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解説記事2018年02月12日 【税理士のための相続法講座】 遺言(9)-遺言の内容(2018年2月12日号・№726)

税理士のための相続法講座
第35回
遺言(9)-遺言の内容
 弁護士 間瀬まゆ子

1 遺言で決められること
 今回から、遺言の内容に関して採り上げます。
 遺言で決められる事項としては、以下のようなものがあります。主に実務的な視点から、一つ一つ説明して行きたいと思います。
・遺産分割の方法の指定・指定の委託(民法908条)
・遺産分割の禁止(民法908条)
・相続分の指定・指定の委託(民法902条)
・遺贈(民法964条)
・祖先の祭祀主宰者の指定(民法897条1項但書)
・財団法人設立のための寄附行為(一般社団法人及び一般財団法人に関する法律152条2項)
・信託の設定(信託法3条2号)
・生命保険受取人の指定・変更(保険法44条)
・認知(民法781条2項)
・未成年後見人・未成年後見監督人の指定(民法839条、848条)
・遺言執行者の指定・指定の委託(民法1006条)
・遺贈の減殺方法の指定(民法1034条但書)
・特別受益の持戻しの免除(民法903条3項)
・推定相続人の廃除・取消し(民法893条、892条2項)
・共同相続人の担保責任の減免・加重(民法914条)

2 遺産分割の方法の指定・指定の委託
(1)遺産分割方法の指定
 民法は、被相続人が遺言で遺産の分割の方法を指定することができる旨を定めています(908条)。遺産分割には、現物分割、代償分割、換価分割及び共有分割並びにこれらを組み合わせるという方法があり得ますが、このうちどの方法により分割するかを、被相続人が遺言で定めておくことができるのです。例えば、遺産の換価代金を分割すると指定する場合などが考えられます。

