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解説記事2018年04月30日 【ニュース特集】 収支内訳書の虚偽記載と重加算税「特段の行動」(2018年4月30日号・№737)

ニュース特集
直近の審判所の判断は?
収支内訳書の虚偽記載と重加算税「特段の行動」

 先般、国税不服審判所は、虚偽記載の収支内訳書に基づく確定申告書の作成・提出が、過少申告の意図を外部からもうかがい得る「特段の行動」をした上での過少申告に該当する旨判断した(平成29年9月15日裁決)。収支内訳書の虚偽記載(売上金額等の恣意的な操作)については、「過少申告行為そのもの」と判断した事例(平成27年7月1日裁決)が既に公表されており、平成29年9月15日裁決における審判所の判断は注目されるところだ。本特集では、収支内訳書虚偽記載に係る審判所判断の推移および平成29年9月15日裁決の内容を確認する。

収支内訳書と重加算税に係る審判所判断の比較
 収支内訳書の虚偽記載と重加算税賦課の関係について、本誌では、平成27年7月1日裁決の公表により課税庁の隠蔽・仮装行為の立証に変化が生じる可能性を指摘した(本誌687号23頁参照)。同裁決が、何ら根拠のない収入金額および必要経費の額を収支内訳書に記載したことは、「過少申告行為そのもの」であると判断したからだ。
 平成27年7月1日裁決が公表される前、平成24年5月8日裁決は、「適当に減額した売上金額で収支内訳書を作成して確定申告をしたことは国税通則法68条1項に規定する隠蔽・仮装に該当する」旨判断しており、平成27年7月1日裁決との違いが際立つものとなっている(表1参照)。
【表1】収支内訳書虚偽記載に係る裁決事例の比較      (下線:編集部)
平成24年5月8日裁決 平成27年7月1日裁決
請求人が適当に減額した売上金額で収支内訳書を作成し、その結果算出された過少な所得金額に基づき、確定申告をしたことによって、本件各修正申告において本件事業に係る総収入金額に計上漏れがあったことは、通則法68条1項に規定する隠ぺい又は仮装に該当すると認められる。 請求人が何ら根拠のない収入金額および必要経費の額を本件収支内訳書に記載していたことは、過少申告行為そのものであって、過少申告の意図を外部からもうかがい得る特段の行動に当たるとは評価できない


平成27年7月1日裁決公表後の課税庁の対応は
 上記のとおり、平成27年7月1日裁決は、収支内訳書の虚偽記載を「特段の行動」と評価できないとしていることから、最高裁平成7年4月28日判決(以下「最高裁平成7年判決」という)を再確認しておきたい。
 最高裁平成7年判決は、重加算税の賦課には、「過少申告行為そのもの」とは別に、隠蔽、仮装と評価すべき行為の存在が必要であるとする。そして、その行為として、架空名義の使用などの積極的な行為の存在までは必要でなく、当初から所得を過少に申告することを意図し、その意図を外部からもうかがい得る「特段の行動」をした上で、その意図に基づく過少申告をした場合は、重加算税の賦課要件を満たすとしている。
 この最高裁平成7年判決を踏まえれば、収支内訳書の虚偽記載を「過少申告行為そのもの」とした平成27年7月1日裁決は、課税庁に対し「収支内訳書の虚偽記載」とは別の「特段の行動」の存在を立証する必要性を生じさせたことになろう。この点、課税庁は、平成27年7月1日裁決の取消原因等の分析として、以下を指摘している。
(1)本件において、課税庁は、隠蔽または仮装行為を認定するに当たり、本件各収支内訳書の虚偽記載がその認定に係る重要な要素であるものとしていたことから、最判平成7年4月28日が判示する「納税者が当初から所得を過少に申告しようとすることを意図し、その意図を外部からもうかがい得る特段の行動」についての証拠の保全が十分になされていなかったことは否めない。
(2)本裁決が公表されたことを踏まえ、つまみ申告における隠蔽または仮装行為の立証にあっては、収支内訳書の虚偽記載だけではなく、収支内訳書の虚偽記載に至るまでの納税者の行動のほか、税務調査に際して内容虚偽の資料の提出や税理士等に対する所得の秘匿等といった特段の行動も含めたところで証拠の保全に努め、原処分庁の主張し得る要素を増やし取消しの可能性を減殺していく必要がある。
 なお、上記の取消原因等の分析で課税庁が言及している「税務調査の際の内容虚偽の資料提出、税理士等に対する所得の隠蔽等」と最高裁平成7年判決、最高裁平成6年11月22日判決(以下「最高裁平成6年判決」という)の関係については、本誌725号4頁の特集記事を参照。

