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解説記事2018年04月09日 【特別解説】 IFRS任意適用日本企業が計上している開発費(無形資産)(2018年4月9日号・№734)

特別解説
IFRS任意適用日本企業が計上している開発費(無形資産)

はじめに

 2018年度はIFRS第15号「顧客との契約から生じる収益」やIFRS第9号「金融商品」の適用が開始され、国際財務報告基準(IFRS)を適用する企業にとっても業務プロセス等が大きく変わる節目の年になりそうである。そのような中で、我が国においてIFRSに基づいて連結財務諸表を作成し、有価証券報告書を公表する企業(IFRS任意適用日本企業)数は着実に増加し、IFRS任意適用日本企業が属する業種も、当初の製薬業界や総合商社のみならず、最近はIT業界やその他金融業にまで広がりを見せている。自動車関連の企業等でよく見られる開発費の無形資産計上に関する論点は、わが国の会計基準とIFRSとの間のいわゆる「主要なGAAP差異」と言われて久しく、注目度も高い論点であるが、本稿では、IFRS任意適用日本企業が計上している開発費(無形資産)に焦点を当て、計上額や償却年数、資産化率等について、調査分析を試みた。

IAS第38号「無形資産」の規定
 IAS第38号では、自己創設無形資産が資産認識の要件を満たすか否かを判定するため、企業は資産の創出過程を研究局面と開発局面とに分類するとされている(52項)。なお、「研究局面」と「開発局面」は定義されていないものの、IAS第38号の目的上、「研究」「開発」よりも広範な意味を持つとされている。研究(又は内部プロジェクトの研究局面)から生じた無形資産は認識してはならないとされている一方で(54項)、開発(又は内部プロジェクトの開発局面)から生じた無形資産は、次のすべてを立証できる場合に限り、認識しなければならないとされている(57項)。
(a)使用または売却できるように無形資産を完成させることの、技術上の実行可能性
(b)無形資産を完成させ、さらにそれを使用又は売却するという企業の意図
(c)無形資産を使用又は売却できる能力
(d)無形資産が蓋然性の高い将来の経済的便益を創出する方法、とりわけ、企業は、無形資産による産出物又は無形資産それ自体の市場の存在、あるいは、無形資産を内部で使用する予定である場合には、無形資産が企業の事業に役立つことを立証しなければならない。
(e)無形資産の開発を完成させ、さらにそれを使用又は売却するために必要となる、適切な技術上、財務上及びその他の資源の利用可能性
(f)開発期間中の無形資産に起因する支出を、信頼性をもって測定できる能力
 これらの6つの要件はいずれも非常に抽象的なものであるが、後述する各社の開示(開発費に関する重要な会計方針)では、これらの文言の全部、又は一部を引用したものが多い。
 なお、我が国の会計基準である「研究開発費等会計基準」では、研究開発費はすべて発生時に費用として処理しなければならないとされているほか、実務対応報告第18号「連結財務諸表作成における在外子会社等の会計処理に関する当面の取扱い」において、「(3) 研究開発費の支出時費用処理」として、在外子会社等で、「研究開発費等に係る会計基準」の対象となる研究開発費に該当する支出を資産に計上している場合には、連結決算手続上、当該金額を支出時の費用とするよう修正することが要求されている。
 さらに、米国の会計基準であるFASB-ASCTopic730「研究開発費」も、我が国の会計基準と同様に、研究開発費はすべて発生した時に費用として処理しなければならないと定めている。

調査の対象とした企業
 今回調査の対象としたのは、IFRSに基づく有価証券報告書をこれまでに開示したIFRS任意適用日本企業123社であり、IFRSを適用して新規に上場した企業13社を含んでいる。このうち、無形資産の注記等により、開発費(開発資産)を無形資産として計上していることが確認できたのは、次の22社であった(五十音順)。
 アイシン精機、アンリツ、エフ・シー・シー、KYB、ケーヒン、コナミホールディングス(以下「コナミ」)、山洋電気、シスメックス、ショーワ、住友理工、セイコーエプソン、DMG森精機、テイ・エス・テック、デンソー、豊田自動織機、日信工業、日本板硝子、ブラザー工業、本田技研工業、八千代工業、ユタカ技研、リコー

22社が計上した開発費の金額、償却年数、資産化率等
 前記の22社が直近の期末時点で計上していた開発費残高、償却年数、当期資産化額、研究開発支出総額及び資産化率を一覧にして示すと、表1のとおりである。なお、資産化率は、無形資産として資産化した開発費を、研究開発支出合計(研究開発費+当期資産化額)で除して算定している。


