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解説記事2017年11月06日 【特集インタビュー】 BEPSを巡る日本企業の懸念と国内法制化の方向性(2017年11月6日号・№714)

特集インタビュー
~経団連・21世紀政策研究所 研究主幹 青山慶二 早稲田大学大学院教授に聞く~
BEPSを巡る日本企業の懸念と国内法制化の方向性

 本誌712号では、OECD租税政策税務行政センター(CTPA)のパスカル・サンタマン局長、BIAC(OECD経済産業諮問委員会)のウイリアム・モリス税制・財政委員長のインタビューを掲載したが、読者にとって気になるのは、こうしたOECDの取り組みや問題意識が日本企業にどのような影響を与えるのかという点と、国内法制化が進む方向性だろう。
 本特集では、経団連・21世紀政策研究所の研究主幹として、これまで経済界における国際課税の議論をリードしてきた早稲田大学大学院・会計研究科の青山慶二教授に、BEPSプロジェクトを巡る日本企業の懸念や、日本における望ましい税制改正の方向性などについて話をうかがった。

日本の産業界の懸念解決に前向きな姿勢を見せるOECD
本誌:OECDがBEPS最終報告書を公表してから2年が経過しましたが、青山先生は経団連・21世紀政策研究所の研究主幹として、これまで経済界における国際課税の議論をリードされてきました。その経団連・21世紀政策研究所が10月3日にOECDと国際課税に関する会議を開催されたとのことですが、BEPSプロジェクトにおいては移転価格税制を中心にいくつか課題が残る中、今回の会議ではどのような成果があったのでしょうか。
青山:
BEPS最終報告書が実施段階に入る中で、日本はそのかなり先頭のところを走っています。日本の産業界の問題意識も高く、OECDに対して申し上げることもある程度たまってきた段階でしたので、今回の会議の開催は非常に良いタイミングでした。
 特に移転価格税制の執行とPE帰属利得の取扱いがどうなるのかについては、産業界の関心は非常に高いものがあります。これらには税の安定性(tax certainty)の話も絡んできますが、産業界には自社が進出しているマーケットにおけるtax certaintyをしっかり確保して欲しいという要望があります。例えばPE帰属利得については、帰属利得の計算に関するガイダンスを固めるということはもちろん、途上国・新興国をはじめとしたマーケットで紛争が起こらないよう、紛争を予防する仕組みを作るとともに、仮に紛争が起こってしまった場合でも、それが二国間で解消される仕組みまで確保して欲しいと考えています。今回の会議では、こうした産業界としての懸念をすべてOECDに伝えることができました。残念ながらその全部についてOECDから明確な回答が出たわけではありませんが、いずれについても前向きな姿勢を見せてくれたのではないかと思います。

PE帰属利得では、途上国・新興国の対応に懸念

本誌:PE帰属利得について、日本の産業界はOECDの公開討議草案に対したびたび意見提出を行っています。企業側の懸念を具体的に教えてください。
青山:
PE帰属利得については、日本は国内法で、AOA(Authorised OECD Approach:OECD承認の算定アプローチ)というOECD基準に則って非常に精緻な帰属主義を導入しました。この税制改正は、日本に進出してきた多国籍企業のみならず、日本企業が海外で稼得した利得についても同じようにAOAに基づく帰属主義が適用されるということを前提にしています。そこで日本企業には、進出先の国等で本当にAOAに基づく帰属主義が適用されるのかという懸念があります。
 また、日本と特定のOECD加盟国の間では既にAOAに沿った形で条約の改定ができている一方、まだ条約を改定できていない国があるという問題もあります。法人税法が「租税条約において国外源泉所得について異なる定めがある場合には、その租税条約の適用を受ける内国法人については、国外源泉所得は、その異なる定めがある限りにおいて、その租税条約に定めるところによる」とわざわざ注釈しているように(法法69⑥)、法人税法よりも租税条約の方が上位の法概念であるため、いくらAOAについてOECDで合意し、国内法が先進的な帰属主義を導入したとしても、ある国との租税条約が2010年の改定前のOECDモデル条約(7条)に基づいたものであれば、そのルールを適用せざるを得ません。先進国との間では租税条約の改定が進んでいくと思いますが、途上国や新興国も同じ方向に進んでくれるのかという点は気掛かりです。
 とはいえ、BEPSの議論に参加しなかった国も包摂的枠組み(inclusive framework)により議論の成果物を享受できるようになり、途上国・新興国を含め既に100か国を超える国がこの包摂的枠組みに参加しています。包摂的枠組みに入ってきた以上、「権利」を取得する代わりに「義務」も生じます。例えばPEの範囲拡大といったメリットだけを取っていくのではなく、AOAに沿った帰属利得の判断基準についても納得してもらう必要があります。
 それを担保するために、現在OECDはガイダンスの作成に取り組んでいるわけですが、PE帰属利得に関する論点を含むBEPS行動7「PE認定の人為的回避の防止」は実施へのコミットが求められるミニマムスタンダードの対象とはなっていません。このため、帰属利得についてどの程度ハーモニゼーションができるのかという点は、正直まだ不透明と言っていいかもしれません。これが一番の不安材料ですね。そのガイダンスも現在ケーススタディの段階であり、ファイナライズされていないのはご存知のとおりです。

