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解説記事2021年01月18日 未公開裁決事例紹介 時の経過により価値が減少しない資産か否か(2021年1月18日号・№866)

未公開裁決事例紹介
時の経過により価値が減少しない資産か否か
審判所、歴史的価値又は希少価値を有するとはいえず


○請求人が売却した各車両(フェラーリ)が「使用又は期間の経過により減価する資産」(所法38条2項)に該当するか争われた事案。国税不服審判所は、各車両はそれぞれ数百台から数千台以上生産されており、また、生産開始後間もなく購入されたものであり、売却時点においてもいまだ生産されてから20年程度経過したにすぎないものであるから、歴史的価値又は希少価値を有して代替性のないものであるとはいえないと指摘。「時の経過によりその価値の減少しないもの」として減価償却資産から除外される資産に該当するとは認められず、「使用又は期間の経過により減価する資産」に該当すると判断した(東裁(所)令元第84号、令和2年3月10日、棄却)。

主  文

 審査請求をいずれも棄却する。

基礎事実等

1 事実
(1)事案の概要

 本件は、①原処分庁が、審査請求人(以下「請求人」という。)の平成27年分及び平成28年分の所得税等について、車両の売却益及び外貨預金の払出しにより生じた為替差益に係る所得の申告漏れがあるとして各更正処分等をしたのに対し、請求人が、売却した車両は「使用又は期間の経過により減価する資産」に該当しない、また、原処分庁による当該為替差益の算定方法は合理的ではないなどとして、当該各更正処分等の一部の取消しを求め、さらに、②請求人が、平成28年分及び平成29年分の所得税等について、外貨預金の払出しにより生じた為替差損に係る所得は事業所得に該当するとして各更正の請求をしたところ、原処分庁が、当該為替差損に係る所得は事業所得に該当しないとして更正をすべき理由がない旨の各通知処分をしたのに対し、請求人が、当該各通知処分の一部の取消しを求めた事案である。
(2)関係法令等(略)
(3)基礎事実

 当審判所の調査及び審理の結果によれば、以下の事実が認められる。
 イ 請求人について
 請求人は、昭和43年4月に×××××を開業し、その後、昭和51年1月に全国各地の××××××××××を一括して行う×××××を発足させ、×××××(以下「本件事業」という。)を営んでいたが、平成29年1月27日、商号を×××××、主な目的を×××××とする法人(以下「本件会社」という。)を設立し、本件会社に本件事業を引き継がせた。
 ロ 請求人所有車両の売却について
 請求人は、×××××(以下「本件車両買取販売会社」という。)に対し、①平成27年4月30日に、フェラーリF50(自動車登録番号(以下「登録番号」という。)が「×××××」の車両。以下「本件車両A」という。)を×××××で売却し、②平成28年5月16日に、フェラーリ512TR(登録番号が「×××××」。以下「本件車両B」という。)を×××××で、フェラーリ360MODENA(登録番号が「×××××」の車両。以下「本件車両C」という。)を×××××で、フェラーリ612S ANNIVERSARY F1(登録番号が「×××××」の車両。以下「本件車両D」といい、これらの車両を併せて「本件各車両」という。)を×××××で、それぞれ売却した。
 ハ 外貨普通預金の取引について
 請求人は、×××××(以下「本件銀行」という。)××××に開設した、預入通貨をアメリカ合衆国ドル(以下「米ドル」という。)とする請求人名義の外貨普通預金口座(口座番号××××。以下「本件外貨預金口座」といい、本件外貨預金口座に係る外貨預金を「本件外貨預金」という。)と、同支店の請求人名義の円普通預金口座(口座番号××××。以下「本件円預金口座」という。)との間で米ドルと本邦通貨(以下「円貨」という。)の振替を行っていた(以下、本件外貨預金口座における以上の振替を「本件外貨取引」という。)。
 ニ 請求人の申告状況等について
(イ)請求人は、平成27年分、平成28年分及び平成29年分の所得税及び復興特別所得税(以下「所得税等」という。)について、青色の確定申告書に別表1の「確定申告」欄のとおり記載して法定申告期限までにそれぞれ申告した。
  請求人の平成27年分の所得税等の確定申告書には、平成27年4月30日に売却した本件車両Aの譲渡所得に関する記載はなく、また、本件外貨取引により生じた為替差益(以下「本件為替差益」という。)に係る所得については、所得の種類を雑所得とした上、金額は零円と記載されていた。
  請求人の平成28年分の所得税等の確定申告書には、平成28年5月16日に売却した本件車両B、本件車両C及び本件車両Dの譲渡所得に関する記載はいずれもなかった。
(ロ)請求人は、内国税の適正な課税の確保を図るための国外送金等に係る調書の提出等に関する法律第6条の2《財産債務調書の提出》第1項の規定に基づき、平成27年12月31日分財産債務調書を提出期限内に原処分庁に提出したが、当該財産債務調書には、平成27年12月31日現在の財産として、本件車両B、本件車両C及び本件車両Dに関する記載はいずれもなかった。
(4)審査請求に至る経緯(略)

