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解説記事2018年06月11日 【巻頭特集】 消費税「課税資産の譲渡等にのみ要するもの」の解釈(3)(2018年6月11日号・№742)

巻頭特集
緊急対談 朝長英樹税理士×森・濱田松本法律事務所大石篤史弁護士
既に仕入税額控除の否認が全国で数十件発生、訴訟に発展のケースも
消費税「課税資産の譲渡等にのみ要するもの」の解釈(3)

 前回は、消費税が定着した平成7年や9年においても、譲渡用住宅を一時期賃貸用に供する場合の仕入税額控除という一連の否認事例と全く同じ内容の事例について、税務当局が課税資産の譲渡等にのみ要する課税仕入れに該当するとの回答を行っていたという事実を明らかにするとともに、「課税資産の譲渡等にのみ要するもの」の解釈を初めて示したさいたま地裁判決でもその一部が引用されている平成24年の東京地裁判決についても検証した。
 さいたま地裁判決では、「課税資産の譲渡等にのみ要するもの」について「その対価の額が最終的に課税資産の譲渡等のコストに入るような課税仕入れ等だけをいう」と、納税者に有利な解釈が示される一方で、個別対応方式における課税仕入れの用途区分の判定基準について「客観的に判断するのが相当である」という東京地裁の判決の一部がそのまま引用されているが、前回検証したように、東京地裁では「課税資産の譲渡等にのみ要するもの」の解釈が示されたわけではなく、その適用方法(当てはめ)が示されたに過ぎない。それにもかかわらず、さいたま地裁判決では、東京地裁判決で示された適用方法を先に示した後で解釈を示すという、通常の「解釈⇒当てはめ」という流れとは逆の構成で判決文が書かれている。また、「課税資産の譲渡等にのみ要するもの」について初めて解釈を示しながらも、これを判断基準として判断を行ったところが全く見当たらない。
 今回は、このようなさいたま地裁判決を内容・構造の両面から詳しく分析し、このような判決文が書かれた背景・理由とともに、同判決が内包する矛盾点に迫る。

本対談の構成
1.適用条文の確認と本件課税の概要等(本誌739号掲載)
2.消費税法30条2項1号の創設時の解釈(本誌739号掲載)
3.本件課税前の「課税資産の譲渡等にのみ要するもの」の解釈(本誌740号掲載)
4.平成24年1月19日の国税不服審判所の裁決の解釈(本誌740号掲載)
5.平成24年9月7日の東京地裁判決の検証(本誌740号掲載)
6.平成25年6月26日のさいたま地裁判決の解釈(今号掲載)
7.「課税資産の譲渡等にのみ要するもの」の正しい解釈と当てはめの仕方の確認

6 平成25年6月26日のさいたま地裁判決の解釈

さいたま地裁判決では東京地裁判決の「当てはめ」の仕方に関する判示をそのまま借用
――平成25年6月26日のさいたま地方裁判所の判決については、どのようにお考えですか。
朝長 さいたま地裁の事件においては、被告(国)が準備書面(5)の「第3 個別対応方式における課税仕入れの用途区分の判定基準について」と題したところで先ほどの東京地裁の判決の中の「……客観的に判断するのが相当である」という部分をそのまま引用し、さいたま地裁も判決の「第3 当裁判所の判断」の「2 争点(1)(本件課税仕入れの目的)について」において「(1)課税仕入れの用途区分(法30条2項1号)の判断基準」と題したところでそのまま使っています。このさいたま地裁の判決の該当部分は、次のとおりとなっています。
ア 個別対応方式(法30条2項1号)により控除対象となる仕入税額を計算する場合には、当該課税仕入れが「課税資産の譲渡等にのみ要するもの」、「課税資産の譲渡以外の資産の譲渡等にのみ要するもの」又は「課税資産の譲渡等とその他の資産の譲渡等に共通して要するもの」のいずれに区分されるものかを明らかにする必要がある。
  仕入税額控除は、流通過程における税負担の累積を防止するため、一定の要件の下に、資産等の譲渡に係る税額から仕入税額を控除する制度であるが、法30条の規定に照らすと、仕入れた資産が、仕入日の属する課税期間中に譲渡されるとは限らないため、控除額の算定においては、仕入れと売上げの対応関係を切断し、当該資産の譲渡が実際に課税資産譲渡に該当したか否かを考慮することなく、仕入れた時点において、課税仕入れに当たるか否かを判断するものとしたと解される。
  このような制度趣旨にかんがみると、上記用途区分は、当該課税仕入れを行った日の状況等に基づき、当該課税仕入れをした事業者が有する目的、意図等諸般の事情を勘案し、事業者において行う将来の多様な取引のうちどのような取引に要するものであるかを客観的に判断すべきものと解するのが相当である。
イ 「課税資産の譲渡等にのみ要するもの」とは、課税資産の譲渡等を行うためにのみ必要な課税仕入れ等をいう。すなわち、直接、間接を問わず、また、実際に使用する時期を問わず、その対価の額が最終的に課税資産の譲渡等のコストに入るような課税仕入れ等だけをいうと解される。
 この「ア」と「イ」の判示の仕方からすると、この全体があたかも消費税法30条2項1号の「課税資産の譲渡等にのみ要するもの」の「解釈」であるかのように錯覚しがちですが、「ア」の最後の「このような制度趣旨にかんがみると……客観的に判断すべきものと解するのが相当である。」という部分は、「課税資産の譲渡等にのみ要するもの」の解釈、すなわち「課税資産の譲渡等にのみ要するもの」とは何か、ということを述べたものではなく、解釈の「当てはめ」の仕方、すなわち、解釈を事案に当てはめて課税仕入れがいずれの区分となるのかということを判断するに当たってその判断をどのように行うべきであるのか、ということを述べたものです。
 解釈の「当てはめ」の仕方は、本来は、「解釈」を述べた後で語るべきものです。


