カートの中身空

閲覧履歴

最近閲覧した商品

表示情報はありません

最近閲覧した記事

解説記事2019年08月26日 税制改正解説 令和元年度における租税条約の改正について(2019年8月26日号・№800)

税制改正解説
令和元年度における租税条約の改正について
~日本・スペイン租税条約、日本・クロアチア租税協定、日本・コロンビア租税条約、日本・エクアドル租税条約~
 川島彩佳

はじめに


 我が国とスペイン王国(以下「スペイン」という。)との間では、これまで昭和49年(1974年)に締結された租税条約(以下「旧条約」という。)の下で二重課税の回避及び脱税の防止が図られてきた。旧条約は、その締結から長年が経過し、現在の両国の経済関係にそぐわない内容となっていたため、両国政府は、平成29年(2017年)4月に旧条約を改正するための交渉を開始した。その結果、平成30年(2018年)10月16日に「所得に対する租税に関する二重課税の除去並びに脱税及び租税回避の防止のための日本国とスペイン王国との間の条約」(以下「スペイン新条約」という。)についてマドリードにおいて署名が行われた。
 スペイン新条約は、事業利得に対する課税原則の改正、投資所得に対する課税の更なる軽減のほか、条約の濫用防止措置、相互協議手続における仲裁手続及び租税債権の徴収の相互支援(徴収共助)の導入並びに租税に関する情報交換の拡充を行うものである。これらにより、二重課税を除去し、脱税・租税回避行為を防止しつつ、両国間の投資・経済交流を一層促進することが期待される。
 また、我が国とクロアチア共和国(以下「クロアチア」という。)、コロンビア共和国(以下「コロンビア」という。)およびエクアドル共和国(以下「エクアドル」という。)との間には、これまで租税条約は存在しなかったが、緊密化する我が国とこれらの各国との経済関係を踏まえ、我が国は平成30年(2018年)3月にクロアチア政府との間で、平成29年(2017年)12月にコロンビア政府との間で、平成30年(2018年)8月にエクアドル政府との間で、それぞれ租税条約を締結するための交渉を開始した。その結果、平成30年(2018年)10月19日に「所得に対する租税に関する二重課税の除去並びに脱税及び租税回避の防止のための日本国とクロアチア共和国との間の協定」(以下「クロアチア協定」という。)についてザグレブにおいて、平成30年(2018年)12月19日に「所得に対する租税に関する二重課税の除去並びに脱税及び租税回避の防止のための日本国とコロンビア共和国との間の条約」(以下「コロンビア条約」という。)について東京において、平成31年(2019年)1月15日に「所得に対する租税に関する二重課税の除去並びに脱税及び租税回避の防止のための日本国とエクアドル共和国との間の条約」(以下「エクアドル条約」という。)についてキトにおいて、それぞれ署名が行われた。
 クロアチア協定、コロンビア条約及びエクアドル条約は、両国間で生ずる二重課税を除去するため、投資所得に対する投資先の国における課税の軽減又は免除等、両国が課税することができる範囲を定める規定等を設けている。また、条約の締結により、両国の税務当局間において、条約の規定に適合しない課税についての相互協議、租税に関する情報交換及び租税債権の徴収の相互支援(徴収共助)の実施が可能となる。これらにより、二重課税を除去し、脱税・租税回避行為を防止しつつ、両国間の投資・経済交流を一層促進することが期待される。
 これらの条約は、我が国と各国においてそれぞれの国内手続(我が国においては、国会の承認を得ることが必要であり、これらの条約は第198回国会で承認された。)を得た後、外交上の公文の交換又は相互の通告を行い、所定の期間が満了した後に効力を生ずることとなる。
 以下では、これらの条約の主な条項又は特徴的な条項について、解説する。なお、各条項の解説は、特記なき限り全条約共通とし、条約によって異なる場合には、A:スペイン新条約、B:クロアチア協定、C:コロンビア条約、D:エクアドル条約と分類して記述することとする。

一 対象となる者(第1条)

1 本条の趣旨

 条約が適用される者の範囲等を規定している。

2 解説
(1)課税上存在しないものとして取り扱われる事業体を通じて取得される所得に対する条約の適用(A・B・D:本条2、C:本条2及び議定書2)

 例えば、ある事業体が受け取る所得について、その所得が生じた国(源泉地国)では事業体を納税義務者として認識する(事業体課税が行われる)のに対し、事業体が所在する国では事業体の構成員を納税義務者として認識する(構成員課税が行われる)場合がある。このように、ある事業体に関する課税上の取扱いが両締約国で異なる場合には、条約の特典を受ける者に関する認識が両締約国で異なるため、実質的な二重課税が生じているにもかかわらず条約が適用できないこととなる。
 そこで、いずれか一方の締約国の租税に関する法令の下において全面的若しくは部分的に課税上存在しないものとして取り扱われる団体若しくは仕組みによって又はこのような団体若しくは仕組みを通じて取得される所得は、一方の締約国における課税上当該一方の締約国の居住者の所得として取り扱われる限りにおいて、当該一方の締約国の居住者の所得とみなすことを規定している。(注)
(注)スペイン新条約においては、当該団体又は仕組みが次の(i)又は(ii)の国又は地域の法令に基づいて設立されることが必要。
(i)いずれかの締約国
(ii)両締約国以外の国又は地域であって、次の(a)及び(b)の要件を満たすもの
 (a)当該所得が取得される締約国との間において有効な租税に係る情報の交換に関する規定を含む協定を有していること。
 (b)当該両締約国以外の国又は地域の租税に関する法令の下において当該団体又は仕組みを全面的に課税上存在しないものとして取り扱うこと。
 これにより、いずれか一方の締約国により、課税上存在しないものとして取り扱われる課税上の取扱いが両国で異なる事業体を通じて取得される所得に対する条約の適用関係を明らかにしている。
 ただし、スペイン新条約は、源泉地国内に所在する事業体を通じて取得される所得については、源泉地国が自国の居住者である事業体に対して課税する権利が制限されることのないよう、本条2の後段は、いかなる場合にも本条2の規定は一方の締約国が自国の居住者に対して課税する権利を制限するものと解してはならないことを規定している。
(2)セービング・クローズ(B~D:本条3)
 条約の規定は、原則として、自国の居住者に対する居住地国の課税権を制限しないことを確認するとともに、その例外として、居住地国の課税権を制限する条約の条項を規定している。

二 一般的定義(第3条)

