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解説記事2021年03月08日 SCOPE インサイダー取引と認めず、課徴金納付命令を取消し(2021年3月8日号・№873)

業務提携等(重要事実)の決定時期が争点に
インサイダー取引と認めず、課徴金納付命令を取消し


 東京地方裁判所(鎌野真敬裁判長)は令和3年1月26日、インサイダー取引によりモルフォの取締役(原告)に対して金融庁が行った課徴金133万円の納付命令を取り消した。東京地裁は、8月4日の打合せ時点で業務提携等に関する話がされた形跡はないことなどを踏まえると、同日時点で一般投資家の投資判断に影響を及ぼす程度の具体的な内容の決定がされたとはいえないとし、課徴金納付命令は違法であるとの判断を示した(現在、控訴中)。

“業務上の提携”、投資判断に影響を及ぼす程度に具体的内容が必要

 本件は、東証マザーズに上場するモルフォの取締役である原告が、デンソー(東証1部)との業務提携等を行うことの決定をした旨の重要事実を知りながらその公表前にモルフォ株式を買い付けたとして金融庁から133万円の課徴金納付命令を受けたため、処分の取消しを求めた事案である。モルフォは平成16年5月に設立された画像処理技術の研究開発等を目的とする会社である。平成27年12月11日、取締役会においてデンソーとの間でディープラーニング(人間の脳の仕組みを模した機械学習の新たな手法)による画像認識技術の車載機器への適用に関する基礎的研究等を内容とする業務提携並びに第三者割当増資により、デンソーに対しモルフォの普通株式26万1,800株を割り当てる内容の資本提携を行うことを決議し、公表した。原告は合計400株のモルフォ株式を平成27年8月24日及び26日に買い付けていた(表1参照)。

【表1】主な経緯(平成27年)

6月15日 モルフォとデンソーが初めて打合せ(モルフォ側はAなどが出席)。その結果、7月29日に秘密保持契約を締結。
8月 4日 打合わせでは、デンソー側から2、3か月で終了する小規模のプロジェクトを複数行い、その結果で技術的に共同開発が実現できるか否かを平成27年末までに判断したい旨の要望が出された。
8月24・26日 原告がモルフォ株式を買付け。
9月11日 打合わせではデンソーがモルフォに対し、出資及び中長期的な協業を検討している旨を述べた。
12月11日 モルフォがデンソーとの業務提携及び資本提携を取締役会決議し、公表。

 裁判では、モルフォの代表取締役であるAが金商法166条2項1号所定の「業務執行を決定する機関」に該当するか否か、また、業務執行機関がデンソーと業務上の提携を行うことについての決定が平成27年8月4日であるか否かが争われている(表2参照)。

【図表2】争点と当事者の主張

被告(国) 原告(取締役)
(争点1)Aが「業務執行を決定する機関」(金商法166条2項1号)に該当するか否か
・Aはモルフォの創業者であり、同社の設立以降、代表取締役を務めている。モルフォにおけるAの立場、提携の検討や準備等の進め方、本件公表に至るまでの経緯を併せ考えれば、同社においてAは、本件提携について実質的に会社の意思決定と同視されるような意思決定を行うことができる機関であったといえる。 ・原告が取締役に就任して以降、Aと原告は、新規事業部門の立ち上げ、業務プロセスの大幅改善など、事業面の重要な業務方針について合議してモルフォの方針を決定していた。モルフォにおいて事業面の業務執行を決定するのは、Aと原告の合議体であったというべきであり、Aが「業務執行を決定する機関」に該当するとはいえない。
(争点2)モルフォの業務執行を決定する機関がデンソーとの間で金商法166条2項1号ヨ及び金商法施行令28条1号所定の「業務上の提携」を「行うことについての決定」をした時期が遅くとも平成27年8月4日であるか否か
・最高責任者であるAは、デンソーがモルフォの事業・経営方針と合致する相手先として適切な会社と考えたからこそ、本件提携に前向きな意向を示し、デンソーとの最初の面談である6月15日の打合せにわざわざ出席したのである。その後両者のやりとりは密になっていき、本件提携の核心部分である事項は、遅くとも平成27年8月4日までの時点において、具体的な検討や準備等が開始されていたといえる。 ・8月26日の打合せに係るモルフォ議事録によれば、デンソーにおいては、モルフォの画像処理技術をどのように使うかについてこれから社内で議論する程度の状況であった。8月26日の打合せの時点でさえ、デンソーは、モルフォの技術をどのように使うか決めていない状況だったのであるから、これより20日以上前の8月4日の打合せの時点で「業務上の提携」の準備・検討が行われ、合意したとはいえない。

代表取締役は「業務執行決定機関」に該当も
 東京地裁は、Aはモルフォの創業者であり、代表取締役を務めていたこと及び同社の発行済み株式総数の約1割を保有する筆頭株主であったことからすると、他の取締役と比較して意思決定に大きな影響力を有しているとし、本件業務提携において「業務執行を決定する機関」(金商法166条2項1号)に該当するとの判断を示した。しかし、東京地裁は、業務上の提携を行うことについての決定をした時期については国の主張を斥け、課徴金納付命令は違法であるとの判断を示している。
 東京地裁は、金商法166条2項1号ヨ所定の「業務上の提携」を「行うことについて決定をした」とは、業務執行を決定する機関において、仕入れ・販売提携、生産提携、技術提携及び開発提携等、会社が他の企業と協力して一定の業務を遂行することの実現を意図して、「業務上の提携」又はそれに向けた作業等を会社の業務として行う旨の決定がされることが必要であり、「業務上の提携」の実現可能性があることが具体的に認められることは要しないものの、「業務上の提携」として一般投資家の投資判断に影響を及ぼす程度に具体的な内容を持つものでなければならないと解すべきであるとした(最高裁平成11年6月10日第一小法廷判決)。
8月4日時点で業務提携等の話の形跡はなし
 本件について東京地裁は、8月4日の打合せではデンソーからモルフォに対して業務提携の規模や内容に関する話がされた形跡はないことなどを踏まえると、同日時点でモルフォにおいて、業務上の提携について一般投資家の投資判断に影響を及ぼす程度の具体的な内容の決定がされたということはできないと指摘。業務執行機関がデンソーと業務上の提携を行うことについての決定が平成27年8月4日であるとは認められないとし、課徴金納付命令は違法であるとの判断を示した。

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