――「当てはめ」とは、「適用」と理解してよいのでしょうか。
朝長 はい。「「当てはめ」の仕方」とは、「適用の方法」と考えて頂いて結構です。
 『消費税一問一答集』の「最終的に課税資産の譲渡等のコストに入るような課税仕入れ等である」ということを述べているところの見出しは「「課税資産の譲渡等にのみ要する」ことの意味」となっており、それが「解釈」を示すことが明確です。これに対して、その解説において「合理的に区分を行うべきことを念のために明らかにしたものである」という説明がなされている消費税法基本通達11-2-18の見出しは「個別対応方式の適用方法」となっており、それが「課税資産の譲渡等にのみ要するもの」を含む部分の「適用」の方法を述べるものであることが明確です。
 法の「解釈」と「当てはめ」の違いは、正しく理解しておく必要があります。
 東京地裁の判決では、消費税法30条2項1号の「課税資産の譲渡等にのみ要するもの」の「解釈」は示されないまま、「適用」の場面に関する判示が行われている、ということです。
 そして、さいたま地裁判決では、東京地裁の判決の上記の引用部分を「(1)課税仕入れの用途区分(法30条2項1号)の判断基準」の「ア」で述べた後で、それに続けて、「イ」で消費税法30条2項1号の「課税資産の譲渡等にのみ要するもの」の「解釈」を述べています。
大石 朝長先生のご指摘のとおり、「ア」では、3つの用途区分のいずれに該当するかを判定するときに用いる当てはめの手法が示されており、「イ」では、3つの用途区分のうちの1つである「課税資産の譲渡等にのみ要するもの」とは何か、という解釈が端的に示されています。つまり、消費税法30条2項1号において、どのような要件を充足すれば「課税資産の譲渡等にのみ要するもの」に当たるのか―すなわち、何が要件事実か――ということをより端的に示しているのは、「ア」ではなく、「イ」であるといえるように思います。具体的には、「対価の額が最終的に課税資産の譲渡等のコストに入るような課税仕入れ等」という要件を充足すれば、「課税資産の譲渡等にのみ要するもの」に該当することを示したのが、「イ」であり、「ア」は、そのような要件に事実を当てはめる段階では、仕入れ時における事業者の「目的、意図等の諸般の事情」を勘案することを述べたものであると言えるように思います。
 「ア」は、先ほどご説明した東京地裁判決の「課税仕入れの区分の判断については、同号の文言等に即して、当該課税仕入れが行われた日の状況に基づいてその取引が事業者において行う将来の多様な取引のうちどのような取引に要するものであるかを客観的に判断すべき」という判示とほぼ同じ趣旨であると思いますが、さいたま地裁判決では、さらに、「事業者が有する目的、意図等諸般の事情を勘案」することが加えられています。
 先ほどから申し上げているとおり、居住用建物に関していえば、減価償却の有無を考慮すると、「イ」は、結局、仕入れ時において棚卸資産又は固定資産のいずれであったかによって結論が異なってくると考えておりまして、そうだとすると、最終的には、販売を目的とした資産であるか否か、という事業者すなわち事業者の主観(内心)によって、課税関係が決せられると思っているところです。そうすると、居住用建物の場合、事業者の「目的」は、本来、「イ」の中に直接取り込んでよい概念だと思っていますが、この判決は、「ア」の中でそれを勘案すると指摘するに留まっています。
 ただ、さいたま地裁の考え方と私の考え方は、大枠では同じであると思っておりまして、異なるのは、事業者の販売目的を「対価の額が最終的に課税資産の譲渡等のコストに入るような課税仕入れ等」という要件事実を認定するためのもろもろの間接事実―これは判決が言うところの「諸般の事情」ということになるかもしれません――の一つと捉えるか、それとも、さらに法文への解釈を加えた上で、より端的に「当該居住用建物が仕入れ時において販売を目的とした資産であること」を要件事実そのものであると整理してしまうか、という点だけかもしれません。
 いずれを要件事実として捉えるかという点は、事業者の販売目的を要件事実と間接事実のいずれに振り分けるかという法律上の技術的な話であって、本質的な話ではなく、各事案における事実を要件に当てはめる段階では、結局、同じ結論が導かれるのだと思っています。「対価の額が最終的に課税資産の譲渡等のコストに入るような課税仕入れ等」が要件事実であり、居住用建物の場合は、「当該居住用建物が仕入れ時において販売を目的とした資産であること」が、それを決定づける間接事実となると捉えてもよいし、より端的に、「仕入れ時において販売を目的とした資産であること」を、間接事実より一つ上のレベルの要件事実に格上げしてもよいのだと考えています。いずれのアプローチをとったとしても、最終的には、もろもろの事実や証拠から、「対価の額が最終的に課税資産の譲渡等のコストに入るような課税仕入れ等」に当たると認定できるか否かが勝負の分かれ目となってくると考えているところです。