1 本条の趣旨

 条約において使用される用語の定義等を規定している。ここでは、「公認の年金基金」の定義について解説することとする。

2 解説
「公認の年金基金」の定義(A~C:本条1(1)、D:本条1(j))

 一方の締約国の「公認の年金基金」とは、当該一方の締約国の法令に基づいて設立される団体又は仕組みであって、当該一方の締約国の租税に関する法令の下において独立した者として取り扱われ、かつ、次の(i)又は(ii)の規定に該当するものをいう。
① 専ら又は主として、個人に対する退職手当及び補助的若しくは付随的な手当又は他のこれらに類する報酬を管理し、又は給付することを目的として設立され、かつ、運営される団体又は仕組みであって、当該一方の締約国又は当該一方の締約国の地方政府若しくは地方公共団体によって規制されるもの
② 専ら又は主として、当該一方の締約国の他の公認の年金基金の利益のために投資することを目的として設立され、かつ、運営される団体又は仕組み
 なお、一方の締約国の法令に基づいて設立される団体又は仕組みが、当該一方の締約国の租税に関する法令の下において独立した者として取り扱われるとしたならば上記(i)又は(ii)に基づいて公認の年金基金に該当することとなる場合には、当該団体又は仕組みは、当該一方の締約国の租税に関する法令の下において公認の年金基金として取り扱われる独立した者とみなし、かつ、当該団体又は仕組みの全ての資産及び所得は、他の者ではなく、当該独立した者によって保有される資産及び取得される所得として取り扱われる。

三 居住者(第4条)

1 本条の趣旨

 「一方の締約国の居住者」の定義等を規定している。

2 解説
 本条2及び3は、「双方居住者」を条約上いずれか一方の締約国の居住者に振り分けるためのルールを規定している。

 個人が「双方居住者」に該当する場合には、次の①から③までの基準によって、いずれか一方の締約国の居住者とみなすこととされており、これらによっても決定することができない場合には、両締約国の権限のある当局の合意により解決することとされている(本条2)。
① その使用する恒久的住居が存在する締約国の居住者とみなす。双方に恒久的住居を有する場合には、人的及び経済的関係がより密接な締約国(重要な利害関係の中心がある締約国)の居住者とみなす。
② 上記①によって決定することができない場合には、その有する常用の住居が存在する締約国の居住者とみなす。
③ 上記②によって決定することができない場合には、その個人が国民である締約国の居住者とみなす。
 また、個人以外の者が「双方居住者」に該当する場合には、本条3に従って、両締約国の権限のある当局が、その者の本店又は主たる事務所の所在地、その者の事業の実質的な管理の場所、その者が設立された場所その他関連する全ての要因(注)を考慮して、合意によりその居住地国を決定するよう努め、そのような合意がない場合には、その者は、条約に基づいて与えられる租税の軽減又は免除を受けることができないこととされている。
(注)クロアチア租税協定については、その者の登録の場所を含む。

四 恒久的施設(第5条)

1 本条の趣旨

 事業利得に対する課税、配当等に対する源泉地国課税、給与所得に関する短期滞在者免税等について、「恒久的施設」との関連を基準として課税関係を決定している。本条は、この「恒久的施設」の定義等を規定している。

2 解説
(1)「恒久的施設」の定義(本条1)

