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解説記事2021年03月15日 新会計基準解説 実務対応報告第41号「取締役の報酬等として株式を無償交付する取引に関する取扱い」等の概要(2021年3月15日号・№874)

新会計基準解説
実務対応報告第41号「取締役の報酬等として株式を無償交付する取引に関する取扱い」等の概要
 企業会計基準委員会 専門研究員 宗延智也

Ⅰ はじめに

 企業会計基準委員会(以下「ASBJ」という。)は、2021年1月28日に、実務対応報告第41号「取締役の報酬等として株式を無償交付する取引に関する取扱い」(以下「本実務対応報告」という。)及び改正企業会計基準第5号「貸借対照表の純資産の部の表示に関する会計基準」(以下「改正純資産会計基準」という。)等(以下、合わせて「本実務対応報告等」という。)を公表(脚注1)した。本稿では、本実務対応報告等の概要を紹介する。なお、文中の意見に関する部分は筆者の私見であり、ASBJの見解を示すものではないことをあらかじめ申し添える。

Ⅱ 本実務対応報告等公表の経緯

 2019年12月に成立した「会社法の一部を改正する法律」(令和元年法律第70号。以下「改正法」という。)において、金融商品取引法第2条第16項に規定する金融商品取引所に上場されている株式を発行している株式会社が、取締役等の報酬等として新株の発行又は自己株式の処分(以下、これらを合わせて「株式の発行等」という。)をするときは、金銭の払込み等を要しないこととされた(改正後の会社法第202条の2第1項等)。
 上記の法改正を受けて、ASBJでは取締役等の報酬等として金銭の払込み等を要しないで株式の発行等をする場合(以下「取締役の報酬等として株式を無償交付する取引」という。)の会計上の取扱いについての審議がなされ、2020年9月に実務対応報告公開草案第60号「取締役の報酬等として株式を無償交付する取引に関する取扱い(案)」等を公表し、2021年1月に、本実務対応報告を公表している。

Ⅲ 本実務対応報告の概要

1 本実務対応報告の適用範囲
 本実務対応報告は、取締役の報酬等として株式を無償交付する取引を対象としている。
 なお、実務上、いわゆる現物出資構成によって、金銭を取締役等の報酬等とした上で、取締役等に株式会社に対する報酬支払請求権を現物出資財産として給付させることによって株式を交付すること(以下「いわゆる現物出資構成による取引」という。)がなされており、当該取引の会計処理に関する定めはなく、様々な実務が行われているものと考えられるが、当該取引には本実務対応報告は適用されない。本実務対応報告が対象とする取引は、会社法上、株式の無償発行であるのに対して、いわゆる現物出資構成による取引は株式の有償発行であるなど、法的な性質が異なる点があるため、いわゆる現物出資構成による取引の会計処理のうち払込資本の認識時点など、法的な性質に起因する会計処理については異なる会計処理になるものと考えられる。

2 本実務対応報告の想定する取引の概要
 本実務対応報告の対象とする取締役の報酬等として株式を無償交付する取引については、本実務対応報告の開発段階においては改正法の施行前であり、どのような取引が実施されるか定かではなかったが、本実務対応報告は、以下の事前交付型と事後交付型を念頭に検討を行っている。
(1)「事前交付型」とは、取締役の報酬等として株式を無償交付する取引のうち、対象勤務期間の開始後速やかに、契約上の譲渡制限が付された株式の発行等が行われ、権利確定条件が達成された場合には譲渡制限が解除されるが、権利確定条件が達成されない場合には企業が無償で株式を取得する取引をいう。
(2)「事後交付型」とは、取締役の報酬等として株式を無償交付する取引のうち、契約上、株式の発行等について権利確定条件が付されており、権利確定条件が達成された場合に株式の発行等が行われる取引をいう。

3 会計処理の基本的な考え方
 我が国では、自社の株式オプションを報酬として用いる取引について、企業会計基準第8号「ストック・オプション等に関する会計基準」(以下「ストック・オプション会計基準」という。)があるが、自社の株式を報酬として用いる取引に関する包括的な会計基準はない。ここで、取締役の報酬等として株式を無償交付する取引は、自社の株式を報酬として用いる点で、自社の株式オプションを報酬として用いるストック・オプションと類似性があると考えられる。よって、この点を捉え、ストック・オプション及び事後交付型と、事前交付型では株主となるタイミングが異なり、その差は提供されるサービスに対する対価の会計処理(純資産の部の株主資本以外の項目となるか株主資本となるか。)に現れるものの、インセンティブ効果を期待して自社の株式又は株式オプションが付与される点では同様であるため、費用の認識や測定についてはストック・オプション会計基準の定めに準じることとしている。

