カートの中身空

閲覧履歴

最近閲覧した商品

表示情報はありません

最近閲覧した記事

解説記事2018年09月10日 【特別解説】 IFRS第16号「リース」~IFRS任意適用日本企業の事例~(2018年9月10日号・№754)

特別解説
IFRS第16号「リース」~IFRS任意適用日本企業の事例~

はじめに

 2018年は、企業の業績のトップラインである売上高を決めるIFRS第15号「顧客との契約から生じる収益」と金融商品の分類、測定、減損、ヘッジ等を規定するIFRS第9号「金融商品」が強制適用される年であり、IFRSにとって大きな節目の年になるものと思われる。そして、平成の世が終わりに近づく来春に公表されるであろう、2018年12月期決算のIFRSを適用する企業の各社の連結財務諸表や開示(特に注記事項)は、これまでのものとはかなり様変わりすることが予想される。
 そして、収益や金融商品よりも1年遅れの2019年12月期からは、これまでのIAS第17号「リース」や解釈指針(IFRIC第4号等)に置き換わる、IFRS第16号「リース(2016年1月発効)」の適用が予定されている。適用までに時間的な余裕があることもあって、直接影響を受けるリース業界等を除いては、まだそれほど各方面で大きく取り上げられていないが、IFRS第16号には画期的な要求事項が多く含まれており、IFRSを適用する各企業にとっては、収益や金融商品と肩を並べるくらい大きな影響が生じうる基準書といえる。
 本稿では、我が国でIFRSを任意適用して有価証券報告書を作成・提出している企業(以下「IFRS任意適用日本企業」という。)の2017年12月期や2018年3月期の有価証券報告書の「未適用の公表済み基準書及び解釈指針」の記載等を基に、IFRS第16号が適用されることによって、連結財務諸表にどのような影響が生じると各社が考えているのかを探ることとする。また、最後に、160社を超えるIFRS任意適用日本企業で唯一、本年度(2018年3月期)にIFRS第16号を早期適用した(株)メンバーズの開示を紹介したい。

IFRS第16号の概要
 まず、LINE(株)の開示を中心に引用しつつ、IFRS第16号の概要を見てみたい。
 IFRS第16号は、リースの借手及び貸手におけるリース契約の認識、測定、表示および開示の原則を定めた基準書である。IFRS第16号においてリースの借手は、現行の基準であるIAS第17号「リース」において定められていたファイナンス・リースとオペレーティング・リースの区分をせず、単一の会計モデルを使用することになる。借手はリースの開始日において、リース料に係る支払債務(リース負債)と対応するリース期間にリース資産を使用する権利を表す使用権資産を認識する。その後、借手はリース負債から生じる利息費用と、使用権資産から生じる減価償却費を個別に認識する。ただし、短期リース又は少額リースである場合は、IFRS第16号の要求を適用しないことを選択することができる。
 貸手の会計処理は、現行のIAS第17号における貸手の会計処理と実質的に同じであり、貸手は、すべてのリースをIAS第17号における原則に基づいて分類して、オペレーティング・リース又はファイナンス・リースの2つのタイプに区分する。また、IFRS第16号において、借手と貸手はIAS第17号と比較してより多くの開示が求められる(借手の開示については後述)。なお、IFRS第16号により、リースの定義や契約がリース又はリースを含んだものであるかどうかについての判定も変更されている。IFRS第16号は2019年1月1日以降に始まる事業年度より適用され、IFRS第15号「顧客との契約から生じる収益」を適用する場合においては早期適用が認められる。また、IFRS第16号は、開示されるすべての期間に遡及的に適用する方法(完全遡及法)又は同基準の適用による累積的影響額を、適用日において認識する方法(修正遡及法)のいずれかにより適用される。

IFRS任意適用日本企業が行った開示(IFRS第16号の適用による、各社の連結財務諸表への影響)
 IFRS任意適用日本企業の各社が、有価証券報告書(NTTは2019年3月期第1四半期の四半期報告書)の連結財務諸表注記の「未適用の公表済み基準書及び解釈指針」で開示した、IFRS第16号の適用による連結財務諸表への影響に関する記載をいくつか紹介したい(一部要約や抜粋を行っている)。
(LINE)  IFRS第16号の適用による現時点における最大の影響は、特定のオフィススペース及び店舗のオペレーティング・リースについて新たに資産及び負債を認識することであります。さらに、IFRS第16号では、今まで営業費用として計上されてきたリース費用が使用権資産の減価償却及びリース負債の支払利息として計上されることから、リースに関連する費用の性質が変更されます。
(本田技研工業)  当社および連結子会社は、一部の例外を除き、新たな資産および負債を認識します。また、リースに関連する費用として、定額の支払リース料ではなく、使用権資産の減価償却費とリース負債に係る支払利息を認識することになります。
(日本電信電話(NTT))  当該基準の適用による重要な影響は、オフィス及び電気通信設備の設置に必要な土地等のリースに係る使用権資産とリース負債の計上です。これにより、連結財政状態計算書の資産の部および負債の部の残高が増加することが想定されます。
(味の素)  当社グループには、借手のオペレーティング・リースに分類される建物、車両等の賃借取引があります。IFRS第16号の適用により、原則として、従来の借手のオペレーティング・リースについて財政状態計算書に使用権及びリース負債が計上され、連結損益計算書に減価償却費と利息費用が計上されることになりますが、業績及び財政状態への影響は検討中であり、現時点では見積ることはできません。
(日信工業)  IFRS第16号により、契約がリース又はリースを含んだものであるかどうかの判定についても変更されており、その結果、会計処理が変更される可能性があります。