 「恒久的施設」の定義を規定している。「恒久的施設」とは、事業を行う一定の場所であって企業がその事業の全部又は一部を行っているものをいう。
(2)恒久的施設の例示(本条2)
 本条1の定義を踏まえ、恒久的施設に該当するものを例示している。
(3)建築工事現場等(本条3)
 建築工事現場等が恒久的施設を構成する場合を規定している。
① スペイン新条約及びクロアチア協定
  建築工事現場又は建設若しくは据付けの工事については、これらの現場又は工事が12か月を超える期間存続する場合に限り、恒久的施設を構成すると規定している。
② コロンビア条約
  恒久的施設に次のものを含むことを規定している。
 イ 建築工事現場若しくは建設、組立て若しくは据付けの工事又はこれらに関連する監督活動。ただし、これらの現場、工事又は活動が183日を超える期間、存続する場合に限る。
 ロ 企業が行う役務の提供(コンサルタントの役務の提供を含む。)であって、使用人その他の職員(当該役務の提供のために採用されたものに限る。)を通じて行われるもの。ただし、このような活動が、単一の又は関連するプロジェクトについて当該課税年度において開始し、又は終了するいずれかの12か月の期間において合計183日を超える期間、一方の締約国内において行われる場合に限る。
  なお、上記イ及びロに規定する活動の期間は、二以上の密接に関連する企業が一方の締約国内において行う活動の期間を合計して決定することとされている。ただし、一の企業が当該一方の締約国内において行う活動とその密接に関連する企業が当該一方の締約国内において行う活動とが関連している場合に限る。上記イ及びロに規定する活動の期間の決定に当たって、二以上の密接に関連する企業が同時に活動を行っている期間は、一度に限り算入される。
③ エクアドル条約
  恒久的施設に次のものを含むことを規定している。
 イ 建築工事現場若しくは建設、組立て若しくは据付けの工事又はこれらに関連する監督活動。ただし、これらの現場、工事又は活動が6か月を超える期間、存続する場合に限る。
 ロ 企業が行う役務の提供であって、使用人その他の職員(当該役務の提供のために採用されたものに限る。)を通じて行われるもの。ただし、このような活動が、単一の又は関連するプロジェクトについて当該課税年度において開始し、又は終了するいずれかの12か月の期間において合計183日を超える期間、一方の締約国内において行われる場合に限る。
(4)恒久的施設を有するとはされない活動(本条4)
① スペイン新条約及びコロンビア条約
  事業を行う一定の場所であっても、恒久的施設に当たらない活動を規定している。ただし、その活動(ヘの規定に該当する場合には、ヘに規定する事業を行う一定の場所における活動の全体)が準備的又は補助的な性格のものである場合に限る。
 イ 企業に属する物品又は商品の保管、展示又は引渡しのためにのみ施設を使用すること。
 ロ 企業に属する物品又は商品の在庫を保管、展示又は引渡しのためにのみ保有すること。
 ハ 企業に属する物品又は商品の在庫を他の企業による加工のためにのみ保有すること。
 ニ 企業のために物品若しくは商品を購入し、又は情報を収集することのみを目的として、事業を行う一定の場所を保有すること。
 ホ 企業のために上記イからニまでに規定されていない活動を行うことのみを目的として、事業を行う一定の場所を保有すること。ただし、その活動が準備的又は補助的な性格のものである場合に限る。
 へ 上記イからホまでに規定する活動を組み合わせた活動を行うことのみを目的として、事業を行う一定の場所を保有すること。
② クロアチア協定及びエクアドル条約
 イ 企業に属する物品又は商品の保管又は展示のためにのみ施設を使用すること。
 ロ 企業に属する物品又は商品の在庫を保管又は展示のためにのみ保有すること。
 ハ 企業に属する物品又は商品の在庫を他の企業による加工のためにのみ保有すること。
 ニ 企業のために物品若しくは商品を購入し、又は情報を収集することのみを目的として、事業を行う一定の場所を保有すること。
 ホ 企業のために上記イからニまでに規定されていない活動を行うことのみを目的として、事業を行う一定の場所を保有すること。ただし、その活動が準備的又は補助的な性格のものである場合に限る。
 へ 上記イからホまでに規定する活動を組み合わせた活動を行うことのみを目的として、事業を行う一定の場所を保有すること。ただし、その一定の場所におけるこのような組合せによる活動の全体が準備的又は補助的な性格のものである場合に限る。
(5)事業活動の細分化への対抗(本条5)
 事業活動を複数の企業又は場所に細分化することによって恒久的施設の認定を回避しようとする行為に対抗する措置である。
 具体的には、ある企業が使用又は保有をする「事業を行う一定の場所」について、その企業又はその企業と密接に関連する企業が、当該一定の場所又は当該一定の場所が存在する締約国内の他の場所において事業活動を行う場合において、次の①又は②に該当するときは、上記(4)の規定(恒久的施設を有するとはされない活動)は適用されず、当該一定の場所は恒久的施設に該当することを規定している。
① 本条の規定に基づき、当該一定の場所又は当該他の場所が、その企業又はその企業と密接に関連する企業の恒久的施設を構成する場合
② その企業及びその企業と密接に関連する企業が当該一定の場所においてそれぞれ行う活動の組合せ又はその企業若しくはその企業と密接に関連する企業が当該一定の場所及び当該他の場所において行う活動の組合せによる活動の全体が、準備的又は補助的な性格のものではない場合
 ただし、この規定が適用されるのは、これらの企業がそれぞれの場所において行う事業活動が、一体的な業務の一部として補完的な機能を果たす場合に限ることとされている。
(6)従属代理人(本条6)
