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解説記事2016年12月19日 【ニュース特集】 改正CFC税制の全貌(2016年12月19日号・№671)

ニュース特集
トリガー税率は事実上存続も、キャッシュボックス判定などで事務負担は増大
改正CFC税制の全貌

 平成29年度税制改正で大幅な見直しが見込まれていた外国子会社合算税制(CFC税制)の改正内容の全貌が明らかになった。
 トリガー税率を廃止し、企業活動の実体に着目した制度への組み換えを目指した今回の改正だが、蓋を開ければトリガー税率と同じ「20%未満」の税負担率を用いる「制度適用免除基準」という新たな基準が設けられるほか、CFC税制の適用の判定プロセスにおいても、現行の適用除外基準と同様の「経済活動基準」が用いられるなど、企業の事務負担や激変緩和への配慮から、現行CFC税制の仕組みが至る所で生かされている。
 一方で、税負担割合が20%未満となる場合や「キャッシュボックス」に該当するか否かの判定においては、現行の資産性所得よりも範囲が広い「受動的所得」の把握が求められるなど、企業の事務負担は大きく増加することになりそうだ。
 改正CFC税制は「外国関係会社の平成30年4月1日以後に開始する事業年度」から適用される。外国関係会社が12月決算であれば、外国関係会社の平成31年12月決算から適用開始となる(すなわち、日本の3月決算法人にとっては平成31年度の申告から適用開始となる)とはいえ、ただでさえCbCR(国別報告事項)への対応に事務量を割かれる中、孫会社等の所得を効率的に把握するための仕組み作りに要する手間など考えれば、残された時間はそれほど多くない。
 本特集では、改正CFC税制の全貌を短時間で把握していただくべく、ポイントを嚙み砕いてお伝えしたい。

トリガー税率は「制度適用免除基準」に
 CFC税制の適用の有無の判定プロセスは図表1のとおりだ。

 基本的には、外国関係会社の活動内容を現行の適用除外基準と同様の「経済活動基準」に照らした上で、①すべての基準を満たし、かつ税負担割合が20%未満の場合には「受動的所得」が合算対象とされ(能動的所得は合算対象外)、②いずれかの基準を満たさず、かつ税負担割合が20%未満の場合には会社単位で(全所得について)合算課税が行われる。
 ここでポイントとなるのは、CFC税制の適用の判定上、現行トリガー税率と同じ「20%未満」という基準が残されたという点だ。名称こそ現行のトリガー税率から「制度適用免除基準」へと変更されるものの、実質的にはトリガー税率が残されたと言えるだろう(図表2参照)。


ペーパーカンパニー等は税負担割合30%未満で全所得合算対象
 ただし、税負担割合が20%以上であれば、“無罪放免”ということではない。「ペーパー
カンパニー、事実上のキャッシュボックス、ブラックリスト国所在のもの(以下、ペーパーカンパニー等)」については、その要件を満たす場合、経済活動基準を考慮することなく、単純に税負担割合が「30%未満」であれば、会社単位で(全所得について)合算課税が行われることになる。もっとも、税負担割合が30%以上であれば、たとえペーパーカンパニー等であっても合算課税の対象外となる。
 上記の「税負担割合が20%未満」の場合を含め、税負担割合に応じた課税関係を示せば図表3のとおりとなる。
 ペーパーカンパニー等の定義だが、まず「ペーパーカンパニー」とは、事務所等の固定施設を有さず、かつ、その本店所在地国において事業の管理、支配及び運営を自ら行っていない外国関係会社を指す。このうち、「事務所等の固定施設」要件は、改正CFC税制適用の判定プロセスにおいて用いられる「経済活動基準」のうち「実体基準(本店所在地国に主たる事業に必要な事務所等を有すること)」に類似しているが(図表1参照)、両者を比較すると、ペーパーカンパニーの判定要件には「本店所在地国に」との文言がない。これは、本店所在地国に事務所等がなかったとしても、本店所在地国以外の他国にPEを持っていれば、基本的に「固定施設あり」と判断されるということを意味する。逆に、本店所在地国のみならず世界中どこにも固定施設を持っていない場合には文字通りペーパーカンパニーであり、合算課税の対象とされることになる。
 「キャッシュボックス」は、B/S上の総資産に占める受動的所得(後述の異常利益を除く)の割合が30%超の外国関係会社(ただし、総資産に占める有価証券、貸付金及び無形固定資産等の合計額が50%超の外国関係会社に限る)が該当することになる。本誌取材によると、通常の事業活動を行っている企業グループであれば、キャッシュボックスに該当する外国関係会社はほとんど発生しない模様だが、税負担割合が30%未満の国等にある外国関係会社について、1つひとつ、キャッシュボックスに該当するか否かを判定しなければならないとするならば大変だ。そこで入ったのが、「(ただし、総資産に占める有価証券、貸付金及び無形固定資産等の合計額が50%超の外国関係会社に限る)」との文言である。キャッシュボックス判定を行うかどうかの判定を行うための足切り基準として、一応の機能を果たすことになる。しかし、企業からは早くも「子会社はともかく、孫会社以降の会社のB/Sを把握するのは容易ではない」などの声が上がっており、キャッシュボックスに該当するか否かの判定作業は企業にとっては大きな負担となる恐れがある。
 「ブラックリスト国所在のもの」とは、「租税に関する情報の交換に非協力的な国として財務大臣が指定する国又は地域に本店等を有する外国関係会社」のことを指す。OECDにおける「ブラックリスト」の策定作業と連動するため、具体的な法域名が明らかになるのは来年以降だろう。