我が国のリース会社が有価証券報告書等で行った開示
 我が国の大手リース会社で米国会計基準を適用しているオリックスは、2018年3月期の有価証券報告書の連結財務諸表注記「(ae)新たに公表または適用された会計基準」において、以下のような開示を行った。
 2016年2月、会計基準書アップデート第2016-02号(会計基準編纂書842(リース))が公表されました。このアップデートは、借手に対してほとんどすべてのリース資産をオンバランスすることを要求しています。貸手における会計処理は現在のものと類似しますが、いくつかの重要な変更点があります。このアップデートは、2018年12月15日より後に開始する会計年度およびその期中期間から適用されます。また、早期適用が認められています。このアップデートは、表示される最も古い会計期間の期首から修正遡及アプローチにより適用されますが、いくつかの選択可能な実務的簡便法が提供されています。当社および子会社は、このアップデートを2019年4月1日に適用します。ここまでの当社および子会社による初期評価および最適な見積もりによると、このアップデートの適用により、借手としての主に土地、社用資産や設備のオペレーティング・リースにおいて、リース使用権および関連するリース負債が両建で計上される見込みです。現在までに識別している影響を除き、このアップデートの適用による当社および子会社の経営成績および財政状態ならびにこのアップデートによって要求される開示の変更への影響については、引き続き調査中です。
 また、三井住友ファイナンス&リースや東京センチュリー、興銀リース、三菱UFJリースなどのオリックス以外の国内大手リース会社の各社は、有価証券報告書の【事業等のリスク】のセクションにおいて、「(6)制度変更リスク」として、次のような一般的な注記をしているものの、IFRS第16号が適用されることによる事業への影響等について具体的に記載をしている会社はまだなかった。
 当社グループは、現行の法律・税務・会計等の制度や基準に基づき、リース取引等の各種事業を行っております。現行の制度や基準が将来大幅に変更された場合には、当社グループの経営成績及び財政状態に影響を及ぼす可能性があります。
 有価証券報告書における開示ではないが、航空機、船舶、海運コンテナのオペレーティング・リース事業を主力としている(株)ジャパンインベストメントアドバイザー(以下「J社」という。)は、平成30年7月3日に、「国際財務報告基準(リース会計)変更の当社グループへの影響について」と題する興味深いプレスリリースを行っている。
 これは、平成30年7月1日付の日本経済新聞にて「リースが消える日?」として、国際財務報告基準(リース会計)変更に伴う影響に関する記事が掲載され、そこでは、『今まで「オペレーティング・リース」の賃借人はリース料を経費処理できたが、2019年からのIFRS第16号では、全てのリース取引を賃借人の資産として計上し、減価償却を行うように変更になる。』とし、その影響について、『オペレーティング・リースのメリットは会計処理が簡単であったことに対し、今後会計基準の変更により会計処理が煩雑になるため、オペレーティング・リースのメリットがなくなり、中小企業の投資意欲に水を差す可能性がある。』という趣旨のことが述べられていた。この記事を読んだ投資家等からJ社に多くの問い合わせがあったことから、それらに対応したとJ社は説明している。すなわち、次に掲げる理由により、国際財務報告基準(IFRS)において、リース取引を賃借人の資産として計上し、減価償却を行うように変更されることによる、J社グループの業績への直接的な影響は軽微であるとしている。
① J社グループが組成するオペレーティング・リース事業の賃借人は、「オペレーティング・リース」のメリットとして、資金調達コストの低減およびキャパシティの拡大などといった資金調達の多様性や、一定期間のリース期間後に機体を返却できるという柔軟性の確保なども考慮して活用していること。
② また、賃借人は、海外航空会社をはじめとした国際財務報告基準(IFRS)に準拠してきたグローバル企業が中心であるため、会計処理の煩雑化を直接の理由として「オペレーティング・リース」の需要が減退する可能性は極めて軽微であること。
③ J社グループが組成するオペレーティング・リース事業は日本の税制に基づいて課税所得を計算し、それを投資家に分配しているため、会計基準の変更があったとしても日本の税制が変更にならない限り、J社グループが組成するオペレーティング・リース事業の投資家への直接的な影響はないこと。

