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解説記事2018年03月05日 【第2特集】 従業員の出向・出張に伴う税務(2)~出張編~(2018年3月5日号・№729)

第2特集
従業員の出向・出張に伴う税務(2)~出張編~
 日本税制研究所 代表理事 税理士 朝長英樹

 本連載の第1回では、出向者に対する給与の較差補填の取扱いを定めた法人税基本通達9-2-47の創設理由にまで遡りながら、出向元法人が出向者に関する費用等を負担している場合に税務調査で否認を受けないようにするための対応のポイントを示した。
 第2回目となる今回は、近年、我が国の親会社が外国の子会社に従業員を出張させた場合に、我が国の親会社に生ずる直接経費(人件費、旅費、宿泊費等)と間接経費(販管費等)の合計額に相当する金額を海外の子会社から受け取っていないとして、出向と同様、租税特別措置法66条の4第3項(国外関連者への寄附金の損金不算入)により、国外関連者に対して寄附金を支出したものとして課税を受けるケースが非常に多くなっているという問題を取り上げる。具体的には、租税特別措置法66条の4第3項、事務運営指針3-10、そして、寄附金について規定した法人税法37条を取り上げて、我が国の親会社が外国の子会社に従業員を出張させる場合の税務処理について解説を行った上で、最後に、否認を受けないための対応のポイントを示すこととする。

Ⅱ.従業員の出張に伴う税務

1 租税特別措置法66条の4第3項と事務運営指針3-10
 この課税の根拠となっているのは、上記のとおり、次の租税特別措置法66条の4第3項である。
3 法人が各事業年度において支出した寄附金の額(法人税法第37条第7項に規定する寄附金の額をいう。以下この項及び次項において同じ。)のうち当該法人に係る国外関連者に対するもの(恒久的施設を有する外国法人である国外関連者に対する寄附金の額で当該国外関連者の各事業年度の同法第141条第1号イに掲げる国内源泉所得に係る所得の金額の計算上益金の額に算入されるものを除く。)は、当該法人の各事業年度の所得の金額の計算上、損金の額に算入しない。この場合において、当該法人に対する同法第37条の規定の適用については、同条第1項中「次項」とあるのは、「次項又は租税特別措置法第66条の4第3項(国外関連者との取引に係る課税の特例)」とする。
 租税特別措置法66条の4の具体的な取扱いは、「移転価格事務運営要領の制定について(事務運営指針)」(以下、「事務運営指針」という。)に定められており、本稿のテーマに関係する3-10(※)は、次のとおりである。
(※)平成30年2月23日に、国税庁から事務運営指針の改正を行ったことが公表された。この改正では、3-10は、見出しが「原価基準法に準ずる方法と同等の方法による役務提供取引の検討」から「企業グループ内における役務提供に係る独立企業間価格の検討」に変更され、(1)として総原価に5%の利益を上乗せした価格を独立企業間価格とする旨の定めが挿入され、改正前の(1)が一部改正されて(2)とされた。本稿では、新(2)の「原価基準法に準ずる方法と同等の方法」によるものが最も低い金額となることに変わりはないと考えられるため、この方法によることを前提にして解説を行うこととしている。
(企業グループ内における役務提供に係る独立企業間価格の検討)
3-10
(2)法人と国外関連者との間で行われた役務提供((1)の定めにより、その対価の額を独立企業間価格として取り扱うものを除く。)のうち、当該法人又は当該国外関連者の本来の業務に付随して行われたものについて調査を行う場合には、必要に応じ当該役務提供に係る総原価の額を独立企業間価格とする原価基準法に準ずる方法と同等の方法又は取引単位営業利益法に準ずる方法と同等の方法の適用について検討する
  この場合において、「本来の業務に付随して行われたもの」とは、例えば、海外子会社から製品を輸入している法人が当該海外子会社の製造設備に対して行う技術指導のように役務提供を主たる事業としていない法人又は国外関連者が、本来の業務に付随して又はこれに関連して行った役務提供をいう。
(注)「本来の業務に付随して行われたもの」に該当するかどうかは、原則として、当該役務提供の目的等により判断するのであるが、次に掲げる場合には、本文の取扱いは適用しない。
  1 当該役務提供に要した費用の額が、当該法人又は国外関連者の当該役務提供を行った事業年度の原価又は費用の総額の相当部分を占める場合
  2 当該法人又は国外関連者が当該役務提供を行う際に無形資産を使用した場合
  3 その他当該役務提供の対価の額を当該役務提供の対価の額とすることが相当ではないと認められる場合
 この事務運営指針3-10によれば、「当該法人又は当該国外関連者の本来の業務に付随して行われたもの」に関しては、「必要に応じ」、「当該役務提供に係る総原価の額を独立企業間価格とする原価基準法に準ずる方法と同等の方法」を適用して移転価格税制の対象となる金額や国外関連者への寄附金の額を計算することとなる。
 この「同等の方法」においては、「役務提供に係る総原価」は、「直接費」と「合理的な配賦基準によって計算された担当部門及び補助部門における一般管理費等」の「間接費」との合計額とされ((1)へ)、利益の額の上乗せは行われないこととなる。
 この「直接費」とは、旅費交通費・宿泊費・日当などの実費、給与・賞与・社会保険料の法人負担分・退職給付費用などの人件費及び人件費関連費用と考えてよいものと思われる。
 また、「合理的な配賦基準によって計算された担当部門及び補助部門における一般管理費等」の「間接費」とは、出張者の所属部門の販売費及び管理費を合理的な配賦基準によって配賦した金額、共通部門(総務・人事・経理など)の販売費及び管理費を合理的な配賦基準によって配賦した金額と考えてよいものと思われる。