外国関係会社に該当するか否かは「50%超の連鎖の有無」で判定
 キャッシュボックスのところで孫会社等について言及したように、企業の事務負担の増減のカギを握るのがCFC税制の対象となる外国子会社の範囲だが、平成29年度税制改正では「実質支配基準」が導入されるとともに、持株割合の計算方法も見直されるため、範囲自体は拡大する可能性がある。
 このうち「実質支配基準の導入」とは、本誌665号6頁でお伝えした「資本関係のないSPCを使った租税回避防止策」等を指す。具体的には、租税回避地にあるSPCを“実質的に”支配することにより、SPCが投資事業を行って獲得した利益を租税回避地にプールしておくといった租税回避スキームを封じ込めるため、実質的な支配関係に着目し、資本関係がないSPC等も合算対象とする。
 「持株割合の計算方法の見直し」とは、要するに、孫会社等が外国関係会社に該当するかどうかの判定を、現在の“掛け算方式”でなく、“50%超の連鎖”の有無により行うこととするもの。例えば親会社が子会社の株式を80%、子会社が孫会社の株式を60%保有している場合、現行制度上は親会社は孫会社の株式を48%(80%×60%)持っていることになり、孫会社は合算対象にならない。これを50%超の連鎖の有無により判定することとすれば、このケースでは親会社と子会社、子会社と孫会社いずれも持株割合50%超の関係にあり、50%超の連鎖が途切れていないため、孫会社も合算対象とされることになる。
 この改正にはメリットもある。外国企業とジョイントベンチャー(JV)を設立した際にしばしば問題になってきた当該外国企業の日本人株主の取扱いの見直しだ。日本企業と外国企業と50%ずつ出資し海外にJVを設立するケースは少なくないが、この場合、外国関係会社に該当するのは「居住者・内国法人が合計で50%超を直接及び間接に保有」するケースであるため、当該JVは外国関係会社に該当しないように見える。ところが、外国企業が上場会社であるような場合、その株主がたまたま日本の居住者で、結果として保有割合が「50%超」となることが考えられる。ただ、現実問題として、外国上場企業の株主に日本の居住者がいるかどうかを調べるのは極めて困難と言える。平成29年度税制改正以降は、合弁相手の少数株主に日本の居住者がいたとしても、その居住者から見た場合、“50%超の連鎖”となっていないため、当該JVは外国関係会社に該当しないこととする。すなわち、今後は合弁相手の少数株主を気にする必要はなくなるということだ。


グループファイナンスは受動的所得から除外
 上述のとおり、税負担割合が「20%未満」の場合や「キャッシュボックス」の判定においては受動的所得を把握する必要が出てくる。受動的所得の範囲をまとめたのが図表5だ。一言で言えば、受動的所得の範囲は現行制度上の資産性所得よりも広がることになる。

