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解説記事2021年03月22日 第2特集 税理士も知っておきたい相続登記の義務化(2021年3月22日号・№875)

第2特集
民法等の一部改正案が国会に提出
税理士も知っておきたい相続登記の義務化


 政府は3月5日、所有者不明土地問題の解決に向けた相続登記の義務化等を盛り込んだ「民法等の一部を改正する法律案」(不動産登記法等の改正も含むいわゆる束ね法案)及び「相続等により取得した土地の所有権の国庫への帰属に関する法律案」を国会に提出した。不動産登記法を改正し、相続登記を義務付けるとともに、違反した場合には10万円の過料に処する。この改正事項は公布の日から3年以内に施行されるが、施行日において相続登記未了となっている不動産も相続税の義務化の対象とされており大きな影響を及ぼすことになりそうだ。また、民法改正では、遺産分割に関する見直しが行われる。相続開始時から10年経過した場合には、共同相続人は原則として法定相続分しか主張できないことになる。同改正案は早ければ4月中にも今通常国会で成立する見込み。本特集では税理士が最低限知っておくべき改正法案の概要をお伝えする。

相続登記未了が所有者不明土地問題の大きな原因

 所有者不明土地の増加が大きな社会問題となっている。これは、土地の所有者が死亡しても相続登記がされないことなどにより、不動産登記簿により所有者が直ちに判明せず、又は判明しても連絡がつかない土地が生じ、その土地の利用等が阻害されるというものだ。
 平成28年度における地籍調査によれば、1,130地区(563市区町村)の62万2,608筆のうち、不動産登記簿で所有者等の所在が確認できない土地の割合は20.1%にのぼるとされている。要因は相続登記未了によるものが約66.7%、住所変更登記未了によるものが約32.4%を占めている。
 このため、政府が通常国会に提出した民法等の一部改正案では、所有者不明土地問題の解決を目指し、①相続登記を義務付け、違反があった場合は10万円以下の過料、②住所・氏名の変更登記を義務付け、違反した場合は5万円以下の過料とすることとしている。

相続等の開始から3年以内に相続登記が必要も例外あり

 もう少し改正案の中身についてみてみることにしよう。まず、相続登記の申請の義務付けについては、相続により不動産の所有権を取得した者は自己のために相続の開始があったことを知り、かつ、当該所有権を取得したことを知った日から3年以内に所有権の移転の登記を申請しなければならないとされている(表1参照)。特定財産承継遺言、遺贈により所有権を取得した相続人も同様だ。公布の日から3年以内に施行される。

【表1】相続登記の申請の義務付け

(原則)
・①自己のために相続の開始があったことを知り、かつ、②不動産の所有権を取得したことを知った日から3年以内に登記申請
(例外)
・法定相続分での登記・相続人である旨の申出をした場合は履行義務とみなす
・遺産分割により所有権を取得した者は、遺産分割の日から3年以内に登記申請

 しかし、例外規定もある。遺産分割協議が終了する前に法定相続分で登記したり、相続人である旨の申出をした場合は義務履行として取り扱われる。後者は相続人の負担を軽減するために設けられた新しい制度のこと。相続人は登記官に対し、所有権の登記名義人について相続が開始した旨及び自らが当該所有権の登記名義人の相続人である旨を申し出ることができるというものである。名義人と申出者の関係がわかる戸籍事項証明書のみを添付することで簡単に申出が完了できる見込み。申出を行うと登記官が申出者の氏名及び住所等の職権による付記登記(報告的登記)がなされることになる。
 ただし、履行義務とみなされるのは申出をした相続人に限られることになる。
 また、遺産分割により所有権を取得した場合は、遺産分割の日から3年以内に登記すればよいとされている。仮に相続等の開始から2年後に遺産分割が行われた場合には、その1年後ではなく、3年後までに登記申請すればよいことになる。
過料のケースは限定的
 登記申請を怠ったときは10万円以下の過料に処せられる。ただし、登記申請をしなかったからといってすぐに過料が処せられるわけではない。正当な理由がないことが要件となるため、実際にはかなり限定的となる。具体的には、登記官が相続人に対して登記の申請をするよう催告し、催告してもしなかった場合に過料が処せられることになりそうだ。
住所・氏名等の変更登記は2年以内
 所有権の登記名義人の住所・氏名、本店・商号について変更があった場合には、2年以内に変更の登記を申請することが義務付けられる(公布の日から5年以内に施行)。相続登記の申請と同様、正当な理由がなく登記申請を怠ったときは5万円以下の過料に処せられる。この場合も登記官が催告し、これに従わない場合が過料の対象となる。詳細は法務省令や通達で規定されることとされている。
死亡情報等を取得した場合は職権登記が可能
 また、相続登記等の申請義務付けを受け、登記官は住基ネットに定期的に照会(1年に1回程度)を行い(公布の日から3年以内に施行)、死亡の事実や住所・氏名の変更の事実を把握した場合には、職権でそれらの変更の登記をすることができるとされている(公布の日から5年以内に施行)。

