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解説記事2017年12月11日 【税理士のための相続法講座】 遺言(8)-遺言の効力(2)(2017年12月11日号・№718)

税理士のための相続法講座
第34回
遺言(8)-遺言の効力(2)
 弁護士 間瀬まゆ子

1 争われやすい遺言能力
 前回に引き続き、今回のテーマは遺言の効力です。そして、今回採り上げるのは、無効事由として問題にされるもののうち、最も争われやすい遺言能力です。
 なぜ遺言能力が争われるのか、個々の事案によって事情は異なるでしょうが、一つには、遺言で不利益を受ける相続人が、そのような遺言を被相続人が作成したという事実を受け入れることができず、「被相続人がそのような遺言を書くわけがない。対立する相続人が書かせたに違いない。」と思うに至り、それを法律的に落とし込むと遺言能力の欠如という主張に繋がるというケースが相当数あるためではないかと思われてなりません。
 いずれにしても、特にご高齢の方の遺言を作成する際には、後々遺言能力を巡って紛争化することがないように配慮しておくことは非常に重要となります。
2 遺言能力とは  遺言は、民法の行為能力に関する制度の適用を受けず(962条)、10代の若者が遺言を残すということもあまりないでしょうが、15歳になれば遺言をすることができますし(961条)、被後見人、被保佐人、被補助人でも遺言をすることができます(ただし、被後見人については、973条により医師の立会い等が必要になります。)。
 ただ、上記のような制限行為能力者かどうかにかかわらず、遺言者は、遺言をする時において、意思能力を有していなければならないことはもちろんです(民法963条)。
 被後見人等の遺言というのは実務上滅多に見られませんので(実際、高齢者に関する問題に詳しい弁護士の集まりで聞いた際にも、関わった経験のある弁護士はほとんどいませんでした。)、遺言能力が争いになる多くのケースというのは、遺言者が成年後見制度を利用していないケースです。
3 遺言能力の判断基準  遺言能力が争われた場合に、裁判所は、以下のような諸事情を考慮して、総合的に意思能力の有無を判断することになります。
① 遺言時における遺言者の精神上の障害の存否・内容・程度
② 遺言内容の複雑性
③ 遺言の動機・理由、遺言者と相続人(受遺者)との関係・交際状況、遺言に至る経緯等
 ①が最も分かりやすいところかと思います。遺言時またはその前後の医師の診断書等は、重要な判断材料となります。ただ、認知症という診断書があれば直ちに意思能力なしとなるわけでもありません。実際に裁判となった場合には、カルテの記載(中でも、長谷川式スケールの点数は重視されるようです。)や要介護認定された際の調査員の調査結果等も踏まえ、病名よりは、その当時の症状の程度を元に、判断されていくことになります。
 続いて②ですが、ここは見落としがちなところかもしれません。同じ程度の判断能力があったとしても、「A土地を長男に、B土地を次男に」というだけの遺言と、財産一つ一つが事細かに列挙され、内容も多岐に渡るような長文の遺言とでは、前者の方が理解力の落ちてきている高齢者でも理解しやすく、当然、遺言能力ありとの判断につながりやすいことになります。
 専門家が関与すると、色々なリスクを回避するため、より複雑な内容の遺言にしてしまう傾向があるように思いますが、それが仇になるかもしれないとの発想が必要です。文案が完成したら、遺言者が真にその内容を理解し、それを望んでいるといえるのか、一度立ち返って検討してみることが重要と思われます。
 ③については、遺言者が残した日記やメモや関係者の供述等を材料に判断されます。日記は、当時の人間関係等が浮かび上がる点で重要ですし、文字の体裁や分量等から、どの程度遺言者の能力が維持されているのかを知る重要な資料にもなります。
4 遺言能力を争われないために  以上の説明で分かるように、遺言能力に関して一旦紛争になると、診断書があればそれで決まるというわけではなく、双方から大量の資料や証言が出て、それを審理していくという大変な作業が必要となります。しかも、専門家として関与していた場合、依頼者からの要請で証人として出廷せざるを得なくなる事態も考えられますが、その物理的・心理的な負担は相当なものです。
 ですから、そのような争いが起きないよう、また、万一起きてしまってもきちんと資料を揃えられるよう、遺言作成時から準備しておくことが肝要です(なお、前提として、自身が遺言者の意思能力に疑問を持つような場合は、そもそも遺言の作成に関与すること自体を避けるべきです。)。
(1)遺言の種類と遺言能力  以前にも書きましたが、公証人が関与する分、自筆証書遺言に比べて、公正証書遺言の方が、遺言能力を否定されにくい傾向にあることは間違いありません。ただ、過去の裁判例を見ると、公正証書遺言であっても遺言能力を否定された例もあり、公正証書であれば絶対に大丈夫というわけではありません。
 また、同じ公正証書遺言でも、遺言者が公証役場に出向いた場合と、遺言者が入院中の病院に公証人に出向いてもらった場合であれば、前者の方が、より遺言者の能力が高いと判断され得るのではないかと思います。
(2)診断書  遺言者が入院中であるような場合、後に遺言能力を問題にされるリスクが高まります。判断能力に影響しにくい病気で入院しているのならば、それが分かる診断書は是非残しておきたいところです。
 と言っても、診断書自体は、後からでも出してもらうことが可能です。ですから、証拠として保全しておく必要性は高くないのですが、ただ、遺言の作成に関する専門家としても、遺言能力について問題がないか判断することは必要ですから、遺言書作成の段階で、診断書の内容を把握しておくことは有用でしょう。
(3)カメラやビデオの活用  遺言の有効無効を争われることを避けるため、遺言作成時の様子をカメラやビデオカメラで撮影しておくというのは以前からよく行われていることです。
 遺言の方式を満たしていたか否かに関してはそれで十分でしょう。しかし、公正証書遺言の作成日当日に、遺言者の話をゆっくり聞く機会は通常ありません。遺言者がきちんと遺言の内容を理解し、かつその内容を望んでいたことまで証拠化して残しておくという意味では、事前に遺言者の話を聞く機会を設け、かつその際の様子を記録しておくことも一考に値するでしょう。

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