2 創設理由
(1)租税特別措置法66条の4第3項の創設理由
 この租税特別措置法66条の4第3項は、移転価格税制が創設された昭和61年の5年後の平成3年に新たに創設されたものであるが、創設時には、創設理由が次のように説明されている。
 海外の関係会社との取引を通じる所得の移転については移転価格税制によって規制されますが、関係会社に対する単なる金銭の贈与や債務の免除については一定の限度内で損金算入が認められるため、同じ所得の海外移転でありながら両者の課税上の取扱いにアンバランスが生じるという問題がありました。そこで今回の改正では、この問題を是正するため、海外の関係会社に対する寄附金についてはその全額を損金に算入しないこととされました。
 もっとも、寄附金の概念それ自体には変更が加えられていません〔後略〕
(『平成3年版 改正税法のすべて』287頁 大蔵財務協会)

 この説明においても、租税特別措置法66条の4第3項の規定の中の「寄附金の額」は、法人税法37条における「寄附金の額」と同じものであるということが明確に述べられているわけであるが、実務対応を考えるに当たっては、この点が重要となる。
(2)事務運営指針3-10の創設理由  事務運営指針3-10の創設理由がどのようなものかということは明確ではないが、事務運営指針の「趣旨」が「租税特別措置法第66条の4(国外関連者との取引に係る課税の特例)に関し、事務運営の指針を整備し、移転価格税制の適正、円滑な執行を図るものである」とされていることから、この事務運営指針3-10の創設理由も、同様に解することでよいものと考えられる。
 この事務運営指針3-10の対象は、上記引用にあるとおり、「本来の業務に付随して行われたもの」とされているわけであるが、これは、このような役務提供が行われるケースにおいては、本来の業務とそれに付随した役務提供とが一体として行われており、本来業務に付随した役務提供だけで利益を上げることが企図されているわけではないことを考慮したものと考えられる。

