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解説記事2017年09月25日 【特別解説】 未適用のIFRS基準書に関する開示~IFRS第15号や第16号の将来の適用が連結財務諸表に与える影響~(2017年9月25日号・№708)

特別解説
未適用のIFRS基準書に関する開示
~IFRS第15号や第16号の将来の適用が連結財務諸表に与える影響~

Ⅰ.はじめに

 IFRS(国際財務報告基準)では、2018年度から2019年度にかけて、金融商品(IFRS第9号)、顧客との契約から生じる収益(IFRS第15号)、リース(IFRS第16号)など、企業の会計実務に大きな影響を与えると思われる基準書の強制適用が予定されている。
 新基準が公表されているが強制適用前であり、かつ、当該IFRSを早期適用しない場合には、企業は一定の開示を要求されている(IAS第8号「会計方針、会計上の見積りの変更及び誤謬」第30項、第31項)。
 本稿では、公表されているがまだ強制適用前であるIFRSの基準書(IFRS第15号、第16号等)に関して、2017年3月期までにIFRSを任意で適用して有価証券報告書を作成・公表した企業(IFRS任意適用日本企業)が行った開示について取り上げてみたい。
(文責:編集部)

Ⅱ.未適用のIFRS基準書に関して企業が要求される開示
 IAS第8号は、新基準が公表されているが強制適用前であり、かつ、当該IFRSを早期適用しない場合には、企業は以下を開示しなければならないと定めている(第30項、第31項)。
・企業が、公表はされているが未発効の新しいIFRSを適用していない事実
・新しいIFRSの適用が適用初年度における企業の財務諸表に及ぼす、起こり得る影響の評価に関連性のある、既知の又は合理的に見積り可能な情報
 また、この定め(IAS第8号第30項)に準拠するにあたり、企業は次の事項を開示することを検討しなければならない。
・新しいIFRSの名称
・目前に迫っている会計方針の変更又は変更の内容
・そのIFRSの適用が要求される日付
・次のいずれか
 ① そのIFRSの適用開始が企業の財務諸表に及ぼすと予想される影響についての検討
 ② その影響が不明であるか又は合理的に見積れない場合には、その旨の説明。

Ⅲ.調査の対象とした企業
 今回は、IFRS任意適用日本企業120社を対象に、この未適用のIFRSの基準書に関する開示の内容を調査した。その結果、これらの基準書の強制適用までにはまだ時間があるということもあって、調査対象とした120社のうち116社は、IFRS第9号、IFRS第15号、あるいはIFRS第16号を適用した場合の影響は検討中であり、現時点で見積ることが出来ない、あるいは、適用による影響は重要ではない旨を開示していた。
 そこで本稿ではまず、IFRS第9号、第15号及び第16号が今後適用された場合の影響を具体的に開示していた4社(本田技研工業、KDDI、花王、JXTGホールディングス)の事例を紹介することとしたい。