多額の開発費を計上している企業
 前記の22社のうち、開発費(無形資産)の計上額が多い上位5社は、表2のとおりである。
 見てのとおり、本田技研工業の計上額が群を抜いて大きい。また、金額はそれほど大きくないが、ホンダグループでIFRSを任意適用しているエフ・シー・シー、ケーヒン、ショーワ、テイ・エス・テック、日信工業、八千代工業、ユタカ技研の各社もそれぞれ開発費を資産計上している。無形資産の開発費は、自動車の完成車メーカーと部品メーカーが計上している場合が多く、とりわけ完成車メーカーの計上額が大きい。我が国の完成車メーカー大手2社であるトヨタ自動車と日産自動車はまだIFRSを適用していないが(トヨタは米国基準を適用)、マツダは連結決算短信において、具体的な適用時期は未定ながらも、将来IFRSを任意適用する旨を表明している。


開発費の償却年数
 表1の記載からわかるように、開発費の償却年数は2年から15年まで様々であるが、2年~5年、あるいは5年としている事例が比較的多い。償却期間が10年を超えることが多い商標権や顧客との関係等と比較すると、かなり短期間で償却されていると言えるであろう。なお、計上額が最大の本田技研工業は、開発費(開発資産)を2年~6年で償却しており、2017年3月期には1,525億円の開発資産償却費を計上している(研究開発費として処理)。

開発費の資産化率
 開発費の資産化率(研究開発支出額に対する開発費資産化額の比率)が高い上位5社は表3のとおりである。

 開発費の無形資産計上額が最大の本田技研工業の資産化率は、18.3%であった。資産化率は78.4%のコナミから0.4%のデンソー、ショーワまでばらつきが非常に大きいが、自動車業界の企業(完成車メーカー、部品メーカー)の資産化率は、おおむね30%以内に収まっていた。しかしながら、同じ「自動車部品メーカー」の中でも、製造する部品の種類や研究開発の形態等は各社各様である可能性が高く、「自動車部品会社」と一括りにして分析して、共通点等を探そうとするのには無理があるかもしれない。その中で強いて特徴をあげるならば、本田技研工業を含むホンダグループ各社に比べ、トヨタグループの部品各社(アイシン精機、デンソー)の資産化率の低さが目に付いた。将来的に、親会社のトヨタ自動車がIFRSを任意適用することがもしあるとすれば、どれくらいの水準の開発費を無形資産として計上するのであろうか。

各社が行った重要な会計方針の開示
 最後に、IFRS任意適用日本企業が行った重要な会計方針の注記の事例をいくつか紹介したい。
 まず、IFRS任意適用日本企業の中で、最大の6,190億円の開発費(開発資産)を無形資産として計上した本田技研工業は、重要な会計方針の箇所において、次のような開示を行った。
【1】本田技研工業 (研究開発費)
 製品の開発に関する支出は、当社および連結子会社がその開発を完成させる技術上および事業上の実現可能性を有しており、その成果を使用する意図、能力およびそのための十分な資源を有し、将来経済的便益を得られる可能性が高く、信頼性をもってその原価を測定可能な場合にのみ、無形資産として認識しています。
 資産計上した開発費(以下「開発資産」という。)の取得原価は、上記の無形資産に関する認識要件を初に満たした時点から開発が完了した時点までの期間に発生した費用の合計額で、製品の開発に直接起因する全ての費用が含まれます。開発資産は、開発した製品の見積モデルライフサイクル期間(主に2年~6年)にわたり定額法で償却しています。
 研究に関する支出および上記の認識要件を満たさない開発に関する支出は、発生時に費用として認識しています。 

 次に、開発費の資産化率が最も高かったコナミが行った開示は、次のとおりである。
【2】コナミ (7)のれん及び無形資産
 ③ 開発資産
 新しい科学的または技術的知識の獲得のために行われる研究活動に対する支出は、発生時に費用計上しております。開発活動に対する支出は、当該資産を完成させることが技術的に可能であり、将来の経済的便益を得られる可能性が高く、信頼性をもって測定可能であり、完成後に使用又は売却する意図、能力及び資源を有する場合にのみ、資産計上しております。
 開発資産の当初認識額は、資産計上の要件をすべて満たした日から、開発完了までに発生した支出の合計額で測定しております。当初認識後、開発資産は取得原価から償却累計額及び減損損失累計額を差し引いて測定しております。(中略)
 主な耐用年数を確定できる無形資産は、以下のとおりであります。
・開発資産等   5年未満

