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解説記事2018年09月10日 【特別解説】 「収益認識に関する会計基準等への対応」として平成30年度に行われた税法・通達改正の検証(5)(2018年9月10日号・№754)

特別解説
「収益認識に関する会計基準等への対応」として平成30年度に行われた税法・通達改正の検証(5)
 日本税制研究所 代表理事 税理士 朝長英樹

 前回は、財務省『平成30年度 税制改正の解説』の「3 改正の内容」の中の「(6)公正処理基準と別段の定めとの関係の明確化」において記述されている法人税法22条4項の改正理由、そして、同解説の「2 改正の趣旨」の中の「(3)収益の額を益金の額に算入する時期」に記述されている22条の2第1項から第3項までの創設理由について、それらの記述を確認しながら詳細に検証を行い、その改正理由と創設理由には少なからず疑義があること、それらの改正を行う必要は全くなかったのではないかということ等を確認した。
 第5回目となる今回は、『平成30年度 税制改正の解説』の説明の検証の後半となる。

Ⅲ 財務省『平成30年度税制改正の解説』の説明の検証(承前)

3 「(2)収益の額として益金の額に算入する金額」(「2 改正の趣旨」)の説明の検証
 「2 改正の趣旨」の中の「(2)収益の額として益金の額に算入する金額」(270頁)においては、収益認識すべき金額を定めた22条の2第4項と第5項を創設した趣旨について、「(3)収益の額を益金の額に算入する時期」における説明と同様に、平成5年11月25日の最高裁判決を冒頭に挙げて説明を行っている。
(1)平成5年11月25日の最高裁判決  「(2)収益の額として益金の額に算入する金額」の冒頭において引用されている平成5年11月25日の最高裁判決の引用部分は、次のとおりである。
 法人税法22条4項は、現に法人のした利益計算が法人税法の企図する公平な所得計算という要請に反するものでない限り、課税所得の計算上もこれを是認するのが相当であるとの見地から、収益を一般に公正妥当と認められる会計処理の基準に従って計上すべきものと定めたものと解される
 「(2)収益の額として益金の額に算入する金額」においては、この平成5年11月25日の最高裁判決の上記引用の部分が益金の額に算入する「金額」の「計算」に関する判示であるという前提で説明を行っており、上記引用の後には、「どのような会計原則・会計基準・会計慣行のどの取扱いに基づく会計処理が「一般に公正妥当と認められる会計処理の基準」に従った計算に該当するかという点については、……」と述べている。
 しかし、上記引用は、益金の額に算入する金額の「計算」や「金額」に関する判示ではなく、益金の額に算入する金額の認識の「時期」に関する判示である。
 平成5年11月25日の最高裁判決においては、上記の引用部分に続けて、次のように述べられている。
 〔……と解される〕から、右の権利の確定時期に関する会計処理を、法律上どの時点で権利の行使が可能となるかという基準を唯一の基準としてしなければならないとするのは相当でなく、〔後略〕
 このように、平成5年11月25日の最高裁判決の上記引用の最後の「……計上すべきものと定めたものと解される」という部分は、その後に続く文章を読めば、「金額」の「計算」について解釈を示しているわけではなく、「計上」の「時期」について解釈を示しているものであることが明確である。
 そもそも、この平成5年11月25日の最高裁判決の事件においては、収益の額として益金の額に算入する「金額」が争点となっているわけではなく、収益の額として益金の額に算入する「時期」が争点となっているため、「金額」については、法解釈を示す必要がない。
 確かに、22条4項は、その文言からも明らかなとおり、「計上」の「時期」に関する定めではなく、「金額」の「計算」に関する定めであるわけであるが(注)、しかし、「時期」について述べた判決の一部を切り取って「金額」の説明に用いるということに関しては、適当ではない、と言わざるを得ない。
(注)本稿のⅢ2(1)(本誌2018.9.3号22頁)において述べたとおり、この事件においては、国側が第一審で22条4項について「法人所得の計算についても発生主義すなわち、財貨の移転や役務の提供などによって債権が確定したときに収益が発生するとする権利確定主義が妥当する。」という解釈を主張し、最高裁も同項が収益の額の「計上」の「時期」についても定めていると解釈する状態となっている。

