア州LPS判決の意義」と題し、識者の「座談会」、「実務への影響」及び「判例研究」がまとめられている(同誌73頁)。
(注6)税法の解釈・適用の疑義についての「正当な理由」の事例については、品川芳宣「附帯税の事例研究 第4版」(財経詳報社 平成24年)89頁以下参照。なお、一般的には、「納税者の税法の不知若しくは誤解に基づく」過少申告については、「正当な理由」は認められないと解されている(東京高裁昭和51年5月24日判決・税資88号841頁等)が、その誤解等に課税庁側が加担等している場合には「正当な理由」が認められる場合がある(最高裁平成18年10月24日第三小法廷判決・民集60巻8号3128頁等参照)。

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