4 報酬費用の認識及び測定
 上記の、報酬費用の認識や測定についてはストック・オプション会計基準の定めに準じるとの基本的な考え方を踏まえ、取締役等に対して株式を発行し、これに応じて企業が取締役等から取得するサービスは、その取得に応じて費用として計上することとした。具体的には、各会計期間における費用計上額は、株式の公正な評価額のうち、対象勤務期間を基礎とする方法その他の合理的な方法に基づき当期に発生したと認められる額となる。
 また、費用の測定についても、株式の公正な評価額に基づき計算し、権利確定条件がある場合の取扱いなども、ストック・オプション会計基準の定めと同様にした。

5 事前交付型の会計処理
(1)取締役等の報酬等として新株の発行を行う場合
 ① 払込資本の認識時点

 事前交付型においては、割当日に取締役等は株主となり、譲渡が制限されているものの、配当請求権や議決権等の株主としての権利を有することになる。ただし、割当日においては、資本を増加させる財産等の増加は生じていない。よって、割当日においては払込資本を増加させず、取締役等からサービスの提供を受けることをもって、分割での払込みがなされていると考え、サービスの提供の都度、払込資本を認識することとしている。
 ② 払込資本の内訳項目
 2020年11月27日に公布された会社法施行規則等の一部を改正する省令(令和2年法務省令第52号)による改正後の会社計算規則(平成18年法務省令第13号)においては、各事業年度の末日(臨時決算日を含む。以下同じ。)において、会社法第202条の2第1項の規定により発行される新株を対価として取締役等が提供した役務の公正な評価額のうち、直前の事業年度の末日から当事業年度の末日までの増加額に相当する資本金又は資本準備金の額が増加することとされている(会社計算規則第42条の2第1項から第3項)。
 この点、会計上の資本金の額は、法律における資本金の額と合わせることとされており、上記の会社計算規則における取扱いを踏まえ、のとおり処理することとしている。

 ③ 没収の会計処理
 事前交付型においては、権利確定条件が達成されない場合には、企業が無償で株式を取得することになるが、このように無償で株式を取得することが確定することを「没収」と定義している。当該没収によって無償で株式を取得した場合は、企業会計基準適用指針第2号「自己株式及び準備金の額の減少等に関する会計基準の適用指針」(以下「自己株式等会計適用指針」という。)第14項の定めに従い、会計処理は行わず自己株式の数のみの増加として処理することとしている。
(2)取締役等の報酬等として自己株式を処分する場合
 ① 基本となる会計処理と払込資本の内訳項目