 企業が代理人を通じて行う活動について、恒久的施設を有するものとされる場合を規定している。具体的には、ある企業の代理人(条約に規定する独立の地位を有する代理人(下記(7)参照)を除く。)が、一方の締約国内で当該企業を代理するに当たって、反復して契約を締結し、又は当該企業によって重要な修正が行われることなく日常的に締結される契約の締結のために反復して主要な役割を果たす場合において、これらの契約が次の①から③までのいずれかに該当するときは、当該企業は、その代理人が当該企業のために行う全ての活動について、当該一方の締約国内に恒久的施設を有するものとされる。ただし、代理人の活動が上記(4)の規定(恒久的施設を有するとはされない活動)に規定する活動のみである場合は、恒久的施設を有するものとはされない。
① 当該企業の名において締結される契約
② 当該企業が所有し、又は使用の権利を有する財産について、所有権を移転し、又は使用の権利を付与するための契約
③ 当該企業による役務の提供のための契約
(7)独立の地位を有する代理人(本条7)
 一方の締約国内において活動する他方の締約国の企業の代理人が、当該一方の締約国内において独立の代理人として事業を行う場合において、当該企業のために通常の方法で当該事業を行うときには、上記(6)の規定(従属代理人)は適用されず、当該企業は当該一方の締約国内に恒久的施設を有するものとされないことを規定している。ただし、その代理人が、専ら又は主として、代理人自身と密接に関連する一又は二以上の企業に代わって行動する場合には、そのような企業との関係において、この代理人は、ここにいう独立の代理人には該当しないこととされている。

五 事業利得(第7条)

(注)ここでは、2010年に改正されたOECDモデル租税条約を規定しているスペイン新条約、クロアチア協定及びコロンビア条約を扱うこととする。

1 本条の趣旨
 スペイン新条約、クロアチア協定及びコロンビア条約では、2010年に改正されたOECDモデル租税条約を踏まえ、外国法人・非居住者の支店等(恒久的施設)に帰属する事業利得に対する課税について、本支店間の内部取引を認識し、独立企業原則を適用して恒久的施設に帰属する利得を計算することを規定している。

2 解説
(1)「恒久的施設なければ課税なし」の原則及び「帰属主義」の原則(A・B・C:本条1)

 企業が事業活動によって取得する利得に対する課税に関して、二つの原則を規定している。
 一つは、いわゆる「恒久的施設なければ課税なし」の原則で、一方の締約国の企業の利得に対しては、その企業が他方の締約国内にある恒久的施設を通じて当該他方の締約国内において事業を行わない限り、企業の居住地国である当該一方の締約国においてのみ課税することができるとされている。
 もう一つは、いわゆる「帰属主義」の原則で、一方の締約国の企業が他方の締約国内にある恒久的施設を通じて当該他方の締約国内において事業を行う場合には、その企業の利得のうちその恒久的施設に帰せられる部分に対してのみ、恒久的施設がある当該他方の締約国において課税することができるとされている。
(2)恒久的施設に帰せられる利得の計算(A・B・C:本条2)
 本条及びスペイン新条約、クロアチア協定及びコロンビア条約の第22条(二重課税の除去)の規定の適用上、各締約国において恒久的施設に帰せられる利得は、企業が当該恒久的施設及び当該企業の他の構成部分を通じて果たす機能、使用する資産及び引き受ける危険を考慮した上で、当該恒久的施設が同一又は類似の条件で同一又は類似の活動を行う分離し、かつ、独立した企業であるとしたならば、特に当該企業の他の構成部分との取引においても、当該恒久的施設が取得したとみられる利得とすることを規定している。
 本条2の下では、①恒久的施設の果たす機能及び事実関係に基づいて、取引、資産、リスク及び資本を恒久的施設に帰属させるとともに、②恒久的施設と当該企業の他の構成部分との取引(以下「内部取引」という。)を認識し、その内部取引が独立企業間価格で行われたものとして、当該恒久的施設に帰せられる利得を算定することとなる。したがって、恒久的施設と当該企業の他の構成部分との間の無形資産の貸借による使用料や、恒久的施設と当該企業(金融機関以外の一般の企業も含む。)の他の構成部分との間の金銭の貸借による利子等も、損益として認識される。
 なお、内部取引の認識は、あくまでも恒久的施設に帰せられる利得の算定のために行われるものであって、条約の他の条に及ぶものではない。例えば、恒久的施設と当該企業の他の構成部分との間の金銭貸借に基づく利子の支払を恒久的施設に帰せられる利得を算定するために認識するとしても、このような支払については、「利子(下記参照)」の規定は適用されない。
(3)恒久的施設に帰せられる利得の対応的調整(A・B・C:本条3)
 一方の締約国が、いずれかの締約国の企業の恒久的施設に帰せられる利得を本条2の規定により調整し、それに伴い、他方の締約国において課税された当該企業の利得に課税する場合には、双方の締約国が同一の利得に対して課税することとなり、二重課税の状態が生ずることになる。
 本条3は、当該他方の締約国は、当該利得に対する二重課税を除去するために必要な範囲に限り、当該利得に対して他方の締約国において課された租税の額について適当な調整(対応的調整)を行うことを規定している。なお、この調整に当たっては、両締約国の権限のある当局は、必要があるときは、相互に協議することとされている。
(4)本条と他の条との関係(A・B・C:本条4)
 配当や利子等、他の条で別個に取り扱われる種類の所得が企業の利得に含まれている場合には、他の条の規定が優先的に適用されることを規定している。もっとも、「配当(下記参照)」、「利子(下記参照)」、「使用料(下記参照)」及び「その他の所得」の規定は、これらの所得の支払の基因となった資産が、これらの所得が生ずる締約国内に存在する恒久的施設と実質的な関連を有する場合には、本条が適用されることを規定している。

