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解説記事2019年10月14日 未公開裁決事例紹介 自身の弁護士費用は仕入税額控除の適用あり(2019年10月14日号・№807)

未公開裁決事例紹介
自身の弁護士費用は仕入税額控除の適用あり
審判所、依頼業務に係る役務の対価に該当


○請求人が損害賠償請求された際に要した弁護士費用に仕入税額控除の適用があるか否かなどが争われた裁決。原処分庁は、請求人が基本契約の実質的当事者であるとして損害賠償を請求され、その交渉に要した弁護士費用について、当該基本契約の主体が請求人ではなくその株主個人であるとの審判所の先行裁決での判断が現在においても相当であるから、仕入税額控除をすることはできないとした。しかし、国税不服審判所は、本件弁護士費用は、損害賠償の請求についての弁護士費用であるところ、請求人自身が当事者となった紛争の対応を弁護士に依頼し、その依頼業務に係る役務提供の対価として支払ったものであるから、仕入税額控除の適用があるとの判断を示した(平成31年3月27日、全部取消し)。

基礎事実等
(1)事案の概要

 審査請求人(以下「請求人」という。)は、先行事業年度の法人税の確定申告において、医療法人の出資持分の払戻請求権の譲受け及びその行使により損失が生じたとして繰越欠損金額を計上していたことから、後続事業年度の法人税等の確定申告において、当該繰越欠損金額を損金の額に算入した。また、請求人は、上記後続事業年度において、上記払戻請求権の行使に関して損害賠償を請求され、その対応を弁護士に依頼した上で、訴え提起前の和解申立てによる和解に基づき和解金を支払ったところ、当該後続事業年度の法人税等の確定申告において、当該和解金及び当該弁護士に支払った弁護士費用を損金の額に算入し、当該後続事業年度を課税期間とする消費税等の確定申告において、当該弁護士費用を課税仕入れに係る支払対価の額に算入した。これに対し、原処分庁は、①上記先行事業年度の法人税の更正処分により、繰越欠損金額が零円となっていることから、上記後続事業年度において当該繰越欠損金額の損金算入は認められないこと、②上記払戻請求権の譲受け及び行使の主体は請求人ではないから、上記和解金及び弁護士費用は請求人に帰属しないことを理由として、当該後続事業年度の法人税等の更正処分を行うとともに、上記②の理由により当該弁護士費用は課税仕入れに係る支払対価の額に算入することができないことを理由として、上記課税期間の消費税等の更正処分を行った。
 本件は、請求人が、上記先行事業年度の法人税の更正処分が無効であること、上記払戻請求権の譲受け及びその行使の主体が請求人であり、上記和解金及び弁護士費用が請求人の費用であることを主張して、原処分の全部の取消しを求めた事案である。
(2)関係法令(略)
(3)基礎事実及び審査請求に至る経緯

