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解説記事2020年12月07日 特別解説 監査上の主要な検討事項(KAM) 主要な日本企業の事例の調査①(2020年12月7日号・№861)

特別解説
監査上の主要な検討事項(KAM) 主要な日本企業の事例の調査①

はじめに

 コロナウイルスの世界中での蔓延により、重苦しい雰囲気が漂う中で、いよいよ我が国の企業についても、監査報告書への監査上の主要な検討事項(KAM)の記載がスタートした。
 本稿では2回に分けて、我が国の主要な企業の監査報告書に記載されたKAM項目の調査分析を行うこととしたい。本稿ではまず、我が国の主要な企業の監査報告書に記載されたKAMの全体的な傾向の分析を行い、本稿の後段及び次回では個別の事例をいくつか紹介することとしたい。

調査の対象とした企業

 本稿では、以下の3つのカテゴリーに属する日本企業を調査分析の対象とした。
 我が国の上場企業の監査報告書に対してKAMの記載が求められるのは2021年3月期からであり、現時点においてはKAMの記載はまだ任意とされていることもあって、今回の調査の対象とした下記の328社のうち、監査報告書にKAMが記載されたのは34社のみであった。新型コロナウイルスの影響による日本企業の業績の低迷や、決算・監査業務の停滞等はあったにせよ、「監査に関する情報提供の早期の充実や実務の積上げによる円滑な導入を図る観点から、特に東証一部上場企業については、できるだけ2020年3月期の監査より早期適用することが期待されている。」とされていたことを考えると、かなり低調な滑り出しとなった。

KAMの定義と決定のプロセス

 監査上の主要な検討事項(KAM)は、監査基準委員会報告書701「独立監査人の監査報告書における監査上の主要な検討事項の報告」において、「当年度の財務諸表の監査において、監査人が職業的専門家として特に重要であると判断した事項をいう。監査上の主要な検討事項は、監査人が監査役等とコミュニケーションを行った事項から選択される。」と定義されている(第7項)。また、KAMの決定にあたり、監査人は、次の3点を考慮しなければならないとされている(第8項)。
(a)監査基準委員会報告書315「企業及び企業環境の理解を通じた重要な虚偽表示リスクの識別と評価」に基づき決定された特別な検討を必要とするリスク又は重要な虚偽表示リスクが高いと評価された領域
(b)見積りの不確実性が高いと識別された会計上の見積りを含む、経営者の重要な判断を伴う財務諸表の領域に関連する監査人の重要な判断
(c)当年度に発生した重要な事象又は取引が監査に与える影響
 監査人は、第8項に従い決定した事項の中から更に、当年度の財務諸表の監査において、職業的専門家として特に重要であると判断した事項を監査上の主要な検討事項として決定しなければならない(第9項)。
 監査人は、リスク・アプローチに基づく監査計画の策定段階から、監査の過程を通じて監査役等と協議を行うなど、適切な連携を図ることが求められており、KAMはそのような協議(コミュニケーション)を行った事項の中から、監査人が職業的専門家としての判断を行使して絞り込みを行い、決定されるものである。個々の監査上の主要な検討事項の記載内容については、監査基準委員会報告書701に次のように定められている(第12項)。
(1)関連する財務諸表における注記事項がある場合は、当該注記事項への参照
(2)個々の監査上の主要な検討事項の内容
(3)財務諸表監査において特に重要であるため、当該事項を監査上の主要な検討事項に決定した理由
(4)当該事項に対する監査上の対応
 ただし、連結財務諸表及び個別財務諸表の監査を実施しており、連結財務諸表の監査報告書において同一内容の監査上の主要な検討事項が記載されている場合には、個別財務諸表の監査報告書においてその旨を記載し、当該内容の記載を省略することができるとされている。

