カートの中身空

閲覧履歴

最近閲覧した商品

表示情報はありません

最近閲覧した記事

解説記事2021年03月15日 SCOPE 東京地裁、塗装作業員の報酬を給与として仕入税額控除認めず(2021年3月15日号・№874)

テレワーク増加で給与所得該当性の見極め難化
東京地裁、塗装作業員の報酬を給与として仕入税額控除認めず


 塗装工事業等を営む原告が作業員2名に支払った報酬が「給与等」に該当するかが争われた事件で、東京地裁民事3部(市原義孝裁判長)は令和3年2月26日、当該報酬は所得税法28条1項に規定される「給与等」に該当し仕入税額控除の対象にはならないとして、課税処分を適法と認め、原告の請求を棄却した。
 テレワークの増加など働き方が多様化する昨今、給与所得と事業所得の区分は容易ではなくなり、今後は給与所得該当性の判断を巡る争いが増加する可能性がある。「従属性」と「非独立性」の双方の要件について事実関係を丹念に検討することが重要となりそうだ。

昭和56年最高裁判決に加え、消費税法基本通達1-1-1も判断基準に

 事の発端は、原告が各従業員に対し、平成27年4月から健康保険及び厚生年金保険に加入して各保険料を徴収する旨を説明したところ、作業員2名から、給与が減額されるのは困るので「外注先」として扱ってほしいとの申出があったことにある。原告は、その後彼らが再び従業員として復帰するまでの間、「外注先」として取り扱い、報酬を支払った。本件の争点は、当該報酬が「給与等」に該当するか否かである。
 給与所得該当性の判断基準としては、これまで、最高裁昭和56年4月24日判決(以下「昭和56年最高裁判決」)がリーディングケースとなってきた。東京地裁は本件においても、「給与等」該当性の判断枠組みとして当該判決を引用しているが、さらに、「消費税法2条1項12号で課税仕入れから除外される『給与等を対価とする役務の提供』に該当するか否かの基準ではないが、その判断に当たっても参考となる基準といえる」として、消費税法基本通達1−1−1の基準も判断枠組みに加えている(参照)。

【表】本判決が示した給与等該当性の判断枠組み

(1)昭和56年最高裁判決の引用
 およそ役務の提供の対価として支払われる金員が所得税法上の「給与等」に該当するか否かを判断するに当たっては、所得税法の趣旨、目的に照らし、当該役務の提供及び対価の様態等を考慮しなければならず、作業員に対する外注費として経理処理された金員についても、これを一般的抽象的に「給与等」該当性を判断すべきものではなく、その役務の提供の具体的態様に応じてその法的性格を判断しなければならない。その場合、判断の一応の目安として、対価を得て継続的に行う事業から生ずる所得である事業所得とは、自己の計算と危険において独立して営まれ、営利性、有償性を有し、かつ反覆継続して遂行する意思と社会的地位とが客観的に認められる業務から生ずる所得をいい、これに対し、給与等に係る所得である給与所得とは、雇用契約又はこれに類する原因に基づき使用者の指揮命令に服して提供した労務の対価として使用者から受ける給付をいい、とりわけ、給与支給者との関係において何らかの空間的、時間的な拘束を受け、継続的ないし断続的に労務又は役務の提供があり、その対価として支給されるものであるかどうかが重視されなければならない。
(2)消費税法基本通達1-1-1(個人事業者と給与所得者の区分)
 消費税法基本通達1-1-1は、個人が雇用契約又はこれに準ずる契約に基づき他の者に従属し、かつ、当該他の者の計算により行われる事業に役務を提供する場合は事業に該当せず、また、請負による報酬を対価とする役務の提供は事業に該当するが、支払を受けた役務の提供の対価が出来高払いの給与であるか請負による報酬であるかの区分については雇用契約又はこれに準ずる契約に基づく対価であるかどうかによるとし、その区分が明らかでない時は、例えば、次の事項を総合勘案して判定することとしている。
ア その契約に係る役務の提供の内容が他人の代替を容れるかどうか。
イ 役務の提供に当たり事業者の指揮監督を受けるかどうか。
ウ まだ引渡しを了していない完成品が不可抗力のため滅失した場合等においても、その個人が権利として既に提供した役務の報酬を請求することができるかどうか。
エ 役務の提供に係る材料又は用具等を供与されているかどうか。

 そして、当該通達に掲げる4つの事項を検討し、①代替性が認められず、②作業内容、作業日・時間は原告が決定し、作業単価等も従業員であった時と同様であり、③作業完成にかかわらず作業日数に応じた報酬が支払われ、④主要な道具や機械は原告から支給・貸与されていたことなどから、当該報酬は「原告から空間的、時間的な拘束を受け、継続的ないし断続的にされる労務又は役務の提供の対価として支給されたものであり、雇用契約又はこれに類する原因に基づき使用者の指揮命令に服して提供した労務の対価として使用者から受ける給付というべきである」として、「給与等」に該当すると結論づけた。
「従属性」と「非独立性」基準巡る議論の変化
 昭和56年最高裁判決以降、「従属性」と「非独立性」が給与所得該当性の判断基準とされてきたが、それぞれをどう捉えるか、どちらが重視されるか等については、多くの議論が交わされてきた。「従属性」とは「使用者の指揮命令に服して」「時間的、空間的な拘束を受けて」働くという労務提供の態様を表し、「非独立性」とは「自己の危険と計算によって行う」のではないという報酬受給の態様を表しているとして、それぞれを区分する考え方があり、最近の裁判例(東京地裁平成24年9月21日判決(本誌477号)、東京地裁平成25年4月26日判決(本誌563号))では、それぞれを区分し、「非独立性」をより重視する傾向が見られる。これは、就業形態の多様化に伴って「従属性」が希薄化したためとも言われている。
 従業員が使用者の指揮命令の下で 空間的・時間的な拘束を必ずしも受けず、在宅勤務など社外で働くテレワークが増加しているが、典型的な勤務者であっても、裁量的な仕事の仕方が増えてくると、費用負担や損失負担の程度が高まる可能性がある。一方で、雇用関係に基づかない請負契約でありながら従属性が高く、一般的な勤務者との違いがほとんどない個人請負型就業者も増加している。
 雇用形態や勤務形態の多様化により、給与所得該当性の判断を巡る争いは今後増加する可能性がある。これまでの裁判例では、表面的な法律関係や双方当事者の認識を主張しても認められないケースがほとんどであり、「従属性」と「非独立性」の双方の要件について事実関係を丹念に検討することが重要となりそうだ。

当ページの閲覧には、週刊T&Amasterの年間購読、
及び新日本法規WEB会員のご登録が必要です。

週刊T&Amaster 年間購読

お申し込み

新日本法規WEB会員

試読申し込みをいただくと、「【電子版】T&Amaster最新号1冊」と当データベースが2週間無料でお試しいただけます。

週刊T&Amaster無料試読申し込みはこちら

人気記事

人気商品

  • footer_購読者専用ダウンロードサービス
  • footer_法苑WEB
  • footer_裁判官検索