六 関連企業(第9条)

 関連企業間の取引においては、独立した企業間で用いられる取引価格(以下「独立企業間価格」という。)とは異なる取引価格を用いることによって、所得が関連企業間で移転されることがある。
 本条は、関連企業間の取引価格を独立企業間価格に引き直してそれぞれの企業の利得を計算するという独立企業原則に基づく課税(いわゆる移転価格税制)に関するルールを定めている。

七 配当(第10条)

1 本条の趣旨

 配当に対する源泉地国における限度税率や免税等、配当に対する課税上の取扱いを規定している。

2 解説
(1)居住地国の課税(本条1)

 一方の締約国の居住者である法人が他方の締約国の居住者に支払う配当に対しては、配当を受け取る者の居住地国である当該他方の締約国において課税することができることを規定している。
(2)源泉地国の課税(A・B・D:本条2及び3、C:本条2)
① スペイン新条約
  配当を支払う法人が居住者とされる一方の締約国(源泉地国)においても配当に対して課税することができることを規定するとともに、その配当の受益者が他方の締約国の居住者である場合に源泉地国において課税することができる税率の上限(限度税率)を5%と規定している。
  また、次のイ又はロに該当する場合については、配当の受益者の居住地国である当該他方の締約国においてのみ課税することができる(配当の源泉地国においては免税となる)ことを規定している。
 イ 配当の受益者が、当該配当の支払を受ける者が特定される日(いわゆる基準日)を含む12か月の期間を通じ、当該配当を支払う法人の議決権の10%以上を直接又は間接に所有する法人である場合。なお、当該期間の計算に当たり、当該配当の受益者である法人又は当該配当を支払う法人の合併、分割その他の組織再編成の直接の結果として行われる所有の変更は、考慮しないこととされている。
 ロ 配当の受益者が公認の年金基金である場合(当該配当が、第3条1(l)(i)又は(ii)(一般的定義)に規定する活動によって取得され、かつ、スペインの公認の年金基金については、スペインの居住者である個人が公認の年金基金に拠出した保険料がスペインにおける当該個人の課税所得の計算上控除される場合に限る。)
  さらに、配当を支払う法人が居住者である一方の締約国(源泉地国)における当該法人の課税所得の計算上控除することができる配当については、限度税率(5%)及び源泉地国免税を適用せず、源泉地国の法令に従って課税することができることを規定している。ただし、当該配当の受益者が他方の締約国の居住者である場合には、10%の限度税率が適用される。
② クロアチア協定
  配当を支払う法人が居住者とされる一方の締約国(源泉地国)においても配当に対して課税することができることを規定するとともに、その配当の受益者が他方の締約国の居住者である場合に源泉地国において課税することができる税率の上限(限度税率)を5%と規定している。
  また、配当の受益者が、当該配当の支払を受ける者が特定される日(いわゆる基準日)を含む365日の期間を通じて、当該配当を支払う法人の議決権の25%以上を直接又は間接に所有する法人である場合については、当該配当の受益者の居住地国である当該他方の締約国においてのみ課税することができる(配当の源泉地国においては免税となる)ことを規定している。なお、当該期間の計算に当たり、当該配当の受益者である法人又は当該配当を支払う法人の合併、分割その他の組織再編成の直接の結果として行われる所有の変更は、考慮しないこととされている。
  さらに、配当を支払う法人が居住者である一方の締約国(源泉地国)における当該法人の課税所得の計算上控除することができる配当については、限度税率(5%)及び源泉地国免税を適用せず、源泉地国の法令に従って課税することができることを規定している。ただし、当該配当の受益者が他方の締約国の居住者である場合には、10%の限度税率が適用される。
③ コロンビア条約
  配当を支払う法人が居住者とされる一方の締約国(源泉地国)においても配当に対して課税することができることを規定するとともに、その配当の受益者が他方の締約国の居住者である場合に源泉地国において課税することができる税率の上限(限度税率)を次のとおり規定している。
 イ 当該配当の受益者が、当該配当の支払を受ける者が特定される日(いわゆる基準日)を含む6か月の期間を通じ、当該配当を支払う法人の議決権の20%以上を直接又は間接に所有する法人である場合には、当該配当の額の5%。なお、当該期間の計算に当たり、当該配当の受益者である法人又は当該配当を支払う法人の合併、分割その他の組織再編成の直接の結果として行われる所有の変更は、考慮しないこととされている。
 ロ その他の全ての場合には、当該配当の額の10%
   また、配当の受益者が、公認の年金基金(コロンビアについては、義務的年金基金であるものに限る。)であり、かつ、当該配当が第3条1(l)(i)又は(ii)(一般的定義)に規定する活動によって取得される場合については、当該配当の受益者の居住地国である当該他方の締約国においてのみ課税することができる(配当の源泉地国においては免税となる)ことを規定している。
   さらに、次のイ又はロに該当する配当については、限度税率(5%又は10%)及び源泉地国免税を適用せず、当該配当を支払う法人が居住者である一方の締約国(源泉地国)の法令に従って課税することができることを規定している。ただし、当該配当の受益者が他方の締約国の居住者である場合には、15%の限度税率が適用される。
 イ コロンビアの居住者である法人が支払う配当については、コロンビアにおいて当該法人に対して所得に対する租税が課されていない利得から支払われる配当
 ロ 我が国の居住者である法人が支払う配当については、我が国における当該法人の課税所得の計算上控除される配当
④ エクアドル条約
  配当を支払う法人が居住者とされる一方の締約国(源泉地国)においても配当に対して課税することができることを規定するとともに、その配当の受益者が他方の締約国の居住者である場合に源泉地国において課税することができる税率の上限(限度税率)を5%と規定している。
  また、配当を支払う法人が居住者である一方の締約国(源泉地国)における当該法人の課税所得の計算上控除することができる配当については、限度税率(5%)を適用せず、源泉地国の法令に従って課税することができることを規定している。ただし、当該配当の受益者が他方の締約国の居住者である場合には、10%の限度税率が適用される。
(3)特典を受ける権利(B:本条4)
 クロアチア協定の本条4は、両締約国以外の国の居住者が形式的に締約国の居住者となることを通じて条約が濫用されるリスクに対処するため、本条3の規定(親子会社間配当の免税)に基づく特典(以下、(3)において「制限対象特典」という。)を享受できる者を一定の要件を満たす者に限定するためのルールを次のとおり規定している。
① 一方の締約国の居住者である法人は、制限対象特典が与えられる時においてロの適格者に該当する場合を除いて、当該制限対象特典を受ける権利を有しないこととされる。
② 一方の締約国の居住者である法人は、次のイ又はロに該当する場合には、制限対象特典が与えられる時において、適格者とされる。
 イ 当該制限対象特典が与えられる時において、その主たる種類の株式が一又は二以上の公認の有価証券市場において通常取引されている場合
 ロ 当該制限対象特典が与えられる時及びその時を含む12か月の期間の総日数の半数以上の日において、その株式の50%以上が、当該一方の締約国の居住者である者であって、次の(i)から(iii)までの規定のいずれかに該当する一又は二以上のものによって、直接又は間接に所有されている場合
 (i)上記イの要件を満たす法人
 (ii)個人
 (iii)当該一方の締約国、当該一方の締約国の地方政府若しくは地方公共団体、当該一方の締約国の中央銀行又は当該一方の締約国若しくは当該一方の締約国の地方政府若しくは地方公共団体の機関
③ 一方の締約国の居住者である法人が適格者に該当しない場合においても、当該法人が、①に基づいて制限対象特典を与えない締約国の権限のある当局に対して、当該法人の設立、取得若しくは維持又はその業務の遂行が制限対象特典を受けることをその主たる目的の一つとしたものでないことについて十分に立証するときに限り、当該権限のある当局は、条約の目的を考慮した上で、当該制限対象特典を与えることができる。また、一方の締約国の居住者である法人から要請を受けた他方の締約国の権限のある当局は、当該要請を認め、又は拒否する前に、当該一方の締約国の権限のある当局と協議する。
④ 本条4で用いられる用語は、以下の意義を有することとされる。
 イ 「主たる種類の株式」とは、合計して法人の議決権及び価値の過半数を占める一又は二以上の種類の株式をいう。
 ロ 「公認の有価証券市場」とは、次の有価証券市場をいう。
 (i)いずれかの締約国の法令に基づいて設立され、かつ、規制される有価証券市場
 (ii)両締約国の権限のある当局が合意するその他の有価証券市場
(4)配当を控除することができる法人が支払う配当の取扱い(A・C:本条4、B:本条5、D:本条3)
① スペイン新条約及びクロアチア協定
  配当を支払う法人が居住者である一方の締約国(源泉地国)における当該法人の課税所得の計算上控除することができる配当については、本条2に規定する限度税率(5%)及び本条3に規定する源泉地国免税を適用せず、源泉地国の法令に従って課税することができることを規定している。ただし、当該配当の受益者が他方の締約国の居住者である場合には、10%の限度税率が適用される。
② コロンビア条約
  本条4は、次の①又は②に該当する配当については、本条2に規定する限度税率(5%又は10%)及び本条3に規定する源泉地国免税を適用せず、当該配当を支払う法人が居住者である一方の締約国(源泉地国)の法令に従って課税することができることを規定している。ただし、当該配当の受益者が他方の締約国の居住者である場合には、15%の限度税率が適用される。
 イ コロンビアの居住者である法人が支払う配当については、コロンビアにおいて当該法人に対して所得に対する租税が課されていない利得から支払われる配当(本条4(a))
 ロ 我が国の居住者である法人が支払う配当については、我が国における当該法人の課税所得の計算上控除される配当(本条4(b))
③ エクアドル条約
  配当を支払う法人が居住者である一方の締約国(源泉地国)における当該法人の課税所得の計算上控除することができる配当については、本条2に規定する限度税率(5%)を適用せず、源泉地国の法令に従って課税することができることを規定している。ただし、当該配当の受益者が他方の締約国の居住者である場合には、10%の限度税率が適用される。

八 利子(第11条)

1 本条の趣旨

 利子に対する源泉地国における限度税率や免税等、利子に対する課税上の取扱いを規定している。

2 解説
(1)居住地国の課税(本条1)