 当審判所の調査及び審理の結果によれば、以下の事実が認められる。
 イ 当事者等
(イ)請求人××××××に設立された不動産業等を営む株式会社である。その株主は、××××、××××及び××××である。
  なお、請求人の事業年度は、従来、9月1日から翌年8月31日までであったが、平成20年9月1日から同年10月31日までの間に、11月1日から翌年10月31日までに変更された。
(ロ)××××××××は××××××××××××を運営する社団医療法人である。その出資者は、××××、××××、××××及び××××の4名であった(以下、各人の×××の出資持分を併せて「本件出資持分」という。)。
 ロ 本件出資持分の払戻請求権の譲受け
(イ)××と××××は、平成19年9月15日、×××××が同人の有する本件出資持分の払戻請求権を××又は××の指名する者に譲渡し、その他の××××の有する本件出資持分の払戻請求権を××又は××の指名する者に譲渡することを保証する旨の基本契約を締結した。
(ロ)平成19年9月28日に開催された××の臨時社員総会において、××が××に社員として入社すること及び××××が××に本件出資持分の払戻請求権を譲渡することなどが承認可決された。
(ハ)××は、平成19年9月28日付で、請求人宛てに、×××が請求人の依頼を受けて請求人の代理として仮に本件出資持分の払戻請求権の譲受人になったものであり、その真正な譲受人が請求人であることを確認する旨記載された「×××××××出資持分払戻請求権譲受に関する証」と題する書面を差し入れた。
 ハ 本件出資持分の払戻請求
(イ)××と××××は、平成20年9月24日、××が、×××の支配権等を現状有姿で引き継ぎ、そのために、本件出資持分の払戻しを、「現在の出資持分払戻請求権の全ての保有者である」請求人に対して行い、×××が、請求人の依頼に基づき請求人のために払戻請求する旨の基本契約(以下「本件基本契約」という。)を締結した。本件基本契約では、要旨以下の条項(以下「本件表明保証条項等」という。)が合意された。
  A ××は、××に対し、①×××には簿外債務がないこと、②×××が過去に提出した税務申告書には、更正処分がされ、あるいは修正申告を要するような税務上の事由が存在しないこと等を表明し、後日の税務調査により、×××の支配権の引継日以前に発生した事象を原因とした新たな課税が発生した場合には、その課税相当額を××が負担することを保証する(第3条)。
  B ××及び××は、本件基本契約における××××の表明保証及び義務について連帯保証をする(第11条)。
(ロ)平成20年9月30日に開催された×××の臨時社員総会において、××ほか2名が×××に社員として入社し、×××が退社すること、×××が本件出資持分の払戻しを請求したので、×××に対し、本件出資持分相当額の払戻しを行うことなどが承認可決された。
(ハ)請求人は、×××それぞれとの間で、×××が請求人からの依頼に基づいて、請求人のために本件出資持分の払戻請求を行うことなどを相互に確認する旨記載された「×××××××××××の出資持分払戻に関する覚書」と題する書面を作成した。
 ニ 平成20年8月期ないし平成24年10月期の法人税の申告等
(イ)請求人は、原処分庁に対し、平成20年8月期ないし平成24年10月期の法人税の青色の確定申告書をいずれも法定申告期限までに提出した。
  その際、請求人は、本件出資持分の払戻請求権の譲受け及びその行使により損失が生じたとして、平成20年8月期において翌期へ繰り越すべき欠損金額××××××を、平成20年10月期において翌期へ繰り越すべき欠損金額×××××××をそれぞれ計上し、平成21年10月期ないし平成24年10月期において、各事業年度の所得金額の計算上、繰越欠損金額のうち所定の方法で計算した金額を損金の額に算入し、残額を翌期へ繰り越すべき欠損金額にそれぞれ計上した。上記確定申告書に記載された平成24年10月期の翌期へ繰り越すべき欠損金額は、×××××××である。
(ロ)原処分庁は、×××××所属の調査担当職員の調査に基づき、平成20年8月期ないし平成24年10月期の法人税について、本件出資持分の払戻請求権の譲受け及びその行使は×××が行ったものであり、これらによる損失(平成20年8月期及び平成20年10月期において生じたとする欠損金額(上記(イ))の大部分)は請求人に帰属しないなどとして、平成25年7月4日付で更正処分等(以下「先行更正処分等1」という。)を行った。これにより、平成24年10月期の翌期へ繰り越すべき欠損金額は零円となった。
(ハ)請求人は、先行更正処分等1を不服として、所要の異議決定を経た上で、平成25年12月9日に審査請求をしたが、当審判所は、××××××××付で、本件出資持分の払戻請求権の譲受け及びその行使を行ったのは×××であり、これらによる損失は請求人に帰属しないから、先行更正処分等1が適法である旨判断して、棄却の裁決(以下「先行裁決1」という。)をした。
  これに対し、請求人は、平成27年9月16日、先行更正処分等1の取消訴訟を×××××××に提起し、当該訴訟は、現在も同裁判所に係属中である。なお、先行更正処分等1が権限を有する機関によって適法に取り消された事実はない。
 ホ 平成25年10月期ないし平成27年10月期の法人税の申告等
(イ)請求人は、原処分庁に対し、平成25年10月期ないし平成27年10月期の法人税の青色の確定申告書をいずれも法定申告期限までに提出し、平成28年6月23日、上記各税の修正申告書を提出した。
  その際、請求人は、平成24年10月期の翌期へ繰り越すべき欠損金額が、上記ニの(イ)の確定申告書のとおり×××××××であることを前提に、平成25年10月期ないし平成27年10月期の所得金額の計算上、繰越欠損金額のうち所定の方法で計算した金額を損金の額に算入し、残額を翌期へ繰り越すべき欠損金額にそれぞれ計上した。上記修正申告書に記載された平成27年10月期の翌期へ繰り越すべき欠損金額は、×××××××である。
