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解説記事2017年06月19日 【解説】 法定相続情報証明制度の留意点(2017年6月19日号・№695)

解説
法定相続情報証明制度の留意点
 法務省民事局民事第二課補佐官 沼田知之

1 本制度創設の背景
 相続登記を促進するための新しい制度、「法定相続情報証明制度」が全国の登記所において5月29日から開始された。
 相続登記が未了のまま放置されることは、いわゆる所有者不明土地問題や空き家問題を生じさせる大きな要因の一つであるとの指摘がされている。また、昨年6月に閣議決定されたいわゆる骨太の方針等の複数の政府方針においては、「相続登記の促進のための制度」の検討が明記されるなど、政府として相続登記の促進に取り組むこととされた。
 「法定相続情報証明制度」は、これらの政府方針の策定等を受けた新たな施策として、創設されたものである。
 なお、本年6月9日に閣議決定されたいわゆる骨太の方針等の複数の政府方針においても、「法定相続情報の利用範囲の拡大」が掲げられており、引き続き、政府の優先課題の一つとして、相続登記の促進に取り組むこととされている。

2 本制度の狙い  被相続人の死亡後に必要となる相続手続は、相続登記だけではなく、不動産以外の財産権の名義変更の手続、金融機関等における預金の払戻手続や保険金請求手続など様々である。相続登記がされない要因の一つとして、こうした手続の煩雑さにより、相続手続を同時並行的に行うことが難しく、不動産を売却する必要がない場合などは、相続登記がされないまま放置されてしまう傾向があると考えられる。
 また、平成28年3月に国土交通省が公表した「所有者の所在の把握が難しい土地への対応方策 最終とりまとめ」では、ある地方自治体において、戸籍・住民票関係の手続に来た相続人に対し、必要な相続手続の促しを行った結果、行政庁への相続関係の届出件数が増大したという取組事例が紹介されている。このことは、相続登記を促進するためには、手続的な負担の軽減に加えて、相続登記の必要性についての意識を高めていただくことが重要であることを実証するものであるといえる。
 そこで、本制度は、各種の相続手続の際に戸籍関係書類等一式を提出する手間を省力化して手続的な負担を軽減するとともに、本制度に基づく証明書の取得の際に相続人の方々に相続登記によるメリットや放置することによるデメリットを登記官が説明することなどを通じて、相続登記の必要性についての意識を高めていただくことで、相続登記の促進を図るものである。
 そして、本制度が相続登記の促進という効果をよりよく発揮するためには、まずは、広く相続人の方々全般に本制度を利用してもらうことが重要である。本制度が十分に活用されることによって、各種相続手続における関係機関の審査にかかる社会的コストが全体的に軽減されるとともに、相続登記が益々促進されるという相乗効果を生むことが期待される。

3 本制度の概要  登記所は年間約100万件の相続登記の申請を取り扱っているが、登記官は、こうした事件処理を通じて長年にわたり相続及び戸籍関係法令についての専門的な知見を涵養してきた。本制度は、こうした登記官の専門性を活かし、登記所において、戸除籍の謄本を集めて提出してきた相続人からの申出に応じて、いわばそれらの戸除籍の謄本の束に代替する書面を交付するというものであり、その書面が登記手続を始め様々な相続に関する手続で活用されることが期待される。
 すなわち、相続人は、相続人・被相続人の戸除籍を自ら収集するという点はこれまでと同様に行う必要があるが、いったんそれらを基に1枚又は数枚の書面からなる「法定相続情報一覧図」を作成して登記所に提供すれば、登記官が必要な戸籍関係書類が揃っているかどうかを確認の上、戸籍及び相続に関する法令に基づき、その「法定相続情報一覧図」と戸籍関係書類一式を読み解き照合して、その「法定相続情報一覧図」の写し(以下「一覧図の写し」という。)を作成・認証し、相続人に必要な通数を交付するというものである。一覧図の写しは、いわゆる一般行政証明として交付するものであり、その利用は無料である。
 この制度を利用することで、各種相続手続で戸除籍の謄本の束を何度も出し直す必要がなくなり、例えば、複数の金融機関に預金口座がいくつもある場合などには、手続が同時に進められ、各金融機関において戸籍関係書類一式を読み解く時間も削減されることになる。なお、相続手続で必要となる書類は、各機関で異なることから、一覧図の写しを戸籍関係書類一式に代わるものとして利用できるかどうかは、提出先となる各機関に確認していただきたい。