(2)改正前の状態の認識  「(2)収益の額として益金の額に算入する金額」においては、平成5年11月25日の最高裁判決を引用した後、次のように、「収益認識に関する会計基準」に基づく会計処理も22条4項の「一般に公正妥当と認められる会計処理の基準」に従った計算に該当すると述べている。
 収益認識に関する会計基準に基づく会計処理も、「一般に公正妥当と認められる会計処理の基準」に従った計算に該当し得ると考えられます。
 そして、このような理解に基づき、次のように述べている。
 したがって、収益認識に関する会計基準に従った収益の額の計算のうち、法人税の所得の金額の計算として認めるべきでない部分があれば、その部分を明示する必要が生ずることとなります。
 これらの2つの記述は、22条4項の理解を誤ったものであることが明確である。
 例えば、今回の税制改正によって廃止された返品調整引当金は、中小法人の会計処理としては、従前どおり、計上を行うことができるわけであり、そのようにして計上される返品調整引当金は、税法に存在しない他の引当金や準備金などと同様に、「一般に公正妥当と認められる会計処理の基準」に従ったものであるわけであるが、その廃止に伴い、「法人税の所得の金額の計算として認めるべきでない部分」を「明示する必要が生ずる」などということになっているわけではない。
 仮に、そのように解されていたとすれば、法人税法は、「一般に公正妥当と認められる会計処理の基準」とされるものが変わる度に改正が必要となって、膨大な量となっていたはずである。
 また、「(2)収益の額として益金の額に算入する金額」においては、譲渡時における資産の適正な価額に相当する収益があると認識するという考え方が採られていると述べた上で、次のように述べている。
 この考え方からすると、法人税法においては、収益認識に関する会計基準のように対価の額を基礎として益金の額を計算することは、方法として採用できません。一方、法人税法において「価額」すなわち時価とは、一般的には第三者間で取引されたとした場合に通常付される価額とされており、これは結局のところ対価の額となります。また、第三者間取引における値引きや割戻しは、取引対象資産の時価をより正確に反映するための手続きと考えることができます。
 この引用部分は、次の22条の2第4項(再掲)の説明となっている。
4 内国法人の各事業年度の資産の販売等に係る収益の額として第1項又は第2項の規定により当該事業年度の所得の金額の計算上益金の額に算入する金額は、別段の定め(前条第4項を除く。)があるものを除き、その販売若しくは譲渡をした資産の引渡しの時における価額又はその提供をした役務につき通常得べき対価の額に相当する金額とする。
 
 上記の説明の前半の文章は、法人税法における「価額」が価額であると述べているのか、あるいは、対価の額であると述べているのかということが分からないわけであるが、22条の2第4項も、「価額」という用語と「対価の額」という用語の両方が用いられており、上記の説明の前半の文章と同項は、いずれも、何故、このような使分けがなされているのかということが明らかではない。つまり、譲渡をした資産についても「通常得べき対価の額」としない理由は何か、提供をした役務について「……時における価額」としない理由は何かということが不明である、ということである。
 また、上記の説明の後半の文章には、「値引きや割戻し」について、「時価をより正確に反映するための手続きと考えることができ〔る〕」と述べられているわけであるが、22条の2第4項には、「値引きや割戻し」に関する文言が全く存在せず、この文章に記述された内容で解釈する根拠となり得るものが全く何も見受けられない。
 従前は、「割戻し」の取扱いに関しては、法人税基本通達2-5-1(売上割戻しの計上時期)が設けられており、そこでは、「債務」が「確定」をしたか否かで計上の要否を判定するという考え方が採られており、具体的には、「通知」又は「支払」をした事業年度において計上するものとされていた(小原一博編著『法人税基本通達逐条解説〔八訂版〕』税務研究会出版局、347頁)。このように、「売上割戻し」を「収益の額」から控除すべきか、あるいは、「売上割戻し」を「原価の額」等とすべきかということに関しては、従前は、後者に近い解釈が採られていた。
 しかし、上記の説明の後半の文章では、「値引きや割戻し」について、「時価をより正確に反映するための手続きと考えることができ〔る〕」と述べて、22条の2第4項の「価額」又は「対価の額」から控除するべきであるという考え方が示されている。
 そして、従前の法人税基本通達2-5-1の内容を改正して新たに定めた2-1-1の11(変動対価)において、「収益認識に関する会計基準」の適用対象となる(筆者注:「適用対象となった」ではない。)「資産の販売等」に係る契約の「対価」について、上記の説明の後半の文章にあるように、「価額」や「対価の額」に「反映するものとする」という解釈が示されている。
 このような説明と解釈に関しては、次のような疑義が生じてくる。
ⅰ 「値引き」や「割戻し」は、「売上」が「取引」であるように、それらも「売上」の金額を減少させる「値引き」や「割戻し」という名称の「取引」であって、「手続き」ではない。
ⅱ 「値引き」や「割戻し」があるということは、それ以前に「売上」があるということであるが、その「値引き」や「割戻し」が正常であるのであれば、それ以前の「売上」も正常に「正確」な「時価」で行われていたはずである。
ⅲ 「収益」のマイナスであるのか、「原価」等であるのかという、益金と損金の性質の判断は、22条の解釈として行うべきことであって、22条の2第4項の解釈として行うべきことではない。
ⅳ 法人税法において、「収益認識に関する会計基準」の適用対象となる「資産の販売等」に係る契約の「対価」についてだけ、「値引き」や「割戻し」を「時価をより正確に反映するための手続き」と考えるべき理由はない。
ⅴ 「客観的に見積もられた」(271頁)「値引き」や「割戻し」の額を益金算入しないことを認めるよりも、「特約に基づく買戻しの実績を基礎として政令で定めるところにより計算した金額」(返品調整引当金の損金算入を定めていた旧法法53①)の損金算入を認める方が、「不確実な費用又は損失の見積り計上は極力抑制すべき」(272頁)という観点からすれば、適切である、と考えられる。 
 本稿のⅡ2(4)(本誌2018.8.13号24頁)においては、資産の販売又は譲渡に係る「収益の額」とすべき資産の「時価」に関して、「約定時(取引が成立した時)」の価額とすべきであって、「資産の引渡しの時における価額」としていることは誤りであるということを指摘しておいたが、「(2)収益の額として益金の額に算入する金額」においては、この点に関する説明は全くなされていない。
 また、「(2)収益の額として益金の額に算入する金額」においては、上記の説明に続けて、次のように述べている。
 ただし、対価の回収が見込まれないことや返品権付きの販売であることを収益の額の算定上考慮することは、譲渡した資産の時価そのものを正確に反映するための手続きではなく、別の要因により対価の額を全額受け取ることができないことを評価しているものであると考えられます。
 この説明は、「時価」のことを語っているわけであるが、「時価」は、あらゆる要素を反映した価額として決まるものであって、「対価の額を全額受け取ることができない」という事情があれば、当然、その事情を反映した価額となる。
 22条の2第5項が誤っていることに関しては、既に本稿のⅡ2(5)(本誌2018.8.13号25頁)において述べているため、この部分に関する検証は、これに止めるものとする。
 また、「(2)収益の額として益金の額に算入する金額」においては、平成7年12月19日の最高裁判決の22条2項の解釈に関する次の部分を引用し、22条の2第4項に関して、「最高裁平成7年12月19日判決の趣旨が法令上明確化され〔た〕」と述べている。