Ⅳ.本田技研工業が行った開示
 2016年度(2017年3月期)の有価証券報告書において、未適用の基準書について、質量共に最も充実した開示を行っていたのは、本田技研工業(以下「ホンダ」という。)であった。ホンダは、IFRS第9号、IFRS第15号、及びIFRS第16号のいずれの基準書についても早期適用は行わず、IFRS第9号「金融商品」とIFRS第15号「収益」については2018年4月1日から、IFRS第16号「リース」は2019年4月1日から適用するとしている。ホンダが、それぞれの基準書について行った開示は次のとおりである(一部省略や要約あり)。具体的な影響額についての記載こそないが、各会計基準の適用によって考えられる実務への影響や変更点等が具体的に記載されていて興味深い。
(1)IFRS第9号「金融商品」  IFRS第9号は、IAS第39号「金融商品:認識及び測定」の発生損失モデルを予想損失モデルに差し替えています。同基準では、報告日時点の金融資産の信用リスクが当初認識時と比べ、著しく上昇した場合に全期間の予想信用損失の測定が適用され、そうでない場合には12ヶ月の予想信用損失の測定が適用されます。主に当社の金融子会社において、金融サービスにかかる債権に関するクレジット損失の金額に影響を与える可能性がありますが、当該影響を含め、連結財務諸表に与える影響を適用開始日まで引き続き検討しています。同基準は、通常、開示される全ての期間に遡及的に適用されますが、分類及び測定(減損を含む)の変更に関して過年度の比較情報を修正再表示しないことを認める例外規定があります。当社及び連結子会社は、当該例外規定を適用する予定であり、同基準の適用によって生じる影響が重要である場合には、2018年4月1日時点の利益剰余金またはその他の資本の構成要素に認識されます。
(2)IFRS第15号「顧客との契約から生じる収益」  IFRS第15号は、収益を認識すべきか否か、またいつの時点でいくら収益を認識すべきかに関して、包括的なフレームワークを策定しています。同基準では、契約開始時に、顧客との契約において約束した財またはサービスを評価し、当該約束のそれぞれを履行義務として識別します。また、履行義務が充足された時に、取引価格のうち当該履行義務に配分した金額を収益として認識し、取引価格を算定する際に変動対価の影響を考慮します。当社及び連結子会社における顧客との契約には、無料の車両点検等の無償で財またはサービスを移転する約束が含まれています。当該約束が履行義務として取り扱われる場合、現在より売上収益の認識が繰り延べられる可能性があります。また、販売店に対する奨励金の認識及び測定に影響を与える可能性があります。上記の影響を含め、当社及び連結子会社は連結財務諸表に与える影響を適用開始日まで引き続き検討しています。同基準は、開示される全ての期間に遡及的に適用する方法(完全遡及法)、または同基準の適用による累積的影響額を適用日において遡及的に認識する方法(修正遡及法)のいずれかにより適用されます。当社及び連結子会社は、同基準を、修正遡及法を用いて適用する予定です。同基準の適用によって生じる累積的影響額が重要である場合には、2018年4月1日時点の利益剰余金に認識されます。
(3)IFRS第16号「リース」  IFRS第16号では、リースの定義に変更が加えられ、借手のリースをオンバランス処理する単一の会計モデルが導入されています。借手は原資産を使用する権利を表象する使用権資産と、リース料を支払う義務を表象するリース負債を認識することになります。当社及び連結子会社は、借手であるオペレーティング・リースについて、一部の例外を除き、新たな資産及び負債を認識します。また、リースに関連する費用として、定額の支払いリース料ではなく、使用権資産の減価償却費とリース負債に係る支払利息を認識することになります。貸手の会計処理は、現行の基準からほぼ変更されていません。当社及び連結子会社は、連結財務諸表に与える影響を適用開始日まで引き続き検討しています。同基準は、開示される全ての期間に遡及的に適用する方法(完全遡及法)、または同基準の適用による累積的影響額を適用日において遡及的に認識する方法(修正遡及法)のいずれかにより適用されます。当社及び連結子会社は、適用する経過措置を決定していません。
 なお、ホンダのグループ企業で、IFRS任意適用日本企業が複数存在するが(エイチワン、エフ・シー・シー、ケーヒン、日信工業、八千代工業、ユタカ技研)、これらの企業はいずれも、未適用のIFRSの基準書による影響については現在検討中、あるいは現時点では合理的に見積ることができないといった内容の開示を行っていた。