「課税資産の譲渡等にのみ要するもの」の解釈に、根拠も示さずに「だけ」という文言を追加
朝長
 上記のさいたま地裁判決の「イ」に判示された解釈を『消費税一問一答集』などの解釈と比べてみると、「だけ」という文言が追加されていることが分かります。
――どうして「だけ」という文言を追加したのでしょうか。
朝長 さいたま地裁判決の事件の特殊性によるものと考えられます。この事件においては、原告(納税者)は、当初、マンションを「固定資産」として計上して減価償却を行っており、原告がマンションを売却しようとしていたことは間違いないものの、外形的に見れば、原告が自ら賃貸しようとしていたとも見える部分があったわけです。
 判決は、この外形的に見て原告(納税者)が自ら賃貸しようとしていたとも見えるところを捉えて、課税仕入れが「課税資産の譲渡等とその他の資産の譲渡等に共通して要するもの」に該当する、という判断を下しています。
 つまり、「だけ」という文言は、原告(納税者)が自ら賃貸しようとしていたとも見えることを理由にして「課税資産の譲渡等にのみ要するもの」に該当しないと判断することを強く正当化する、という意図を持って追加された、と考えられるわけです。
――事情が分からないまま判決を読むと、「だけ」という文言があるのが本来の解釈であるかのように勘違いしかねませんね。
朝長 この判示は、被告(国)の主張をそのまま書いたものです。
 被告(国)は、国税職員OBの税理士が著した『消費税「仕入税額控除制度」の改正とその実務』(税務研究会出版局、平成23年11月25日)という書籍の記述を証拠資料として提出し、準備書面(4)でその記述を引用して、「すなわち、「課税資産の譲渡等にのみ要する」課税仕入れとは、〔中略〕最終的に課税資産の譲渡等のコストに入るような課税仕入れ等だけをい」い(乙第25号証。和氣光著「消費税仕入税額控除制度の改正とその実務」104ページ)」と述べています。
 この準備書面(4)の記述を読むと、上記の書籍に「最終的に課税資産の譲渡等のコストに入るような課税仕入れ等だけをい」と記載されていると受け取ってしまうはずですが、上記の書籍の104頁には、「最終的に課税資産の譲渡等のコストに入るような課税仕入れ等のことです」と書かれており、最後の部分の「だけをい」という文言は、存在しません。
――他の書籍等から引用をする場合に鍵括弧を用いるのは、文言をそのまま引用するときですよね。こういう引用の仕方をしても良いのでしょうか?
朝長 良いわけがありません。
 被告(国)が行った引用の仕方に疑問が持たれることは、改めて言うまでもありませんが、裁判官に関しても、被告(国)の主張をチェックすることもせずにそのまま鵜呑みにしているだけなのではないか、という疑問を持たれることになると思います。
 消費税法30条2項1号も、「……要するもののみ」となっているわけではありませんので、「……課税仕入れ等だけ」という解釈は、正確な解釈とは言えません。
 ただし、「だけ」という文言を入れた影響が「印象」のレベルに止まるものでしかないということも、よく理解しておく必要があります。
 例えば、全体を「A」「AかつB」「B」の3つに分けて、「「A」とはaをいう」と解釈した場合と「「A」とはaだけをいう」と解釈した場合とで、解釈の内容が変わるかというと、全く変わりません。
大石 そうですね。私も、「だけ」という文言が加わったことによって、必ずしも判示内容が異なったという印象は受けていません。もともと、課税資産の譲渡等を行うために「のみ」必要な課税仕入れ等を指すと判示していたところであり、その「のみ」という限定を、「だけ」という文言でさらに加重するという趣旨までは読み取れないという気がします。
 ただ、さいたま地裁判決は、一つ一つの文言のニュアンスを、少しずつ少しずつ納税者に不利に変えているという印象はありますね。これは、「語感」に近い問題なのかもしれませんが、そのような変更の積み重ねが、最終的に納税者敗訴につながったという気もします。裁判を遂行するにあたっては、そのような観点を常に持ち、微妙な変更を許さないことが重要だと思います。
 いずれにせよ、本件では、朝長先生ご指摘のとおり、当初、居住用建物を「固定資産」として計上して減価償却を行っていた事案である点が、極めて重要だと考えています。仕入れ時において「固定資産」として計上されていた以上、私が先ほどからご説明してきたところに従えば、さいたま地裁の事案は「課税資産の譲渡等とその他の資産の譲渡等に共通して要するもの」に該当してしまう事案だった、ということかと思っています。先ほどの国税不服審判所の裁決は、居住用建物を棚卸資産として取得したという事案だったので、結論がおかしいように思われたのですが、さいたま地裁の方は、販売用の居住用建物ではあったものの、それを固定資産として取得したという事案なので、結論自体には特に違和感がないところです。
 もっとも、そのような結論を導くためには、本来、「イ」で示されている「対価の額が最終的に課税資産の譲渡等のコストに入るような課税仕入れ等」に当たるか否かというメルクマールを用いて、費用と収益の対応関係を検討するプロセスがあってしかるべきだったと思うのですが、残念ながら、この判決ではそのような検討が行われていません。
 「イ」で、せっかく、どのような要件を充足すれば「課税資産の譲渡等にのみ要するもの」に当たるのか―すなわち、何が要件事実か――を示しているにもかかわらず、その要件事実は、その後どこにも用いられず、宙に浮いたまま、判決文が終わってしまっています。要件事実を示した以上、そこに事実を当てはめるという作業は、やはり必要だったのではないかと思っています。
 一時的に賃貸することを想定しつつ販売用の居住用建物を取得した場合は、その事実関係に応じて、棚卸資産とすることもあるし、固定資産とすることもあると理解しています。裁判所としては、事実関係を踏まえて、それが棚卸資産であるか固定資産であるかをしっかり認定したうえで―多くの場合、納税者の申告どおりに認定されると思いますが、裁判所が別の認定をすることももちろんありえます――要件事実への当てはめを行って欲しかったところです。

