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解説記事2019年02月04日 【特別解説】 耐用年数を確定できない無形資産②~米国企業、欧州大陸の企業及び英国企業の計上額~(2019年2月4日号・№773)

特別解説
耐用年数を確定できない無形資産②
~米国企業、欧州大陸の企業及び英国企業の計上額~

はじめに

 本稿では、パート1(本誌769号)に引き続き、耐用年数を確定できない無形資産に関する調査分析を行う。パート1ではIAS第38号の関連する規定の概要とIFRS任意適用日本企業を中心に取り上げたが、本稿では、外国の企業、すなわち、米国会計基準を適用する米国企業と、国際財務報告基準(IFRS)を適用する欧州の企業(欧州大陸及び英国の企業)を取り上げる。

今回の調査の対象とした企業
 今回の調査の対象とした企業は、スタンダード・アンド・プアーズ(S&P)指数100を構成する銘柄である米国の大企業100社(米国会計基準を適用)と、欧州では、STOXX指数構成銘柄のうちの100社(欧州大陸の大企業が中心)及びFTSE指数を構成する銘柄の100社(英国の大企業が中心)である。また、比較のための参考情報として、IFRS任意適用日本企業の数値も適宜抜粋して紹介している。なお、各社の機能通貨は米ドル、ユーロ、英ポンド、スイスフラン等様々であるが、日本円には、各社の決算月末のレートで換算している。

米国の企業の計上状況
 スタンダード・アンド・プアーズ(S&P)指数100を構成する銘柄である、米国の大企業100社(米国会計基準を適用)で、耐用年数を確定できない無形資産を計上していたのは49社であり、残高が大きい上位10社は表1のとおりであった。

 また、耐用年数を確定できない無形資産の計上額の分布を示すと、表2のとおりであった。

 耐用年数を確定できない無形資産を計上している主要な米国企業は100社中49社と、調査対象企業の半分を下回り、1社当たりの平均計上額ものれんの4分の1強の水準ではあるが、それでも平均5,700億円と、かなりの水準であることは間違いない。のれんと合計すると、1社当たり平均でおよそ2兆6,000億円の無形資産が非償却で、減損テストの対象になっていることになる。
 また、耐用年数を確定できない無形資産として計上されている主な項目を示すと、表3のとおりであった。

 主要な米国企業が耐用年数を確定できない無形資産として計上している項目としては、IFRS任意適用日本企業と同様に、商標権やトレードネームが多数を占めるものの、製薬会社が仕掛研究開発を計上している事例も少なからずあった。また、件数は少ないものの、コムキャストとチャーター・コミュニケーションズでは巨額のフランチャイズ権が計上されていた。
 耐用年数が確定できない「顧客との関係」も3社で計上されていた。通常は有限とされて償却対象となることが多い顧客との関係が、どのような理由で耐用年数を確定できないとされたのか興味を引かれるが、注記等では、耐用年数を確定できない無形資産として評価された理由に関する詳しい説明はされていなかった。

欧州大陸の企業の計上状況
 STOXX指数600を構成する銘柄である、欧州大陸の大企業100社(IFRSを適用)で、耐用年数を確定できない無形資産を計上していたのは53社であり、残高が大きい上位10社は表4のとおりであった。

 米国企業は商標権のほか、フランチャイズ権、顧客との関係、及び仕掛研究開発と様々な項目が計上されていたが、欧州大陸の企業及び後述する英国の企業の場合には、ブランドがほとんどを占めていた。
 また、耐用年数を確定できない無形資産の計上額の分布を示すと、表5のとおりであった。

 また、耐用年数を確定できない無形資産として計上されている主な項目を示すと、表6のとおりであった。


英国の企業の計上状況
 FTSE指数を構成する銘柄である、英国の大企業100社(IFRSを適用)で、耐用年数を確定できない無形資産を計上していたのは28社であり、残高が大きい上位10社は表7のとおりであった。

 また、耐用年数を確定できない無形資産の計上額の分布を示すと、表8のとおりであった。

 また、耐用年数を確定できない無形資産として計上されている主な項目を示すと、表9のとおりであった。
 英国企業の場合には、上位4社、あるいはシャイアーを含めた上位5社の計上額は多額であるが、6位以降はIFRS任意適用日本企業と大きな差は見られなかった。

無形資産の耐用年数を確定できないと査定した理由
 ルイ・ヴィトンやブルガリ等、世界的にも著名なブランドを数多く持ち、それらを耐用年数を確定できない無形資産として連結貸借対照表に計上しているフランスのLVMH社は、ブランドやトレードネームの耐用年数を確定できるものとするか、あるいは確定できないものとするかを判断する際の基準を、アニュアルレポートに以下のように開示している。
・取引量や国際的なプレゼンスや評判(レピュテーション)によって表現される、ブランド又はトレードネームの全般的な市場におけるポジショニング
・長期間にわたる収益性が予想されること
・経済環境の変化にさらされている程度
・将来の発展を損なう可能性がある、事業セグメント内における主要な事象
・経過年数(age)
 また、パディ・パワー・ベットフェアー社は、無形資産として計上しているベッティング(賭けをする)ショップのライセンスについて、耐用年数を確定できない無形資産と判定しているが、その理由として次の事項を挙げている。
・北アイルランドの既存の法律が、新たな競争相手の参入を制限していること。
・賭けを行う(ベッティング)のサービスとプロダクトに対して将来も需要が予測されることが証明されていること。
・当社グループが、これまでに、賭けに関する許認可とライセンスの更新を最小のコストで行ってきたという実績があること。
 さらに、主に旅行会社や航空会社向けに処理システムを提供するスペインのアマデウスITグループは、アマデウスブランドを、耐用年数を確定できない無形資産として評価した際に着目した事項として、以下のことを挙げている。
・アマデウスブランドが放棄されるという予想がされていないこと。
・全世界的にみて限られた競争相手しかおらず、アマデウスの地位が強固であるため、グローバルな配送システム(Global Distribution System)業界において、安定した確固たる地位を築いていること。