 自己株式の処分は株主との間の資本取引と考えられており、株主に対して自社の株式を引き渡す点で新株の発行と同様の経済的実態を有すると考えられることから、事前交付型で自己株式の処分を行った場合の基本的な会計処理である報酬費用の認識及び測定や払込資本の認識時点については、事前交付型で新株を発行した場合と同様とすることとしている。
 この場合、自己株式の処分の対価は取締役等から提供されるサービスと考えられ、そのように考えると、報酬費用の総額と自己株式の帳簿価額との差額は、自己株式処分差額としてその他資本剰余金とすることが適切と考えられる。したがって、自己株式の消滅の認識時点及び報酬費用の認識時点においては、その他資本剰余金を増額又は減額することとしている。
 ② 自己株式の帳簿価額の会計処理
 通常の自己株式の処分は、対価の払込期日に認識することとしているが、これは会社法上、自己株式の処分の効力が生じるのは払込期日とされているためである(自己株式等会計適用指針第34項)。取締役の報酬等として株式を無償交付する場合は、その効力が生じるのが「割当日」であり、事前交付型においては、割当日に自己株式が処分され、取締役等は株主となる。このため、自己株式の消滅の会計処理については、自己株式等会計適用指針の考え方との整合性などから、割当日において、処分した自己株式の帳簿価額を減額するとともに、同額のその他資本剰余金を減額し、その後の報酬費用の計上に応じてその他資本剰余金を計上することとしている。
 ③ 没収の会計処理
 上記の処理をした場合、割当日に自己株式の帳簿価額を減額するとともに、同額のその他資本剰余金を減額することになるが、権利確定条件が達成されずいったん取締役等に交付した株式を没収する場合、報酬費用は計上されず、その他資本剰余金が増額されないこととなる。そのため、没収による自己株式の無償取得を、自己株式等会計適用指針第14項に従って、自己株式の数のみの増加として処理することとした場合、割当日に減額したその他資本剰余金が減額されたままとなる。
 この点、没収による自己株式の無償取得が生じたのは、取締役等から条件を満たすサービスの提供が受けられず、当初意図した交換取引が成立しなかったことによるものと考えられることから、通常の自己株式の無償取得と同様に処理するのは適切ではないと考えられる。
 よって、没収による自己株式の無償取得が生じた場合、割当日に減額した自己株式の帳簿価額のうち、無償取得した部分に相当する金額の自己株式を増額し、同額のその他資本剰余金を増額することとしている。
(3)その他資本剰余金の残高が負の値となった場合の処理
 上記の事前交付型の会計処理の結果、会計期間末においてその他資本剰余金の残高が負の値となった場合には、企業会計基準第1号「自己株式及び準備金の額の減少等に関する会計基準」(以下「自己株式等会計基準」という。)第12項により、その他資本剰余金の残高を零とし、当該負の値をその他利益剰余金(繰越利益剰余金)から減額する(四半期においては、翌四半期会計期間の期首に戻入れを行う。)こととしている。
 なお、自己株式等会計基準では、このように払込資本に生じた毀損を留保利益で埋め合わせるのは、その期に完結する処理としていることから、過年度にその他利益剰余金で補てんを行った後、当年度に自己株式を処分した場合の報酬費用の計上や没収による自己株式の計上を行った場合でも、過年度に充当した留保利益を元に戻すことはせず、その他資本剰余金を増額することとしている。

6 事後交付型の会計処理
 事後交付型については、対象勤務期間後に株式を交付するため、対象勤務期間中に計上された費用に対応する金額は、将来的に株式を交付する性質のものとして累積させ、権利確定日以後の割当日において払込資本に振り替えることになると考えられる。
 このような特徴は、ストック・オプションと同様であるため、報酬費用の相手勘定についても、ストック・オプションにおける新株予約権と同様に、貸借対照表の純資産の部の株主資本以外の項目に株式引受権として計上し、割当日において払込資本に振り替えることとしている。また、改正純資産会計基準等において、貸借対照表の純資産の部の株主資本以外の項目として、評価・換算差額等と新株予約権の間に、株式引受権を追加している。

7 その他の会計処理
 本実務対応報告に定めのないその他の会計処理については、類似する取引又は事象に関する会計処理が、ストック・オプション会計基準又は企業会計基準適用指針第11号「ストック・オプション等に関する会計基準の適用指針」(以下「ストック・オプション適用指針」という。)に定められている場合には、これに準じて会計処理を行うこととしている。
 また、次の項目については、ストック・オプション会計基準の定めとは異なる取扱いとすることとしている。
(1)付与日

 ストック・オプション会計基準においては、付与したストック・オプションと企業が期待するサービスが契約成立の時点において等価で交換されていると考えられている(ストック・オプション会計基準第49項)ことなどから、付与日を公正な評価単価の算定の基準日としている。また、当該付与日について、ストック・オプションでは企業と対象者との間で書面による契約が締結されるとは限らないことを踏まえ、付与日の時点を会社法上の割当日としている。
 この点、取締役の報酬等として株式を無償交付する取引においても同様に、交付する株式とその対価である取締役等が提供するサービスが等価で交換されているとみなすことが適切であると考えられ、その等価であることを表す時点は企業と取締役等が合理的な意思をもって条件付の契約を締結した時点(脚注2)であると考えられる。一方、付与日の時点については、取締役の報酬等として株式を無償交付する取引においては、通常は、企業と取締役等との間で書面による契約が締結されることが想定されること、また、事後交付型においては、当初の時点においてストック・オプションのような法令に基づいて設定する日がないことから、上記の考え方に従って、契約が締結された時点とすることとしている。
(2)対象勤務期間