判決が「解釈」と「当てはめ」の順序を逆転させた意図
朝長
 さいたま地裁判決の「(1)課税仕入れの用途区分(法30条2項1号)の判断基準」の判示の中で、「だけ」というところよりも疑問があるのは、上記の「ア」と「イ」の前後関係です。
 本来は、裁判所の判断は、適用法令の解釈を述べて、その後に、その解釈を事案に当てはめる、という順序となります。つまり、「解釈」が先にあって、「当てはめ」が後にある、という関係にならなければならないわけですが、さいたま地裁判決においては、それが反対になっています。「客観的に……」という「当てはめ」に関する判示が先にあって、「最終的に……」という「解釈」に関する判示が後になっているわけです。
――論理的には、「「A」とはaをいう」という解釈を述べた上で、「aに該当するのか否かは、……から判断する」というように、「当てはめ」に関する話を後にするのが本来の順序ですよね。「a」という解釈が出てこないと、何をどのように当てはめるのかということも、決まらないはずですから。
 何故、さいたま地裁判決では、その順序を逆にしているのでしょうか。
朝長 さいたま地裁判決を検証する場合には、その点が非常に重要になると考えています。
 「解釈」の話と「当てはめ」の話を本来の順序に戻すとすると、どのようなことが起こるのかというと、まず初めに「最終的に課税資産の譲渡等のコストに入るような課税仕入れ」であるのか否かということに焦点が当たることになります。
 被告(国)は、準備書面において、消費税法30条2項1号の「課税資産の譲渡等に要するもの」の解釈に何度も言及していますが、「最終的」という文言が存在する解釈を述べるようになったのは準備書面(4)の段階になってからです。準備書面(4)の段階になって、初めて、証拠資料として提出した先ほどの『消費税「仕入税額控除制度」の改正とその実務』の記述を引用して、「すなわち、「課税資産の譲渡等にのみ要する」課税仕入れとは、〔中略〕最終的に課税資産の譲渡等のコストに入るような課税仕入れ等だけをい」い(乙第25号証。和氣光著「消費税仕入税額控除制度の改正とその実務」104ページ)」と述べています。
――『消費税一問一答集』などにも書かれているわけですから、国税当局は、最初から知っていたはずですよね。しかも、自分達が持っている『消費税一問一答集』からではなく、市販の書籍から引用する形で解釈を述べている、ということですか……。
朝長 被告(国)は、準備書面(4)の段階になってから、初めてこのように述べると同時に、次のような主張を始めています。
納税者において課税資産を複数の用途に供する目的ないし予定等がある場合において、これらの目的等相互の主従やいずれが「最終的な」目的であるかによって左右されることはない。
 (第1、2(3))
 この被告(国)の準備書面(4)が提出されたのは平成25年1月10日ですが、その前の提出書面は被告(国)の準備書面(3)で平成24年7月25日に提出されています。この6ヶ月弱という非常に長い空白期間に何が行われていたのかという疑問が浮かんでくるわけですが、私は、裁判所と被告(国)との間で口頭の遣り取りがあった可能性があると考えています。税務訴訟における口頭弁論は、事実上、書面の遣り取りだけで、争点に関する遣り取りが行われないのが実態であるため、そのような状態で裁判を進めようとすると、どうしても書面に書かれていることを補ってもらう必要があるというものが出てくるはずです。このため、口頭弁論で書類の遣り取りに関する話だけしかしないという状態が続く限り、裁判所と被告(国)との間の口頭の遣り取りも行わざるを得なくなることがあると考えていますが、そのような遣り取りを行ったのであれば、その遣り取りを詳細に記録して原告(納税者)にも伝えるべきである、と考えています。
 このように、我が国の現在の税務訴訟に関しては、口頭弁論が本来のあり方から離れてしまっており、それが税務訴訟における法令解釈のレベルの低さの大きな原因の一つになっており、同時に、原告(納税者)の勝訴率の低さの大きな原因の一つともなっている、と考えているところです。
 話を元に戻しますと、被告(国)は、準備書面(3)を出した後に、何らかの事情により、原告(納税者)に先んじて「最終的に課税資産の譲渡等のコストに入るような課税仕入れ等のこと」という解釈を自ら持ち出した方がよいという判断に至ったものの、「最終的な」目的で「用途区分」の判断をするということになると、原告(納税者)に有利に働くことにならざるを得ないことから、「「最終的な」目的であるかによって左右されることはない」という解釈をセットにして主張することとした、と推測されます。
 被告(国)が準備書面(4)の段階になって初めて「最終的に課税資産の譲渡等のコストに入るような課税仕入れ等のこと」という解釈と「「最終的な」目的であるかによって左右されることはない」という解釈をセットにして主張するようになったという事実から、被告(国)にとっては、「最終的に課税資産の譲渡等のコストに入るような課税仕入れ等のこと」という解釈がウイークポイントになっている、ということが分かります。
 このような「最終的に課税資産の譲渡等のコストに入るような課税仕入れ等のこと」という解釈と「「最終的な」目的であるかによって左右されることはない」という解釈をセットにして主張するということは、準備書面(5)においてもそのまま引き継がれ、これが被告(国)の解釈の一番大きな特徴となっています。
――判決文においては、被告(国)の主張の部分でも、裁判所の判断の部分でも、「「最終的な」目的であるかによって左右されることはない」という記述は出てきませんよね。
朝長 何故そのような一番大きな特徴のある解釈が判決文に出てこないのかというと、裁判官がそのようなセットの解釈は理屈に合わないと考えたからだと推測されます。
 同じ条文について、「最終的に課税資産の譲渡等のコストに入るような課税仕入れ等のこと」という解釈と「「最終的な」目的であるかによって左右されることはない」という解釈とが同時に成り立つという主張が正しいと判断する人が一体何処に居るのでしょうか。
 裁判官としても、この二つの解釈に関しては、両方を採ることはできず、前者を採るしかないということは直ぐに分かったはずですが、後者を採らないとしたら、どうすれば良いのかということを思案したものと思われます。
 その思案の結果の一つが、先ほど申し上げた「解釈」に関する判示と「当てはめ」に関する判示の順序の逆転ということになっているものと推測しています。
 「客観的に判断する」という話を先に持ってきて強調すればするほど、「最終的に課税資産の譲渡等のコストに入るような課税仕入れ等のこと」という本来の解釈による判断をする前に、「課税資産の譲渡等にのみ要するもの」に該当しないという判断が正しいように見えてくることになり、初めから答が決まった状態にすることができるわけです。そうすれば、「最終的に課税資産の譲渡等のコストに入るような課税仕入れ等のこと」という解釈を書くとしても、その解釈を必ず判断に用いなければならないということにはならず、「「最終的な」目的であるかによって左右されることはない」ということを書く必要もなくなります。
 現実に、判決文は、「最終的に課税資産の譲渡等のコストに入るような課税仕入れ等」という解釈を示しているにもかかわらず、課税仕入れが「最終的に課税資産の譲渡等のコストに入るような課税仕入れ等」であるのか否かということを判断基準として判断を行った部分が1か所もありません。
 これは、明らかにおかしいわけです。
――「課税資産の譲渡等にのみ要するもの」とは「最終的に課税資産の譲渡等のコストに入るような課税仕入れ等」という解釈を示しながら、この事件の課税仕入れが「最終的に課税資産の譲渡等のコストに入るような課税仕入れ等」であるのか否かという判断は全く行わないで、「用途区分」について「客観的」な判断だけを行っている、ということですか。
大石 そうですね。先ほど申し上げたとおり、「対価の額が最終的に課税資産の譲渡等のコストに入るような課税仕入れ等」という要件を充足すれば、「課税資産の譲渡等にのみ要するもの」に該当することを示したのが、「イ」であり、「ア」は、そのような要件に事実を当てはめる段階では、仕入れ時における事業者の「目的、意図等の諸般の事情」を勘案することを述べたものであると言えると考えています。そして、「目的、意図等の諸般の事情」は、間接事実にあたると言えるのではないかと思います。
 論理的には、「ア」と「イ」のどちらが先であっても、判決文は書けるように思います。ただ、通常は「イ」の規範をしっかり示すのが当然先でしょうね。また、この判決は、要件事実である「イ」を指摘しておきながら、それを事実の当てはめに使わないまま終わらせているという点に、大きな問題があります。
 「ア」と「イ」の順序を逆にしてしまうと、「イ」への事実の当てはめを回避しにくかったという面があったのかもしれません。「イ」に事実を当てはめていこうとすれば、必然的に、「コスト」という概念にも、正面から向き合う必要が出てきたはずですが、そうしてしまうと、納税者敗訴の判決を書けなくなってしまう、と裁判所が考えた可能性はあります。