 一方の締約国内において生じ、他方の締約国の居住者に支払われる利子に対しては、利子を受け取る者の居住地国である当該他方の締約国において課税することができることを規定している。
(2)源泉地国免税(A:本条2、B~D:本条2及び3)
① スペイン新条約
  利子の源泉地国免税を利用した租税回避行為を防止する観点から、利子に対する源泉地国免税の例外として、いわゆる利益連動型の利子については、源泉地国の法令に従って課税することができることを規定している。ただし、当該利子の受益者が他方の締約国の居住者である場合には、10%の限度税率が適用される。
  ここでいう「利益連動型の利子」とは、利子の額が次のものを基礎として算定される利子又はこれに類する利子をいう。
 イ 債務者又はその関係者の収入、売上げ、所得、利得その他の資金の流出入
 ロ 債務者又はその関係者の有する資産の価値の変動
 ハ 債務者又はその関係者が支払う配当、組合の分配金その他これらに類する支払金
② クロアチア協定
  利子が生じたとされる一方の締約国(源泉地国)においても利子に対して課税することができることを規定するとともに、その利子の受益者が他方の締約国の居住者である場合に源泉地国において課税することができる税率の上限(限度税率)を5%と規定している。
  さらに、次のイ又はロに該当する場合については、利子の受益者の居住地国である当該他方の締約国においてのみ課税することができる(利子の源泉地国においては免税となる)ことを規定している。
 イ 当該利子の受益者が、次に掲げる者である場合
 (i)当該他方の締約国
 (ii)当該他方の締約国の地方政府又は地方公共団体
 (iii)当該他方の締約国の中央銀行
 (iv)(i)又は(ii)に掲げる者によって全面的に所有される機関
 ロ 当該利子の受益者が当該他方の締約国の居住者であり、かつ、当該利子が上記イ(i)から(iv)までに掲げる者によって保証された債権、これらによって保険の引き受けが行われた債権又はこれらによる間接融資に係る債権に関して支払われる場合
③ コロンビア条約
  利子が生じたとされる一方の締約国(源泉地国)においても利子に対して課税することができることを規定するとともに、その利子の受益者が他方の締約国の居住者である場合に源泉地国において課税することができる税率の上限(限度税率)を10%と規定している。
  さらに、次のイからホまでのいずれかに該当する場合については、利子の受益者の居住地国である当該他方の締約国においてのみ課税することができる(利子の源泉地国においては免税となる)ことを規定している。
 イ 当該利子の受益者が、次に掲げる者である場合
 (i)当該他方の締約国
 (ii)当該他方の締約国の地方政府又は地方公共団体
 (iii)当該他方の締約国の中央銀行
 (iv)(i)又は(ii)に掲げる者によって全面的に所有される機関
 ロ 当該利子の受益者が当該他方の締約国の居住者であり、かつ、当該利子が上記イ(i)から(iv)までに掲げる者によって保証された債権、これらによって保険の引き受けが行われた債権又はこれらによる間接融資に係る債権に関して支払われる場合
 ハ 当該利子の受益者が当該他方の締約国の居住者であり、次の(i)又は(ii)に該当するものである場合
 (i)金融機関(当該利子が当該一方の締約国の居住者である金融機関によって支払われる場合に限る。)
 (注)「金融機関」とは、次のものをいう。
  (a)銀行
  (b)保険会社
  (c)関連しない者との取引に係る貸金業又は金融業を継続して営むことによって実質的に総所得を取得する企業(利子を支払う者と関連しないものに限る。)。ここでいう「貸金業又は金融業」には、信用状の発行、保証の提供及びクレジット・カードのサービスの提供の事業を含む。
 (ii)銀行(当該利子が3年以上の期間の債権に関するものである場合に限る。)
 ニ 当該利子の受益者が当該他方の締約国の公認の年金基金(コロンビアについては、義務的年金基金であるものに限る。)であり、かつ、当該利子が第3条1(l)(i)又は(ii)(一般的定義)に規定する活動によって取得される場合
 ホ 当該利子の受益者が当該他方の締約国の居住者であり、かつ、当該利子が当該他方の締約国の居住者によって行われる信用供与による設備又は物品の販売の一環として生ずる債権に関して支払われる場合
④ エクアドル条約
  利子が生じたとされる一方の締約国(源泉地国)においても利子に対して課税することができることを規定するとともに、その利子の受益者が他方の締約国の居住者である場合に源泉地国において課税することができる税率の上限(限度税率)を10%と規定している。
  さらに、次のイからハまでのいずれかに該当する場合については、利子の受益者の居住地国である当該他方の締約国においてのみ課税することができる(利子の源泉地国においては免税となる)ことを規定している。
 イ 当該利子の受益者が、次に掲げる者である場合
 (i)当該他方の締約国
 (ii)当該他方の締約国の地方政府又は地方公共団体
 (iii)当該他方の締約国の中央銀行
 (iv)(i)又は(ii)に掲げる者によって全面的に所有される機関
 ロ 当該利子の受益者が当該他方の締約国の居住者であり、かつ、当該利子が、輸出、投資又は開発を促進することを目的として、上記イ(i)から(iv)までに掲げる者によって保証された債権、これらによって保険の引き受けが行われた債権又はこれらによって行われた間接融資に係る債権に関して支払われる場合
 ハ 当該利子の受益者が、当該他方の締約国の居住者である銀行(当該他方の締約国の法令に基づいて設立され、かつ、規制されるものに限る。)である場合

九 使用料(第12条)

1 本条の趣旨

 使用料に対する源泉地国における限度税率等、使用料に対する課税上の取扱いを規定している。

2 解説
(1)居住地国の課税(本条1)

 一方の締約国内において生じ、他方の締約国の居住者に支払われる使用料に対しては、使用料を受け取る者の居住地国である当該他方の締約国において課税することができることを規定している。
(2)源泉地国免税(B~D:本条2)
① クロアチア協定
  使用料が生じたとされる一方の締約国(源泉地国)においても使用料に対して課税することができることを規定するとともに、その使用料の受益者が他方の締約国の居住者である場合に源泉地国において課税することができる税率の上限(限度税率)を5%と規定している。
② コロンビア条約
  使用料が生じたとされる一方の締約国(源泉地国)においても使用料に対して課税することができることを規定するとともに、その使用料の受益者が他方の締約国の居住者である場合に源泉地国において課税することができる税率の上限(限度税率)を次のとおり規定している。
 イ 当該使用料が、産業上、商業上又は学術上の設備の使用又は使用の権利に対するものである場合には、当該使用料の額の2%
 ロ その他の全ての場合には、当該使用料の額の10%
③ エクアドル条約
  使用料が生じたとされる一方の締約国(源泉地国)においても使用料に対して課税することができることを規定するとともに、その使用料の受益者が他方の締約国の居住者である場合に源泉地国において課税することができる税率の上限(限度税率)を10%と規定している。

十 譲渡収益(第13条)

1 本条の趣旨

 財産の譲渡によって取得する収益に対する課税上の取扱いを規定している。

2 解説
(1)不動産の譲渡(本条1)