(ロ)原処分庁は、平成25年10月期ないし平成27年10月期の法人税等について、先行更正処分等1により、平成24年10月期の翌期へ繰り越すべき欠損金額は零円になったことから、平成25年10月期ないし平成27年10月期の所得金額の計算上損金の額に算入することのできる繰越欠損金の額が零円であるとして、平成28年7月7日付で、更正処分等(以下「先行更正処分等2」という。また、先行更正処分等1と先行更正処分等2を併せて「先行各更正処分等」という。)を行った。これにより、平成27年10月期の翌期へ繰り越すべき欠損金額は零円となった。
(ハ)請求人は、先行更正処分等2を不服として、平成28年8月29日に審査請求をしたが、当審判所は、×××××××付で、上記ニの(ハ)の先行裁決1の判断を左右するような事実がないことなどからすると、平成27年10月期更正処分等を含む先行更正処分等2が有効であるから、平成24年10月期において翌期へ繰り越すべき欠損金額が存在せず、先行更正処分等2が適法である旨判断して、棄却の裁決をした(以下、上記裁決を「先行裁決2」といい、先行裁決1と併せて「先行各裁決」という。)。
  これに対し、請求人は、平成29年9月19日、先行更正処分等2の取消訴訟を×××××××に提起し、当該訴訟は、現在も同裁判所に係属中である。なお、先行更正処分等2が権限を有する機関によって適法に取り消された事実はない。
 へ ×××と××及び×××の和解
(イ)××は、×××が本件基本契約締結前に発生した事象を原因として追徴課税を受けたことなどについて、請求人が本件基本契約の実質的な当事者であるとして、請求人に対し、本件基本契約上の債務の不履行及び本件表明保証条項等に基づく完全履行の請求として、86,080,044円を請求した(以下、当該請求を「本件損害賠償請求」という。)。
(ロ)××及び×××(以下、併せて「本件和解申立人ら」という。)は、本件損害賠償請求について、請求人から28,360,048円を支払う旨の提案を受けたとして、平成27年12月14日、請求人を相手方として、訴え提起前の和解を×××××××に申し立てた。そして、請求人と本件和解申立人らとの間で、平成28年1月18日、同裁判所において、要旨、下記のとおりの和解(以下「本件和解」という。)が成立した。
  A 請求人は、×××に対し、解決金として金28,360,048円(以下「本件和解金」という。)の支払義務があることを認める(和解条項第1項)。
  B 請求人は、×××に対し、本件和解金を平成28年1月末日限り、×××の指定する口座に振り込み支払う(同第2項)。
  C 本件和解申立人ら及び請求人は、両者の間には本件に関し本和解条項に定めるほか一切の債権債務がないことを相互に確認する(同第3項)。
(ハ)請求人は、平成28年1月25日、×××に本件和解金を支払った。
(ニ)請求人は、本件損害賠償請求への対応を××××××××に委任していたところ、×××××は、平成28年1月19日、本件損害賠償請求についての弁護士費用2,916,000円(以下「本件弁護士費用」という。)を請求し、請求人は、平成28年2月10日、×××××に対し、本件弁護士費用から源泉徴収に係る所得税及び復興特別所得税(以下「源泉所得税等」という。)を控除した金額を支払い、同年3月10日、当該源泉所得税等を原処分庁に納付した。
 ト 審査請求に至る経緯
(イ)請求人は、平成28年10月期の法人税及び平成28年10月課税事業年度の地方法人税について、それぞれ青色の確定申告書に別表1(編注:略)の「確定申告」欄のとおり記載し、法定申告期限までに原処分庁に提出した。その際、請求人は、①所得金額の計算上、本件和解金及び本件弁護士費用を損金の額に算入するとともに、②平成27年10月期の翌期へ繰り越すべき欠損金額が、上記ホの(イ)の修正申告書のとおり×××××××であることを前提に、所得金額の計算上、繰越欠損金額のうち所定の方法で計算した金額を損金の額に算入し、残額を翌期へ繰り越すべき欠損金額に計上した。
 また、請求人は、平成28年10月課税期間の消費税等の確定申告書に別表1(編注:略)の「確定申告」欄のとおり記載し、法定申告期限までに原処分庁に提出した。その際、請求人は、本件弁護士費用を課税仕入れに係る支払対価の額に算入した。
(ロ)請求人は、原処分庁所属の調査担当職員の調査に基づき、役員報酬の過大計上があったとして、平成28年10月期の法人税及び平成28年10月課税事業年度の地方法人税について、平成29年12月15日、それぞれ別表1(編注:略)の「修正申告」欄のとおり記載した修正申告書を原処分庁に提出した。
(ハ)原処分庁は、平成28年10月期の法人税及び平成28年10月課税事業年度の地方法人税について、①先行各更正処分等により平成27年10月期の翌期へ繰り越すべき欠損金額は零円になったことから、平成28年10月期の所得金額の計算上損金の額に算入することのできる繰越欠損金の額が零円である、②本件出資持分の払戻請求権の譲受け及びその行使を行ったのは×××であるから、本件和解金及び本件弁護士費用は×××が負担すべきものであって、請求人には帰属しないとして、平成30年1月26日付で、別表1(編注:略)の各「更正処分等」欄のとおり、法人税及び地方法人税の各更正処分(以下、平成28年10月期の法人税の更正処分を「本件法人税更正処分」、平成28年10月課税事業年度の地方法人税の更正処分を「本件地方法人税更正処分」という。)並びに過少申告加算税の各賦課決定処分(以下、本件法人税更正処分に係るものを「本件法人税分賦課決定処分」、本件地方法人税更正処分に係るものを「本件地方法人税分賦課決定処分」という。)を行った。
  また、原処分庁は、平成28年10月課税期間の消費税等について、本件弁護士費用は上記②のとおり請求人には帰属しないから、これについて仕入税額控除を適用することはできないとして、平成30年1月26日付で、別表1(編注:略)の「更正処分等」欄のとおり、更正処分(以下「本件消費税等更正処分」という。)及び過少申告加算税の賦課決定処分(以下「本件消費税等分賦課決定処分」といい、本件法人税分賦課決定処分及び本件地方法人税分賦課決定処分と併せて「本件各賦課決定処分」という。)を行った。
(ニ)請求人は、原処分を不服として、平成30年4月9日にその全部の取消しを求めて再調査の請求をしたところ、再調査審理庁は、同年7月6日付で再調査の請求を棄却する旨の再調査決定をした。
(ホ)請求人は、原処分に不服があるとして、その全部の取消しを求めて、平成30年7月31日に審査請求をした。