さいたま地裁判決も、「客観的」という用語の意味を都合よく替えて用いている
朝長
 さいたま地裁判決は、この「客観的」という用語を「外形的」という意味合いで用いているわけですが、これが「客観的」という用語の正しい使い方ではないということは、東京地裁判決のところで述べたとおりです。
 本来は、事業者が実際に持っていた最終的な目的がどのようなものであったのかということによって判断をしなければならないにもかかわらず、この判決は、「客観的」という用語を用いることによって、その判断を事業者が実際に持っていた最終的な目的にかかわりなく行うものであるかのごとく説明し、現にそのように判断をしています。
 つまり、「客観的」という用語は、事業者が実際に持っていた目的によって判断をしないようにするという意図を持って被告(国)の準備書面と裁判所の判決文に挿入されている、と言わざるを得ないわけです。
――東京地裁の事件において被告(国)が言い出したことを東京地裁がそのまま採用して判決文の中に判示として入れ、その判示をさいたま地裁の事件において被告(国)が引用し、さいたま地裁がその引用をそのまま使っている、ということですね。
朝長 そうです。
 しかし、さいたま地裁の事件においては、東京地裁の事件とは異なり、「最終的に課税資産の譲渡等のコストに入るような課税仕入れ等」という解釈が示されていますので、東京地裁の事件のとき以上に、「客観的」という用語を使うことの適否等を考えなければならない状況にあった、と言ってよいと考えています。
大石 裁判所は、「用途区分は、当該課税仕入れを行った日の状況等に基づき、当該課税仕入れをした事業者が有する目的、意図等諸般の事情を勘案し、事業者において行う将来の多様な取引のうちどのような取引に要するものであるかを客観的に判断すべき」として、たしかに「客観的な」という文言を判断基準において用いており、また、当てはめの中でも、「客観的な」という文言を何度か用いています。
 ここでいう「客観的な」という文言の意味ですが、裁判所としては、納税者の言いなりになって用途区分を認定するのではなく、「間接事実や証拠」を踏まえて、客観的に、要件事実―主観的な要素を含むことは何度も申し上げているとおりですが――を認定する必要がある、ということが言いたかったのかもしれませんね。「善意」「悪意」とか、「故意」「過失」とか、主観的な要件事実には様々なものがありますが、それらは納税者が自由に決められるものではなく、客観的な間接事実や証拠から、合理的な経験則を踏まえて認定されるべきものです。
 この判決は、「イ」において「対価の額が最終的に課税資産の譲渡等のコストに入るような課税仕入れ等」という要件事実を示しており、本当は、そこに、「販売目的の有無(=棚卸資産への該当性)」という決定的な間接事実を当てはめていく必要があったと考えているのですが、そのような検討が行われなかったことが残念でなりません。

