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解説記事2017年04月17日 【資料解説】 重加算税取消裁決公表で隠蔽・仮装の立証に変化も(2017年4月17日号・№687)

資料解説
東京局・資産税審理関係資料(取消裁決事例)
重加算税取消裁決公表で隠蔽・仮装の立証に変化も

 弊誌では、国税不服審判所により課税処分等が取り消された裁決事例をいち早く紹介しているところだが、取消裁決については、課税庁サイドで取消原因等の分析を行っているものがある。
 今回掲載する資料では、重加算税賦課決定処分の取消裁決(平成27年7月1日裁決)が注目される。この事例で国税不服審判所は、請求人が、何ら根拠のない収入金額および必要経費の額を収支内訳書に記載していたことについて、「過少申告行為そのものであって、過少申告の意図を外部からもうかがい得る特段の行動に当たるとは評価できない」と判断している。この裁決の公表を受けて、課税庁では、つまみ申告における隠蔽・仮装行為の立証にあっては収支内訳書の虚偽記載だけではなく、虚偽記載に至るまでの納税者の行動、税務調査の際の内容虚偽の資料提出、税理士等に対する所得の秘匿等といった特段の行動も含めた証拠の保全に努めるとしている。

重要資料
 H28.8

取消裁決事例
東京局(平成27年7月1日裁決 公表)
【事例1】重加算税の賦課決定について(所得税) 
 正確な収入金額等を容易に確認できたにもかかわらず、収支内訳書に根拠のない金額を記載したという一連の行為は過少申告行為そのものであることなどから、重加算税の賦課要件を充足しないとした事例

1 事案の概要等 (1)個人で電気工事業を営む審査請求人(以下「請求人」という。)は、平成20年から平成23年までの各年分(以下「本件各年分」という。)の所得税について、各法定申告期限までに本件各年分の各収支内訳書(以下「本件各収支内訳書」という。)を添付し確定申告をした。
(2)これに対し、原処分庁が、請求人は正当な売上金額を把握できたにもかかわらず、恣意的に操作して算出した売上金額により本件各収支内訳書を作成するなどしたことは、国税通則法第68条第1項に規定する隠蔽又は仮装に当たるとして原処分を行ったのに対し、請求人が、請求人の行為は隠蔽又は仮装に当たらないなどとしてその全部の取消しを求めた事案である。