争点および主張

(1)本件各車両は、所得税法第38条第2項に規定する「使用又は期間の経過により減価する資産」に該当するか否か(争点1)。(参照)

【表】争点1(本件各車両は、所得税法第38条第2項に規定する「使用又は期間の経過により減価する資産」に該当するか否か。)について

原処分庁 請 求 人
 本件各車両は、以下のとおり、いずれも所得税法第38条第2項に規定する「使用又は期間の経過により減価する資産」に該当する。
イ 本件各車両は、一般的に愛好家の市場においては一定の希少性を有すると認められるものの、いずれも数百台、数千台又はそれ以上生産されていると推認される上、道路運送車両法上の登録を受けて実際に他の一般車両と何ら変わりなく公道を走行しているのであるから、代替性がないとは認められない。また、本件各車両が、美術関係の年鑑等に登載されている作者の制作に係る書画、彫刻、工芸品等に該当しないことは明らかである。
ロ そうすると、本件各車両は、いずれも車両として日常的に使用されていたと認められるから、所得税法施行令第6条第6号に規定する車両及び運搬具であり、また、希少価値を有し、代替性のないものに該当しないから、同条柱書に規定する「時の経過によりその価値の減少しないもの」を除いた資産に該当し、所得税法第38条第2項に規定する「期間の経過により減価する資産」に該当する。
 本件各車両は、以下のとおり、いずれも所得税法第38条第2項に規定する「使用又は期間の経過により減価する資産」に該当しない。
イ 本件車両Aは、限定モデルであり、全世界での総生産台数が349台と極めて希少性の高い車であって、購入する権利が与えられるのも長年にわたりフェラーリブランドの発展に貢献した者に限られているから極めて希少価値が高い。また、本件車両Bも、限定モデルであり、全世界での総生産台数が2,280台と希少性の高い車であり、本件車両C及び本件車両Dは、限定モデルではないものの、通常の車両に比べて希少性が高く、取引数も限定的で購入も容易でないから希少価値が認められる。そして、本件各車両は、車両としての実用性に着目して購入されたものではなく、公道における走行も、フェラーリに乗ること自体を目的とするものであって、いずれも美術品オークションを運営する会社等が扱うような個性の強い車であるから、希少価値を有し、かつ、ほかの車両による代替性のないものである。
ロ 本件各車両と同種の車両は、中古車市場において、その新車価格を大幅に上回る高値で取引されている。この取引価額は、時の経過によって逓減する機能性・実用性ではなく、時の経過によって逓減しない希少性・非代替性に着目して形成されていることが明らかである。このような取引価額の高騰とその形成要因という観点からも、本件各車両が減価しない資産であることは明らかである。

(2)平成27年分の本件為替差益の金額は幾らか(争点2)。(略)
(3)本件各更正請求は、通則法第23条《更正の請求》第1項第1号に規定する更正の請求ができる場合に該当するか否か。具体的には、平成28年分及び平成29年分の本件為替差損に係る所得が事業所得又は雑所得のいずれに該当するか(争点3)。(略)