 この規定は、法人が資産を他に譲渡する場合には、その譲渡が代金の受入れその他資産の増加を来すべき反対給付を伴わないものであっても、譲渡時における資産の適正な価額に相当する収益があると認識すべきものであることを明らかにしたものと解される
 しかし、「反対給付を伴わないものであっても、譲渡時における資産の適正な価額に相当する収益があると認識すべき」であるということは、22条2項で「無償による資産の譲渡又は役務の提供」や「無償による資産の譲受け」というように具体的に定めて、既に、22条の2第4項より以上に「明確化」が済んでいる、と言ってよい。
 また、「(2)収益の額として益金の額に算入する金額」においては、次のように述べている。
 収益認識に関する会計基準のうち対価の回収可能性や返品の可能性を法人税の所得の金額の計算における収益の額の算定上考慮することを排除するため、収益の額として益金の額に算入する金額に関する通則的な規定が設けられました。
 この説明から、22条4項が2項や3項のような「創設的、強制的規定」ではなく、「一般に公正妥当と認められる会計処理の基準」を「尊重」するべきであるという「計算心得を宣言、確認する規定」であるということを正しく理解せずに、22条の2第5項が創られた、ということがよく分かる。
 以上が「(2)収益の額として益金の額に算入する金額」の説明の検証ということになるが、この説明は、22条の2第4項及び第5項について、本稿のⅡ2(4)及び(5)(本誌2018.8.13号24・25頁)で指摘したこれらの項の疑問――第4項に関しては、「資産の引渡しの時における価額」と規定したのは誤りであり、「通常得べき対価の額」によって「収益の額」を認識するということであれば誰もが既に分かっていることであってわざわざ法律の条項を創る必要はないということ、第5項に関しては、本来は設けてはならない内容の規定を設けたという状態になっているということ――に答えるものとはなっていないだけでなく、なお一層、疑義を募らせるものとなっていると言わざるを得ない。
 本稿のⅢ2(3)(本誌2018.9.3号24頁)においても確認したとおり、今回の改正は、「収益の額として益金の額に算入する金額」に関する改正が必要であったこと、即ち、22条の2第4項と第5項を創設する必要があったことに、その改正理由があった、と説明されているわけであるが、しかし、これらの項は創設する必要がなかったり創設してはならなかったりするという状態にあり、しかも、それらの創設の説明にも疑義があるというのでは、無用な「税制複雑化」の改正ということになってしまっているのではないのか、という声が上がっても止むを得ないものと考えられる。