2 原処分庁の主張 (1)請求人は、平成19年頃からはFX取引の損失の穴埋めのため、また、平成20年からは改装資金借入金の返済資金確保のため、継続して所得税が大体100,000円未満となるように額を考え、その後、所得金額を決めた上で、その金額を基に売上金額の合計から一部を除外し、仕入金額及び必要経費を水増しして申告しており、これらからすれば、自己の資金需要の必要性に基因した過少申告の意図を継続して有していたものと認められる。
(2)請求人は、上記(1)の過少申告の意図に基づき、次のとおりの行為をしていた。
 イ 請求人の取引先であるA社からの日々の売上金額(請求人が同社に対して請求すべき金額)を集計したメモ(以下「本件売上金額メモ」という。)と同様のメモ書きを破棄していた。 
 ロ 「3XXXXXXで確定申告すると10XXXX納税」、「5XXXXXX」などと記載したもの(以下「本件税額メモ」という。)と同様の本件各年分の納税額を過少申告する際に試算したメモ書き(以下「本件試算メモ」という。)を破棄していた(請求人は、本件試算メモを5年ほど前から作成していた旨を申述しているにもかかわらず、本件各年分の所得税の各確定申告書に記載された所得金額及び納付すべき税額が一致する本件試算メモが存在しない。)。
 ハ 本件収支内訳書に何ら根拠のない収入金額及び必要経費の額を記載していた(なお、収入金額については、本件売上金額メモを保存すること及び事業所得に係る収入金額が入金される口座を確認することにより容易に確認できたにもかかわらず、これらの記録によることなく本件収支内訳書に記載していた。)。
(3)上記(2)の一連の行為は、当初から所得等を過少に申告することを意図し、その意図を外部からもうかがい得る特段の行動をしたものと認められ、請求人は、その意図に基づき過少申告を行っていたのであるから重加算税の賦課要件を充足する。
3 審判所の判断のポイント (1)過少申告の意図について 
 イ 請求人には、本件各年分においてFX取引の損失の穴埋めという自己の資金需要の必要性があったと認められるところ、①請求人が本件各年分の事業所得に係る売上金が振り込まれていた請求人名義の口座に係る通帳を保存していたこと、及び②請求人は、当該売上金の大半を占めるA社から、毎月、請求人宛の支払内容確認書を受領していたことからすると、請求人は、本件各年分の所得税の申告に当たって、事業所得の総収入金額を容易に把握することができる状況にあったことが認められる。これに加え、請求人は、本件各年分の事業所得に係る総収入金額をいずれの年分についても過少に申告し、しかも当初申告額と修正申告額の差額(及び当初申告割合)がいずれの年分も大きいこと、また、売上げを意図的に抜いていた旨の請求人の申述は、これらの事実に照らして信用できることを併せ考えると、請求人は、継続して本件各年分の事業所得に係る総収入金額を意図的に過少に申告していたことが認められる。
 ロ また、請求人は、上記イと同様の理由から、継続して本件各年分の事業所得に係る必要経費の額を意図的に過大に申告していたことが認められる。
 ハ 以上のことから、請求人は、本件各年分の所得税について、FX取引の損失の穴埋め等という自己の資金需要の必要性に基因した過少申告の意図を継続して有していたと認められる。
(2)特段の行動について 
 イ 原処分庁は、①請求人が、本件売上金額メモと同様のメモ書を廃棄していたこと、②請求人が、本件税額メモと同様、本件試算メモを廃棄していたこと、及び③請求人が本件各収支内訳書に何ら根拠のない収入金額及び必要経費の額を記載していたことは、当初から所得等を過少に申告することを意図し、その意図を外部からもうかがい得る特段の行動をしたものと認められる旨主張する。
 ロ しかしながら、上記イ①の主張については、請求人が本件売上金額メモと同様のメモ書を廃棄していたことは認められるものの、請求人の売上金は全て請求人名義の口座に振り込まれ、しかも通帳が保存されていたこと、請求人はA社から月ごとの売上金額が記載された支払内容確認書等を受け取っていたこと、及び本件売上金額メモは、調査担当者が請求人から提示を受け、預かった必要経費の領収書の中にあったものであるが、本件売上金額メモ以外に同様の記載がある書類はなく、かつ、当該書類がなかったことについて特に不自然な点もないことからすると、請求人が本件売上金額メモを廃棄したのは、単に当該メモ書を保存しておく必要がなくなったからである可能性が十分に考えられ、正当な売上金額を秘匿するために捨てたとは認め難い。 
   したがって、請求人が本件売上金額メモと同様のメモ書を廃棄していたことをもって、当初から所得等を過少に申告する意図をうかがい得る特段の行動をしたとは評価できない。