 無形資産に関する注記開示が全体的に充実している日本板硝子は、次のような開示を行っていた。
【3】日本板硝子 (iv)研究開発費
 研究費は、発生時に費用認識されます。開発プロジェクト(当社グループ内で使用される新規もしくは改良された製品又はプロセスの設計及びテスト)において発生した支出は、当該プロジェクトがビジネスとして成功し技術上の実行可能性が確立する可能性、あるいはグループ内で改良されたプロセスを生み出す可能性が高く、かつ金額を、信頼性をもって測定できる場合にのみ、無形資産として認識されます。そうでない場合、開発費は発生時に費用認識されます。当初費用認識された開発費は、その後の会計期間において無形資産として認識されることはありません。無形資産に計上された開発費の償却費は、当該製品の商業生産が可能となった日もしくは当該プロセスが使用可能となった最初の日より、予測使用期間(製品は5年以内、製造プロセスは20年以内)にわたり定額法で算定されます。

 ホンダグループの自動車部品会社であるエフ・シー・シーは、IAS第38号第57項の記載(開発費を資産化するための6つの要件)を、そのまま列挙引用するかたちで開示を行っていた。
【4】エフ・シー・シー  ② 無形資産  
 無形資産の測定には「原価モデル」を採用しており、取得原価から償却累計額及び減損損失
累計額を控除した価額を計上しております。
(i)開発資産 
 開発活動で発生した支出は、以下のすべての条件を満たしたことを立証できる場合にのみ、資産計上しております。
・使用または売却できるように無形資産を完成させることの技術上の実行可能性
・無形資産を完成させ、さらにそれを使用または売却するという企業の意図 
・無形資産を使用又は売却する能力 
・無形資産が将来の経済的便益を創出するための蓋然性が高い方法
・無形資産の開発を完成させ、さらにそれを使用又は売却するために必要となる、適切な技術上、財務上及びその他の資源の利用可能性
・開発期間中の無形資産に起因する支出を、信頼性をもって測定できる能力 
 開発資産の当初認識額は、無形資産が上記の認識条件の全てを初めて満たした日から開発完了までに発生した費用の合計額であります。償却は、開発に費やした資金が回収されると見込まれる期間にわたり、定額法により行っております。償却方法及び耐用年数は、連結会計年度末日ごとに見直しを行い、必要に応じて改定しております。

 次に、今度はIAS第38号第57項の要件に照らして検討した結果、要件をすべて満たすものがないと判断して、開発費の無形資産計上を行わなかった企業が重要な会計方針で記載した開示を2件取り上げる。いずれも製薬業界に属する企業による開示である。
【5】エーザイ (5)研究開発費
 ① 研究費
 当社グループは、研究活動(共同研究及び委託研究を含む)に係る支出を研究開発費として認識しています。 
 ② 開発費 
 当社グループは、開発活動に係る支出が自己創設無形資産の要件を満たした場合に、当該支出を無形資産として認識しています。当社グループの社内発生開発費は、承認が得られないリスク及び開発が遅延または中止となるリスクがあるため、自己創設無形資産の要件を満たしておらず、研究開発費として認識しています(以下略)。

【6】第一三共  ② 無形資産 
 無形資産は取得原価から償却累計額及び減損損失累計額を控除した価額で計上しております。個別に取得した無形資産は取得原価で測定しており、企業結合により取得した無形資産の取得原価は企業結合日の公正価値で測定しております。
 内部発生の研究費用は発生時に費用として認識しております。内部発生の開発費用は資産として認識するための基準がすべて満たされた場合に限り無形資産として認識しておりますが、臨床試験の費用等、製造販売承認の取得までに発生する内部発生の開発費は、期間の長さや開発に関連する不確実性の要素を伴い資産計上基準を満たさないと考えられるため、発生時に費用として認識しております。

終わりに
 開発費の無形資産計上は、のれんの償却/非償却などと並んで、日本基準とIFRSとのいわゆるGAAP差異の代表的なものとして取り上げられることが多く、日本企業(特に製造業)がIFRSを適用する際の大きな障害となりうる項目とされてきた。しかしながら、開発費を無形資産として計上している企業の割合は、全体の5分の1から6分の1程度でさほど多くなく、無形資産計上額や資産化率も、一部の企業を除いて非常に低かった。また、開発費を無形資産として計上する企業は製造業、特に自動車関連企業に集中するなど、業種による傾向がはっきりと見てとれる(逆に、製薬業界の企業は、新薬の開発期間の長さや不確実性の高さ等を理由として、開発費を無形資産として計上していない)。今後IFRS任意適用日本企業が増加したとしても、このような傾向は大きくは変わらないものと予想される。

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