 一方の締約国の居住者が他方の締約国内に存在する不動産の譲渡によって取得する収益に対しては、不動産が存在する当該他方の締約国において課税することができることを規定している。
(2)不動産化体株式の譲渡(A~C:本条4、D:本条4及び議定書3)
 一方の締約国の居住者が法人の株式又は同等の持分(組合又は信託財産の持分を含む。)の譲渡によって取得する収益に対しては、当該株式又は同等の持分の価値の50%以上が、当該譲渡に先立つ365日の期間のいずれかの時点において、他方の締約国内に存在する不動産(第6条(不動産所得)に規定する不動産をいう。)によって直接又は間接に構成される場合には、不動産が存在する当該他方の締約国において課税することができることを規定している。
 ただし、クロアチア協定、コロンビア条約及びエクアドル条約については、当該株式又は同等の持分が公認の有価証券市場において取引され、かつ、当該一方の締約国の居住者及びその特殊関係者が所有する当該株式又は同等の持分の数がその種類の株式又は同等の持分の総数の5%以下である場合は、この規定は適用しないこととされている。
(3)大口保有株式の譲渡(C:本条5)
 コロンビア条約の本条5は、一方の締約国の居住者が株式、同等の持分その他の権利の譲渡によって取得する収益に対しては、その譲渡者が、当該譲渡に先立つ365日の期間のいずれかの時点において、他方の締約国の居住者である法人の資本の10%以上に相当する株式、同等の持分その他の権利を直接又は間接に所有していた場合には、当該法人の居住地国である当該他方の締約国において課税することができることを規定するとともに、その税率の上限(限度税率)を10%と規定している。ただし、次の収益については、適用しないこととされている。
① 当該法人の合併、分割その他の組織再編成の直接の結果として行われる所有の変更から生ずる収益
② 当該一方の締約国の公認の年金基金(コロンビアについては、義務的年金基金であるものに限る。)が取得する収益
(4)国外転出時課税に係る対応的調整(A:本条7)
 スペイン新条約の本条7は、一方の締約国の居住者でなくなった個人が他方の締約国の居住者となった場合において、当該個人の財産の未実現の価値の上昇に対して、当該個人が当該一方の締約国の居住者でなくなる直前に当該一方の締約国において課税されたときは、当該他方の締約国は、当該財産の価値の上昇に対する両締約国間の二重課税を除去するために必要な範囲に限り、当該個人が当該財産の譲渡によって取得する収益に対して当該他方の締約国において課された租税の課税標準又は租税の額について適当な調整を行うことを規定している。

十一 独立の人的役務(D:第14条)

1 本条の趣旨

 エクアドル条約の本条は、独立の人的役務について取得する所得に対する課税上の取扱いを規定している。

十二 匿名組合(A~C:第20条、D:議定書4)

 匿名組合契約等に関連して匿名組合員が取得する所得に対する課税上の取扱いについて規定している。

十三 相互協議手続(第24条)

1 本条の趣旨

 条約の解釈又は適用に関して生ずる問題を解決するための相互協議手続について規定している。

2 解説
(1)納税者の申立て(本条1)

 本条1は、いずれか一方又は双方の締約国の措置により条約の規定に適合しない課税を受けたと認める者又は受けることとなると認める者は、その事案につき、一方又は双方の締約国の法令に定める救済手段(異議申立て、訴訟の提起等)とは別に、自己が居住者である締約国の権限のある当局に対して又は当該事案が第23条1(国民無差別)の規定の適用に関するものである場合には自己が国民である締約国の権限のある当局に対して、申立てをすることができることを規定している(注)。ただし、その申立ては、その課税措置の最初の通知の日から3年以内にしなければならないこととされている。
(注)エクアドル条約では、いずれかの締約国の権限のある当局に対して申し立てができることを規定している。また、コロンビア条約の議定書6では、本条1の規定に従って事案の申立てを受けた一方の締約国の権限のある当局が当該申立てを正当と認めない場合には、当該一方の締約国の権限のある当局は、他方の締約国の権限のある当局に対して当該申立てについて通知することを規定している。ただし、その通知は、両締約国の権限のある当局の合意によって当該事案を解決するために当該他方の締約国の権限のある当局に対して行う協議の申入れと解してはならないとされている。
(2)仲裁(A:本条5)
 スペイン新条約の本条5は、条約の規定に適合しない課税を受けたとして申し立てられた事案について、権限のある当局間で一定の期間内に当該事案の解決ができない場合における仲裁について、以下のとおり規定している。
 イ 本条1の申立てが行われた事案に対処するために両締約国の権限のある当局が要請した全ての情報が両締約国の権限のある当局に提供された日から2年以内に、両締約国の権限のある当局が当該事案を解決するための合意に達することができない場合に、当該申立てを行った者が仲裁手続に入ることを書面により要請するときは、当該事案の未解決の事項は仲裁に付託される。ただし、当該未解決の事項についていずれかの締約国の裁判所又は行政審判所が既に決定を行った場合は、仲裁に付託されない。
 ロ 仲裁決定は、事案によって直接に影響を受ける者が、当該仲裁決定を実施する両締約国の権限のある当局の合意を受け入れない場合を除き、両締約国を拘束し、両締約国の法令上のいかなる期間制限にもかかわらず実施されなければならない。
 ハ 両締約国の権限のある当局は、仲裁手続の実施方法を合意によって定めなければならない。

十四 情報の交換(第25条)

 両締約国の権限のある当局が租税に関する情報を交換することを規定している。

十五 租税の徴収における支援(第26条)

 両締約国が、相手国において滞納された租税の徴収を相互に支援することを規定している。

十六 特典を受ける権利(第28条)