審判所の判断

(1)争点1(本件各車両は、所得税法第38条第2項に規定する「使用又は期間の経過により減価する資産」に該当するか否か。)について
 イ 認定事実

 請求人提出資料、原処分関係資料並びに当審判所の調査及び審理の結果によれば、以下の事実が認められる。
(イ)本件各車両の購入について
 請求人は、本件車両買取販売会社から、本件各車両を購入した。なお、本件各車両の取得年月日及び取得価額は、それぞれ別表2の「取得年月日」欄及び「取得価額」欄のとおりである。
(ロ)本件各車両と同種の車両の生産台数等について
 A 本件車両Aと同種の車両は、限定車として、平成7年から平成10年までの間に349台生産されており、車両本体価格は50,000,000円であった。
 B 本件車両Bと同種の車両は、平成3年から平成5年までの間に2,261台生産されており、平成5年当時の車両本体価格は23,800,000円であった。
 C 本件車両Cと同種の車両は、販売台数は不明であるが、平成11年から平成15年まで生産されており、最終モデルの車両本体価格は17,580,000円であった。
 D 本件車両Dと同種の車両は、販売台数は不明であるが、平成18年に生産されており、車両本体価格は33,980,000円であった。
(ハ)本件各車両の使用状況等について
 請求人は、本件各車両について、いずれも道路運送車両法上の登録をして交付を受けた自動車登録番号標を表示し、公道を走行させて使用していた。
 ロ 検討
(イ)所得税法第38条第2項は、別紙の1の(2)のとおり、譲渡所得の金額の計算上控除する資産の取得費について、譲渡所得の基因となる資産が「使用又は期間の経過により減価する資産」である場合には、同法第49条第1項の規定に準じて所定の方法により算定したその資産の減価の額を取得費から控除した額とする旨規定しており、この「使用又は期間の経過により減価する資産」については、減価償却資産の定義を定めた同法第2条第1項第19号に規定する「償却をすべきものとして政令で定めるもの」と同意義であるものと解される。そして、上記「政令で定める」資産について、所得税法施行令第6条柱書は、「棚卸資産、有価証券及び繰延資産以外の資産のうち次に掲げるもの(時の経過によりその価値の減少しないものを除く。)とする」旨規定し、同条第6号において「車両及び運搬具」を掲げている。
  本件各車両が所得税法施行令第6条第6号に規定する「車両及び運搬具」に該当することは明らかであるところ、本件各車両が「時の経過によりその価値の減少しないもの」として減価償却資産から、除外されるものと認められるか否かが問題となる。
  この点、「時の経過によりその価値の減少しないもの」については、本件通達2-14が、古美術品、古文書、出土品、遺物等のように歴史的価値又は希少価値を有し、代替性のないもの等がこれに当たると定めているところ、この取扱いは、「時の経過によりその価値の減少しないもの」の例示として、当審判所においても相当であると認められる。
(ロ)これを前提に、まず、本件車両A及び本件車両Bについてみると、上記イの(イ)及び(ロ)のとおり、本件車両Aについては同種の車両が349台、本件車両Bについては同種の車両が2,261台生産されており、また、本件車両A及び本件車両Bのいずれも、生産開始後間もなく購入されたものであり、それぞれの売却時点においても生産されてから20年程度経過したにすぎないものであるから、一般の車両に比して入手しにくい車両であることを踏まえたとしても、本件車両A及び本件車両Bが歴史的価値又は希少価値を有して代替性のないものであるとまではいえない。次に、本件車両C及び本件車両Dについてみても、これらと同種の車両の販売台数がいずれも不明であることや生産開始後間もなく購入されたものであり、売却時点においても生産開始から10年ないし20年程度経過したにすぎないものであることからすれば、本件車両A及び本件車両Bと同様に歴史的価値又は希少価値を有して代替性のないものであるとはいえない。
  そして、当審判所の調査及び審理の結果によっても、本件各車両が「時の経過によりその価値の減少しないもの」であることをうかがわせるような事情は認められず、他方で、上記イの(ハ)のとおり、本件各車両が、道路運送車両法上の登録をされ、自動車登録番号標を表示して公道を走行していたことからすれば、これらが車両として使用する目的で購入されたことが認められるから、かえって「時の経過によりその価値の減少しないもの」に該当するとはいえない事情が存在することになる。
(ハ)以上によれば、本件各車両は、「時の経過によりその価値の減少しないもの」として減価償却資産から除外される資産に該当するとは認められないから、所得税法第38条第2項に規定する「使用又は期間の経過により減価する資産」に該当する。
  なお、以上のことを踏まえ、本件各車両の取得費を計算すると、いずれも原処分庁認定額(別表2の「取得費」欄の各金額)と同額となる。
 ハ 請求人の主張について
 請求人は、本件各車両は、希少価値を有し、かつ、ほかの車両による代替性のないものであり、中古車市場において新車販売価格を超える価格で取引されているものであるから、「使用又は期間の経過により減価する資産」に該当しない旨主張する。
 しかしながら、結果的に取引価額が高騰したものがあるとしても、本件各車両が希少価値を有し代替性のないものであると認めるに足りないことは上記ロのとおりであるから、請求人の主張は採用できない。
(2)争点2(平成27年分の本件為替差益の金額は幾らか。)について
 イ 認定事実