4 「(1)収益の額を益金の額に算入する時期」(「3 改正の内容」)の説明の検証  「3 改正の内容」の中の「(1)収益の額を益金の額に算入する時期」(273頁)においては、22条の2第1項から第3項までに規定したことについて、内容が説明されている。
 この22条の2第1項から第3項までに関しては、既に本稿のⅡ2(1)(3)(本誌2018.8.13号16頁)において内容の確認と検証を行っているため、以下、4においては、「(1)収益の額を益金の額に算入する時期」における説明の中で、注目しておく必要がある部分のみを取り上げて検証を行うこととする。
(1)「① 原則」で述べられていることについて  「① 原則」(273頁)においては、22条の2第1項に定めた収益認識の時期について説明して、「明確化されました」と述べている。
 しかし、22条の2第1項は、22条2項において「当該事業年度の収益の額とする」と定められている収益認識の時期について、本来は通達や解説で示すべき「解釈」を法律の条文にして並べたものであり、しかも、その内容は、役務の提供に係る収益の額について、従前の「完了基準」を「提供基準」に変更して収益認識の時期を早めている。
 このため、22条の2第1項は、「明確化」の規定ではなく、本来は、既に22条2項で定められて法人税基本通達において解釈が示されていた「引渡基準」を法律に条文にして22条に並べた理由、そして、役務の提供に関する収益の額の認識時期を「完了基準」から「提供基準」に変更して収益認識の時期を早めた理由を明確に説明する必要がある。
 また、「① 原則」の注2においては、22条の2第1項の「別段の定め」が具体的には61条(短期売買商品の譲渡損益及び時価評価損益)、61条の2(有価証券の譲渡益又は譲渡損の益金又は損金算入)、62条の5第2項(現物分配による資産の譲渡)などであると述べているが、この解釈にも疑義がある。
 22条の2第1項においては、「別段の定め」がある部分は、「別段の定め(前条第4項を除く。)があるものを除き」となっており、括弧書きで「前条第4項を除く。」とされているため、括弧書きのない「別段の定め」には、「前条第4項」が含まれていることが明確であり、当然、「別段の定め」には22条2項も含まれていると解することとなる。つまり、「別段の定め」に含まれているものを挙げるとすれば、まず、22条2項を挙げるべきであるわけである。
 しかし、「別段の定め」に22条2項が含まれているということになれば、同項が従前どおりに効力を有することとなるため、「資産の販売等に係る収益を益金の額に算入するかどうかについては引き続き法人税法第22条第2項の規定によることとし、その時期及び金額について同法第22条の2で規定されていると整理された」(「① 原則」の注1)というように22条2項を限定的に解することにはならない。
(2)「② 一般に公正妥当と認められる会計処理の基準に従って収益経理した場合」で述べられていることについて  「② 一般に公正妥当と認められる会計処理の基準に従って収益経理した場合」(274頁)においては、22条の2第2項に定めた収益認識の時期に関する「近接日基準」のことを説明して、「明確化されました」と述べている。
 しかし、22条2項の「当該事業年度の収益の額とする」という部分の解釈として法人税基本通達において認められてきた検針日基準等は、検針日等が「引渡しの日」や「完了した日」に「近接する日」であるという理由で認められていたわけではなく、検針日等が「役務の提供の日」に「近接する日」であるという理由で認められていたわけでもない。
 また、「② 一般に公正妥当と認められる会計処理の基準に従って収益経理した場合」においては、次のように、従前、「一般に公正妥当と認められる会計処理の基準」に従って収益経理した場合には、法人税法においてもその経理に従うこととされていた、と述べている。
 従前からも、引渡しの日又は役務の提供の日以外の日において収益を認識する会計原則・会計慣行があり、そのような会計原則・会計慣行(一般に公正妥当と認められる会計処理の基準に該当するものに限ります。)に従って収益経理していた場合には法人税法の益金の額の認識時期についてもその経理に従うこととされていました。
 しかし、従前、法人税基本通達において認められていた検針日基準等は、その定め(旧法基通2-1-2等)を見ると直ぐに分かるとおり、いずれについても「一般に公正妥当と認められる会計処理の基準」に従って経理することが要件とはされていなかった。
 つまり、上記の引用の「一般に公正妥当と認められる会計処理の基準」に従って収益経理した場合には法人税法においてもその経理に従うこととされていた、という記述は、明らかに事実に反するわけである。
 このように、22条の2第2項も、同条1項と同様に、「明確化」の規定ではなく、本来は、法律の条項を設けた理由、そして、従前の取扱いと異なる取扱いとする理由を明確に説明する必要があるものである。
 また、「② 一般に公正妥当と認められる会計処理の基準に従って収益経理した場合」の説明においては、平成5年11月25日の最高裁判決から、次の22条4項の解釈から始まる部分を引用した上で、「この従前の取扱いを維持するため、この②が設けられたものです。」と述べている。
 現に法人のした利益計算が法人税法の企図する公平な所得計算という要請に反するものでない限り、課税所得の計算上もこれを是認するのが相当であるとの見地から、収益を一般に公正妥当と認められる会計処理の基準に従って計上すべきものと定めたものと解されるから、右の権利の確定時期に関する会計処理を、法律上どの時点で権利の行使が可能となるかという基準を唯一の基準としてしなければならないとするのは相当でなく、取引の経済的実態からみて合理的なものとみられる収益計上の基準の中から、当該法人が特定の基準を選択し、継続してその基準によって収益を計上している場合には、法人税法上も右会計処理を正当なものとして是認すべきである。
 この引用部分は、次の判示に続く部分である。
 ある収益をどの事業年度に計上すべきかは、一般に公正妥当と認められる会計処理の基準に従うべきであり、これによれば、収益は、その実現があった時、すなわち、その収入すべき権利が確定したときの属する年度の益金に計上すべきものと考えられる。もっとも、法人税法二二条四項は、
 この判決を見ると、22条4項について、同項が「収益の額」等の金額の「計算」のみに関する定めとなっているにもかかわらず、同項が収益認識の「時期」に関する定めとなっていると誤って理解していること、そして、収益認識の「時期」に関する原則が、「実現主義」や「権利確定主義」ではなく、「引渡基準」や「完了基準」となっていることを理解していないこと、この2つの誤りがあることが分かる。
 この判決の22条4項の解釈が国側の第一審における主張に由来すると考えられることに関しては、本稿のⅢ2(1)(本誌2018.9.3号22頁)において既に述べたとおりである。
 要するに、「② 一般に公正妥当と認められる会計処理の基準に従って収益経理した場合」の説明においては、国側が裁判で勝つことを優先して税法の条文の解釈を事件ごとに都合よく主張し、それに従って裁判所が判示した誤った解釈について、それを「維持するため」に22条の2第2項が「設けられた」と説明している状態になっているわけである。