争点および主張
(1)先行各更正処分等が無効と評価され、平成27年10月期において繰越欠損金額が存在することになるか(争点1)。
(2)本件和解金及び本件弁護士費用は、平成28年10月期の法人税の所得金額の計算上、損金の額に算入されるか(争点2)。
(3)平成28年10月課税期間の消費税等の金額の計算上、本件弁護士費用について仕入税額控除の適用があるか(争点3)。

 当事者の主張はのとおり。

【表】当事者の主張(争点1:繰越欠損金額の有無について)

請 求 人 原処分庁
 最高裁昭和48年4月26日第一小法廷判決・民集27巻3号629頁(以下「昭和48年最判」という。)は、課税処分の内容上の過誤が課税要件の根幹についてのそれであって、被課税者に当該処分による不利益を甘受させることが著しく不当と認められるような場合には、当該処分は無効と解される旨判示している。
 これを本件についてみると、先行各更正処分等は、本件出資持分の払戻請求権の譲受け及びその行使による出資払戻金の収受に係る所得は、請求人に帰属するものであるにもかかわらず、これが請求人の株主である×××に帰属するとの誤った事実認定に基づいてされており、先行各更正処分等には、所得の帰属主体の判断誤りという課税要件の根幹についての重大な過誤がある。そして、請求人は、先行各更正処分等によって欠損金を否定され、極めて多額の課税負担を負う結果となっているのであるから、請求人に先行各更正処分等による不利益を甘受させることは著しく不当である。
 以上によれば、先行各更正処分等は無効であり、公定力を有しない。したがって、平成27年10月期の確定申告書に記載のとおり、平成27年10月期において繰越欠損金額が存在する。
 先行各更正処分等は、それらに係る審査請求が先行各裁決によりいずれも棄却されており、その後も権限を有する機関によって適性に取り消されていないことから、行政処分の公定力により有効である。
 そうすると、請求人が平成20年8月期及び平成20年10月期において生じたとする欠損金額は、先行各更正処分等のとおり実際には存在しないから、その後の事業年度である平成27年10月期において繰越欠損金額は存在しない。