Ⅴ.その他の3社(KDDI、花王、JXTGホールディングス)が行った開示

(1)KDDI
 KDDIは、IFRS第9号「金融商品」をすでに早期適用しているため、「未適用のIFRSの基準書」として開示しているのはIFRS第15号と第16号のみである。KDDIグループは、IFRS第15号、第16号ともに早期適用は行わず、前者は2019年3月期から、後者は2020年3月期から適用予定としている。
 ① IFRS第15号「顧客との契約から生じる収益」  当社グループのビジネスモデルを勘案した場合の主な論点は下記のとおりであります。
・当社グループがお客さまに対して携帯端末を販売し、同時に通信契約の締結を行う直接販売等については、契約の結合及び取引価格の各履行義務への配分を検討しています。この結果、契約資産(負債)、すなわち法的にはいまだに債権(債務)として存在していない顧客との契約から生じた権利(義務)を財政状態計算書において認識する場合があります。
・当社グループが代理店に対して支払う手数料のうち一部については、契約獲得コストとして資産化し、見積契約期間にわたり費用配分することが想定されます。この場合、適用初年度の財政状態計算書における総資産の増加をもたらします。IFRS第15号はこれ以外の取引にも影響を及ぼしますが、重要な影響はないと想定しております。当該影響は金額的影響を含めて、当社グループ全体でのIFRS第15号導入のプロジェクトにおいて検討中であります。
 ② IFRS第16号「リース」  当社グループのビジネスモデルを勘案した場合の主な変更点としては、現行のIAS第17号においては、オペレーティング・リース取引に係る支払義務は財務諸表において注記することが要求されておりましたが、IFRS第16号では、リース資産を使用する権利及びリース料の支払義務は財政状態計算書において使用権資産及びリース負債として認識することが要求されます。また、IFRS第16号では、支払リース料に代わって減価償却費及び利息費用が損益計算書に計上されることになります。当該影響は金額的影響も含めて、当社グループ全体でのIFRS第16号導入のプロジェクトにおいて検討中であります。
(2)花王  花王(12月決算)は、IFRS第16号「リース」は、強制適用時期と同様の2019年12月期から適用するのに対し、IFRS第15号「顧客との契約から生じる収益」は、適用を1年前倒しして、2017年12月期から早期適用する予定としている。そのこともあってか、花王は唯一、新基準(IFRS第15号)適用による予想影響額を開示している。
 花王が2016年12月期の有価証券報告書において行った開示は、次のとおりである。
・IFRS第15号「顧客との契約から生じる収益」の早期適用による主な変更点は、顧客に支払う対価の会計処理方法であります。従来、販売費及び一般管理費として計上していた一部の費用について、売上高の減額または売上原価として計上することになります。これによる当社グループの連結財務諸表への主な影響として、2017年12月期の連結損益計算書の売上高がおよそ400億円減少すると見積っております。また、営業利益に与える影響は軽微であります。
・IFRS第16号「リース」の適用による当社グループの連結財務諸表に与える影響は検討中であり、現時点で見積ることはできません。
(3)JXTGホールディングス  JXTGホールディングスは、IFRS第15号の適用については、「当該基準の適用による連結財務諸表への影響は現在検討中ですが、影響は軽微であるものと予測しています。」とだけ開示する一方で、IFRS第16号適用の影響については、次のように開示している。
・当該基準の適用による連結財務諸表への影響については現在検討中ですが、借手のオペレーティング・リースに対しても単一の会計モデルが適用されることにより、資産と負債が増加する可能性があります。加えて、IAS第17号の下ではオペレーティング・リースに係るリース料は賃借料として計上されますが、IFRS第16号では使用権資産の減価償却費とリース負債に係る金利費用として計上されることになるため、費用の性質が変更となります。IFRS第15号及び第16号の適用にあたり、表示する比較年度に対しても遡及適用する方法と、適用開始日に適用による累積的影響を認識する方法のいずれかを選択することができます。当社においていずれの方法を用いるかについては現在検討中です。