 ストック・オプション会計基準において、対象勤務期間を付与日から権利確定日までの期間としているのは、ストック・オプション会計基準公表当時の調査において、契約上、権利確定日や対象勤務期間が示されていない事例が多く見られたことから、会計基準において対象勤務期間を明示的に定めたものと考えられる。
 この点、取締役の報酬等として株式を無償交付する取引においては、通常は、企業と取締役等との間で書面による契約が締結されることが想定され、契約において「対象勤務期間」が定められていれば、当該期間において費用配分を行うことが適切と考えられる。そこで、本実務対応報告においては、「対象勤務期間」を、通常は契約において定められた期間となるとした。また、契約において対象勤務期間が定められていない場合には、ストック・オプション会計基準と同様に、付与日から権利確定日までの期間を対象勤務期間とみなすこととしている。
 なお、対象勤務期間は、株式と引換えに提供されるサービスの提供期間であることから、勤務条件や業績条件を考慮して条件を達成するために実質的に取締役等の勤務が求められる期間と、契約において定められた期間や付与日から権利確定日までの期間が異なる場合は、条件を達成するために実質的に取締役等の勤務が求められる期間が対象勤務期間となると考えられる。

8 開 示
(1)注記

 注記の検討を行うにあたってもストック・オプション会計基準及びストック・オプション適用指針における注記事項を基礎としているが、取締役の報酬等として株式を無償交付する取引においては、権利行使が行われた場合にのみ株式が交付されるストック・オプションと異なり、権利行使のプロセスが存在しない点や、事前交付型と事後交付型とでプロセスが異なる点を考慮して、必要と考えられるものとして次の事項を注記することとしている。
① 事前交付型について、取引の内容、規模及びその変動状況(各会計期間において権利未確定株式数が存在したものに限る。)
② 事後交付型について、取引の内容、規模及びその変動状況(各会計期間において権利未確定株式数が存在したものに限る。ただし、権利確定後の未発行株式数を除く。)
③ 付与日における公正な評価単価の見積方法
④ 権利確定数の見積方法
⑤ 条件変更の状況
 また、当該注記事項の具体的な内容や記載方法等については、ストック・オプション適用指針の定めに準じて注記を行うこととしている。
(2)1株当たり情報
 1株当たり情報の算定にあたり、事前交付型においては、払込資本を増加させる前の割当日において発行済株式総数又は自己株式数が変動するため、当該株式数の変動を反映させるか否かが論点となる。この点については、取締役等は割当日に株主となり配当請求権等の権利を得ることから、割当日における株式数の変動を1株当たり情報の算定に反映することが適切と考えられる。
 一方、事後交付型においては、株式が交付されるのは権利確定日以後になるが、株式が交付されることとなる契約は、当初の契約時点において「潜在株式(脚注3)」の定義を満たし、潜在株式調整後1株当たり当期純利益の算定において考慮することになると考えられる。ここで、事後交付型はストック・オプションと同様の特徴を有することから、潜在株式調整後1株当たり当期純利益の算定においてもストック・オプションと同様に取り扱うこととしている。そのため、業績条件が付されている場合は条件付発行可能潜在株式と同様に取り扱い、勤務条件のみが付されている場合はワラントと同様に取り扱うこととなる。
 また、1株当たり純資産額において、株式引受権は新株予約権や非支配株主持分と同様に普通株主に関連しない項目であり、「期末の純資産額」の算定にあたっては、貸借対照表の純資産の部の合計額から控除することとしている。

9 適用時期等
 本実務対応報告は、改正法における会社法の規定に基づいて行われる取引を対象としており、改正法の施行前は取引が行われていないと考えられることから、改正法の施行日である2021年3月1日以後に生じた取引から適用することとしている。
 また、新たな取引に対して適用するものであり、従来採用していた会計方針は存在しないことから、会計方針の変更には該当しないこととしている。

Ⅳ おわりに

 本実務対応報告は、会社計算規則のパブリックコメントの公表とASBJの公開草案の公表がほぼ同時に行われ、平仄を合わせる形で進められており、改正された会社計算規則の内容も合わせてご確認いただきたい。本稿が本実務対応報告等の定めをご理解いただくための一助となれば幸いである。

脚注
1 本実務対応報告等の全文については、ASBJのウェブサイト(https://www.asb.or.jp/jp/accounting_standards/practical_solution/y2021/2021-0128.html)を参照のこと。
2 契約を締結した時点は、書面、口頭を問わず、条件に実質的に合意した日になると考えられる。
3 企業会計基準第2号「1株当たり当期純利益に関する会計基準」第9項では、潜在株式を「その保有者が普通株式を取得することができる権利若しくは普通株式への転換請求権又はこれらに準じる権利が付された証券又は契約」と定義している。

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