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解説記事2016年08月08日 【税理士のための相続法講座】 相続財産と債務(5)-相続財産の変動(2016年8月8日号・№654)

税理士のための相続法講座
第18回
相続財産と債務(5)-相続財産の変動
 弁護士 間瀬まゆ子

 今回は、相続開始後の相続財産の変動として、代償財産と相続財産から生じる果実を採りあげます。
1 代償財産  被相続人が相続開始時に有していた財産的権利義務すなわち遺産は、被相続人の一身に専属するものを除き、すべて相続の対象となり相続人に承継されます(民法896条)。
 ただ、相続開始時から遺産分割までには、一定の期間を要します。そのため、遺産が相続開始後に滅失してしまったとか、相続人によって一部処分されてしまったというように、相続開始時に存在した遺産が遺産分割時には存在しないという事態が生じ得ます。
 このような場合に、遺産が存在しないので、代わりに代償財産(保険金請求権や売却代金)が遺産分割の対象になるかが問題となりますが、これについては、否定的に解するのが通説判例です。この点、最高裁は、相続人全員の合意によって不動産を第三者に売却した場合の売却代金は、当事者全員の合意がない限り、遺産分割の対象とすることはできず、各人が持分に応じて分割取得すると判示しています(最二小判昭和52年9月19日家月30巻2号110ページ、最一小判昭和54年2月22日家月32巻1号149ページ)。
 そのため、例えば2000万円の保険金請求権を相続人である子2人が取得する場合、子らがそれぞれ相続分1/2に応じた1000万円を請求できることになります。
 このような代償財産と関連して実務上問題となるのが「使途不明金」です。一部の相続人が相続開始後に預金を引き出したような場合に、「使途不明金」があるとして深刻な対立を生む場合があります。
 Aが亡くなった。相続人はAの子であるBとCの2人。Aの財産の大部分は銀行預金だったが、Aが亡くなってすぐに、Aと同居していたBがその多くを引き出してしまった。CはBに半額を支払って欲しいと頼んだが、Bは、「Aの債務の支払いに使った。」「Aの世話をしていたのは自分なのだから渡せない。」などと言って支払を拒んでいる。

 前掲の判例を受けて、遺産分割の対象になる相続財産は、遺産分割の時点において残存しているものに限ると解するのが現在の実務ですから、Bが払い戻した分は、そのままでは遺産分割の対象になりません。そうなると、CはBに対して不当利得返還請求等の民事訴訟を提起するほかないことになります。
 ただ、紛争化した場合でも、いきなり民事訴訟に移行することは稀と思われます。相続人全員の同意があれば遺産分割の対象になりますので、まずはその可能性を模索するのが一般的です。
 上記の事例でも、Bが同意すれば遺産分割の対象に含めることができますので、仮に遺産分割調停の場で争われたとしても、まずはBの説得を図っていくことになります(Bが認めれば、払い戻した預金のうち残っている分は現金、Bが費消した分は預け金等として、遺産分割の対象に含めることになります。)。
 その際、「Aの債務の支払いに使った」と言っている分を含め、幾ら残っていて幾らを使ったのか、また、使った分についての証拠を出すようBに求めていく必要があります。また、「Aの世話をしていた」という部分は、遺産分割の対象となって初めて寄与分の話が出てくるわけですから、そのように説明してBの納得を得ていくことになるでしょう。
 なお、税理士が関与する場合を含め、多くのケースでは、上記のような理屈を意識せず、申告書に記載すべき財産すなわち相続開始時における遺産を対象として遺産分割協議を行うことが多いかと思いますが、この場合、全ての相続人の了解のもとに行っているわけですから法的に問題はありません。
2 相続財産から生じる果実
 賃貸アパートを所有していたDが亡くなった。相続人は3人の子。長女のEが相続開始後も当該アパートの管理を続け、遺産分割協議でも、他の2人は預貯金等の金融資産を取得し、Eが当該アパートを取得することになった。Eは当然、相続開始から遺産分割までの間に支払われた賃料も全て自分が取得できるものと考えていたが、FとGから「自分たちの取り分をよこせ」と言われてしまった。

 遺産分割手続きに際して、相続開始から遺産分割がまとまるまでの間に遺産から生じた果実について、その帰属が問題となることがあります。
 この点、最高裁(最一小判平成17年9月8日民集59巻7号1931ページ)は、「遺産は、相続人が数人あるときは、相続開始から遺産分割までの間、共同相続人の共有に属するものであるから、この間に遺産である賃貸不動産を使用管理した結果生ずる金銭債権たる賃料債権は、遺産とは別個の財産というべきであって、各共同相続人がその相続分に応じて分割単独債権として確定的に取得するものと解するのが相当」とした上で、「各共同相続人が……取得した上記賃料債権の帰属は、後にされた遺産分割の影響を受けない」と判示しました。
 すなわち、上記の事例でも、Eらはそれぞれ法定相続分1/3に応じた賃料を取得することになり、Eが遺産分割でアパートを相続したとしても、分割前に生じた賃料債権には影響が及ばない(すなわちEが1/3を超える分を取得できるわけではない)ことになります。税務上も、各人の所得税の課税対象として取り扱われることになるのはご存知のとおりです。
 ただ、代償財産の場合と同様、相続人全員が合意していれば、遺産分割の対象に含めることができますので、上記の例でも、FとGが了解すれば、相続開始後の賃料もEが取得することができたわけです(ただし、申告済みの所得税には影響は及ばず、後の遺産分割を理由とする更正の請求や修正申告は認められないようです。)。しかし、FとGが請求してくるということは、相続開始後の賃料については遺産分割の際に言及されていなかったのでしょうから、EはFとGの請求に応じざるを得ないでしょう。

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