IFRS第16号が要求する開示事項(リースの借手)
 IFRS第16号の第53項は、リースの借手は報告期間についての下記の金額を開示しなければならないと定めている。
(a)使用権資産の減価償却費(原資産のクラス別に)
(b)リース資産に係る負債費用
(c)短期リースにかかる費用。なお、この費用にはリース期間が1か月以下のリースにかかる費用を含める必要はない。
(d)少額資産のリースにかかる費用。この費用には第53項(c)に含まれている少額資産の短期リースにかかる費用を含めてはならない。
(e)リース負債の測定に含めていない変動リース料にかかる費用
(f)使用権資産のサブリースによる収益
(g)リースに係るキャッシュ・アウトフローの合計額
(h)使用権資産の増加
(i)セール・アンド・リースバック取引から生じた利得または損失
(j)報告期間の末日現在の使用権資産の帳簿価額(原資産のクラス別に)
 なお、借手は、別の様式の方が適切である場合を除き、第53項の開示を表形式で提供しなければならないとされている(第54項)。

(株)メンバーズの開示(2018年3月期の有価証券報告書)
 (株)メンバーズは、企業ウェブサイトの運用サービス等を手掛ける会社であり、2018年3月期からIFRSを任意適用している。メンバーズは、IFRSの任意適用開始に合わせて、IFRS第15号「顧客との契約から生じる収益」とIFRS第16号「リース」を2018年3月期から早期適用した。
 IFRSの初度適用時に作成する調整表の「資本に対する調整に関する注記」の「C使用権資産の振替及び計上額の調整」において、「日本基準では「有形固定資産」及び「無形固定資産」に含めていたリース資産については、IFRSでは「使用権資産」に振り替えて表示しております。また、オフィスの賃貸借契約について、IFRSでは「使用権資産」として資産計上しております。」と開示するとともに、「重要な会計方針(「(9)リース」)において、次のように開示している。
 当社グループは、一定の有形固定資産及び無形資産のリースを受けています。リース開始日時点において、使用権資産は取得原価で、リース負債はリース料総額の現在価値で測定しております。使用権資産は、資産の耐用年数またはリース期間のうち、いずれか短い方の期間にわたって減価償却しております。リース料の支払いは、リース負債に係る金利を控除した金額をリース負債の減少として処理しております。ただし、リース期間が12か月以内の短期リース及び原資産が少額のリースについては、使用権資産およびリース負債を認識せず、リース料総額をリース期間にわたり定額法または他の規則的な基礎のいずれかにより純損益に認識しております。
 また、連結財務諸表の注記「16.使用権資産およびリース負債」で次のような開示を行っている。


 使用権資産の増加は、前連結会計年度54,758千円、当連結会計年度362,106千円であります。
 リースに係るキャッシュ・フローについては、注記「29.キャッシュ・フロー情報」、リース負債の満期分析については、注記「31.金融商品(4)流動性リスク管理」に記載しております。
 メンバーズは2018年3月末日現在で資産合計が51億円強という規模の会社であるが、使用権資産はそのうちの4億円弱を占めている。よくも悪しくも横並び意識が強い我が国の企業の中で、他社の適用・開示例がない状態でIFRS第16号の早期適用に踏み切った会社のチャレンジは、評価に値すると思われる。

終わりに
 本稿で今回取り上げたIFRS第16号「リース」には、企業の連結財務諸表や実務に大きな影響を与える可能性がある重要な要求事項が含まれているが、開示内容が詳細で充実していることが多いIFRS任意適用日本企業であっても、2018年3月期の有価証券報告書においては、自社の連結財務諸表への影響については、「現在検討中であります。」「現時点において見積ることができません。」といった説明がまだ大多数を占めていた。強制適用直前期の2018年12月期や2019年3月期には、IFRS第16号を早期適用する企業がどれくらい出てくるか、未適用の基準書による影響の開示がどれくらい充実するか、注目して見守りたいと考える。
 なお、我が国の企業会計基準委員会(ASBJ)は、IFRS第16号「リース」に関するエンドースメント手続を実施し、平成30年6月18日に修正国際基準(JMIS)公開草案第6号「『修正国際基準(国際会計基準と企業会計基準委員会による修正会計基準によって構成される会計基準)』の改正案」(コメント期限:平成30年9月7日)を公表した。その中でASBJは、IFRS第16号について、「削除又は修正」を行わないことを提案している。また、ASBJが平成30年6月18日に公表した「現在開発中の会計基準に関する今後の計画」では、日本基準を国際的に整合性のあるものとする取組みの一環として、IFRS第16号「リース」について、会計基準の開発に着手するか否かの検討を平成30年6月より開始しているが、「目標時期は特に定めていない。」とされている。

当ページの閲覧には、週刊T&Amasterの年間購読、
及び新日本法規WEB会員のご登録が必要です。

週刊T&Amaster 年間購読

お申し込み

新日本法規WEB会員

試読申し込みをいただくと、「【電子版】T&Amaster最新号1冊」と当データベースが2週間無料でお試しいただけます。

週刊T&Amaster無料試読申し込みはこちら

人気記事

人気商品

  • footer_購読者専用ダウンロードサービス
  • footer_法苑WEB
  • footer_裁判官検索