判決は、「合理的」という用語を「客観的」という用語に差し替えて不適切な判断をしている ――判決では、「このような制度趣旨にかんがみると……客観的に判断すべきものと解するのが相当である。」と述べていますよね。「制度趣旨」からすると「客観的」に判断をしなければならないということにはならないのでしょうか?
朝長 判決では「制度趣旨」が次のように語られています。
法30条の規定に照らすと、仕入れた資産が、仕入日の属する課税期間中に譲渡されるとは限らないため、控除額の算定においては、仕入れと売上げの対応関係を切断し、当該資産の譲渡が実際に課税資産譲渡に該当したか否かを考慮することなく、仕入れた時点において、課税仕入れに当たるか否かを判断したものと解される。
 (第3、2(1)ア)
 仕入税額控除の制度は、ここで書かれているように、「仕入れた資産が、仕入日の属する課税期間中に譲渡されるとは限らない」ということに特に留意しながら創られたことは間違いないわけですが、ここで書かれていることは、「課税仕入れに当たるか否か」についての「判断」のことであって、「用途区分」の「判断」のことではありません。
 よく読んで頂くと分かるとおり、ここで書かれていることから導かれることは、仕入れた時点において事業者が持っていた目的によって割り切って判断する必要があるということであって、事業者の目的を外形的に捉えて判断する必要があるということではありません。
 例えば、『消費税一問一答集』には「税額控除等」として133件の取扱い例が示されていますが、その中には、「合理的」という用語を用いて取扱いを説明したものが6件もある一方で、「客観的」という用語を用いて取扱いを説明したものは、1件もありません。
 ところが、東京地裁判決とさいたま地裁判決においては、「合理的」という用語は全く用いずに、「客観的」という用語を強調して用いて各所で「課税資産の譲渡等にのみ要するもの」には該当しないという判断を行っています。
 私が確認したところでは、東京地裁判決の前に、国税当局やその現職の職員又はOBが著したものの中に、「客観的」という用語を用いて仕入税額控除の取扱いを説明したものは、全く存在しません。
 これらの事実を見ただけでも、東京地裁判決とさいたま地裁判決において「客観的」という用語を用いて判断を行っていることには疑問がある、ということが分かるはずです。
――東京地裁判決から突然「客観的」という用語が出てきて強調され始めたのは何故かという疑問を持たざるを得ないわけですね。
朝長 そうです。
 昭和63年12月に制定された消費税法取扱通達11-1-25においては、その見出しのとおり「仕入税額控除方式の適用関係」が定められていましたが、そこでは、次のとおり、「合理的に区分する必要があるのであるから留意する。」とされていました。

>(仕入税額控除方式の適用関係)
11-1-25 法第30条第2項第1号《個別対応方式による仕入税額控除》に規定する方法(以下11-1-26までにおいて「個別対応方式」という。)により課税仕入れ等の税額を計算する場合において、その課税期間中において行つた課税仕入れ等については、必ず課税資産の譲渡等にのみ要するもの、その他の資産の譲渡等にのみ要するもの及び課税資産の譲渡等とその他の資産の譲渡等に共通して要するものとに合理的に区分する必要があるのであるから留意する。

 この消費税法取扱通達11-1-25は、現在、先ほど述べた消費税法基本通達11-2-18(個別対応方式の適用方法)となっており、そこでは、上記の「合理的に区分する必要があるのであるから留意する。」という部分は「区分しなければならない。」と変わっており、「合理的」という用語は「留意」という用語とともに消えているわけですが、同通達の解説では、「本通達は、〔中略〕合理的に区分を行うべきことを念のため明らかにしたものである。」(三宮修編『消費税法基本通達逐条解説』573頁、大蔵財務協会、平成19年6月27日)と述べられています。
――なるほど。「用途区分」は、制度の趣旨からすると、「客観的」に行わなければならないということではなく、「合理的」に行わなければならないということが明確なわけですね。
朝長 そうです。