【表】当事者の主張(争点2:本件和解金及び本件弁護士費用の損金算入の可否について)

原処分庁 請 求 人
 本件和解金は、×××の支配権等を本件和解申立人らに引き継ぐ旨の本件基本契約に基づいて支払われたものである。そして、×××に係る本件出資持分の払戻請求権の譲受け及びその行使は、先行各裁決が現在においても相当であるから、それらの判断のとおり×××が行ったものである。そうすると、本件和解金及びその交渉に要した本件弁護士費用は、×××が負担すべきものであり、請求人に帰属しないことは明らかである。  本件和解金及び本件弁護士費用は、以下のとおり、請求人が本件損害賠償請求を解決するために支払った費用であるから、本件出資持分の払戻請求権の譲受け及びその行使の主体が請求人であるか否かにかかわらず、平成28年10月期の所得金額の計算上、損金の額に算入される。

【表】当事者の主張(争点3:本件弁護士費用への仕入税額控除の適用の可否について)

原処分庁 請 求 人
 本件弁護士費用は請求人に帰属しないから、平成28年10月課税期間の消費税等の金額の計算上、本件弁護士費用について仕入税額控除を適用することはできない。  本件弁護士費用は、請求人が本件損害賠償請求を解決するために支払った費用である。したがって、平成28年10月課税期間の消費税等の金額の計算上、本件弁護士費用について仕入税額控除を適用することができる。

審判所の判断
(1)争点1(繰越欠損金額の有無)について

 行政処分は、たとえ違法であっても、その違法が重大かつ明白で当該処分を当然無効ならしめるものと認める場合を除いては、権限を有する機関によって適法に取り消されない限り、その効力を有する(最高裁昭和30年12月26日第三小法廷判決・民集9巻14号2070頁参照)。そして、上記のとおり、当審判所は、先行裁決1において、本件出資持分の払戻請求権の譲受け及びその行使を行ったのは×××であり、これに係る所得は請求人に帰属しないから、先行更正処分等1は適法である旨判断し、先行裁決2において、先行裁決1の上記判断を左右するような事実がないことなどから、先行更正処分等2が有効であると判断しており、現在においても先行各裁決の上記各判断を左右するような事実は認められない。そうすると、先行各裁決の上記各判断は現在においても相当である。また、上記のとおり、先行各更正処分等が権限を有する機関によって適法に取り消された事実もないから、先行各更正処分等は有効である。
 そして、平成27年10月期の繰越欠損金額は、先行各更正処分等により零円となったから、平成27年10月期において繰越欠損金額は存在しないことになる。
 これに対し、請求人は、昭和48年最判を引用し、先行各更正処分等には所得の帰属主体の判断の誤りという課税要件の根幹についての重大な過誤があることなどを理由として、先行各更正処分等がいずれも無効であり、公定力を有しない旨主張する。しかしながら、前示のとおり、先行各裁決の上記各判断、要するに本件出資持分の払戻請求権の譲受け及びその行使を行ったのは×××である旨の各判断は、現在においても相当であるから、先行各更正処分等に所得の帰属主体の判断誤りがあるとは認められない。したがって、請求人の主張は、その前提を欠くから、採用することができない。
(2)争点2(本件和解金及び本件弁護土費用の損金算入の可否)について
 イ 本件和解金について