4 本制度のポイント  本制度は、不動産登記規則の一部を改正する省令(平成29年法務省令第20号)が5月29日に施行されたことにより、不動産登記規則(平成17年法務省令第18号)の改正という形式で創設されたものである。なお、本稿において引用する条文番号は、特に断りのない限り、改正後の不動産登記規則の条文を指す。
(1)法定相続情報一覧図(図1) ア 登記名義人等について相続が開始した場合において、その相続に起因する登記その他の手続のために必要があるときは、その相続人又は当該相続人の地位を相続により承継した者は、法定相続情報一覧図の保管及び一覧図の写しの交付を申し出ることができる(第247条第1項)。なお、この場合における相続人は、登記所に提出された戸除籍の謄抄本の記載により確認することができる者に限られる。
  「その他の手続」とは、その手続の過程において相続人を確認するために戸除籍の謄抄本の提出が求められるものをいい、例えば筆界特定の申請や地図等の訂正の申出のみならず、金融機関における預貯金の払戻手続等も想定される。
  また、「当該相続人の地位を相続により承継した者」とは、いわゆる数次相続が生じている場合の相続人が該当する。
イ 法定相続情報一覧図の保管及び一覧図の写しの交付の申出は、被相続人の本籍地若しくは最後の住所地、申出人の住所地又は被相続人を表題部所有者若しくは所有権の登記名義人とする不動産の所在地を管轄する登記所の登記官に対してすることができる(第247条第1項)。
  なお、法定相続情報一覧図の保管及び一覧図の写しの交付の申出は、これらの登記所に出頭してするほか、送付の方法によってすることもできる。
ウ 申出は、代理人によってすることもできるが、代理人になることができる者は、法定代理人のほか、委任による代理人の場合には親族又は戸籍法(昭和22年法律第224号)第10条の2第3項に掲げる者(弁護士、司法書士、土地家屋調査士、税理士、社会保険労務士、弁理士、海事代理士及び行政書士。各士業法の規定を根拠に設立される法人を含む。以下「士業者」という。)に限られている(第247条第2項)。
エ 法定相続情報一覧図には、被相続人に関しては、その氏名、生年月日、最後の住所及び死亡の年月日を、相続人に関しては、相続開始の時における同順位の相続人の氏名、生年月日及び被相続人との続柄を記載する(第247条第1項第1号及び第2号)。
  また、法定相続情報一覧図には、作成の年月日を記載し、申出人が記名するとともに、法定相続情報一覧図を作成した申出人又はその代理人が署名し、又は記名押印する必要がある(第247条第3項第1号)。
  法定相続情報一覧図の作成に際しては、次の事項を踏まえる必要がある。なお、法務省ホームページ(法務局ホームページ)には、主な法定相続情報一覧図の様式及び記載例が掲示されているので、参考にしていただきたい。
 ① 被相続人と相続人とを線で結ぶなどし、被相続人を起点として相続人との関係性が一見して明瞭な図による記載とするが、被相続人及び相続人を単に列挙する記載としても差し支えない。
 ② 被相続人の氏名には「被相続人」と併記する。
 ③ 被相続人との続柄の表記については、例えば被相続人の配偶者であれば「配偶者」、子であれば「子」などとする。     
 ④ 申出人が相続人として記載される場合、法定相続情報一覧図への申出人の記名は、当該相続人の氏名に「申出人」と併記することに代えて差し支えない。
 ⑤ 法定相続情報一覧図の作成をした申出人又は代理人の署名等には、住所を併記する。なお、作成者が士業者である場合は、住所については事務所所在地とし、併せてその資格の名称をも記載する。
 ⑥ 相続人の住所を記載する場合は、当該相続人の氏名に当該住所を併記する。
 ⑦ 推定相続人の廃除がある場合、その廃除された推定相続人の氏名、生年月日及び被相続人との続柄の記載は必要ない。
 ⑧ 代襲相続がある場合、代襲した相続人の氏名に「代襲者」と併記する。この場合、被相続人と代襲者の間に被代襲者がいることを表すこととなるが、その表記は例えば「被代襲者(何年何月何日死亡)」とすることで足りる。