 また、「② 一般に公正妥当と認められる会計処理の基準に従って収益経理した場合」の説明においては、注記において、次のように述べている。
 「一般に公正妥当と認められる会計処理の基準」は継続性の原則を含むものと考えられます。したがって、例えば、同じ種類の取引について、期中の取引を引渡しの日に収益計上している法人が期末の取引のみを引渡しの日に近接する日に収益計上することは認められないものと考えられます。
 この記述は、22条1項が「各事業年度の所得の金額」を計算する旨を規定し、「各事業年度」ごとに「所得の金額」が計算されるものであることを正しく理解していないものと言わざるを得ない。
 法人税法は、企業会計とは異なり、「各事業年度」の中途の処理の適否を問題とすることはないため、この記述の例が仮に企業会計原則等の「継続性の原則」と言われているものに違反するものであったとしても、法人税法においては、「各事業年度」の「所得の金額」が正しく計算されていれば、何ら問題はない。法人税法において、「継続性」が問われるとすれば、それは、ある事業年度の処理とその前後の事業年度の処理の「継続性」であって、企業会計のように、期中の処理について「継続性」が問われることはない。法人税においては、「各事業年度」の中途の処理を行っていたのか否かということやどのように行っていたのかということは問題とはならず、「各事業年度」の「所得の金額」が正しく計算されていれば、それで良いわけであって、上記の記述における例に関しても、「引渡しの日」ではなく、「近接する日」に収益認識を行う方がよいという事情があれば、そうすれば良いだけのことである。
 法人税法における「所得の金額」の計算を企業会計における当期利益の額の計算と同じものと勘違いしないようにする必要がある。
 また、「② 一般に公正妥当と認められる会計処理の基準に従って収益経理した場合」の説明においては、割賦基準と延払基準に関して、次のように述べている。
 「近接する日」とされていることから、割賦基準・延払基準による収益計上は、別段の定めがない限り法人税の所得の金額の計算上は認められないことになります。
 この記述は、22条の2第2項においては「近接する日」としか定めていないということを理由として、割賦基準や延払基準は認められない、というものであるが、割賦基準や延払基準を認めるのか否かという問題は、「引渡しの日」の属する事業年度において収益の額を一度に計上させるのか、あるいは、その事業年度の後の事業年度や前の事業年度において収益の額を部分的に分けて計上することを認めるのか、という収益の額の計上方法の問題であって、収益の額を「引渡しの日」の属する事業年度に計上せずに「近接する日」の属する事業年度に計上してもよいと定めたこととは、関係がない。
 また、「② 一般に公正妥当と認められる会計処理の基準に従って収益経理した場合」の説明においては、22条の2第2項の「一般に公正妥当と認められる会計処理の基準」について、次のように述べている。
 「一般に公正妥当と認められる会計処理の基準」は、同様の文言が用いられている法人税法第22条第4項と同様の範囲(上記最高裁判決参照)となると考えられます。
 この記述の括弧書きは、「一般に公正妥当と認められる会計処理の基準」の「範囲」について、平成5年11月25日の最高裁判決に判示があるかのごとき書き方となっているが、この判決には、上記の「現に法人のした……」という引用の部分にそのような判示がないだけでなく、上記の引用の部分以外の部分にもそのような判示は存在しない。
 このため、この「範囲」に関しては、その字義どおりのものを指すのではなく、上記の「現に法人のした……」という引用の部分に判示されていることを指す意図で用いられているものと考えられる。
 そうすると、この「範囲」とは、上記の「現に法人のした……」という引用の部分にある表現を使って言えば、「法人税法の企図する公平な所得計算という要請に反するものでない限り、課税所得の計算上もこれを是認するのが相当である」とされる会計処理の基準となる「一般に公正妥当と認められる会計処理の基準」を指すと解する他ない。
 確かに、そのように解すると、その前までにおいて述べていたことと整合的になる。
 しかし、そのような理解は、誤りと言わざるを得ない。
 本稿のⅠ2(1)①(本誌2018.8.3号15頁)において確認したとおり、22条4項は、「一般に公正妥当と認められる会計処理の基準」を「尊重」するべきであるという「計算心得を宣言、確認する規定であり、本稿のⅠ2(2)(本誌2018.8.3号19頁)において述べたとおり、同項は2項で有償譲渡と同じように時価に基づく「収益の額」があるとされた無償譲渡について「一般に公正妥当と認められる会計処理の基準」に従って計算するべきであるとして再び無償による譲渡にするなどというようなことにはならないわけであるが、しかし、22条の2は22条4項が「創設的、強制的規定」であると勘違いして創られているため、22条の2第2項は、「一般に公正妥当と認められる会計処理の基準」に従った経理であるということが適用の要件とされており、その要件を満たさなければ、同項が適用されないこととなる。
 つまり、22条4項の「一般に公正妥当と認められる会計処理の基準」については、同項が「創設的、強制的規定」ではないため、同基準に従っていない処理を行っていたとしても、それを以ってその処理が税制において否認されるというようなことにはならないわけであるが、22条の2第2項の「一般に公正妥当と認められる会計処理の基準」については、同項が「創設的、強制的規定」であるため、同基準に従っていない処理を行っていた場合には、同項を適用することができないこととなってしまう。
 22条の2第2項の「一般に公正妥当と認められる会計処理の基準」に関しては、22条4項と「同様の文言が用いられている」ということは事実であるが、同条2項や3項は、「法人税法の企図する公平な所得計算という要請」に反するものであるのか否かということによって否認するのか否かが判断されるという構造とはなっていないわけである。
 このように、22条4項の「一般に公正妥当と認められる会計処理の基準」と22条の2第2項の「一般に公正妥当と認められる会計処理の基準」は、文言が同じで、その「範囲」も同じではあるものの、その「適用」の仕方には、大きな違いがある、ということを正しく理解しておく必要がある。
 22条の2第2項がこのような規定となったのは、22条4項の性格を正しく理解せずに収益認識の取扱いに関する改正が行われたことに原因があるわけであるが、しかし、同項が「創設的、強制的規定」であると信じて22条の2の創設が行われているという事実がある以上、同条2項に規定されている「一般に公正妥当と認められる会計処理の基準」に従っているのか否かということは、通常の税制における適用要件と同様に解釈する他ない。
 要するに、今回の改正を境に、法人税制において、「一般に公正妥当と認められる会計処理の基準」に従っているのか否かということで課否が決まるという、前例のない取扱い(注)が始まることとなるわけである。
(注)既に述べたとおり、新たに「近接日基準」によることとされた従前の検針日基準等の10箇所の法人税基本通達による取扱いについては、いずれも「一般に公正妥当と認められる会計処理の基準」に従うことを要件とするものではなかった。
 