(イ)本件和解金は、本件損害賠償請求についての和解である本件和解において支払合意がされたものであるところ、本件損害賠償請求は、×××の支配権等を引き継いだ××が、当該引継ぎに係る本件基本契約上の債務の不履行及び同契約において合意された本件表明保証条項等に基づき、×××から名称変更した×××が本件基本契約締結前に発生した事象を原因として追徴課税を受けたことなどによる損害の賠償・填補を求めたものである。よって、本件和解金の性質は、本件基本契約に係る損害賠償金と認められる。
  そして、上記(1)のとおり、本件出資持分の譲受け及びその行使を行ったのは×××である旨の先行各裁決の判断は現在においても相当であるから、本件出資持分の払戻請求権の譲受け及びその行使を行った主体は×××であり、本件出資持分の払戻しに係る本件基本契約の主体も×××であると認められる。
  そうすると、上記のとおり本件基本契約に係る損害賠償金である本件和解金は、上記のとおり本件基本契約の主体である×××が個人の責任において負担すべきものであって、請求人は、実質的に×××に代わり、いわゆる立替金の類いとして本件和解金を支払ったものと認めるのが相当である。
  したがって、本件和解金は、請求人の所得金額の計算上、損金の額に算入することは認められない。
(ロ)これに対し、請求人は、①自身に対して行われた本件損害賠償請求の長期化による費用・労力がかさむことや、②本件基本契約の実質的な当事者であるとして本件損害賠償請求が認められる可能性が十分にあったことを勘案して、本件和解金を支払うという極めて合理的な判断をしたことから、本件和解金は請求人に帰属する費用である旨主張する。
  しかしながら、上記(イ)のとおり、本件和解金は、×××が個人の責任において負担すべきもので、請求人は、×××に代わり、立替金の類いとして本件和解金を支払ったものであるから、本件和解金は、請求人に帰属する費用ではないと認められるのであって、当該認定は、本件和解金の支払が合理的な判断であったか否かにより左右されるものではない。したがって、請求人の主張は採用することができない。
 ロ 本件弁護士費用について
 原処分庁は、要するに、本件和解金が、×××の負担すべきもので請求人に帰属しない以上本件和解金の交渉のために要した本件弁護士費用も、×××の負担すべきもので請求人に帰属しない旨主張する。
 しかしながら、上記のとおり、本件弁護士費用は、本件損害賠償請求についての弁護士費用であるところ、本件損害賠償請求は、××が、請求人を相手方として請求をしたものであり、その当事者は、請求人であって×××ではない。確かに、上記イの(イ)のとおり、本件基本契約に係る損害賠償金の性質を有する本件和解金は、×××の負担すべきもので請求人に帰属しないと認められるが、当該認定は、本件損害賠償請求の内容である権利義務に関する認定であり、本件損害賠償請求という紛争の当事者が請求人である旨の上記認定を左右するものではない。
 そうすると、請求人は、本件損害賠償請求の当事者としてその対応を余儀なくされ、これを×××××に依頼し、その依頼業務に係る×××××の役務提供の対価として本件弁護士費用を支払ったものと認めるのが相当であるから、本件弁護士費用は、請求人自身が当事者となった紛争の対応のための費用であり、請求人の業務の遂行に関連して支出されたものであると認められる。
 したがって、本件弁護士費用は、請求人の所得金額の計算上、損金の額に算入されるべきである。
(3)争点3(本件弁護士費用への仕入税額控除の適用の可否)について
 上記で説示したとおり、請求人は、自身が当事者となった本件損害賠償請求の対応を×××××に依頼し、その依頼業務に係る×××××の役務提供の対価として本件弁護士費用を支払ったものであるから、本件弁護士費用は、請求人が、事業として他の者から受けた役務の提供、すなわち課税仕入れ(消費税法第2条第1項第12号)に係る支払対価である。
 したがって、平成28年10月課税期間の消費税等の金額の計算上、本件弁護士費用について仕入税額控除の適用がある。
(4)原処分の適法性について(略)
(5)結論

 以上によると、請求人の審査請求のうち①本件法人税更正処分、本件地方法人税更正処分、本件法人税分賦課決定処分及び本件地方法人税分賦課決定処分について取消しを求めるものは、別紙1及び別紙2(編注:略)の各「取消額等計算書」のとおりの取消しを求める限度で理由があり、その他は理由がなく、②本件消費税等更正処分及び本件消費税等分賦課決定処分について取消しを求めるものは、理由がある。
 よって、上記①の各処分につき、いずれもその一部を別紙1及び別紙2(編注:略)の各「取消額等計算書」のとおり取り消し、上記②の各処分につき、いずれもその全部を取り消すこととし、主文のとおり裁決する。

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