主要な日本企業の監査報告書に記載されたKAMの分析

 まず、今回の調査の対象とした主要な日本企業のうち、連結財務諸表に対する監査報告書にKAMの記載があった企業について、KAMの記載数別に集計すると、表1のとおりとなった。

 次に、個別財務諸表に対する監査報告書にKAMの記載があった企業について、KAMの記載数別に集計すると、表2のとおりとなった。なお、表2で集計した企業はいずれも、連結財務諸表に対する監査報告書においてもKAMが記載されており、個別財務諸表に対する監査報告書にのみKAMが記載されていた事例はなかった。

 KAMの項目別に、監査報告書に記載された個数が多かった項目を示すと、表3のとおりであった。ここでは、連結財務諸表に対するものと個別財務諸表に対するものとを合算して集計している。

 欧米企業の監査報告書に記載されたKAMと同様に、引当金や資産の減損、のれんや無形資産の評価、繰延税金資産の回収可能性といったいわゆる会計上の見積りに関連する項目や収益認識が上位を占めていた。

欧米企業の監査報告書におけるKAM/CAMの記載個数の分布

 2019年度の監査報告書におけるKAM/CAMの記載数別に英国、欧州大陸及び米国企業の数を一覧で示すと、表4のとおりとなった。なお、KAM/CAMの記載数は、連結財務諸表に対する監査報告書に記載されたものである。

 我が国の企業においても、監査報告書に記載されるKAMの数がゼロというケースは見られなかった。事例数が少ないものの、日本企業の場合、KAMの個数が2個という事例が全体の半分を占めており、英国、欧州の企業よりは少ないが、米国企業の監査報告書に記載されるCAMよりは若干多いという結果になった。

監査報告書に多数のKAM が記載された日本企業

 今回調査の対象とした日本企業の中で、2020年3月期の監査報告書に最も多くのKAMが記載されたのは、ソフトバンクと第一生命ホールディングスで、ともに連結財務諸表に対するものが5個、個別財務諸表に対するものが1個の合計6個であった。
 各社の監査報告書に記載された項目は、それぞれ次のとおりである。
 なお、特に記載のない項目は、連結財務諸表に対する監査報告書に記載されたものである。

(ソフトバンク)
・通信サービス契約におけるIFRS 第15 号の適用上の重要な判断及び見積り
・収益計上の前提となるIT システムの信頼性(連結及び個別財務諸表)
・Z ホールディングス(株)の子会社化の会計方針の決定及び遡及修正再表示及び開示の正確性
・(株)ZOZO 株式取得に関連した取得対価配分(PPA)の適切性と認識された無形資産の評価
・(株)ZOZO 取得により認識したのれんの評価

(第一生命ホールディングス)
・買収により計上したのれんの減損損失の計上に関する判断
・買収等により計上した保有契約価値の償却又は損失の計上に関する判断
・責任準備金の積み立ての十分性に関する判断
・準備金対応債券の振替及び小区分の廃止に関する会計処理及び開示
・繰延税金資産の回収可能性に関する判断
・関係会社株式の減損損失の計上に関する判断(個別財務諸表)

事例の紹介

 以下では、表3に列挙されているそれぞれの項目について、実際の事例を紹介したい。
① 引当金
 2020年3月期の日本企業の連結及び個別財務諸表に対する監査報告書において、最も多く記載が行われたのは、引当金に関するKAMであった。ここでは、銀行業(貸倒引当金)と製造業(製品保証引当金)の事例を1つずつ紹介することとしたい。