 請求人提出資料、原処分関係資料並びに当審判所の調査及び審理の結果によれば、以下の事実が認められる。
(イ)請求人は、別表5の「取引年月日」欄記載の平成27年中の各日(平成27年2月16日及び同年8月10日を除く。)に、本件円預金口座から円貨を振り替えて同表の「本件外貨預金口座・預入れ(③)」欄記載の額の米ドルを本件外貨預金口座に預け入れ、また、「本件外貨預金口座・払出し(②)」欄記載の額の米ドルを払い出し、本件円預金口座に振り替えることにより、本件外貨取引を行っていた。本件外貨取引により、本件円預金口座に預け入れられた額は、別表5の「本件円預金口座・預入れ(①)」欄記載の額であった。本件外貨預金口座には、上記の入出金のほか、本件外貨預金の預金利息が、別表5の「取引年月日」欄記載の平成27年2月16日及び同年8月10日の各日に、同表の「本件外貨預金口座・預入れ(③)」欄記載の額の米ドルで入金されていた。本件外貨預金口座における、上記各振替及び預金利息の入金後の各残高は、別表5の「本件外貨預金口座・残高(④)」欄記載のとおりである。
(ロ)原処分庁は、平成27年分の所得税等の更正処分において、平成27年分の本件為替差益の金額を算出するに当たり、平成26年12月8日の本件外貨預金口座における残高2,434.87米ドルについて、同日に預け入れられたものとして総平均法に準ずる方法により米ドルの取得価額を算定した。
  なお、この取扱いについては、請求人は争わない。
 ロ 検討
(イ)本件為替差益の算定方法について
 A 米ドル取得単価の算定方法について
  本件外貨預金は、預入れ及び払出しが随時可能な預金であるところ、このような外貨預金の払出しに伴って生じる為替差損益の具体的な算定方法について、所得税法は、特段の定めを置いていない。
 殊に本件の場合、上記イの(イ)のとおり、本件外貨預金の預入れ及び払出しが繰り返し行われており、このため、本件外貨預金の残高については、異なる為替相場が適用されて預け入れられた米ドルが常に混在するという状況にあることから、平成27年分の本件為替差益の金額を算定するに当たり、払い出された米ドルに係る米ドル取得単価の算定方法が問題となる。
  この点について、原処分庁は、上記イの(イ)のような取引の実態を有する本件の下においては、譲渡所得又は雑所得の基因となる同一銘柄の有価証券を2回以上にわたって取得した場合の当該有価証券の取得価額の算定方法として所得税法第48条第3項及び同法施行令第118条第1項が規定する総平均法に準ずる方法を用いることが合理的であるとして、同方法によって平成27年分の本件為替差益を算定しているところ、当審判所においても総平均法に準ずる方法が本件において合理的な方法であると認められる。すなわち、所得税法第48条第3項及び同法施行令第118条第1項の各規定が総平均法に準ずる方法を用いることとした趣旨は、同一銘柄における有価証券は代替性を有し、各有価証券の取得価額が異なっても有価証券の物的性格は同じであるから、これらを等価とみて単価を平均化する方法に合理性があり、また、これによって取得価額の変動を利用した利益操作の可能性を排除できることにあるものと解される。そして、同一の外国通貨は、同一銘柄の有価証券と同様に代替性を有し、通貨としての物的性格は同じであるから、平成27年分の本件為替差益の金額の算定に当たっても、異なる為替相場が適用されて本件外貨預金口座に預け入れられていた米ドルを等価とみなしてその単価を平均化し、その平均化した単価を用いて当該米ドルの取得価額を算定するという総平均法に準ずる方法によるのが、本件において合理的と認められる。
  以上により、本件においては、本件外貨預金口座に預け入れられていた米ドルの払出しの直前の払出しの時から当該米ドルの払出しの時までの期間を基礎として、①当該直前の払出しの時に有していた米ドル(当該直前の払出しの時における本件外貨預金の残高)の円換算額と、②当該期間中に預け入れられた米ドルの円換算額(円交換額)の総額を合計し、さらに、③当該合計額を当該払出しの直前に有していた米ドルの総額(当該払出しの直前における本件外貨預金の残高)で除した金額をもって米ドル取得単価とし、同単価を基礎として当該払出しによる米ドルの取得価額の円換算額を算定するのが相当である。
