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解説記事2019年10月07日 税理士のための相続法講座 相続法改正(6)-遺留分②(2019年10月7日号・№806)

税理士のための相続法講座
第51回
相続法改正(6)-遺留分②
 弁護士 間瀬まゆ子


1 はじめに
 今回は、前回に引き続き遺留分をテーマとして扱います。

① 遺留分減殺請求権(改正後は遺留分侵害額請求権)から生じる権利を金銭債権化
② 受遺者等の請求により裁判所が金銭債務の支払いにつき相当の期限を許与する制度の新設
③ 遺留分算定の基礎財産に加える相続人に対する生前贈与を10年以内にされたものに限定

 前回は、上記改正のポイントのうち、①遺留分侵害額請求権(改正前の遺留分減殺請求権)から生じる権利の金銭債権化について解説しました。今回は、②受遺者等の請求により裁判所が金銭債務の支払いにつき相当の期限を許与する制度の新設に関して説明していきたいと思います。

2 改正の経緯
 旧法の下では、遺留分減殺請求権が行使されると当然に共有状態が生じ、それが事業承継の障害になる場合があったとの問題意識から、新法では、遺留分侵害額請求権(旧法の遺留分減殺請求権)の行使によって、遺留分権利者は受遺者等に対する金銭債権を取得するというように改正されました(民法1046条1項)。
 ただ、受遺者等が取得したものが現預金等の流動性が高い資産とは限らず(むしろ、受贈財産は不動産ばかりで金銭はわずかという例が多く見られます。)、遺留分権利者に支払うべき金銭を直ちに準備できない事態も容易に想像できます。そのような受遺者等の保護のため、立案段階で、例外的に現物返還を認める案も検討されましたが、最終的にそれらは否定され、遺留分は全て金銭で解決するとの結論が出されました。ただ、上記のような受遺者等の保護を図るため、金銭債権化と同時に、裁判所による期限の許与という新しい制度も設けることとなりました(民法1047条5項)。

3 期限の許与とは
 遺留分に関する紛争が訴訟になった場合、新法では金銭債権化されたため、

被告は、原告に対し、金1000万円及びこれに対する令和元年10月2日から支払済みまで年5分※の割合による金員を支払え

※債権法改正前の民事法定利率。改正後は年3分。
というような判決が出ることになります。つまり、受遺者等は、裁判所が決めた金銭債権の額1000万円に加えて、遺留分権利者が具体的な金額を示して受遺者等に請求した日(当該請求が到達した日を令和元年10月1日としました。)の翌日から発生する遅延損害金を支払わなければなりません。更に、判決言渡後支払いが遅くなるほど遅延損害金は膨らんで行きますし、支払えないと最悪な場合、受遺者等の固有財産を差し押さえられる恐れもあります。
 しかし、前述のように遺贈された財産が不動産ばかりというケースもよくありますし、贈与されたのが金銭でも、期間が経過していると既に全額費消されて現存しないという場合もあり得ます。そのような受遺者等に上記のような判決を下すのは酷なこともあります。そこで、裁判所が金銭の支払期限を一定期間猶予することができるという制度が設けられたわけです。
 上記の例で、仮に1000万円のうち400万円について、期限の許与が半年だけ認められたという場合(判決期日が令和3年4月1日であったとします)、400万円については、令和3年10月1日になるまで支払いが猶予され、遅延損害金もその翌日の10月2日から計算されることになります(残りの600万円については先ほどの主文と同様の判決が下されることになります。)。
 現在の法定利率は5%ですので、2年期限が延びただけで、遅延損害金の額が400万円×年5%×2年の40万円も異なることになります。400万円の1割ですので、低金利な現在にあっては相当な金額です。
※なお、期限が許与された場合に、金銭債権が行使されたときから、認容判決が確定するまでの間の利息がどうなるのかという解釈上の問題があります。この点、本稿では、立法担当官の解説に従い、上記の利息は発生しないとの立場によりました(堂薗幹一郎ほか「概説改正相続法-平成30年民法等改正、遺言書保管法制定-」109ページ(注1))。