耐用年数を確定できない無形資産から確定できる無形資産への再査定
 耐用年数を確定できないと判断された無形資産については、当該資産の耐用年数を確定できないものとする事象又は状況が引き続き存在するかどうかを毎年見直す必要がある。もしそれらが存在しなくなれば、耐用年数を確定できないものから確定できるものに変更し、会計上の見積りの変更として会計処理しなければならない(第109項)。また、IAS第36号に従って、無形資産の耐用年数を、確定できないのではなく有限であると再査定することは、当該資産の減損の兆候となるとされている(第110項)。
 耐用年数を確定できない無形資産から確定できる無形資産に査定し直している欧州の企業の事例を紹介したい。
 主に南アフリカを拠点に病院やクリニックを経営する英国の企業であるメディクリニック・インターナショナル社は、Hirslandenとスイスのトレードネームについて、2018年3月期に、耐用年数を確定できない無形資産から耐用年数を確定できる無形資産に評価し直し、無形資産の注記において以下のような開示を行った。
 Hirslandenのトレードネームの耐用年数を不確定としたこれまでの見積りは、当該資産(トレードネーム)が当社グループに対してキャッシュインフローを生成すると見込まれる期間に予見可能な限度がないというものであった。Hirslanden及びその他のスイスのトレードネームの耐用年数は、減損テストを行った結果、2018年3月31日時点において、確定できないものから確定できるものへと変更した。Hirslanden及びその他のスイスのトレードネームの耐用年数はそれぞれ、ヘルスケアサービス提供に係る技術的な変化による影響や患者の充足率、ヘルスケア業界の規制の変更による影響、及び予想される競争相手の行動のような、関連する要因の分析に基づいて決定された。分析に基づき、残存するHirslandenのトレードネームには75年間、その他のスイスのトレードネームには25年間の耐用年数が割り当てられた。これは、相対的な重要性や地理的なカバレッジ、及びスイスにおける当グループのトレードネームの寿命の長さを反映したものである。将来に向かっての影響は年間200万ポンドの償却費の増加である。この予想を行うためには、経営者による重要な見積りが要求される。

終わりに
 4回にわたって行ったのれんと耐用年数を確定できない無形資産の計上の状況の調査分析を締めくくるにあたり、日米欧の企業の中での計上額の上位10社を表10でまとめてみたい。

 アンハイザー・ブッシュ・インベブ(ベルギー)とソフトバンクがベスト10入りしたほかは、米国企業の独壇場であった。
 もう1点の顕著な特徴は、何社かの例外はあるものの、多額ののれんを計上している企業は、耐用年数を確定できない無形資産の計上額も巨額である場合が多いということである。表10に登場する企業は、我が国でも非常に知名度が高い世界的な大企業であり、自己資本も極めて分厚い。しかしそれでも、のれんと耐用年数を確定できない無形資産の残高を合計すると、純資産を上回る企業が10社のうち実に7社を占めていた(純資産の方が上回っていたのは、バークシャー・ハサウェイ、ダウ・デュポン、及びバンク・オブ・アメリカの3社のみ)。
 米国企業がいかにM&Aに積極的かが改めて示される結果となったが、これは、裏を返せば、たとえ表10のような「超優良企業」の場合であっても、ひとたび主力事業に変調が生じ、のれんや耐用年数を確定できない無形資産のような非償却の無形資産に減損の兆候が生じれば、あっという間に純資産が大幅に目減りするリスクと背中合わせであるということがお分かりいただけるものと考える。減損テストは高度な見積りが要求されるものであり、前提条件が少し変動しただけで、大きな損失が生じるリスクをはらんでいる。これまでの例を見ても、のれんの減損処理とともに、耐用年数を確定できない無形資産についても減損処理がなされるケースが決して少なくない。万が一、金融危機のようなことが起これば一気に転落する、極めて危うい綱渡りの状態と言えなくもない。
 アンハイザー・ブッシュ・インベブとソフトバンク以外の欧州企業や日本企業が計上しているのれんと耐用年数が確定できない無形資産の水準は、主要な米国企業と比較すると、半分から20分の1程度の水準に過ぎない。非償却の無形資産の残高が少なければそれでよい、といった単純な話ではないであろうが、米国に比べると、欧州や我が国には、M&Aの必要性等は十分に認識しつつも、実物資産の裏付けがない、のれんや耐用年数を確定できない無形資産のような資産の残高が、償却されないままにどんどん積み上がっていくような状況を良しとしない経営者や株主、投資家や監査人等がまだ多いのかもしれない。

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