(a)三井住友フィナンシャルグループ
会計監査人:有限責任あずさ監査法人
【貸倒引当金の評価】

監査上の主要な検討事項の内容及び決定理由 監査上の対応
 株式会社三井住友フィナンシャルグループの当連結会計年度末の連結貸借対照表において、貸出金82兆5,176億円(総資産の37.5%)が計上されており、これに対応する貸倒引当金は3,017億円である。これらは主に連結子会社である株式会社三井住友銀行(SMBC)の法人顧客に関するものである。SMBCにおいては、貸出金を含む全ての債権について、自己査定基準に基づいて資産査定を実施し、債務者の信用リスクの状況に応じた債務者区分を判定する。この債務者区分ごとに、貸倒実績率又は倒産確率を基礎とする予想損失額、キャッシュ・フロー見積り法(DCF法)等、償却・引当基準において定められた方法により、貸倒引当金の計上、若しくは直接償却を行う。また、直近の経済環境やリスク要因を勘案し、過去実績や個社の債務者区分に反映しきれない、特定のポートフォリオにおける蓋然性の高い将来の見通しに基づく予想損失等については、総合的な判断を踏まえて必要と認められる金額を貸倒引当金に反映する。
 SMBCの法人顧客に対する貸倒引当金の評価は、主に下記の領域において見積りの不確実性が高く、従って、経営者による高度な判断が求められる。
・個別債務者の実態に即して、将来予測情報を含む定性的要因を勘案した債務者区分判定
・直近の経済環境やリスク要因、特に新型コロナウイルス感染症の影響拡大、及びそれらを起因とした原油価格等のマーケット指標の変動が及ぼす影響等について、債務者区分の見直しや特定のポートフォリオに対する追加引当等を通じた貸倒引当金への反映要否の判断、及びその手法の決定 ・主として要管理先及び破綻懸念先の大口債務者に対して適用されるDCF法における将来キャッシュ・フローの見積り  以上から、当監査法人は、SMBCの法人顧客に対する貸倒引当金の評価、その中でも特に定性的要因を勘案した債務者区分判定、直近の経済環境やリスク要因の貸倒引当金への反映、並びにDCF法における将来キャッシュ・フローの見積りが、当連結会計年度の連結財務諸表監査において特に重要であり、「監査上の主要な検討事項」の一つに該当すると判断した。
 当監査法人は、SMBCの法人顧客に対する貸倒引当金の評価の合理性を検討するため、主に以下の手続を実施した。
(1)内部統制の評価
 貸倒引当金の計上プロセスに関連する内部統制の整備・運用状況の有効性について主に下記の点に焦点を当てて評価した。
・自己査定基準、償却・引当基準等を含む貸倒引当金の計上方法の承認
・内部格付制度の検証
・定性的要因を勘案した債務者区分判定
・直近の経済環境やリスク要因の貸倒引当金への反映 ・DCF法における将来キャッシュ・フローの見積り
(2)貸倒引当金の計上基準、並びに内部格付制度の妥当性の評価
 貸倒引当金の計上基準が、我が国において一般に公正妥当と認められる企業会計の基準に準拠しているかどうかを検討した。また、債務者区分判定の基礎となる内部格付制度の妥当性について、業界特有の知識と経験を有した信用リスク評価の専門家が関与して手続を行った。この手続には、外部格付との整合性の分析、並びに主要な内部格付制度のデフォルト判別力の評価が含まれる。 (3)定性的要因を勘案した債務者区分の妥当性の評価  SMBCの法人顧客のうち、一定の基準に基づいて選定した債務者について、定性的要因を勘案した債務者区分の妥当性を評価した。この手続には、経営計画の実現可能性の分析、並びに資金繰りの検討が含まれる。
(4)直近の経済環境やリスク要因の貸倒引当金への反映の合理性の評価
 新型コロナウイルス感染症の影響拡大、及びそれらを起因とした原油価格等のマーケット指標の変動が及ぼす影響等を勘案した債務者区分の見直し、並びに特定のポートフォリオに対する追加引当等の合理性について、主に下記の手続を実施して評価した。
・当該感染症等の影響を受ける債務者の直近の業況把握、貸出条件の変更要請等を含む資金繰りの分析、及びそれらを踏まえた債務者区分の検討
・原油価格等のマーケット指標に係る外部機関のレポートの閲覧による影響範囲の分析及び仮定の検討、並びに特定のポートフォリオにおける予想損失の測定手法の評価
(5)DCF法における将来キャッシュ・フローの見積りの合理性の評価
 DCF法の適用対象先のうち、一定の基準に基づいて選定した債務者について、再建計画とその進捗状況の分析等により、将来キャッシュ・フローの見積りの合理性を評価した。 