 ハ また、上記イ②の主張については、請求人が所得税の申告に当たって過少に申告するために本件税額メモを作成したことが認められるものの、本件税額メモにおける計算方法が明らかでない上に、請求人の申述をもってしても、請求人が本件各年分の所得税の申告に当たって本件税額メモと同様の本件試算メモを作成していたとは認め難い。加えて、その他に、請求人が本件各年分の所得税の申告に当たって本件試算メモを作成していたことを認めるに足りる証拠はない。 
   以上のことからすれば、請求人が本件各年分の所得税の申告に当たって本件試算メモを作成していたことは認められず、もとより請求人がそれらを廃棄した事実もまた認められる余地はない。
 ニ さらに、上記イ③の主張については、請求人が何ら根拠のない収入金額及び必要経費の額を収支内訳書に記載していたことは、過少申告行為そのものであって、過少申告の意図を外部からもうかがい得る特段の行動に当たるとは評価できない。
 ホ 以上のとおり、原処分庁が主張する請求人の行為については、いずれも「当初から所得を過少に申告することを意図し、その意図を外部からもうかがい得る特段の行動をした」とは評価できないものか、行為そのものが認められないものである。そして、他に、国税通則法第68条第1項に規定する重加算税の賦課要件に該当する事実を認めるに足りる証拠はない。
4 取消原因等の分析 (1)まず本裁決は、原処分庁が、①本件売上金額メモと同様のメモ書を破棄していた行為及び②本件試算メモを破棄していた行為並びに③本件各収支内訳書に何ら根拠のない収入金額及び必要経費の額を記載していたことの3点を一連の行為とし、当該一連の行為が過少申告の意図を外部からもうかがい得る特段の行動に当たると主張したものの、審判所は当該一連の行為を上記①から③までに分断し、当該各行為の各別に特段の行動に当たるとは評価できないとしている。
(2)上記(1)の①及び②の点については、請求人がA社からの支払内容確認書を保存していたことが認められ、そうすると、本件売上金額メモと当該確認書を照合できる状況にあったこととなるから、正に本裁決のとおり、上記(1)①の本件売上金額メモと同様のメモ書を破棄したのは単に不要だったためにすぎないと捉えることも可能となる。また、上記(1)②の本件試算メモについては、その作成自体が審判所の認定事実として認められなかったほか、仮に、その作成が認められたとしても、これが正しい税額を算出するために必要な書類ではない以上、本裁決が示すとおり、これを破棄することが隠蔽仮装行為と評価できないのは当然である。
  そこで、請求人が過少申告の意図を継続して有していることに加えて、上記(1)③の本件各収支内訳書に虚偽記載したことが隠蔽仮装に該当するか否かが問題となる。
(3)この点について、最判平成7年4月28日は「重加算税を課するためには…過少申告行為そのものとは別に、隠ぺい、仮装と評価すべき行為が存在することを要する」旨判示するところ、原処分庁は、審判所において「適当に減額した売上金額で収支内訳書を作成し確定申告をしたことは隠蔽又は仮装に該当する」旨裁決した過去の事例等(平成24年5月8日裁決ほか多数)を踏まえれば(上記最判と論点を同じくする最判平成6年11月22日の調査官解説に同旨の記載がある。)、請求人が真実の売上金額等を把握しながらも本件各収支内訳書に何ら根拠のない収入金額及び必要経費の額を記載していたことは、過少申告行為とは別の隠蔽仮装行為に当たるとの主張も考えられる。
(4)しかしながら、審判所は、本裁決において、上記(1)③の本件各収支内訳書の虚偽記載は「申告行為そのものであって、過少申告の意図を外部からうかがい得る特段の行動に当たるとは評価できない」旨裁決した。
(5)本裁決では、収支内訳書の虚偽記載が過少申告行為とは別の隠蔽仮装行為には該当し得ないとまで判断しているかは必ずしも明らかではないが、いずれにしても、本件において課税庁は、隠蔽又は仮装行為を認定するに当たり、本件各収支内訳書の虚偽記載がその認定に係る重要な要素であるものとしていたことから、最判平成7年4月28日が判示する「納税者が当初から所得を過少に申告しようとすることを意図し、その意図を外部からもうかがい得る特段の行動」についての証拠の保全が十分になされていなかったことは否めない。
  本裁決が公表されたことを踏まえ、つまみ申告における隠蔽又は仮装行為の立証にあっては、収支内訳書の虚偽記載だけではなく、収支内訳書の虚偽記載に至るまでの納税者の行動のほか、税務調査に際して内容虚偽の資料の提出や税理士等に対する所得の秘匿等といった特段の行動も含めたところで証拠の保全に努め、原処分庁の主張し得る要素を増やし取消しの可能性を減殺していく必要がある。
5 根拠法令等  国税通則法68①