PE帰属利得のガイダンスは事例が少なく、予測可能性に問題

本誌:ガイダンスはどのようなものであるべきとお考えでしょうか。
青山:
日本の産業界は、PE帰属利得のガイダンスについて、重要なインプットをいくつかしてきました。その一つが、シングルタックスペイヤー・アプローチをとるべきであるという主張です。BEPS最終報告書及び現在OECDが作成中のガイダンスはともに、厳格なダブルタックスペイヤー・アプローチになっており、この点については日本の産業界もかなりOECDに迫ったものの、シングルタックスペイヤー・アプローチの適用余地を認めるという回答はありませんでした。予想されていたこととはいえ、残念なことではあります。


 仮にダブルタックスペイヤー・アプローチに基づき子会社が代理人に認定されたとしても、その代理人が果たす機能・リスクに基づいて独立企業間のフィーがきちんと支払われていれば、親会社に対するPE課税が現地で追加的に行われることはない、という方向でガイダンスの事例が編集されるのが望ましいわけですが、ガイダンスでは非常に限られた典型的な事例しか示されないので、ガイダンスだけで安心はできるわけではありません。当初のディスカッションドラフトで示された事例の中には、親会社が全てのリスクを負っており、子会社は代理人としての機能はあるけれども実質的にリスクを全く負っていない場合には、独立企業間価格でフィーの算定をしていれば、追加的にPEに帰属する利得はないとする事例も一つ入っていますが、そうでないものも入っています。ではその境目はどこなのか、予測可能性を高めるためにもっと明らかにして欲しいというのが、日本の産業界のスタンスです。
 日本企業にしても、業界によって代理人PEのあり方は異なってきます。例えば製造業で、日本で集中的に研究開発を行っており、グローバル戦略についても日本の本社がしっかりグリップを握ってコントロールしているという企業であれば追加的な課税を心配する必要性は小さいかもしれませんが、一方、日本と海外に権限が分かれている企業ではそういうことにはならないかもしれません。また、そもそもBEPSを引き起こす主たるプレイヤーであった情報系の企業が非常に高度な倉庫業務を現地でやっている場合にそこに帰属する利得算定を具体化した事例も入るべきでしょう。ディスカッションドラフトには典型的な事例だけが掲載されるにとどまっています。日本企業としては、自分たちの業界に対し、どの事例がどういうふうに適用されるのかを知りたいわけで、もっと詳しい事例が欲しいところでしょう。

シングルタックスペイヤー・アプローチ  租税条約第9条(特殊関連企業)によって移転価格税制上、仲介者たる子会社の所得配分が適切であれば、追加的なPE帰属利得は生じないという考え方。一方、租税条約第9条によって子会社の所得が適正に算出される場合であっても、なお同第7条(事業所得)によってPEに利得が帰属するという考え方がダブルタックスペイヤー・アプローチである。

取引単位利益分割法は“ラストリゾート”であるべき

本誌:取引単位利益分割法の公開討議草案に対しても、日本の経済界はたびたび意見を出しています。こちらについての懸念はどこにあるのでしょうか。
青山:
まず確認しておきたいのは、独立第三者間であれば、利益分割法のような観点で価格を決めることはまずないということです。要するに、取引単位利益分割法は取引の実務から最も遠いところにあって、これを積極的に認めれば、課税当局に極めて裁量の余地の大きい武器を与えることになり、納税者の予測可能性が失われてしまいます。したがって、取引単位利益分割法は“ラストリゾート”として限定的に使用するべきだというのが、日本の産業界のスタンスです。
 また、取引単位利益分割法の議論は取引単位利益分割法にとどまらず、所得相応性基準へとつながります。むしろ両者は連続していると言った方がよいでしょう。予測利益に基づいてプロフィットシェア(利益分割)をするのが通常の利益分割法ですが、所得相応性基準では、結果利益に基づいてプロフィットシェアをすることになります。先ほど述べたとおり、取引単位利益分割法自体、納税者の予測可能性の観点から問題がありますが、“後知恵”に基づく所得相応性基準について日本の産業界は、予測可能性が最も立たないものとして、大きな懸念を抱いています。