 ⑨ 法定相続情報一覧図は、日本工業規格A列4番の丈夫な用紙をもって作成し、記載に関しては明瞭に判読することができるものとする。
  なお、法定相続情報一覧図には、相続開始の時における同順位の相続人の氏名等が記載される。したがって、数次相続が生じている場合は、被相続人一人につき一つの申出書及び法定相続情報一覧図が提供及び添付されることとなる。
(2)法定相続情報一覧図の保管及び一覧図の写しの交付の申出 ア 法定相続情報一覧図の保管及び一覧図の写しの交付の申出は、所定の事項を記載した申出書を提供してしなければならない(第247条第2項)。
イ 申出書(様式は図2参照)の記載事項は次のとおりである。
 ① 申出人の氏名、住所、連絡先及び被相続人との続柄(第247条第2項第1号)
 ② 申出を代理人によってする場合は当該代理人の氏名又は名称、住所及び連絡先並びに代理人が法人であるときはその代表者の氏名(第247条第2項第2号)
 ③ 利用目的及び交付を求める通数(第247条第2項第3号、第4号)
   この利用目的は、上記(1)アのとおり、相続手続に係るものであり、その提出先を推認することができるものである必要がある。また、通数は、その利用目的に鑑みて合理的な範囲内である必要がある。
 ④ 被相続人を表題部所有者又は所有権の登記名義人とする不動産があるときは、不動産所在事項又は不動産番号(第247条第2項第5号)
   不動産が複数ある場合には、そのうちの任意の一つを記載することで足りるが、被相続人を表題部所有者又は所有権の登記名義人とする不動産の所在地を管轄する登記所に申出をする場合には、当該登記所の管轄区域内にある不動産の不動産所在事項又は不動産番号を記載する必要がある。
 ⑤ 申出の年月日(第247条第2項第6号)
 ⑥ 送付の方法により一覧図の写しの交付及び添付書面等の返却を求めるときは、その旨(第247条第2項第7号)
(3)添付書面  申出書には、申出人又はその代理人が記名押印をするとともに、法定相続情報一覧図をはじめ、所定の書面を添付しなければならないとされた(第247条第3項)。主な添付書面は次のとおりである。
① 被相続人(代襲相続がある場合には、被代襲者を含む。)の出生時から死亡時までの戸籍及び除かれた戸籍の謄本又は全部事項証明書
② 相続人の戸籍の謄本、抄本又は記載事項証明書
  除籍又は改製原戸籍の一部が滅失等していることにより、その謄本が添付されない場合は、当該謄本に代えて、「除籍等の謄本を交付することができない」旨の市町村長の証明書を添付することとなる。これに対し、例えば被相続人が日本国籍を有しないなど戸除籍謄抄本の全部又は一部を添付することができない場合には、登記官は、法定相続情報一覧図の保管及び一覧図の写しの交付をすることはできない。
③ 被相続人に係る住民票の除票や戸籍の附票
  これらの書面が市町村において廃棄されているため発行されないときは、申出書への添付を要さない。この場合は、申出書及び法定相続情報一覧図には、被相続人の最後の住所の記載に代えて被相続人の最後の本籍を記載することとなる。
④ 申出人が相続人の地位を相続により承継した者であるときは、これを証する書面
⑤ 申出書に記載されている申出人の氏名及び住所と同一の氏名及び住所が記載されている市町村長その他の公務員が職務上作成した証明書(当該申出人が原本と相違がない旨を記載した謄本を含む。)
  この証明書には、例えば住民票記載事項証明書や運転免許証の写し(申出人が原本と相違がない旨を記載したもの。なお、この場合には、申出人の署名又は記名押印が必要である。)が該当する。登記官は、これらの書面によって申出人の本人確認を行う。
⑥ 代理人によって申出をするときは、代理人の権限を証する書面
  委任による代理人の場合、代理人の権限を証する書面は、委任状に加え、委任による代理人それぞれの類型に応じ、士業団体が発行する身分証明書の写しなどが必要となる。
(4)法定相続情報一覧図への相続人の住所の記載  法定相続情報一覧図に相続人の住所を記載したときは、申出書にその住所を証する書面を添付しなければならない(第247条第4項)。