 このような取扱い自体は、納税者としては、会計処理がそのまま税務処理として認められることとなることから、基本的には、歓迎するべきことであると言ってよかろう。
 ただし、中小法人と大法人とでは、会計処理が大きく異なることからも分かるとおり、「一般に公正妥当と認められる会計処理の基準」の範囲は、非常に広いことから、「一般に公正妥当と認められる会計処理の基準」に従って処理をするという22条の2第2項の適用要件を満たしているにもかかわらず、税務調査において「法人税法の企図する公平な所得計算という要請に反する」というような理由で処理を否認しようとしてトラブルが発生する可能性もあると考えられるため、注意が必要である。
(3)「③ 申告調整をした場合」で述べられていることについて  「③ 申告調整をした場合」(275頁)においては、22条の2第3項に定めた申告調整による「近接日基準」のことを述べている。
 この「③ 申告調整をした場合」に関しては、次のような記述が存在する。
 上記①又は②による収益認識日に収益計上している場合には、申告調整により収益認識日を他の日に変更することはできません。
 申告調整により収益認識日を変更して上記②を適用するためには、その変更後の収益認識日が一般に公正妥当と認められる会計処理の基準に従った場合の収益認識日である必要があります。
 これらの記述から分かるとおり、22条の2第3項は、法人が「一般に公正妥当と認められる会計処理の基準」に従った処理をしていない場合に、法人税において、申告調整によって「一般に公正妥当と認められる会計処理の基準」に従った処理をしている場合と同様の取扱いとすることを認める趣旨で創設されている。
 法人税法は、企業会計上の当期利益の額を正しく計算させることを目的とするものではないため、この種の規定は他に例がないわけであるが、企業会計の立場からすると、感謝してよい規定と言ってよかろう。勿論、納税者としては、選択肢が増えることは、歓迎すべきことである。
 ただし、22条の2第2項において経理処理による「近接日基準」を認め、3項において申告調整による「近接日基準」を認めるのであれば、1項において、引渡し日に近接日を含む旨を規定すれば済むことであり、わざわざ2項と3項を創る必要はない。
 また、従前の検針日基準等のように、実態を勘案しながら税制の観点から適切であるという日を税制上の収益認識日として認めるという取扱いが本来のあるべき取扱いであって、「一般に公正妥当と認められる会計処理の基準」に従った収益認識日であれば税制上の収益認識日とするという取扱いも、税制の本来のあるべき取扱いとは言い難い(注)。
(注)「収益認識に関する会計基準」においては、検針日基準が認められなくなるとも聞くところであるが、検針日基準は実態に合った適切な収益認識の基準と考えられるものであって、税制においては、当然、認められて然るべきものであり、会計基準の変更が原因となって検針日基準が認められなくなるなどということがあるとすれば、それは、税制の本来のあるべき姿ではない。