 B 本件外貨預金の預金利息の取扱いについて
  平成27年中の本件外貨預金の預金利息は、上記イの(イ)のとおり、平成27年2月16日及び同年8月10日に、いずれも本件外貨預金口座に米ドルで入金されており、当該預金利息の同口座への入金は、所得税法第57条の3第1項に規定する外貨建取引に該当するから、当該預金利息は、同項の規定により、当該入金の日における外国為替の売買相場によって円換算額を算定することとなる。そして、本件外貨預金口座に預けられていた米ドルと当該預金利息として同口座に入金された米ドルは同一の外国通貨であるところ、払い出された米ドルの取得価額の円換算額の算定に当たり、これらを区別して取り扱う根拠は見当たらない。
 そうすると、上記Aのとおり、本件外貨預金口座から払い出された米ドルに係る米ドルに係る取得単価を算定するに当たっては、総平均法に準ずる方法によって、上記Aの②の当該期間中に預け入れられた米ドルの円換算額のうちに、当該期間中において本件外貨預金口座に入金された預金利息の円換算額を含めて計算することとなる。
 C 外貨建取引の円換算において使用する為替レート
  本件通達57の3-2は、別紙の2の(3)のとおり、居住者が外貨建取引を行った場合の円換算は、その取引を計上すべき日におけるTTMレートによる旨定めているところ、一般に、金融機関は、外国為替市場での銀行間取引相場における一定の時間の為替レートを基準にTTMレートを決定し、TTMレートを基準として、金融機関が顧客から外貨を購入する場合の為替レート及び金融機関が顧客に外貨を売却する場合の為替レート(TTSレート)を決定しており、これらの為替レートとTTMレートとの差額は、金融機関にとって手数料としての性質を含むものと解され、外貨建取引を計上すべき日において外貨の売買が行われるとは限らないことを踏まえると、対顧客取引の基準となる為替レートであるTTMレートにより円換算を行うこととしたこの取扱いは、当審判所においても相当であると認められる。したがって、本件通達57の3-2の定めに基づき、本件外貨預金の預金利息が本件外貨預金口座に入金された日におけるTTMレートを適用し、当該預金利息の入金時の円換算額を計算することとなる。
 D 米ドル取得単価の計算における小数点以下の端数処理について
  本件外貨預金口座から払い出された米ドルに係る米ドル取得単価の計算は、上記Aのとおりであるところ、当該計算における小数点以下の端数処理については、所得税法上、有価証券の譲渡原価等の計算及びその評価の方法に関する各規定は置かれているものの、これらの規定においても1単位当たりの取得価額又は取得費の計算上生じた小数点以下の端数処理の取扱いに関する規定は設けられていないこと、本件のように取引額が多額の場合、端数処理により為替差損益の額に大きな差額が生じることから、上記米ドル取得単価の算定において、小数点以下の端数処理を行うことなく計算するのが相当である。
 E 小括
  以上のとおり、平成27年分の本件為替差益の金額の算定に当たっては、総平均法に準ずる方法により米ドル取得単価を算定するのが相当であり、本件外貨預金の預金利息について、当該預金利息が本件外貨預金口座に入金された日におけるTTMレートを適用して円換算額を計算した上で、当該預金利息の円換算額を含めて米ドル取得単価を算定し、また、その算定過程において小数点以下の端数処理を行うことなく計算するのが相当であると認められる。
(ロ)平成27年分の本件為替差益の金額
 これらのことを踏まえ、平成27年分の本件為替差益の金額を算定すると、別表5の「為替差損益(審判所認定額)」の「合計」欄のとおり、××××××となる。
(3)争点3(本件各更正請求は、通則法第23条第1項第1号に規定する更正の請求ができる場合に該当するか否か。具体的には、平成28年分及び平成29年分の本件為替差損に係る所得が事業所得又は雑所得のいずれに該当するか。)について
 イ 法令解釈