3 事務運営指針3-10の検討  租税特別措置法66条の4第3項の規定の中の「寄附金の額」は、法人税法37条における「寄附金の額」と同じものとなっていることから、どのようなものが寄附金となるのかということ、そして、どのような金額が寄附金の額となるのかということに関しては、同条の取扱いに拠ることとなる。
 要するに、事務運営指針3-10の取扱いは、法人税法37条において、どのようなものが寄附金となるとされているのか、そして、どのような金額が寄附金の額となるとされているのかということを確認しながら、検討を行う必要があるわけである。
(1)どのようなものが寄附金となるのか  法人税法37条には、「寄附金」の定義が設けられていないため、「寄附金の額」の定義から、ある程度の想定はできるものの、同条の規定を読んだだけでは、どのようなものが寄附金となるのかということが明確には分からない。
 このため、国税庁の職員が著した寄附金の税務に関する書籍(注)の取扱い例から、どのようなものが寄附金となるのかということを確認してみることとする。
(注)東辻淳次編『実例問答式 寄附金の税務』(大蔵財務協会、平成22年1月12日)
 この書籍においては、「無償による役務提供」と題して11件、「低い対価による役務提供・役務提供の対価の高額支払」と題して7件の取扱い例を示して解説が行われている。
 これらの取扱い例の解説の中で、どのようなものが寄附金となるのかということに言及した部分があるものは、15件となっており、それらの部分を要約すると、次のとおりとなる。
① 借地権利金の授受を行わなかったときに寄附金となる。ただし、相当の理由がある場合には寄附金とはならない。
② 借地権を無償返還したときは寄附金となる。ただし、無償返還することに相当の理由がある場合は寄附金とはならない。
  建物を無償譲渡したときは寄附金となる。ただし、建物の利用価値がなく取壊費用が不要になる等の経済的合理性があるため寄附金とはならない。
③ 30年の延払いにおいて利息相当額を加味しない対価で譲渡したときは寄附金となる。
④ 金利を通常の利率(市中金利を基準とした利率)よりも低い利率としたときは寄附金となる。
⑤ 本来収受すべき利息相当額を収受しないときは寄附金となる。ただし、既存の債権の保全のためにやむを得ず無利息で融資をする場合、免除した利息相当額に見合って製品の納入価額(下請価額)を低く決定している場合のように、無利息融資等に相当の理由があれば寄附金とはならない。無利息融資等が行われた場合には、常にその差額相当等を贈与として一律に取り扱うのではなく、無利息融資等を行った個々の実情により贈与があったかどうかの判断をすることとなる(法基通9-4-2)。
⑥ 建物等の賃借料が建物等の価額に照らして相当でないときは寄附金となる。
⑦ 受取利息相当額が合理的に見積もられていないときは寄附金となる。ただし、具体的な対価関係を有する経済的利益を受けるか又は何らかの合理的な経済目的を有する場合には寄附金とはならない。
⑧ 事務所の利用料相当額の贈与をしているものであるとみられるときは寄附金となる。ただし、利用料を徴収しないこととすることに相当の理由がある場合には寄附金とはならない。
⑨ 安い料金で電力を供給しているときは寄附金となる。ただし、相当の理由がある場合には寄附金とはならない。
⑩ 出向者の給与相当額以上の負担金を支出したときは寄附金となる。
⑪ 事業関係のないところへの金銭の支出は寄附金となる。
⑫ 海外子会社への経済的利益の供与は寄附金となる。ただし、合理的な再建計画に基づくものである等の事情がある場合には寄附金とはならない。
⑬ 子会社への低利融資は寄附金となる。ただし、事業上の損失を回避するというようなものは寄附金とはならない。
⑭ 子会社への無利息融資は寄附金となる。
⑮ 子会社から通常収受すべき家賃を収受していないときは寄附金となる。ただし、合理的な理由がある場合には寄附金とはならない。
 上記の要約を見ると分かるとおり、どのようなものが寄附金となるのかということに関しては、基本的には、資本関係等のない者の間で取引が行われるとする場合のその取引とは異なる取引を行っているものにおけるその異なる部分
が寄附金となると言ってよい。
 そして、一見して寄附金となるように見えるものであっても、そのような取引となる「相当の理由」や「合理的な理由」などがある場合には、寄附金とはならない、とされている。
 事務運営指針3-10においては、「必要に応じ」という文言が用いられており、「相当の理由」や「合理的な理由」などという文言は用いられていないわけであるが、「相当の理由」や「合理的な理由」などがあれば、寄附金とする「必要」はない、ということに留意する必要がある。
 この「相当の理由」や「合理的な理由」がある場合とは、言い換えると、使用人を出張させることによって自らが何らかの利益を得ることができる場合ということであり、Ⅰ2(1)で述べた出向元法人が負担するものの損金算入の根拠と出張元法人が負担するものの損金算入の根拠は同じと考えてよい。
(2)どのような金額が寄附金の額となるのか  上記(1)において掲げた15件の解説の中で、どのような金額が寄附金の額となるのかということに言及した部分を要約すると、次のとおりである。
① 更地価額を基礎とした借地権利金の額が寄附金の額となる。
② 通常収受すべき借地権の対価の額又は立退料等の額が寄附金の額となる。
③ 利息相当額が寄附金の額となる。
④ 法人税基本通達9-4-2によって計算した利息相当額が寄附金の額となる。
⑤ 通常収受すべき利息相当額が寄附金の額となる。
⑥ 賃借料が建物等の価額に照らして相当でないという部分が寄附金の額となる。
⑦ 通常収受すべき利息相当額が寄附金の額となる。
⑧ 事務所の利用料相当額が寄附金の額となる。
⑨ 電力量の低額部分が寄附金の額となる。
⑩ 出向先法人が負担すべき給与に係る実費精算の範囲を超える出向負担金が寄附金の額となる。
⑪ 支出された費用の額が寄附金の額となる。
⑫ 供与した経済的利益の額が寄附金の額となる。
⑬ 通常収受すべき利息に相当する金額が寄附金の額となる。
⑭ ひも付きの銀行からの借入利率又は平均調達金利によって計算した利息相当額が寄附金の額となる。
⑮ 通常収受すべき家賃の額が寄附金の額となる。
 上記の要約を見ると分かるとおり、どのような金額が寄附金の額となるのかということに関しては、基本的には、資本関係等のない者の間で取引が行われるとする場合の取引における金額と異なる金額で取引を行っている場合におけるその差額が寄附金の額となると言ってよい。これは、法人税法37条7項において「経済的な利益のその供与の時における価額によるものとする」とされており、時価に基づいて寄附金の額を計算するのが原則となるためである。
 ただし、注意を要するのは、時価ではなく寄附者の原価に基づいて寄附金の額を求めるものである。上記⑭において明確に述べられているように、無利息融資等の例で言えば、ひも付きの借入金の利率や平均調達金利によって計算した利息相当額を寄附金の額とするものとされており、融資に伴う振込手数料や収入印紙代などの諸経費や間接部門のさまざまな間接費に相当する金額は、寄附金の額に含めることとはされていない。
 つまり、事務運営指針3-10においては、「直接費」と「間接費」の合計額に相当する金額を寄附金の額とするものとしているわけであ
るが、法人税法37条における「寄附金の額」に関しては、寄附者の原価に基づいて金額を求める場合には、事務運営指針3-10に示されている取扱いとは異なり、「直接費」の内の諸経費や「間接費」に相当する金額は含まれないこととされているものと考えられる。寄附金の額の取扱いを説明した書籍や雑誌記事を筆者が見た限りでは、法人税法37条の「寄附金の額」については、「直接費」の内の諸経費や「間接費」に相当する金額を含めない取扱い例は少なくないが、これらに相当する金額を含めた取扱い例は、事務運営指針3-10を根拠に挙げて課税を行ったもの以外、全く見当たらない。
 一応、「直接費」と「間接費」に利益を加算したものが時価となっていると考えることができるため、事務運営指針3-10で示された総原価の額を独立企業間価格とする原価基準法に準ずる方法と同等の方法によって計算される金額は、利益がない分だけ、時価よりも低いはずであるが、しかし、現実には、その金額が時価よりも常に低いとは限らない。
 また、この事務運営指針3-10で示された金額は、法人税法37条によって寄附者の原価に基づいて求めることとされてきた寄附金の額よりも、必ず、高い金額となる。
 仮に、国内の子会社と国外の子会社の双方に対し、同じように無利息貸付があって、それを寄附金とするというケースがあったとしたら、国内の子会社に対する寄附金の額と国外の子会社に対する寄附金の額は、どのように計算されることとなるのであろうか。
 法律の条文上、「寄附金の額」という同じものでありながら、寄附者の原価に基づいてその額を計算する場合には、国外関連者以外の者に対して「寄附金の額」とされる金額と国外関連者に対して「寄附金の額」とされる金額とが必ず異なることとなる、ということの正当性を理論的に説明することは、困難である。