 相続人の住所は、法定相続情報一覧図の任意的記載事項である。したがって、法定相続情報一覧図に相続人の住所の記載がない場合は、相続人の住所を証する書面を添付する必要はない。
(5)一覧図の写しの交付等(図3)  登記官は、申出人から提供された申出書の添付書面によって法定相続情報の内容を確認し、その内容と法定相続情報一覧図に記載された法定相続情報の内容とが合致していることを確認したときは、一覧図の写しを交付する(第247条第5項前段)。
 また、登記官は、一覧図の写しに認証文と作成の年月日及び職氏名を記載し、職印を押印する(第247条第5項後段)。
 一覧図の写しは、提出された法定相続情報一覧図をスキャナで読み取り、偽造防止措置が施された専用紙に印刷する方法で作成される。
 一覧図の写しには、「本書面は、提出された戸除籍謄本等の記載に基づくものである。相続放棄に関しては、本書面に記載されない。」との注意書きがされる。これは、一覧図の写しが戸除籍の謄本の束に代替するものであるため、これら以外の書類から判明する情報まで盛り込まれたものではないことを明記するものである。つまり、相続手続に際しては、一覧図の写しに加え、遺産分割協議がされていた場合には遺産分割協議書が、一部の相続人につき相続放棄がされていた場合には相続放棄の申述の受理証明書が、追加的な書面として、それぞれ必要になる。
 また、上記(1)アのとおり、一覧図の写しは、相続に起因する登記その他の手続のために必要があるときに限り申出ができるものであることから、「相続手続以外に利用することはできない。」との注意書きもされる。
 一覧図の写しの交付の際には、戸除籍謄本等の添付書面は申出人に返却される。
 一覧図の写しの交付及び添付書面の返却は、送付の方法によってもすることができる(第248条)が、この方法による送付先は、申出書に記載された当該申出人又は代理人の住所に限られる。
(6)法定相続情報一覧図の保存期間  法定相続情報一覧図及びその保管の申出に関する書類は、法定相続情報一覧図つづり込み帳(第18条第35号)につづり込まれ(第27条の6)、作成の年の翌年から5年間保存される(第28条の2第6号)。
(7)一覧図の写しの再交付  当初の申出の後、相続手続のために一覧図の写しが必要となった場合、その法定相続情報一覧図が保存されている期間中であれば、当初の申出人は、再交付の申出をすることができる。この場合には、申出の規定である第247条各項の規定(同条第3項第1号から第5号まで及び第4項を除く。)が準用される(第247条第7項)。
(8)法定相続情報に変更が生じた場合  法定相続情報一覧図つづり込み帳の保存期間中に戸籍の記載に変更があり、当初の申出において確認した法定相続情報に変更が生じた場合には、その申出人は、再度法定相続情報一覧図の保管及び一覧図の写しの交付の申出をすることができる。
 なお、この場合の変更とは、例えば、被相続人の死亡後に子の認知があった場合、被相続人の死亡時に胎児であった者が生まれた場合、法定相続情報一覧図の保管及び一覧図の写しの交付の申出後に廃除の審判がされた場合などが該当する。

5 おわりに  本制度については、制度が開始される以前から、多数の金融機関等において一覧図の写しを積極的に活用したいとの声をいただいていた。このため、本稿の執筆時点では正確に把握することができていないが、既に相当数の金融機関などにおいて、本制度が利用されているものと推測される。しかし、先に記したとおり、広く相続人の方々全般に本制度を利用してもらうことが、より相続登記の促進につながるものと考えられることから、法務省としては、今後とも、行政機関も含めて本制度の利用範囲の拡大に取り組んでいく所存である。また、本制度の他にも、様々な観点から、相続登記の促進のための方策を検討していくこととしている。読者の皆様には、法定相続情報証明制度とともに、相続登記の促進についての御理解と御協力をお願いしたい。

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