 所得税法第27条第1項は、別紙の2の(1)のとおり、事業所得とは、農業、漁業、製造業、卸売業、小売業、サービス業その他の事業で政令で定めるものから生ずる所得をいう旨規定し、これを受けて、事業所得の事業の範囲について定める同法施行令第63条は、第1号ないし第11号で個別の事業を掲げるほか、第12号で、「前各号に掲げるもののほか、対価を得て継続的に行なう事業」と規定しているから、事業所得にいう「事業」とは、対価を得て継続的に行う事業をいうものと解され、この事業所得にいう「事業」に当たるかどうかは、自己の計算と危険において独立して営まれ、営利性、有償性を有し、かつ反復継続して遂行する意思と社会的地位とが客観的に認められる業務に当たるかどうかによって判断するのが相当であり(最高裁昭和56年4月24日第二小法廷判決・民集35巻3号672頁参照)、具体的には、営利性及び有償性の有無、反復継続性の有無に加え、自己の危険と計算においてする企画遂行性の有無、その者が費やした精神的及び肉体的労力の有無及び程度、人的及び物的設備の有無、その者の職業、経験及び社会的地位、収益の状況等の諸般の事情を考慮し、社会通念に照らして、「事業」として認められるかどうかによって判断すべきものと解するのが相当である。そして、社会的客観性をもって「事業」として認められるためには、相当程度の期間継続して安定した収益を得られる可能性がなければならないと解される。
 ロ 認定事実
 請求人提出資料、原処分関係資料並びに当審判所の調査及び審理の結果によれば、以下の事実が認められる。
(イ)請求人は、平成28年中は、本件事業の個人事業主として、90,000,000円を超える事業所得を得ており、平成29年中は、同年7月までの本件事業に係る事業所得に加え、本件事業を引き継がせた本件会社から給与として××××××の支払を受け、合計で80,000,000円を超える所得を得ていた。
(ロ)請求人は、自己資金を原資として、また、自ら本件銀行の担当者に架電し情報を得るなどして本件外貨取引を行っていた。
(ハ)請求人は、本件外貨取引を本件事業に係る事務所において行い、本件外貨取引のために特別に従業員を雇用することもなかった。
(ニ)請求人が、本件外貨預金口座からの払出しを行った回数は、平成28年中が1回、平成29年中は4回であった。
(ホ)本件外貨取引による損益の状況は、平成27年分については、別表5のとおり利益が出ていたものの、平成28年分及び平成29年分については、請求人の主張によると、別表4のとおり損失が生じていた。
 ハ 当てはめ
 以上に認定した事実によれば、請求人は、資金調達手段や情報収集のための特別な機構を有することなく、また特別の人的・物的設備を整えることもなく本件外貨取引を行っていたといえる。また、請求人は、個人事業主として本件事業を営み、平成29年1月からは本件会社を設立して、平成28年分及び平成29年分のいずれの年分においても、本件事業又は本件会社からの給与により多額の所得を得ているのに対し、請求人の当該各年中の本件外貨預金口座からの払出しの回数は少なく、本件外貨取引による利益も得ていないことからすれば、請求人は、客観的にみれば、本件事業又は本件会社を営み、これらによる安定した収入を得て生活費を賄いつつ、その傍らで、本件外貨取引を行っていたものというほかない。これに加え、本件外貨取引は、その実態を踏まえると、相当程度の期間継続して安定した収益を得られる可能性も乏しいものといえるから、本件外貨取引は、社会通念に照らして、対価を得て継続的に行う事業に該当するということはできない。したがって、平成28年分及び平成29年分の本件為替差損に係る所得は、事業所得に該当せず、また、利子所得、配当所得、不動産所得、給与所得、退職所得、山林所得、譲渡所得及び一時所得のいずれにも該当しないから、いずれも雑所得に該当する。
(4)原処分の適法性について(略)
(5)結論

 よって、審査請求には理由がないから、これを棄却することとし、主文のとおり裁決する。

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