名古屋局(平成27年9月1日裁決 公表)
【事例2】贈与の有無(贈与税) 
 審査請求人(以下「請求人」という。)の父が購入した請求人名義の車両(以下「本件車両」という。)について、父から請求人へ贈与された事実はないとして原処分の全部が取り消された事例

1 事案の概要等 (1)請求人は、A社に勤務する会社員である。B社においては、A社の従業員がB社の車両を購入して本人名義で登録することを条件として、B社からA社の従業員に対して12万円の割引が受けられる制度(以下「A社割引制度」という。)と、A社の従業員が紹介した客がB社の車両を購入する場合には、B社から当該A社の従業員に対して数万円程度の商品券が交付される制度(以下「A社紹介制度」という。)がある。
(2)請求人の父は、今まで使用していた車両(以下「旧車両」という。)を処分した上で、A社割引制度を利用し、請求人名義でB社から本件車両を購入し、本件車両に係る代金400万円を支払った。 
  なお、本件車両に係る新車注文書の「買主(注文者)」欄の「氏名」欄には請求人の父、「使用者名義」欄の「氏名」欄には請求人、本件車両の自動車検査証の「所有者の氏名」欄には請求人の氏名が記載されている。 
  また、請求人の父は、本件車両を購入後、本件車両に係る維持・管理費用を支払っていた。
(3)原処分庁は、請求人が本件車両に係る代金400万円を負担せずに本件車両を取得したことは、相続税法基本通達(以下「相基通」という。)9-9 《財産の名義変更があった場合》に該当するとして、贈与税の決定処分及び無申告加算税の賦課決定処分を行ったところ、請求人は、父が本件車両の名義を請求人としたのは、A社の従業員である請求人の名義で登録すれば、A社割引制度を受けられたことから、父が請求人の名義を借りて本件車両を購入したものであり、贈与ではない旨主張して、処分の全部の取消しを求めた事案である。

2 原処分庁の主張  請求人の父が本件車両に係る代金400万円を負担しているにもかかわらず、本件車両の名義が請求人名義で登録されていることは、相基通9-9に該当するため、贈与として取り扱うことになる。
3 審判所の判断のポイント (1)相基通9-9は、贈与が親族間で行われることが多く、贈与であるか否かの事実認定が困難であることや、贈与税も相続税も課税できないという事態を避ける必要性があることを踏まえ、一般に不動産登記等の名義(外観)が権利関係を公示するものであることに着目し、通常は外観と実質が一致すること、すなわち財産の名義人とされている者がその真実の所有者であるとの経験則が存することを前提として、他の者の名義で新たに財産を取得した場合等には、反証がない限り、名義と実質が一致するものとして贈与があったことを事実上推認する取扱いを定めたものであると解され、反証として前記推認の前提となる経験則の通用を妨げる事情の存在が認められる場合には、前記推認は働かないことになる。
  本件においては、次の(2)ないし(6)のとおり、贈与があったことに対する反証がなされたものと認められるため、請求人は本件車両の贈与を受けたとは認められない。
(2)A社割引制度とA社紹介制度は、本件車両の登録名義人を請求人本人とするか否かという点で両立しないため、いずれか一方しか利用できないこととなるが、A社割引制度を利用する方がA社紹介制度を利用するよりも金額面で有利であることから、請求人の父がA社割引制度を利用したことは経済的に合理性のある行動であるところ、請求人の父は、A社割引制度の利用条件を満たすために請求人の名義を使用して本件車両を購入したことは容易に推測される。
(3)請求人の家族について、本件車両の購入前後で、旧車両及び本件車両の使用状況に変化を生じさせるような生活環境等の変動はなかったことから、請求人の父所有の旧車両が本件車両に変更された際に、請求人の父が本件車両を請求人に贈与する必要性は特別見当たらない。
(4)本件車両を主に使用していたのは、請求人の父及び請求人の妹であり、請求人は本件車両をほとんど利用していなかったことが認められる(請求人が東京で生活するようになっても本件車両が請求人の父の愛知の自宅で保管されていたことからすれば、請求人が日常的に本件車両を使用していなかったことは明らかである。)ところ、一般に、利用しない者に対して車両を贈与するとは考え難い。
(5)請求人の父が本件車両を購入するに当たって、請求人が購入すべき車両の選定や購入手続等に関与した事実は認められない。
(6)結局のところ、請求人の父は、自らの判断で購入すべき車両を選定して本件車両の取得資金を出捐し、本件車両の維持・管理費用を全て負担していることは、本件車両の所有者であると評価できるところ、請求人が本件車両の所有者であったとうかがわせる事情は特に認められない。
4 取消原因等の分析  原処分庁は、請求人の父が本件車両の取得資金の全額を負担し、請求人名義で登録したことから相基通9-9に該当するとして、贈与として取り扱うことと判断した。
 相基通9-9は、課税庁において、贈与の事実が確認できない又は立証できない場合においても、外観から贈与がなされたとして取り扱う旨の定めであるところ、請求人から実質が贈与でないと反証があった場合に備えて、原処分調査・異議調査において、請求人の話をよく聞き、請求人の反証に対抗できる証拠資料の有無を検討した上で、原処分及び異議決定を行うべきであった。
5 根拠法令等 
 相基通9-9