5 「(2)収益の額として益金の額に算入する金額」(「3 改正の内容」)の説明の検証  「3 改正の内容」の中の「(2)収益の額として益金の額に算入する金額」(275頁)においては、22条の2第4項と第5項に規定したことについて説明されており、これらの項の内容は「明確化」であると述べられている。
 この22条の2第4項と第5項に関しては、このような規定を設ける必要があったために収益認識の取扱いに関する改正を行う必要があったと説明されているものではあるが、本稿のⅡ2(4)(5)(本誌2018.8.13号24・25頁)において既に述べたとおり、4項において、「資産の引渡し時における価額」としているところは誤りであり、「通常得べき対価の額」としているところはわざわざ法律の規定を創らなければならないようなものではなく、5項はそもそも設けてはならない規定を設けたという状態になっている。
 このため、「(2)収益の額として益金の額に算入する金額」において述べられていることについて、個々に検証を行うことはしないこととする。
 なお、既に本稿のⅡ2(4)(本誌2018.8.13号24頁)において述べたことではあるが、値引きや割戻しなどがある場合には22条の2第4項を積極的に利用することを検討するべきであるということを付言しておく。

6 「(3)資本等取引との関係」(「3 改正の内容」)の説明の検証  「3 改正の内容」の中の「(3)資本等取引との関係」(277頁)においては、22条の2第6項に規定したことについて説明されており、その内容は「明確化」であると述べられている。
 この22条の2第6項を創設した改正は、平成22年度税制改正における22条5項の資本等取引の定義に「残余財産の分配又は引渡し」という文言を追加した改正と共通するものであって、以下に述べるとおり、22条における「取引」の理解を誤ったために、本来は不要な「明確化」を行うこととなった、というものである。
(1)平成22年度の22条5項の改正  平成22年度税制改正後の22条5項は、次のとおりである。
5 第2項又は第3項に規定する資本等取引とは、法人の資本金等の額の増加又は減少を生ずる取引並びに法人が行う利益又は剰余金の分配(資産の流動化に関する法律第115条第1項(中間配当)に規定する金銭の分配を含む。)及び残余財産の分配又は引渡しをいう。
 この下線部分が平成22年度税制改正によって新たに追加された部分である。
 この「残余財産の分配又は引渡し」がどのようなものかということを確認するために、その処理について、仕訳を用いて示してみると、次のとおりとなる。

 この仕訳から分かるとおり、「残余財産の分配又は引渡し」は、資本金等の額の減少、利益積立金額の減少、資産の移転による減少の三つを含むものということになる。
 この資産の移転による減少は、「資産の譲渡」として22条2項の適用対象となる「取引」(損益取引)であることに異論はないはずであるため、資本金等の額の減少と利益積立金額の減少とが平成22年度税改正前の22条5項の規定に含まれていたのか否かということが問題となる。
 平成22年度税改正前の22条5項においては、「資本金等の額の…減少を生ずる取引」と「利益又は剰余金の分配」と規定されていたことから、上記の仕訳の資本金等の額の減少と利益積立金額の減少を含む「残余財産の分配又は引渡し」が同項の「資本等取引」に含まれていたことは、既に明確であった。
 上記の仕訳の利益積立金額の減少が「利益又は剰余金の分配」に含まれるのか否かという疑問が生じてくるかもしれないが、自己株式の買取りなどにおいて利益積立金額の減少が「利益又は剰余金の分配」に該当すると解されてきたことからも分かるとおり、実質的に「利益又は剰余金の分配」に該当するというものは、これに該当すると解されてきた。この22条5項(昭和40年に創設された時には、4項。以下、同じ。)の「利益又は剰余金の分配」に関しては、『昭和40年 改正税法のすべて』(大蔵財務協会)において、次のように説明されている。
 この利益の分配の意義は、利益または剰余金の処分とは直接関係がなく例えば認定配当のように損金経理されてもその実質が配当とみなされるものがあればこの利益の分配に含まれると解され〔後略〕
 (104頁)
 このように、22条5項の「利益又は剰余金の分配」(注)に関しては、「実質」で見るという考え方が採られているために、「利益の処分」や「剰余金の処分」というような「利益又は剰余金の分配」という文言にそのまま当てはまると解される取引ではない自己株式の買取りなどにおける利益積立金額の減少を含むものと解されてきたわけである。
(注)「利益又は剰余金の分配」は、資本金等の額の規定の仕方と同じように、「利益又は剰余金の減少を生ずる取引」という規定の仕方とすることも考えられるわけであるが、そうすると、損金の額と区別することが難しくなるため、損金の額と明確に区別することができる「利益又は剰余金の分配」と規定することとされたものと考えられる。