 先に引用したさいたま地裁の判決の「ア」の「このような制度趣旨にかんがみると、上記用途区分は、〔中略〕客観的に判断すべきものと解するのが相当である。」という部分と、上記の消費税法取扱通達11-1-25とを並べて見てみると、いずれも「用途区分」の仕方を述べていることが分かりますが、消費税法30条2項1号の「用途区分」について、通達では「合理的」に行わなければならないとされており、一方、判決では「客観的」に行わなければならないとされています。
 つまり、判決は、「合理的」という用語を削除し、「客観的」という用語を新たに挿入することにより、「合理的」という用語を「客観的」という用語に差し替えているわけです。
 これをもう少し正確に言えば、「合理的」という用語と「客観的」という用語は、使い方が異なり、「合理的」という用語は「合理的に区分する」や「用途区分は合理的に行う」というように使うべきもので、「客観的」という用語は「……に該当するのか否かを客観的に判断する」というように使うべきものですから、判決は、「合理的に区分する」や「用途区分は合理的に行う」という話をしなくなり、一方で、「……に該当するのか否かを客観的に判断する」という話だけをするようになった、ということです。
 「合理的に区分する」や「用途区分は合理的に行う」という話をしないことでどうなるのかというと、「最終的な事業者の目的」の如何によって「用途区分」を行うのが「合理的」であるということを確認する場がなくなる、ということになります。
 上記の消費税法取扱通達11-1-25等で「合理的」という用語を用いて述べられていることは、「用途区分は合理的に行う」ということでなければならないということです。「用途区分は合理的に行う」ということになると、「2 消費税法30条2項1号の創設時の解釈」(本誌739号17~21ページ)において、「課税資産の譲渡等にのみ要するもの」と「その他の資産の譲渡等にのみ要するもの」の双方について、立法の観点や国税庁が示した解説等から確認したように、「用途区分」は「最終的な事業者の目的」によって行うべきである、ということになるわけです。
――「課税資産の譲渡等にのみ要するもの」や「その他の資産の譲渡等にのみ要するもの」の解釈からすると、「最終的な事業者の目的」の如何によって「用途区分」を行うのが「合理的」であるということになるが、それを確認することができなくなる、ということですね。
朝長 そうです。
 「5 平成24年9月7日の東京地裁判決の検証」において、何故「合理的」という用語を削ったのかということが重要であると述べましたが(本誌740号13ページ)、「合理的」という用語を削るということは、即ち、「用途区分」は「最終的な事業者の目的」によって行うべきものであるという話を削る、ということを意味しているわけです。平成24年9月7日の東京地裁判決においては、「用途区分」は「最終的な事業者の目的」によって行うべきものであるということが全く語られていませんし、さいたま地裁判決においても、「すなわち、直接、間接を問わず、また、実際に使用する時期を問わず、その対価の額が最終的に課税資産の譲渡等のコストに入るような課税仕入れ等だけをいうと解される。」という記述はあるものの、単に被告(国)が準備書面で書いたことをそのまま写しているだけで、「用途区分」は「最終的な事業者の目的」によって行うべきものであるという話は、事実上、全く語られていない状態となっています。
 消費税法取扱通達11-1-25等には、「用途区分」を「合理的」に行うということがどのようなことかということについて、「合理的」ではない「用途区分」の非常に初歩的な例が1つだけ挙げられている(消費税法基本通達11-2-18)のみで、詳しいことは書かれていないわけですが、「2 消費税法30条2項1号の創設時の解釈」のところで述べたとおり、立法の観点からしても「用途区分」は「最終的な事業者の目的」によって行うべきものであると考えられるわけですし、『消費税一問一答集』や取扱事例においても、「その他の資産の譲渡等にのみ要するもの」の区分を含めて、現にそのようになっているわけですから、このような事情を踏まえると、やや判断が難しいマンションの取得と譲渡を行う事業者の仕入税額控除における「用途区分」を行うに当たっては、「用途区分」を「合理的」に行うということの意味を一歩踏み込んで確認することが必須であった、と考えられます。
――「課税資産の譲渡等にのみ要するもの」とは「最終的に課税資産の譲渡等のコストに入るような課税仕入れ等」と解釈をするべきであるとされているわけですから、その解釈によるとすれば、「最終的な事業者の目的」によって「用途区分」を行う必要があり、それが「合理的」な「適用」の仕方ということになる、ということですね。
朝長 そういうことです。
 平成24年9月7日の東京地裁判決とさいたま地裁判決は、『消費税一問一答集』の中の「「課税資産の譲渡等にのみ要する」ことの意味」というところで書かれていること、即ち、消費税法30条2項1号の「課税資産の譲渡等にのみ要するもの」の「解釈」に関して、十分に語っていない、と考えられるわけですが、それだけではなく、消費税法基本通達11-2-18において「個別対応方式の適用方法」として書かれていること、即ち、その「解釈」の「適用」に関しても、深く語っていない、ということです。
 繰り返しになりますが、『消費税一問一答集』や取扱事例においては、「課税資産の譲渡等にのみ要するもの」や「その他の資産の譲渡等にのみ要するもの」に該当するのか否かという疑問が湧くものについては、現に、「最終的」や「将来的」という用語と「目的」や「使用目的」という用語を用いて用途の区分が行われているわけですから、個別対応方式を適用するに当たって、「合理的」に用途を区分するということがどのようなことであるのかということを少し深めて確認しさえすれば、それだけでも、東京地裁とさいたま地裁のケースは、結論が変わった可能性がないとは言えない、と考えています。
――「制度趣旨にかんがみると〔中略〕客観的に判断すべきものと解するのが相当である。」と言われると、それはそうだろうな、と思って特に違和感を覚えることもなく読み進んでしまいがちですが、実はそこには大きな問題が潜んでいたというわけですか。
朝長 先ほど申し上げたように、「客観的」という用語は、本来は、「「課税資産の譲渡等にのみ要するもの」とは、……をいう」というような解釈があって、その「……」に該当するのか否かを「客観的に判断する」というような使い方をすることになるわけですが、さいたま地裁判決においても、東京地裁判決と同様に、その解釈が適切に語られていないために、「客観的」に判断するべきものを誤り、「外形的」に判断することとなっている、ということです。
 さいたま地裁の判決文においては、先ほど申し上げたように、「したがって、本件マンションの取得の用途区分は、同日の状況に基づいて客観的に判断すべきこととなる。」と述べた上で、「客観的」という用語を用いて4か所で判断を行っています。この「客観的」という用語を用いて判断を行っている4か所について「客観的」という用語を「外形的」という用語に置き換えてみると、「外形的には、本件課税仕入れ時には、同契約は存続していたといわざるを得ない」「外形的に見て、本件マンションを販売する又はその信託受益権を譲渡する目的で取得したということは否定できない」「外形的にみて、本件マンションを住宅として貸し付ける目的で取得したと認めるのが相当である」「外形的にみて、賃貸のための行動であることが明らか」というように、何らおかしくない内容の文章となります。
 消費税法30条2項1号の「課税資産の譲渡等にのみ要するもの」に該当するのか否かということは、「最終的な事業者の目的」という事業者の主観(内心)を判断するものですから、事業者の主観(内心)とは関係なく「外形的」に判断をするなどということはできないわけですが、さいたま地裁の判決は、現実には、そういうことになっているわけです。
 このような判断は、「用途区分」の正しい判断とは言えません。
 この点に関しては、また最後の「7 「課税資産の譲渡等にのみ要するもの」の正しい解釈と当てはめの仕方の確認」のところで具体的に述べることとします。
――なるほど。一見、当たり前と誤解しがちな「客観的」という用語を用いることによって牽強付会な判断をしていると言われても仕方がない、ということですね。
朝長 そうです。
 国税当局が税法の解釈を正当な根拠もなく改変して手のひらを返したような課税を始めるなどということは、許されることではありませんし、裁判所が結論を先に決めてその結論に合うように解釈を都合よく改変して判示するなどということも、あってはならないことです。
 東京地裁の判決とその後のさいたま地裁の判決の中に、「客観的」という用語や「だけ」という文言が入ってきた状況をよく観察すると、法令の正しい解釈が裁判を経るごとに歪められていく、ということがよく分かります。このような現象は、法人税法132条(同族会社等の行為又は計算の否認)の解釈などにも見られるもので、決して珍しいことではありませんが、本来、あってはならないことです。
 そういう意味でも、本件の課税問題において、歪められつつある消費税法30条2項1号の「課税資産の譲渡等にのみ要するもの」の解釈を正しいものに戻すことには、大きな意義がある、と考えています。
大石 判決が言うところの「客観的」という文言の意味にもよりますね。「対価の額が最終的に課税資産の譲渡等のコストに入るような課税仕入れ等」であること、という要件事実―居住用建物の場合、これは「販売を目的とした資産であること(=棚卸資産に該当すること)」と実質的に同義であると考えていることは、繰り返しお話しているとおりですが――を構成する納税者の「主観」(目的)を無視するという趣旨であれば大問題ですが、そうではなく、要件事実を間接事実と証拠から「客観的」に認定する必要がある、ということを言っているだけかもしれません。そのような認定は、当然のことながら、経験則を踏まえて「合理的」に行う必要がありますので、そのような整理によるのであれば、「客観的」という文言と、「合理的」という文言に、それほど大きな乖離はないのかもしれません。
 ただ、ここでも、さいたま地裁判決が、一つ一つの文言のニュアンスを、少しずつ少しずつ納税者に不利に変えているのではないか、という印象を受けます。朝長先生のおっしゃるように、「合理的」という言葉が「客観的」に差し替えられ、さらに「客観的」が「外形的」という意味に用いられることにより、納税者の主観を無視ないし軽視することを正当化するためのロジックとして用いられているとすれば大問題ですね。そのような変更の積み重ねが、納税者敗訴につながった面はあるかもしれません。
 ここでのポイントは、「対価の額が最終的に課税資産の譲渡等のコストに入るような課税仕入れ等」という要件事実は、一見すると、事業者の主観(内心)に着眼していないように見えるものの、居住用建物の場合、結局は、棚卸資産に該当する販売用不動産(=販売を目的とした資産)と、固定資産に該当する販売用不動産(=それ以外の資産)とのいずれに区分されるかによって、結論が異なってくるということではないかと思っています。結局、事業者の主観(内心)が結論を分けるということだと思います。