譲渡所得税への配慮のない遺言
 夫も子どももなく、相続人は亡くなった兄の子どもたちで、交流はない。財産は、両親の代から住んでいる都内の自宅のみだけれど、私が死んだら、これを換価して、その一部を甥っ子たちに残し、残りの大部分をお世話になった人に渡してもらおう。
 上記のとおり、遺産分割の方法を遺言で指定しておくことは可能ですから、このように換価した財産を分割すると指定することも民法上可能です。
 ただ、税理士であればすぐに気付くところでしょうが、甥っ子らに、譲渡所得税分の現金が残されるのかが気になります。遺産である不動産の譲渡に係る所得税は当然、法定相続人である甥っ子らが負担することになります。もし、甥っ子らが相続により取得した譲渡代金が譲渡所得税を下回れば、甥っ子らは自腹で所得税を負担しなければならないことになり、酷な結果となります。
 遺言を作成する際には、そのような税負担にも配慮しておきたいところです(例えば、譲渡所得税分を控除した残額を遺贈する等。)。
(2)相続させる遺言  ごく一般的に使われる「相続させる」という遺言、すなわち「妻に○○の土地を相続させる」という遺言も、この「遺産分割方法の指定」にあたると解されています。
 この点、従来は、「相続させる遺言」を遺産分割方法の指定と解するか遺贈と解するかで、解釈上の争いがありました。しかし、最三小判平成3年4月19日(民集45巻4号19ページ)が、原則として遺産分割方法の指定と解すべきという判断を下し、現在は遺産分割方法の指定と解する実務が定着しています。
 遺産分割方法の指定の場合、指定の仕方によっては、遺産分割協議または家裁の審判を経る必要がある場合もあり得ます。しかし、上記最高裁判決は、「相続させる遺言」については、「何らの行為を要せずして、被相続人の死亡の時(遺言の効力の生じた時)に直ちに当該遺産が当該相続人に相続により承継される」とし、「協議又は審判を経る余地はない」としました。したがって、「相続させる」遺言については、原則として、遺産分割協議が必要ないことになります。
 また、上記のとおり、「相続させる」遺言の場合、指定された財産が指定された相続人に当然に承継されることになるため、当該相続人は、単独で相続登記を申請することができるとされています(遺贈の場合は、相続人との共同申請です。)。そのため、不動産を相続させる遺言がある場合、遺言執行者には、登記の義務も権利もなく、「執行」をする余地がそもそも無いことになります(この点を踏まえ、遺言の作成に関与し、自らが遺言執行者として予定されている者が、遺言執行の対象に加えるため、敢えて「相続させる」遺言ではなく「遺贈する」遺言を作成させる例もあると聞きます。遺言執行の対象財産の多寡が、執行報酬の金額にも影響するためでしょう。)。ただ、実務上は、当事者に専門知識がないことも多く、遺言執行者である専門家が、登記の手続きまで事実上サポートする場合が多いものと思われます。
 なお、従来、登録免許税の違いから、遺贈ではなく相続させる遺言を選択する場合が多かったのですが、現在では、相続人への遺贈である場合に限り、遺贈と相続で登録免許税に差異は無くなっています。
(3)「その他の一切の財産」を相続させる遺言  実務上、「遺言者は、遺言者の有する預貯金その他一切の財産を、相続人A、B及びCに各3分の1ずつ相続させる」というような遺言が作成されることはよくあります。このような遺言に関しては、①割合的包括相続させる旨の遺言であるか、②特定物を相続させる旨の遺言の集合体であるかの解釈が問題となり得ます。
 ①と②で結論が異ならないように思われるかもしれませんが、遺産分割の余地があるか否かという点が異なって来るため、問題となることがあるのです。
 この点、公証実務は「相続させる遺言」はすべて遺産分割方法の指定と解しているようです。そうなると、前述のとおり、遺産分割方法の指定の場合、遺産分割協議は不要と解するのが判例ですから、遺産分割の余地はないことになります。
 これに対し、家裁の実務は、少し異なります。すなわち、遺言者の意思は、指定した割合による価値に相当する財産を取得させることにあると解されること、②のように解しても、個々の財産に共有関係が成立したままでは遺言者の真意が実現されたとはいえないこと等から、特段の事情のない限り、①の趣旨と解するのが家裁の実務となっています(長秀之ほか「リーガル・プログレッシブ・シリーズ 遺産分割[改訂版]」青林書店 276・277ページ)。
 預貯金や現金のみであればあまり問題にならないでしょうが、不動産や動産を含む場合、共有にするのではなく、最初から誰かの単独所有にしておきたいというニーズもあるでしょう。そのような場合は、遺産分割協議の対象とし得ないか、検討の余地があるように思われます(ただし、遺言の文言や、遺言が作成された経緯等により、解釈が異なる場合があり得ますので、実務で実際に該当するケースにあたった場合には、弁護士等の専門家に相談することをお勧めします。)。
(4)相続させる遺言と代襲相続人
 母親が長男にすべての財産を相続させるという遺言を残していた。ところが、母親より先に長男が死亡してしまった。その後、母親も亡くなり、その相続人は長女と長男の子の2人である。
 遺贈の場合、受遺者が遺言者の死亡以前に亡くなった場合には効力を生じないことが明文で規定されており(民法994条)、受遺者の相続人が権利を承継することはありません。
 これに対し、上記の事例のような場合について、遺言の効力が代襲相続人である長男の子にまで及ぶのかについては、最高裁がこれを否定しています(最三小判平成23年2月22日民集65巻2号699ページ)。すなわち、被相続人が「長男が先に死亡した場合には遺産を孫に相続させる」という意思を有していたことが遺言書の記載等から明らかになるような特別な場合を除き、遺言は効力を有しないとしました。
 そのため、遺言を作成する段階で、財産を取得させる予定の相続人が先に亡くなった場合を想定し、補充条項を入れておくのが肝要となります(本誌714号参照)。
(5)遺産分割方法の指定の委託  被相続人は、遺言で、分割方法の指定を第三者に委託することもできます。ただ、この場合の「第三者」は、相続人以外の者でなければなりません。跡取りの長男に指定を委託しておきたい等のニーズがあり得ますが、残念ながら、相続人の一人に対する遺言は無効と解されています(東高判昭和57年3月23日判タ471号125ページ)。
 相続人以外の第三者となると、例えば、税負担が最小になるような遺産分割の方法を考えてもらえるよう顧問税理士に委託する等という遺言であれば有効になり得ます。しかし、委託される税理士にとって荷が重く、あまり引き受けたくないというのが正直なところではないでしょうか。
 実際、筆者も、長男に委託した例以外は見たことがありません。

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