平成29年9月15日裁決は「過少申告行為そのもの」と指摘せず
 国税不服審判所の平成29年9月15日裁決は、本件従業員(請求人の行為と同視)が虚偽記載の収支内訳書に基づき確定申告書を作成し、提出し続けたことに「特段の行動」を認定し、重加算税の賦課要件を満たすと判断している(表2参照)。そこで、平成29年9月15日裁決が、平成27年7月1日裁決と異なる判断をしているのか疑問が生じるところだ。この点、平成29年9月15日裁決は、請求人の収支内訳書の虚偽記載に関して、①十数年もの長期にわたって過少申告したこと、②所得金額を調整するといった周到な準備を行ったことを指摘している。①「長期にわたる」過少申告については、最高裁平成6年判決、最高裁平成7年判決ともに、3年間(3箇年)にわたる過少申告が行われていた。また、平成28年9月30日裁決(本誌688号9頁参照)でも、請求人による少なくとも7年間にわたる過少申告が指摘されていた。

【表2】平成29年9月15日裁決(要旨)               (下線:編集部)
 請求人は、自らの税金や国民健康保険料を少なくするため、本件従業員と過少申告の意図を共有した上で、十数年もの長期にわたって、その具体的な方法は本件従業員に一任することにより、所得税等を過少に申告したものと認められ、他方、請求人から過少申告を一任された本件従業員は、収支内訳書に記載する収入金額のみならず必要経費の額を事実に反して減額することにより、事業所得の金額が200万円前後となるよう調整するといった周到な準備を行った上で虚偽の収入金額等を記載した収支内訳書に基づき所得税等の確定申告書を作成し、提出し続けていたものである。以上のことからすると、請求人は、当初から所得を過少に申告することを意図し、その意図を外部からもうかがい得る特段の行動をした上、その意図に基づいて所得税等の過少申告をしたものと認められるから、請求人のした過少申告行為は、重加算税の賦課要件を満たすものというべきである。

 ただし、平成27年7月1日裁決においても、請求人が継続して平成20年分~平成23年分の事業所得に係る総収入金額を意図的に過少申告していたことが認定されており、審判所は、継続的な過少申告とは別の「特段の行動」の有無について検討している。
 また、②「周到な準備を行った」については、最高裁平成6年判決が判示する「真実の所得金額を隠蔽しようという確定的な意図の下に、……所得金額を殊更過少に記載した内容虚偽の確定申告書を提出したことは、通則法68条1項に該当する」との関連も想起されるところだ。平成28年4月25日裁決(相続税の無申告事案)も、最高裁平成6年判決に基づく法令解釈として、「重加算税を課す場合、法定申告期限の前後を含む、外形的、客観的な事情を合わせ考えれば真実の相続財産を隠ぺいし、秘匿しようという確定的な意図、態勢の下に、計画的に納税申告書を提出しなかったときには、通則法第68条第2項が規定する場合に当たる」としている(下線は編集部)。
 ただし、平成29年9月15日裁決は、「特段の行動」の認定において、最高裁平成6年判決の判示内容には言及していない。
 平成29年9月15日裁決には、そのほか、平成27年7月1日裁決を踏まえたことをうかがわせる記述がないことから、今回の審判所の判断は、収支内訳書の虚偽記載を「過少申告行為そのもの」とする判断とは異なるものといえそうだ。

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