 つまり、「残余財産の分配又は引渡し」における利益積立金額の減少が「利益又は剰余金の分配」に該当することは、昭和40年に22条5項が創設された時から「明確」であったわけであり、わざわざ「明確化」をする必要など全くなかったわけである。
 もっとも、平成22年度税制改正は、22条5項が「残余財産の分配又は引渡し」などというような具体的な取引を示す用語を用いて規定しないこととされていることを知らずに行われていることに、既に誤りがある。
 『昭和40年 改正税法のすべて』においては、次のように述べられている。
 資本等取引の概念は、これを増資、減資あるいは額面を超える価額をもってする株式の発行というように具体的な取引によって規定する方法もあるかと思われますが、新法においては、資本等の金額と直接関連するものであることを明らかにして法人税全体の仕組みを明らかにするという見地から、資本等の金額の増加または減少を生ずる取引というかたちで規定されています。
 (104頁)
 要するに、この説明で語られている「法人税全体の仕組み」を正しく理解しないまま、平成22年度税制改正が行われた、と言わざるを得ないわけである。
 なお、『平成22年度 税制改正の解説』においては、22条5項に「残余財産の分配又は引渡し」を追加する改正を行った理由が次のように説明されているわけであるが、清算所得課税の対象とするのか又は通常所得課税の対象とするのかということが問題となるのは、「資本等取引」には当たらない上記の仕訳の資産の移転による減少の部分であって、この説明から、同改正は、上記の仕訳の資本金等の額の減少と利益積立金額の減少の部分が昭和40年の同項の創設時から「資本等取引」とされていたことを知らずに行われたもので、本来は不要な改正であった、ということがよく分かる。
 残余財産の引渡しは出資者等の法人の持分権者との取引ではありませんが、残余財産の引渡しという行為自体は、その文字からも明らかなように剰余の分配の性質を有し、所得から控除されるべきものでないものと考えられ、従前より引き渡される残余財産についても清算所得課税の対象とされていたことから、今回、清算所得課税が通常所得課税に変更されるに当たり、資本等取引とされたものです。
 (280頁)
(2)22条の2第6項の創設  「(3)資本等取引との関係」においては、22条の2第6項を創設したことについて、次のように説明しているわけであるが、この説明は、平成22年度税制改正で22条5項に「残余財産の分配又は引渡し」を追加した理由に関する『平成22年度 税制改正の解説』の説明(210頁)と比べてみると、「及び残余財産の分配又は引渡し」という部分が追加されている点を除けば、全く同じものである。
 利益又は剰余金の分配及び残余財産の分配又は引渡しは、資本等取引として課税の対象外とされています(法法22⑤)が、利益又は剰余金の分配及び残余財産の分配又は引渡しとしての金銭以外の資産の交付という行為には、資産の譲渡という面と資産の流出という面の二つの面があり、このうち資本等取引として課税の対象外とされるのは、後者の面、すなわち、資産が流出したことによる損失について損金の額に算入しないということであり、前者の面、すなわち譲渡損益を課税しないということではありません。
 上記(1)において引用した『昭和40年 改正税法のすべて』においては、「資本等の金額の増加または減少を生ずる取引というかたちで規定されています」と説明されていたわけであるが、このような「取引」の捉え方と上記の「資産の譲渡という面と資産の流出という面の二つの面があ〔る〕」という「理論」による「取引」の捉え方とを比べてみると、全く異なることが分かる。
 要するに、平成22年度税制改正と平成30年度税制改正における「理論」による「取引」の捉え方は、他に例を見ない独特の誤った捉え方となっており、それが本来は不要な22条5項と22条の2第6項の改正を行う原因となっている、と考えられるわけである。
 また、「(3)資本等取引との関係」においては、22条の2第6項を創設した理由について、上記の引用部分に続けて、次のように述べている。
 このことは法人税法第62条の5第3項に譲渡損益を繰り延べる別段の定めがあることで逆説的に明確にされていますが、利益又は剰余金の分配等としての金銭以外の資産の交付についても収益の額が生ずることが原則であることを法令上明確にすべきとの指摘もあることから、今回、上記(1)及び(2)の改正を契機として明確化されたものです。
 この説明は、「利益又は剰余金の分配等としての金銭以外の資産の交付についても収益の額が生ずることが原則であること」を「逆説的に明確に」するために、22条の2第6項を創設した、というものとなっている。
 しかし、「利益又は剰余金の分配等としての金銭以外の資産の交付」を行なったものについて、上記(1)において示した仕訳と同様の仕訳を想定しながら考えてみると、金銭以外の資産の移転による減少に伴って22条2項により「収益の額」が生ずることは、既に十分に「明確」であって、わざわざ22条の2第6項のようなものを創って「逆説的に明確」にするなどという難解なことをする必要は全くない、ということが分かるはずである。
 上記の説明に関しては、22条の2第6項を読んで「金銭以外の資産の交付についても収益の額が生ずることが原則であること」が「逆説的に明確」になったなどということがそもそもあり得るのか、平成22年度税制改正に続いて平成30年度税制改正においても「理論」により22条の「取引」の捉え方を誤って不要な改正を行ったということが「明確」になっただけではないのか、という疑問が残らざるを得ない。

7 「4 適用関係及び経過措置」の説明の検証  「4 適用関係及び経過措置」(280頁)においては、22条4項の改正と22条の2を創設する改正が平成30年4月1日以後に終了する事業年度から適用されるということを述べている。
 要するに、これらの改正は、事実上、遡及適用するものとされている、ということである。
 これらの改正の中には、「明確化」ではないものが少なからず存在するため、遡及適用をするのであれば、本来は、遡及適用をする理由を明確に述べる必要があるわけであるが、その理由は、全く述べられていない。
 また、平成30年4月1日以後に開始する事業年度又は平成30年12月31日以後に終了する事業年度から選択適用が認められる「収益認識に関する会計基準」が適用もできない時から、法人税法においてこれらの改正を適用する理由が何かということについても、全く述べられていない。
 これらの改正は、これまで述べてきたとおり、税の理論として正しいのかという観点、所得計算の基本構造のあるべき姿と言い得るのかという観点や法律の条文の作成技術上の観点から見ると、少なからず問題があり、また、上記のとおり、改正の適用関係にも疑問があるわけであるが、しかし、実務の観点から見ると、中小法人や「収益認識に関する会計基準」の適用前の法人を含む全ての法人にとって、有利に使い得る部分が多く存在する。
 勿論、22条の2第1項において、役務の提供に係る「収益の額」について、「完了基準」を「提供基準」に変更して収益認識の時期を早めるなど、一部には納税者に不利に働く部分があるが、値引き等がある場合に「収益の額」の一部の計上を遅らせることができるなど、有利に使い得る部分が相対的に多いわけである。
 このため、全ての法人がこれらの改正を有利に活用することを積極的に検討するべきである。
 ただし、全ての法人がこのような状況にあるということは、税理士業務を行う者にとっては、むしろリスクのある状態と言っても、決して過言ではないため、注意する必要がある。仮に、顧問先が有利な選択ができる状況にあるにもかかわらず、税理士業務を行う者が有利な選択をするように助言をすることを怠ったとすれば、その責任を問われることがないとは限らないわけである。
 (第6回に続く)

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