大阪局(平成27年6月19日裁決 公表)
【事例3】不動産所得に係る所得の帰属(所得税・消費税)  共同相続に係る不動産から生ずる賃料収入が請求人名義の口座に振り込まれ、請求人が当該賃料収入の全額を不動産所得の収入金額として申告していたとしても、当該賃料債権は各共同相続人にその相続分に応じて確定的に帰属すると解するのが相当であるとして、原処分の一部が取り消された事例

1 事案の概要等 (1)請求人の妻(平成15年死亡)が有していた不動産は、請求人の妻の死亡以前から甲株式会社に賃貸されている(以下、当該賃貸に係る賃料債権を「本件賃料債権」という。)。
(2)請求人の妻の相続人は、夫である請求人及び子3名である。
(3)本件賃料債権に基づく賃料収入(以下「本件賃料収入」という。)は、毎月、請求人名義の貯金口座に送金されている。
(4)請求人は、所得税の確定申告において、本件賃料収入の全額を請求人の不動産所得に計上して申告した。
(5)原処分庁は、請求人の不動産所得につき、更新料収入の計上漏れがあるとして更正処分を行い、これに対して請求人は、異議申立てを経て審査請求を行った。 
  なお、原処分当時、請求人の妻の遺産分割はされていなかった。

2 原処分庁の主張 
 請求人は、本件賃料収入について、自身の不動産所得の収入金額に全額計上して確定申告を行っており、請求人の口座に入金された本件賃料収入を他の相続人に渡していない上、原処分に係る調査の担当者に対し、本件賃料収入を請求人の事業資金として使用した旨を申述した。
 したがって、本件賃料収入の全額を請求人の所得として課税するのが相当である。
3 審判所の判断のポイント 
 相続開始から遺産分割までの間に共同相続に係る不動産から生ずる賃料債権は、各共同相続人がその相続分に応じて分割単独債権として確定的に取得し、その帰属は、後にされた遺産分割の影響を受けないものと解するのが相当である。
 したがって、本件賃料収入等は、その全額が請求人に帰属するのではなく、法定相続分(請求人は2分の1)に応じて帰属するものと認めるのが相当である。
4 取消原因等の分析 
 未分割の遺産から生じた本件賃料債権は、法定相続分に応じて各相続人が確定的に取得するため、本件賃料収入を請求人が管理し費消している事実があったとしても、請求人に帰属する本件賃料収入は法定相続分である2分の1となる。
 本件のような場合には、法定相続分に応じて各相続人に対する課税を行った上で、請求人が本件賃料収入を事業用資金として使用したことについて、請求人に対する贈与税の課税を検討すべきであったと思料する。