4 期限の許与が認められる場合

 父が亡くなったが、遺言で全ての財産を私が承継した。そうしたところ、弟妹たちから遺留分を請求されてしまった。遺産のほとんどは自社株で、預金はごく僅か。毎年の株の配当から弟妹たちに払って行くことはできないだろうか。

期限の許与について、民法は、以下のとおりに定めています。

民法1047条5項
 裁判所は、受遺者又は受贈者の請求により、第1項の規定(筆者注:受遺者・受贈者の負担額について定めた規定)により負担する債務の全部又は一部の支払につき相当の期限を許与することができる。

 非常にシンプルな規定で、どのような場合に期限の許与が認められるのか判然としません。このように条文の中で具体的な判断基準を示さなかったのは、様々な事例が想定され、一義的にその考慮要素を規定するのが困難であるから、裁判所の裁量に委ねることにしたためと説明されています。
 ただ、元々この制度は、遺留分権利者から金銭請求を受けた受遺者等において、直ちにその資金を調達することができない場合に生ずる不都合を解消するために新設されたものです。そのため、実際の裁判においても、受遺者等の資力、遺贈や贈与の目的財産等を売却する等して資金を調達するのに要する通常の期間といった事情が考慮されることになるものと思われます(法制審議会民法(相続関係)部会第26回会議議事録参照)。
 すなわち、遺留分権利者に支払うべき金銭全額を支払うべき資力がないことの証明と(自らの懐具合を遺留分権利者側に開示することになるわけですので、心理的負担は大きくなりそうです。)、所有財産を処分することにより足りない分を賄い得ることの証明が最低限必要になると思われます。後者については、所有財産の売却可能価格と、実際に売れる見通しがあることをある程度証明することが求められるでしょう。
 そして、猶予が認められる期間ですが、前述の条文にいう「相当の期限」は、遺贈等の目的である財産を売却したり、これを担保にして金融機関等から融資を受けるのに通常必要とされる期間をいうと解されます。具体的には、遺産分割調停に関わってきた筆者の感覚からすると、あくまで私見ではありますが、せいぜい半年、どんなに長くても1年程度ではないかと思います。
 そのため、例えば、事例のように、財産のほとんどが自社株で、それをどうしても処分したくないというような場合でも、残念ながら、毎年の配当から、数年にわたって分割弁済していくというような期限の許与は認められない可能性が高いと思われます(分割払いは、許与する期限を金額ごとに分けることで事実上可能と言われていますが、長期にわたる分割という部分が難しいのです。)。その場合、自己株取得等により株を現金化するか、固有財産を売却して現金を準備するか、あるいはそれを担保に融資を受けるか等の方策をとるしかなく、かなり厳しい立場に追い込まれることになるでしょう。
※改正前は遺留分権利者と遺産を共有する関係にありましたので、遺産を売却した場合の税金はそれぞれが負担することになりましたが、新法では全額受遺者等の負担となりますので、この点も注意が必要です。
 やはり相続開始後に紛争化が見込まれるケースについては、早い段階から相続対策を施しておくことが強く望まれます。
 なお、上記は、弟妹らとの話し合いがまとまらなかった場合です。もし弟妹らがよいと言うのであれば、長期にわたる分割ももちろん可能です(家庭裁判所の調停にまで来る段階になると、そのような解決を図ることは一般に困難です。双方がより感情的になる前の早い段階で妥協することが、結果として最善の結果をもたらす場合も多いように思います。)。

5 期限の許与の手続き
 税理士にはあまり関わりのないところでしょうが、期限の許与を求める方法として、遺留分侵害額請求訴訟において抗弁として提出することで足りるのか、反訴を提起する必要があるのかという論点があります。前者の立場を支持する裁判官もいるようですが、安全のために反訴を提起する選択肢を取らざるを得ないと筆者は考えています。
 なお、仮にそもそも遺留分の侵害がないというケースについても、期限の許与を求める反訴(または別訴)は提起しておくべきです。というのは、遺留分侵害額請求を認める判決が確定してそれに基づいて執行された際に、請求異議として期限の許与を求める訴えを提起できない可能性があると言われているためです。

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