 ただし、受動的所得に係る少額免除基準は現行の1,000万円から2,000万円に引き上げられる(「(所得の)5%基準」は存続)。
 このうち配当については、現行制度上は「(持株割合)10%以上の株式等に係る配当」は除外されているところ、改正後は原則として「25%以上の株式等に係る配当」が除外されることとなる。ただし、一定の資源投資法人から受ける配当については引き続き「10%以上」に据え置く。資源投資は商社等により行われることが多いが、資源権益は巨額であり、現地の規制もあるため、25%以上の株式等を保有することは困難であることに配慮したもの。
 利子については、現行制度上は「債券」の利子に限定されているが、改正後は貸付金の利子なども含まれることとされる。ただし、一定のグループファイナンスに係る貸付金利子や、業務の通常の過程で得る預金利子は除くこととされた。このうち「一定のグループファイナンス」とは、役員又は使用人が与信管理・利率設定など金銭の貸付けを的確に遂行するため通常必要と認められる業務の全てに従事しているものが想定されている。すなわち、このようなものであれば、受動的所得からは除外されるということだ。
 また、「無形資産」については、現行の事業基準における無形資産の範囲と同様とされた。特許“権”、実用新案“権”など措法66条の6④六に規定される現行の資産性所得よりも、同66条の6③に規定される事業基準の無形資産(工業所有権“その他の技術に関する権利、特別の技術による生産方式若しくはこれらに準じるもの”、著作権)の方がカバー範囲が広いことから、無形資産の範囲も広がることになる。
 このほか、資産性所得にはなかった「外国子会社に発生する根拠のない異常な利益」が受動的所得に含まれるとされている点も注目される。これは、政府税調で議論されたいわゆる超過利潤アプローチ(42頁参照)の派生系と言える。具体的には、外国関係会社の「総資産、減価償却累計額、人件費」に50%を乗じた金額を通常の所得とみなした上で、それを上回る所得から他の受動的所得の累計に当てはまる所得を控除してなお残る所得が異常利益とされる。

子会社が無税国にあってもCFC税制の適用対象外に
 今回のCFC税制改正は、企業の経済活動実体に配慮している点も大きな特徴と言える。
 例えば、無税国に本店(SPC)を置いた上で、第三国の支店で事業展開するケースについてもCFC税制の対象外とする途を開いたという点だ(本誌661号8頁参照)。
 会社設立の簡便性や海外のビジネスパートナーの要請などにより、無税国に子会社を設立した上で第三国で事業を展開するケースは少なくない。そこで平成29年度税制改正では、無税国に本店があるというだけでは合算課税の対象とはせず、通常のCFC税制の適用判定プロセスにより合算対象とするか否かを判定することとする。ちなみに、現行の租税特別措置法施行令39条の14第1項一号では、特定外国子会社を「法人の所得に対して課される税が存在しない国又は地域に本店又は主たる事務所を有する外国関係会社」と定義付けているが、今回のCFC税制の改正で「特定外国子会社」という概念がなくなることもあり、(特定外国子会社を「租税負担割合20%未満」と定義付ける同二とともに)当該条文自体削除されることになろう。
 また、商社等がSPCを経由して資源国の外国法人に投資している場合、あまり高い割合で株式を保有できないことを踏まえ、そのSPCの所得が全部合算される局面でも、持株割合10%以上の外国法人から受ける配当を合算の対象から除くという「資源投資法人特例」も導入される(現行制度上は、25%以上保有株式に係る配当のみ合算の対象から除いている)。ただし、「外国関係会社が租税条約に所在する」という縛りも盛り込まれる。

ついに来料加工が所在地国基準を満たすことに
 また、企業と国税当局間の紛争の種となってきた来料加工(本店所在地国以外で製品の製造(委託を含む)を行うもの)が所在地国基準を満たすこととされた点も注目される。具体的には、本店所在地国以外で製造における重要な業務を通じて製造に主体的に関与している場合には、製造業に係る所在地国基準を満たすこととする。 
 来料加工はかねてから企業側から税制改正要望のテーマに挙げられてきたが改正は実現せず、今年の経済産業省の税制改正要望にすら入っていなかっただけに、今回の突然の要件緩和は企業にとってはポジティブな意味でのサプライズとなった。
 平成29年度税制改正では航空機リースが合算課税の対象から外れたものの、その恩恵を受けない企業からは「今回のCFC税制改正は事務負担が増えるだけでメリットがない」といった不満の声が聞かれたところ。本改正はこうした声に配慮したものと言えそうだ。

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