【最判平17.9.8】
 遺産は、相続人が数人あるときは、相続開始から遺産分割までの間、共同相続人の共有に属するものであるから、この間に遺産である賃貸不動産を使用管理した結果生ずる金銭債権たる賃料債権は、遺産とは別個の財産というべきであって、各共同相続人がその相続分に応じて分割単独債権として確定的に取得するものと解するのが相当である。遺産分割は、相続開始の時にさかのぼってその効力を生ずるものであるが、各共同相続人がその相続分に応じて分割単独債権として確定的に取得した上記賃料債権の帰属は、後にされた遺産分割の影響を受けないものというべきである。

5 根拠法令等   最判平17.9.8

広島局(平成27年5月8日裁決 公表)
【事例4】更正処分及び重加算税の賦課決定処分(相続税)  被相続人が購入した金地金は、当該金地金の取得日から相続開始日までの間に金取扱業者等に対して売却した事実がないことから、相続開始直前まで被相続人が所有していたとして行われた相続税の更正処分及び重加算税の賦課決定処分について、原処分庁の主張事実を認めるに足りる証拠はないとして取り消された事例

1 事案の概要等 (1)被相続人は、平成16年及び平成19年において、金地金(合計18.4キログラム)を金取扱業者から購入した。
(2)被相続人は、平成20年10月頃、請求人以外の相続人Aに金地金3.5キログラムを贈与しており、その際、相続人Aは、被相続人が多数の金地金を所有していることを目撃した。
(3)相続人Aは、平成21年6月頃、上記(2)の金地金のうち、2.0キログラムを被相続人へ返還した。
(4)被相続人は、平成23年2月16日、金地金2.3キログラムを請求人へ相続させる旨記載した遺言公正証書を作成した。
(5)請求人は、金地金2.3キログラムを相続した内容の相続税の申告書を提出した。
(6)請求人に対する調査を実施したところ、請求人自宅において上記(1)の金地金とは別の金地金(金塊番号から判断)0.2キログラムを所有していることを把握した。
(7)原処分庁は、請求人が相続税の申告をした金地金以外に14.8キログラムを相続していると判断して、相続税の更正処分等を行った。


2 原処分庁の主張 
 請求人が相続財産から除外した金地金(合計14.8キログラム)は、①平成20年中に被相続人の下に多数の金地金が保有されていたこと、②金取扱業者等に対する売却の事実がないこと、③相続人等へ金地金を贈与した事実がないことから、相続開始日において、被相続人の相続財産として存在していたと認められる。
3 審判所の判断のポイント  審判所は、上記2の①から③までの事情は、相続開始日に本件金地金が被相続人の相続財産として存在したと認めるには十分とはいえず、他に原処分庁の主張事実を認めるに足りる証拠はないとして、原処分の全部を取り消した。
4 取消原因等の分析  審判所は、原処分庁の主張(上記2の①から③まで)について、①平成20年中に被相続人の下に多数の金地金が所有されていたことを複数の相続人が目撃していたとしても、相続開始日から約3年前の話であり、相続開始日に被相続人が本件金地金を所有していたと推認できないこと、②平成16年から相続開始日までの間に被相続人が中国5県内の金取扱業者等に対して金地金を売却した事実がなかったとしても、その他の金取扱業者や個人等に対して金地金を売却することは可能であるから、相続開始日まで被相続人が金地金を売却しなかったとはいえないこと、③請求人を除く相続人らが、被相続人から金地金を贈与されたことはないと申述しているとしても、相続人自身が不利になる申述をするはずがないから、相続人らの申述は信用性が低いと判断したと考えられる。
5 根拠法令等 
 相続税法2、通則法68

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