(b)デンソー
会計監査人:有限責任監査法人トーマツ
【製品保証引当金の見積り計上】

監査上の主要な検討事項の内容及び決定理由 監査上の対応
 会社は、2020年3月31日現在、連結財政状態計算書上、製品保証引当金を254,342百万円計上しており、連結財務諸表注記2.(4),3.(14)及び17.に関連する開示を行っている。 製品保証引当金は、製品のアフターサービスの費用に備えるために、過去の実績を基礎にして製品保証費用、経済的便益の流出時期を見積り、認識されている。製品保証費用には主にエンドユーザーからの修理依頼に基づく修理費用と、客先が決定したリコールを含む不具合対応に基づく対象車両の修理費用がある
  このうち不具合対応に係る製品保証引当金は、過去に会社が製造した製品に関して客先が不具合の修理対応を行った場合などに、会社が負担すると合理的に見込まれる金額に基づき算出される。算出は、a.対象となる車両台数、b.1台当たりの修理単価c.不具合対応の実施率d.客先との負担金額の按分見込割合をそれぞれ掛け合わせて行われる。
 これらはいずれも経営者の判断を伴う重要な仮定により影響を受けるものであり、特にb.1台当たりの修理単価とd.客先との負担金額の按分見込割合は、製品不具合の原因に照らして修理に係る工数の見積りや客先との交渉結果の見積りを行う必要があることから、相対的に不確実性が高い。a.対象となる車両台数についても、車種、地域等で不具合の発生状況が異なる等、案件の状況によっては不確実性が高くなることもある。また、不具合発生の状況変化が続く場合には、会計上の見積りの不確実性が全般的に高くなることもある。さらに、部品の共通化の度合いによっては、製品不具合が発生した場合の製品保証費用総額は高額になる恐れもあることから、当監査法人は不具合対応に係る製品保証引当金の見積計上額を、監査上の主要な検討事項に該当するものと判断した。 
 当監査法人は、製品保証引当金のうち、残高の大半を占めるリコールを含む製品不具合に係る個別引当金の網羅性及び評価の妥当性を検討するにあたり、主として以下の監査手続を実施した。
・経理部が引当金の見積りに必要なすべての情報を入手するために、品質管理部門と適時に協議するという内部統制の整備及び運用状況を評価した。
・国土交通省が公表しているリコール届出一覧、取締役会等の会議体議事録及び決裁書を査閲し、製品保証引当金の計上の網羅性を検討した。
・新規の不具合対応案件について、案件の概要、製品不具合の原因等について会社の品質管理部門の責任者に質問を行った。
・a.対象となる車両台数について、利用可能な外部データと突合した。また、案件の状況によっては、見積りの前提となる基礎データ等の正確性及び網羅性に照らして、経営者が使用した重要な仮定の合理性を評価した。
・c.不具合対応の実施率について、他の案件における実績に照らして、経営者が使用した重要な仮定の合理性を評価した。
・b.1台当たりの修理単価及びd.客先との負担金額の按分見込割合について、会社の品質管理部門の責任者と議論し、製品不具合の原因、過去の他の案件における実績及び利用可能な外部データに照らして、経営者が使用した重要な仮定の合理性を評価した。
・1台当たりの修理単価及び客先との負担金額の按分見込割合等の経営者が使用した重要な仮定の合理性を評価するため、過去の案件における当初に見込んだ修理単価及び按分見込割合等とそれらの実績を比較した。 

 次回は、固定資産の減損以下の項目について、監査報告書に記載されたKAMの事例を紹介することとする。

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