① スペイン新条約
  本条1から7までは、いわゆる特典制限規定(LOB:LimitationonBenefits)であり、第10条3(配当)、第11条1(利子)又は第12条1(使用料)の規定に基づいて与えられる特典(以下、①において「制限対象特典」という。)を享受できる者を一定の要件を満たす者に限定している。
  また、本条8は、両締約国以外の国(以下「第三国」という。)に存在する恒久的施設に帰属する所得について第三国において課される租税の額が一定の額に満たない場合には条約の特典は与えられないことを規定している。
  さらに、本条9は、いわゆる主要目的テスト規定(PPT:PrincipalPurposeTest)であり、条約に基づく特典を受けることがその取引等の主たる目的の一つであると認められる場合には特典を与えないことを規定している。
  加えて、本条10は、我が国の非永住者のように、国外源泉所得の一部が課税されない居住者については、条約に基づく租税の軽減又は免除の適用範囲が制限されることを規定している。
② クロアチア協定
  本条1は、第三国内に存在する恒久的施設に帰属する所得について第三国において課される租税の額が一定の額に満たない場合には条約の特典は与えられないことを規定している。
  また、本条2は、いわゆる主要目的テスト規定(PPT:PrincipalPurposeTest)であり、条約に基づく特典を受けることがその取引等の主たる目的の一つであると認められる場合には特典を与えないことを規定している。
③ コロンビア条約
  本条1から6までは、いわゆる特典制限規定(LOB:LimitationonBenefits)であり、第7条5(事業利得)又は第10条(配当)から第13条(譲渡収益)までの規定に基づいて与えられる特典(以下、③において「制限対象特典」という。)を享受できる者を一定の要件を満たす者に限定している。
  また、本条7は、第三国内に存在する恒久的施設に帰属する所得について第三国において課される租税の額が一定の額に満たない場合には条約の特典は与えられないことを規定している。
  さらに、本条8は、いわゆる主要目的テスト規定(PPT:PrincipalPurposeTest)であり、条約に基づく特典を受けることがその取引等の主たる目的の一つであると認められる場合には特典を与えないことを規定している。
④ エクアドル条約
  本条は、いわゆる主要目的テスト規定(PPT:PrincipalPurposeTest)であり、条約に基づく特典一般についてその取引が条約の濫用を主たる目的とすると認められる場合には特典を与えないことを規定している。
(注)主要目的テストのほか、議定書5は、第三国内に存在する恒久的施設に帰属する所得について第三国において課される租税の額が一定の額に満たない場合には条約の特典は与えられないことを規定している。

十七 効力発生(A~C:第30条、D:第29条)

1 本条の趣旨

 条約の効力発生及び適用開始について規定している。

2 解説
(1)効力発生(本条1)

① スペイン新条約
  本条1は、我が国及びスペインが、外交上の経路を通じて、書面により、条約の効力発生のためのそれぞれの国内手続(注)が完了したことを確認する通告を相互に行うものとし、条約は、遅い方の通告が受領された月の翌月から3か月目の月の初日に効力を生ずることを規定している。
② クロアチア協定
  本条1は、我が国及びクロアチアが、外交上の経路を通じて、書面により、協定の効力発生のためのそれぞれの国内手続(注)が完了したことを確認する通告を相互に行うものとし、協定は、遅い方の通告が受領された日の翌日から30日目の日に効力を生ずることを規定している。
③ コロンビア条約及びエクアドル条約
  本条1は、条約は、両締約国においてそれぞれの国内法上の手続に従って承認されなければならず(注)、その承認を通知する外交上の公文の交換の日の翌日から30日目の日に効力を生ずることを規定している。
(注)我が国においては国会の承認が必要なところ、第198回国会で承認された。
(2)適用開始(本条2)
① スペイン新条約及びクロアチア協定
  本条2は、次の租税について適用されることを規定している。
 イ 課税年度に基づいて課される租税に関しては、条約又は協定が効力を生ずる年の翌年の1月1日以後に開始する各課税年度の租税
 ロ 課税年度に基づかないで課される租税に関しては、条約又は協定が効力を生ずる年の翌年の1月1日以後に課される租税
② コロンビア条約
  本条2は、次のものについて適用されることを規定している。
 イ コロンビアにおいては、
 (i)源泉徴収される租税に関しては、条約が効力を生ずる年の翌年の1月1日以後に支払われ、又は貸記される額
 (ii)その他の全ての租税に関しては、条約が効力を生ずる年の翌年の1月1日以後に開始する各課税年度
 ロ 我が国においては、
 (i)課税年度に基づいて課される租税に関しては、条約が効力を生ずる年の翌年の1月1日以後に開始する各課税年度の租税
 (ii)課税年度に基づかないで課される租税に関しては、条約が効力を生ずる年の翌年の1月1日以後に課される租税
③ エクアドル条約
  本条2は、次の租税について適用されることを規定している。
 イ エクアドルにおいては、
   取得される所得及び費用として支払われ、貸記され、認められ、又は記録される額に対し、条約が効力を生ずる年の翌年の1月1日以後に課される租税
 ロ 我が国においては、
 (i)課税年度に基づいて課される租税に関しては、条約が効力を生ずる年の翌年の1月1日以後に開始する各課税年度の租税
 (ii)課税年度に基づかないで課される租税に関しては、条約が効力を生ずる年の翌年の1月1日以後に課される租税
(3)情報の交換及び租税の徴収における支援の適用開始(本条3)
① スペイン新条約、クロアチア協定及びコロンビア条約
  本条3は、第25条(情報の交換)及び第26条(租税の徴収における支援)の規定については、その対象となる租税が課される日又はその租税に係る課税年度にかかわらず、条約の効力発生の日から適用されることを規定している。
② エクアドル条約
  本条3は、第25条(情報の交換)及び第26条(租税の徴収における支援)の規定については、その対象となる租税が課される日又はその租税に係る課税年度にかかわらず、それぞれ次の日から適用されることを規定している。
 イ 第25条(情報の交換)の規定に関しては、条約の効力発生の日
 ロ 第26条(租税の徴収における支援)の規定に関しては、両締約国の政府が外交上の公文の交換によって合意する日
  また、エクアドルが第26条(租税の徴収における支援)の規定を実施するための国内法を導入した場合又はエクアドルが当事国である他の国際文書の規定であって当該国際文書の他の当事国に対して租税債権の徴収について支援を行うことをエクアドルに求めるものの適用が開始される場合には、両締約国の政府は、上記ロの日について合意することを規定している。エクアドルの権限のある当局は、これらの場合に該当することとなった後直ちに、我が国の権限のある当局に対してその旨を通知することとされている。

十八 議定書

 スペイン新条約、コロンビア条約及びエクアドル条約には、条約の不可分の一部を成す議定書が付されている。この議定書の各規定の国際法上の効力は、条約本体の各規定のそれと何ら変わるところはない。

十九 交換公文

 コロンビア条約の署名に当たり、条約に関して、両国政府間で公文の交換が行われている。この交換公文は、条約第3条1(l)(一般的定義)に関し、両国における「公認の年金基金」の範囲を確認している。

当ページの閲覧には、週刊T&Amasterの年間購読、
及び新日本法規WEB会員のご登録が必要です。

週刊T&Amaster 年間購読

お申し込み

新日本法規WEB会員

試読申し込みをいただくと、「【電子版】T&Amaster最新号1冊」と当データベースが2週間無料でお試しいただけます。

週刊T&Amaster無料試読申し込みはこちら

人気記事

人気商品

  • footer_購読者専用ダウンロードサービス
  • footer_法苑WEB
  • footer_裁判官検索