所得相応性基準には「適用除外基準」が必要

本誌:そのような懸念がある中で、所得相応性基準のガイダンスはどのようなものであるべきとお考えでしょうか。
青山:
結果に基づき当初取引を引き直すという所得相応性基準のようなメカニズムは全てノーだということではありません。“ラストリゾート”としてあるのは仕方がないだろうと思います。逆に言えば、それが当局により恣意的に使われないような制度設計をする必要があります。恐らくは、きちっとした適用除外基準のようなものを設けなければならないでしょう。「適用除外基準」というと、いかにも適用を除外するのが“例外的”であるような感覚を受けるかもしれませんが、産業界からすると、むしろ適用除外になるのがマジョリティーであり、適用されるのは少数という整理になります。そのためには、「契約時において通常のビジネスの過程における慎重な検討を経ている」ということを適用除外基準の一つとすることが考えられます。すなわち、契約当初にここまでしっかり詰めているのだから、その時点で知るべくもないようなことが後で発生したとしても、結果利益をレファレンスする必要はないだろうということです。仮に所得相応性基準、すなわち結果利益に基づくプロフィットスプリットを認めるとしても、極めて限定的、かつ、それがどういう場合にできるのかしっかり予測可能性が立つように制度設計して欲しいですね。

過大支払利子税制、無用な適用の広がりを抑えるための“セーフハーバー”を

本誌:その所得相応性基準とともに、平成29年度与党税制改正大綱の「補論」では、過大支払利子税制、義務的開示制度が今後の検討課題として挙げられています。それぞれについて国内法制化を行う際、どのような課題、論点があるとお考えでしょうか。
青山:
過大支払利子税制については、BEPS最終報告書でEBITDAの「10~30%」を超える純支払利子が損金不算入とされましたが、閾値がこれだけ低くなると、外形的にはかなりの法人が対象になる可能性があります。日本の過大支払利子税制が「50%以上」という閾値を採用していることからしても、日本の税制上も何らかの対応をしなければならないでしょう。
 例えば不動産業など、事業の性質上、借入れに依存しなければならない業界もあります。OECDの最終報告書では固定比率ルールの原則にグループ比率に依拠した“適用除外”を認めると言っているわけですから、業界としての借入依存率を立証できれば、そこまでは適用対象外とするという方法も考えられると思います。このような“セーフハーバー”があれば、無用な適用の広がりが抑えられ、OECDの議論にも乗れるのではないでしょうか。
 いずれにせよ、閾値以外にも、例えば日本の過大支払利子税制が実質的に国外の関連者への純支払利子のみを対象としているのに対し、BEPS最終報告書では対関連者、対国外に限らず、すべての純支払利子が対象となっているなど、両者はスキームが異なりますので、検討しなければならない材料は膨大です。

EBITDA  Earnings Before Interest, Taxes, Depreciation, and Amortization(利子・税金・減価償却費控除前利益)の略で、「エビーダ」「イービッダー」と呼ばれることが多い。BEPS最終報告書では、EBITDAは税務上の数値を用いて計算することが求められている。また、ここでいう利子とは「純支払利子(支払利子-受取利子)」を指す。すなわち、過大利子税制におけるEBITDAは「課税所得+純支払利子+減価償却費」により計算されることになる。

義務的開示の対象取引の例示は困難

本誌:義務的開示制度についてはいかがでしょうか。
青山:
義務的開示制度については、企業(納税者)にも開示義務が課されるのかどうかという点が一つの関心事になっています。企業からすれば、「我々は単なる一クライアントに過ぎないのだから、プロモーター(租税回避スキームの設計・販売等に関与する者)だけに開示義務を課せばよいのではないか」という思いがあります。ただ、基本的にはプロモーターと納税者の両方に開示義務を課すことにならざるを得ないのではないでしょうか。プロモーターと企業の間の契約は両者がいてはじめて成立することを考えると、開示義務も契約に関わっている両者に求めるのが自然だからです。