4 どのような対応が必要となるのか  上記3までにおいて述べたことを踏まえて、どのような対応が必要となるのかということを考えてみると、概ね次のようなものとなるように思われる。
① どちらの法人のために出張をするのかによって費用を負担する法人を決めるということを法人間で確認しておくこと
② どちらの法人の都合で出張するのかということを明確にする方法を決めておくこと
③ 子会社のために親会社の従業員が出張をしたというような場合にはできるだけ「直接費」と「間接費」の合計額を授受するようにすること
④ 税務調査で問題とされた場合には相当の理由や合理的な理由があって親会社の利益になるということを否定する根拠を明確に示すように求めること
⑤ 課税を受けて争う場合には上記④に加えて諸経費や間接費は計算に含まれないということを主張すること
 この出張に伴う費用の負担の問題も、出向者に対する給与の較差補填の問題と同様に、事務運営指針3-10に示されている現在の国税当局の法律解釈に一部疑問がある状態となっているわけであるが、国税当局が事務運営指針3-10に示されている法律解釈に基づいて課税を行ってくることは避けられないと考えられるため、税務調査に対する備えとしては、事務運営指針3-10に示されている法律解釈を前提として対応せざるを得ないものと考えられる。
 しかし、税務調査で問題を指摘されたり、課税を受けて争ったりすることとなった場合には、上記3において述べたとおり、事務運営指針3-10に示されている法律解釈には問題があるという主張を行うことを検討してよいものと考えられる。(了)

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