Ⅵ.IFRS早期適用日本企業が、IFRS第15号を早期適用する初年度の第一四半期に行った開示(楽天、花王)
 IFRS任意適用日本企業の中で、IFRS第15号「顧客との契約から生じる収益」については、楽天が2015年12月期から、花王が2017年12月期から早期適用を行っている。
 ここでは、両社がIFRS第15号の早期適用初年度の第1四半期報告書において行った開示を要約して紹介したい。ちなみに、楽天はIFRS第15号を早期適用する前年度(2014年12月期)の有価証券報告書では、IFRS第15号を「2015年1月1日より早期適用見込み」としつつ、「適用による影響は現在算定中。」と開示していた。
(1)楽天が2015年度第1四半期報告書で行った開示  IFRS第15号の早期適用が始まった2015年12月期第1四半期報告書において、楽天は「重要な会計方針」の箇所で次のような内容の開示を行った(一部要約あり)。
 ① 適用の方法  経過措置に準拠してIFRS第15号を遡及適用し、適用開始の累積的影響を当連結会計年度の利益剰余金期首残高の修正として認識した。
 ② 新基準書適用による影響の内容 ・IFRS第15号の適用に伴い、当第1四半期連結会計期間より、IFRS第9号に基づく利息・配当収益やIFRS第4号に基づく保険料収入等を除き、5ステップアプローチに基づいて、顧客への財やサービスの移転との交換により、その権利を得ると見込む対価を反映した金額で収益を認識した。
・顧客との契約獲得のための増分コスト及び履行コストのうち、回収可能であると見込まれる部分について資産(以下「契約コストから認識した資産」という。)として認識した。
 ③ 新基準書適用による影響額  従前の会計基準を適用した場合と比較し、期首時点でその他の資産(契約コストから認識した資産)、繰延税金負債、利益剰余金及び非支配持分がそれぞれ20,679百万円、7,305百万円、13,244百万円及び103百万円ずつ増加し、その他の資産(長期前払費用)が27百万円減少した。また、契約コストから認識した資産の計上及び償却により、従前の会計基準を適用した場合と比較し、営業費用は1,333百万円減少した。なお、売上収益を含むその他の損益項目に与える影響は軽微であった。
(2)花王が2017年度第1四半期報告書で行った開示  IFRS第15号の早期適用が始まった2017年12月期第1四半期報告書において、花王は、「重要な会計方針」の箇所で次のような内容の開示を行った(一部要約あり)。
 ① 適用の方法  経過措置として認められている、IFRS第15号の適用による累積的影響を適用開始日に認識する方法を採用した。
 ② 新基準書適用による影響の内容 ・当社グループは、化粧品、スキンケア製品、サニタリー製品、ファブリックケア製品などの一般消費財及び、油脂アルコールや界面活性剤などの化学品の販売を行っており、このような製品販売については、製品の引渡時点で顧客が当該製品に対する支配を獲得することから、履行義務が充足されると判断しており、値引き、リベート及び返品などを控除した金額で測定している。
・5ステップアプローチに基づき、顧客との契約における履行義務の識別を行ったことにより、当社グループが顧客に対して支払う対価である販売促進費などの一部について、従来、販売費及び一般管理費として会計処理していたものを、当第1四半期連結会計期間より、売上高から控除している。
・また、従来販売費及び一般管理費として会計処理していた費用のうち、履行義務の充足のために必要となる運賃・保管料及び従業員給付費用などを、当第1四半期連結会計期間より売上原価として会計処理している。
 ③ 新基準書適用による影響額 ・従前の会計基準を適用した場合と比較して、当第1四半期連結累計期間の要約四半期連結損益計算書において、売上高が9,629百万円、販売費及び一般管理費が39,277百万円それぞれ減少し、売上原価が29,648百万円増加した。
・なお、営業利益及び四半期利益に与える影響はない。また、IFRS第15号の適用に伴い、当第1四半期連結会計期間より、従来、流動負債の引当金に含めて表示していた返品に係る負債、並びにその他の流動負債に含めて表示していたリベートなどに係る返金負債及び顧客からの前受金を、契約負債として表示している。この結果、従前の会計基準を適用した場合と比較して、当第1四半期連結会計期間の期首及び期末の要約四半期連結財政状態計算書において、流動負債の引当金がそれぞれ3,965百万円、3,659百万円減少し、その他の流動負債がそれぞれ11,126百万円、11,053百万円減少した。

Ⅶ.まとめ
 IFRS第9号「金融商品」と、IFRS第15号「顧客との契約から生じる収益」は、2018年1月1日以後開始する事業年度、IFRS第16号「リース」は、もう1年遅い2019年1月1日以後開始する事業年度から強制適用が予定されている。3月決算のIFRS任意適用日本企業にとっては、IFRS第9号とIFRS第15号が2019年3月期、IFRS第16号は2020年3月期が最初の強制適用会計年度となる。現時点では、各基準書の適用によって生じる具体的な影響等について言及しているのはわずか4社に過ぎないが、強制適用直前期にあたる2018年3月期の有価証券報告書においては、より多くの企業が、より具体的かつ詳細な開示を行うものと思われる。その際には、今回取り上げた4社が行った開示例などは、1つのモデルケースになるであろう。今後、強制適用の直前期にあたる2017年12月期や2018年3月期の有価証券報告書、あるいは強制適用期の第1四半期報告書等において、IFRS任意適用日本企業が行った開示を題材とした調査も試みてみたい。

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