 ただ、あくまで個人的な意見ですが、例えばプロモーターは必須にして、納税者については一定の“足切り”のようなものを設けるということは可能だと思います。BEPSを防止しながら企業のコンプライアンスコストが必要以上に高くならないような制度設計が望まれるところです。
 開示を求められる側は、当然ながら、どのような取引が報告義務の対象なのか、法律あるいは通達等のガイダンスで具体的にすべて規定するよう求めるでしょう。ただ、税務当局やOECDにとって、それは難しいと思われます。具体的に例示することで、逆に容易にすり抜けられてしまうからです。BEPS最終報告書も定性的な一般基準を認めています。日本で立法化を図る際にも、報告対象義務者、報告対象取引をどのように定義するのかなど、条文化は困難な作業になると思います。既に義務的開示制度を実施している米国や英国の先例を参照しながら立法作業が行われることになるでしょう。

“デジタルPE”の登場で国際課税のルールが一変も

本誌:最後に、今後の国際課税議論の展望についてお聞かせください。デジタルエコノミー(電子経済)に関するOECDの議論を見ても、新たな課税ネクサスとは何かという点も含め、もう一段の議論が早晩、不可欠になるのではないかという気もしております。今後の国際課税の議論はどのように展開していくことになるとお考えでしょうか。
青山:
デジタルエコノミーは、デジタルエコノミーのプラットフォームを提供してビジネスを支配している企業が集中する米国のような国と、そのプラットフォームを使って活動する企業が集中するヨーロッパ諸国や日本などの国との間で課税権の配分の問題を生みます。そもそもデジタルエコノミーというのは、これまで伝統的な課税手法が頼ってきた現地の子会社とか支店といったインターミディアリー(仲介者)がなくなり、ダイレクトにプリンシパルとコンシューマーがつながる世界です。しかも決済においても銀行というインターミディアリーが存在しません。先ほど話題になった代理人PEがまさにそうですが、これまではインターミディアリーのところでPEを認定し、課税の拠り所としてきました。そこで、これがなくなった時にどうやって課税するのかということが問題になります。ヨーロッパでは従来のPEに代わる概念として、“デジタルPE”のようなものが議論されていますが、そのような概念が登場してきたら、これまでの国際課税のルールはガラッと変わってしまいます。
 実は、1998年にOECDが初めてこの問題に取り組んだ際には、「インターネット非課税の原則」という米国の考えを受け入れました。インターネットはこれからの世の中のイノベーションを促進していく情報技術なのだから、特にクロスボーダーの取引については非課税の方が適当なのではないかということになったのです。しかしその後、これだけ広範となったBtoCのデジタルエコノミーに対しては消費課税をきちっとやれなければいけないのではないかというコンセンサスができ、それを実現すべく日本を含む各国が国内法を改正したのはご存知のとおりです。そして現在は、デジタルエコノミーへの所得課税をいかに適切に行うかということが議論になっています。
 ただ、OECDの行動1でも「重要な経済的拠点」という新しいPE概念を含めた3つオプションを挙げているだけで、まさに『これから勉強しましょう』という状態ですので、これからどのような課税原則が構築されるのかを予言するのは困難です。あらゆる手法があり得るでしょう。平衡税(国内事業者と国外事業者に同等の税を課す手法)もその一つでしょうし、あるいは、決済のところで源泉徴収税を賦課するということもありえます。


本誌:OECDは今後どう動くのでしょうか。
青山:
今のところOECDは、デジタルエコノミーに対しては最終報告書の行動1~15で何とか対応できるというスタンスです。例えば代理人PEや高度な倉庫(行動7)といったものはデジタルエコノミーそのものではありませんが、それに関連したものですし、条約上のベネフィットを奪うことで納税者のモチベーションの方からBEPSをやめさせようという「条約濫用防止規定」(行動6)もそうです。ただ、これらが最終的な解決につながるわけではありません。だからこそOECDも、デジタルエコノミーの進展をモニターした上で2020年までに報告書を作成するとして、“猶予期間”を設けたわけです。
 OECDは多くの国が関わる最も広いフォーラムであるだけに、ここで何かを議論する際には色々な要素が全て入ってきます。現在、デジタルエコノミーに関してはEUの議論が先行しているのも、そこに原因があるのではないかと思います。EUにとってみれば、もう“目の前”に来ている話なのです。アイルランドやルクセンブルクを舞台にしたTECH企業の様々な問題が出て来ると、まさに源泉地としてのEUと、提供者としての米国との間で、税源をどう配分するのかといったことについて、EUと米国が個別事案を通じて対立するということにもなりかねません。
 そのように考えると、デジタルエコノミーに関する議論は“現場”で進むような気もしています。日本もヨーロッパと同じ課題があるので、EUでの議論は我々も見ていかなければなりません。もちろんOECDも、それを見ながら、2020年に向けて、何らかのものを創っていくことが求められています。これは本当に難しく、大きな課題だと考えています。

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