施行日時点で相続登記未了の不動産も対象に

 なお、実務上大きな影響があるとされているのが遡及適用だ。施行日以後の登記申請だけでなく、法律改正前の不動産についても対象となる。施行日時点で相続登記が未了となっている不動産についても、「所有権を取得したことを知った日又は施行日のいずれか遅い日」から3年、遺産分割した場合は「分割の日又は施行日のいずれか遅い日」から3年以内に登記申請が義務付けられることになる。
 また、施行日時点で住所・氏名、本店・商号変更登記が未了となっている不動産も同様だ。この場合、「変更があった日又は施行日のいずれか遅い日」から2年以内に変更登記の申請が義務付けられることになる。

相続開始から10年経過後は寄与分等の主張できず

 民法では遺産分割に関する見直しが行われる(公布の日から2年以内に施行)。現行、相続人が複数いる場合には、相続の開始により相続財産は相続人の共有に属するとされるが、この遺産共有関係は、その後、遺産分割により解消されることが想定されている。このまま遺産分割がされ、その旨が登記されることになれば、所有者不明土地の発生は抑制されるが、実際には遺産分割がされず、被相続人名義のまま、遺産に属する土地が放置されることも少なくない。
 このため、遺産分割手続の申立て等がされないまま長期間が経過した場合に遺産を合理的に分割することを可能とするため、相続開始時から10年を経過したときは、共同相続人は具体的相続分の主張(具体的相続分の算定の基礎となる特別受益及び寄与分等の主張)をすることができないこととしている。簡単に言えば、相続開始時から10年を経過した場合には法定相続分のみしか主張できないことになる。
10年経過後も相続人間で合意があればOK
 ただし、相続開始時から10年を経過する前に相続人が家庭裁判所に遺産の分割の請求をした場合には適用対象外となるほか、10年経過後に相続人間で具体的相続分による分割をするとの合意がされた場合には、遺産分割協議による場合は当然のこと、調停・審判による場合でもその合意(法定相続分以外)によることができるとされている。

相続登記の義務付けは減税とセットで
 相続登記等の義務付けに伴い、登録免許税の見直しも行われる見通しだ。与党の令和3年度税制改正大綱では、令和4年度税制改正で必要な措置を検討する旨が明記された。
 相続登記等における登録免許税の減免等のほか、新たに登記官は死亡の事実や住所・氏名の変更の事実を把握した場合には、職権でそれらの変更の登記をすることができるとされているため、この場合の登録免許税の在り方などが論点となる。

施行日前の遺産分割も対象に
 施行日時点で相続が開始している遺産分割についても、遺産分割の見直しの規定は適用されることになる。この場合、「相続開始時から10年を経過する時又は法の施行の時から5年の経過する時のいずれか遅い時まで」とされている。早いケースであれば施行の日(公布の日から2年以内)から5年以内に遺産分割を終了しなければ法定相続分しか主張できなくなるので留意したい。
民法の共有関係も見直し
 その他では、所有権の登記名義人又は相続人が登記官に対して所有不動産記録証明書の交付を請求できる制度(今号42頁参照)が創設される。
 共有関係の見直しでは、所在不明共有者がいる場合には、裁判所の決定により所在不明共有者以外の共有者の持分の過半数で、管理に関する事項を決めることができるようにする。また、裁判所の決定により持分価格を供託することにより、所在不明共有者以外の共有者全員で、所在不明共有者の持分を含む共有者全員の持分の全部を第三者に譲渡することができる仕組みもつくる。

土地の所有権を国庫に帰属させる制度が創設も

 「相続等により取得した土地の所有権の国庫への帰属に関する法律案」では、相続又は遺贈により、土地の所有権を取得した者が、法務大臣に対し土地の所有権を国庫に帰属させることの承認を求めることができる制度の創設が盛り込まれている(公布の日から2年以内に施行)。土地を所有し続けることを望まない所有者の土地の所有権を国庫に帰属させることで土地を適切に管理し、所有者不明土地の発生を抑制することを目的とするものだ。
 具体的には、相続で取得した土地のうち、①建物が存しない、②担保権の設定がない、③土壌汚染がない、④境界が明らかである土地など、一定の要件を満たすものが対象となる。逆にこれらに該当する土地は承認申請をすることができない(表2参照)。したがって、例えば境界が明らかでない山林などは対象外となる。また、法務大臣の承認及び10年分の管理費相当額を納付することが必要になる。管理費の基準額は、今後、政令で定められることになるが、例えば、200㎡の宅地で約80万円と試算されている。

【表2】承認申請できない土地

① 建物の存する土地
② 担保権又は使用及び収益を目的とする権利が設定されている土地
③ 通路その他の他人による使用が予定されている土地として政令で定めるものが含まれる土地
④ 土壌汚染対策法2条1項に規定する特定有害物質により汚染されている土地
⑤ 境界が明らかでない土地その他の所有権の存否、帰属又は範囲について争いがある土地

 ただし、同制度については適用要件が厳しいとされており、土地の所有権を手放したいと考えている者の1%程度しか利用できないのではないかとも言われている。どの程度適用されるかは今のところ未知数だ。

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