判決は十分な情報がない状態で被告(国)の主張を追認したもの ――さいたま地裁の裁判では、『消費税一問一答集』などが証拠資料として提出されているのでしょうか。
朝長 いいえ。
 さいたま地裁の裁判では、消費税法30条2項1号の「課税資産の譲渡等にのみ要するもの」の解釈に関する資料として提出されているものは、先ほどの『消費税「仕入税額控除制度」の改正とその実務』と『消費税法基本通達逐条解説』くらいです。
――本日教えて頂いたような情報があるのか否かで、「課税資産の譲渡等にのみ要するもの」の解釈も、また、課税の適否の判断も、全く違ってきますよね。
朝長 さいたま地裁の事件も、十分な情報が提出されていれば、解釈の当てはめの部分と課税の適否の判断とが変わっていた可能性があるのではないかと思われます。
 国税当局だけが大量の情報を持ち、一方で、納税者が乏しい情報しか得られないという状態が続く限り、問題の根本的な解決は難しいということだと思います。
大石 先ほどご説明のあった平成7年や平成9年当時の情報などは、一般的にアクセスが容易でない情報です。税務訴訟では、課税庁側のみに情報が偏在していることが多く、納税者側が不利な戦いを強いられることがあるのは事実ですね。実際に、税務訴訟の中で文書提出命令を申し立てたものの、裁判所に認められなかったという経験もあります。本来は、立法上の手当により、情報の偏在が解消されればよいのですが、当面は、情報公開法に基づく開示請求や、民事訴訟法に基づく文書提出命令の申立てなどの策を講じていくしかないかもしれません。

「課税資産の譲渡等にのみ要するもの」=「最終的に課税資産の譲渡等のコストに入るようなもの」を再確認した点は評価すべき
朝長
 さいたま地裁の判決は、このようなさまざまな問題があるものの、消費税法30条2項1号の「課税資産の譲渡等にのみ要するもの」が「最終的に課税資産の譲渡等のコストに入るようなもの」であるという解釈を司法が初めて正しいと判断したという点では、評価するべきものとなっています。
――この点はかつての国税当局の主張に沿っていますね。
大石 そうですね。要件事実を定立したという意味において、ご指摘の点は、国税不服審判所の裁決と比較すると、大きな前進といえるように思います。これは、消費税法であっても、費用と収益の対応関係を判定する、という国税庁の考え方を裁判所が明示的に取り入れたものであり、重要な意義があると思っています。ただ、要件事実を定立しておきながら、その当てはめを行っていないという点は、やはり残念です。
――時代が変わると解釈が変わることがあっても止むを得ないのかもしれないという想いが頭の片隅にあったのですが、こうしてお話を聞きすると、そういう問題ではないですね。
朝長 法は生きた現実に適用されるものですから、法の解釈は、時代と共に変わることがあるわけですが、当然のことながら、改正が行われない限り、解釈は変わりようがないというものもあります。
 本件で問題となっているのは、事業者の目的が何かということによって取扱いを変えるという規定の解釈ですから、その規定が適用されることになる現実がどのように変わったとしても、その解釈は、その規定の改正が行われない限り、変わりようがありません。つまり、本件で問題となっている消費税法30条2項1号の「課税資産の譲渡等にのみ要するもの」の解釈は、「時代が変われば解釈も変わる」というような類のものではない、ということです。
大石 まったくおっしゃるとおりかと思います。
(第4回に続く)

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