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解説記事2021年03月29日 税務マエストロ 令和3年改正消費税経理通達関係Q&A(2021年3月29日号・№876)

税務マエストロ
令和3年改正消費税経理通達関係Q&A
#259
 熊王征秀(税理士)

マエストロの解説

 令和3年2月9日に『平成元年3月1日付直法2−1「消費税法等の施行に伴う法人税の取扱いについて」(法令解釈通達)』(以下「消費税経理通達」という。)の一部が改正されたことに伴い、国税庁から令和3年2月付で「令和3年改正消費税経理通達関係Q&A」(以下「Q&A」という。)が公表された。
 本稿では、この新たに公表された『令和3年2月9日付課法2−6「『消費税法等の施行に伴う法人税の取扱いについて』の一部改正について」(法令解釈通達)による改正後の消費税経理通達』(以下「新経理通達」という。)とQ&Aの内容を検証する。
※ 法人税に関する法令解釈通達の改正と共に『平成元年3月29日付直所3−8ほか1課共同「消費税法等の施行に伴う所得税の取扱いについて」(法令解釈通達)』も改正され、同日付で公表されている。

1 免税事業者から課税仕入れを行った場合の法人税の取扱い

 免税事業者や消費者のほか、課税事業者でも登録を受けなければ適格請求書を発行することはできない。これらの適格請求書発行事業者以外の者からの課税仕入れについては、期間の経過に応じて一定の金額を仕入税額として控除することが認められている。
 経過措置の取扱いを受け、税抜経理方式を採用した場合に仮払消費税等を計上できるのは、課税仕入れ等の税額のうち、あくまでも仕入控除税額の計算に取り込まれる部分に限られることになる(新経理通達3の2−経過的取扱い(2)・14の2)。こういった理由から、Q&Aの「Ⅱ 免税事業者から課税仕入れを行った場合の法人税の取扱い」問2〜問4では、建物の取得時期に応じた法人税の取扱いをケース別に解説したものと思われる。

 この場合には、区分記載請求書等保存方式の適用期間において要件とされていた「法定事項が記載された帳簿及び請求書等の保存」が義務付けられている(平成28年改正法附則52、53)。また、帳簿には「80%控除対象」など、この経過措置の適用を受けたものである旨を、あわせて記載することとされている(消費税の仕入税額控除制度における適格請求書等保存方式に関するQ&A問75)。
<具体例>
 免税事業者から備品を110万円で購入した場合の仮払消費税等の金額と減価償却資産の取得価額は次のようになる(単位:円)。

 上記のように、課税仕入れ等の税額のうち、仮払消費税等の金額を超える部分の金額は減価償却資産の取得価額に加算することとなるのであるから、その超える部分の金額を控除対象外消費税額等として認識することは認められない(新経理通達と異なった会計処理をした場合の税務処理については2を参照)。
 なお、インボイス制度の基において、免税事業者が消費税等相当額を取引先に請求できるかどうかということは、あくまでも値決めの問題であり、インボイス類似書類と認定されない限り問題はないものと思われる。ただ、適格請求書発行事業者でない者があからさまに消費税等相当額を上乗せして請求することは、商取引として問題があることも事実である。詳細は、廃止となった転嫁対策特別措置法に代わる法令の創設を待つとして、仮に上記<具体例>における備品の購入金額がジャスト100万円とした場合の仮払消費税等の金額と減価償却資産の取得価額は次のようになる(単位:円)。

2 新経理通達と異なった会計処理をした場合の税務処理

 Q&Aの6頁では、「法人の会計においては、消費税等の影響を損益計算から排除する目的や、そもそも会計ソフトがインボイス制度に対応していないなどの理由で、適格請求書発行事業者以外の者からの課税仕入れについて仮払消費税等を計上することが考えられます」とした上で、会計上、インボイス制度導入前の金額で仮払消費税等を計上した場合の法人税の取扱いを、下記のように整理して呆れるほど詳細に解説している。

 Q&Aの【解説】はいささか難解であることから、筆者がアレンジして各問ごとに解説を加えることとするが、下記の各問のような複雑な別表調整をする位なら、決算修正仕訳で税務上の適正額に修正してから法人税の申告書の作成作業に移行することを検討すべきではないだろうか?

□令和5年10月1日~令和8年9月30日期間中に免税事業者から減価償却資産を取得した場合の取扱い

問8 当社(9月決算法人、金融業)は、インボイス制度導入後である令和5年10月1日に免税事業者から国内にある店舗用の建物を取得し、その対価として1,320万円を支払いました。当社は税抜経理方式で経理しており、本件取引について支払対価の額の110分の10相当額を仮払消費税等の額として経理しました。また、当社の消費税の課税期間は事業年度と一致しており、当該課税期間の課税売上割合は50%で、仕入税額控除の計算は一括比例配分方式を適用しているところ、当該事業年度において仮払消費税等の額として経理した金額は本件取引に係る120万円のみで、このほか仮受消費税等の額として経理した金額が120万円ありました。決算時において、納付すべき消費税等の額が72万円算出されたため、仮受消費税等の額から仮払消費税等の額を控除した金額との間に差額が72万円生じることとなり、その差額を雑損失として計上しました。この場合の課税仕入れに係る法人税の取扱いはどうなりますか。
  なお、この建物は取得後直ちに事業の用に供しており、耐用年数20年で定額法により減価償却費を算出しています。

【回答】
 以下のような申告調整を行います。

【解説】
1 決算修正で税務上の適正額に修正するケース

○決算修正により建物の帳簿価額を税務上の適正額に修正すると12,240,000円(12,000,000円+240,000円)、仮払消費税等の金額は960,000円(1,200,000円−240,000円)になる。

○繰延消費税額等の金額は480,000円、償却限度額は48,000円となり、仮払消費税等の残額は480,000円(960,000円−480,000円)になる。

2 法人税法別表四・五(一)により調整するケース(問8の回答)
○仮払消費税等を経由して雑損失に振り替えられた仮払消費税等の金額240,000円は、償却費として損金経理をした金額に含まれることとなる(新経理通達3の2(1)の(注))ので、減価償却の償却超過額は228,000円となる。
  (600,000円+240,000円)−612,000円(建物の償却限度額)=228,000

○雑損失として損金経理した720,000円から建物の減価償却費となる240,000円を差し引いた残額(480,000円)が、繰延消費税額等の損金算入額となるので、繰延消費税額等の償却超過額は432,000円となる。
  480,000円−48,000円(繰延消費税額等の償却限度額)=432,000円

□令和8年10月1日~令和11年9月30日期間中に免税事業者から減価償却資産を取得した場合の取扱い

問9 当社(9月決算法人、金融業)は、インボイス制度導入後である令和8年10月1日に免税事業者から国内にある店舗用の建物を取得し、その対価として1,320万円を支払いました。当社は税抜経理方式で経理しており、本件取引について支払対価の額の110分の10相当額を仮払消費税等の額として経理しました。また、当社の消費税の課税期間は事業年度と一致しており、当該課税期間の課税売上割合は50%で、仕入税額控除の計算は一括比例配分方式を適用しているところ、当該事業年度において仮払消費税等の額として経理した金額は本件取引に係る120万円のみで、このほか仮受消費税等の額として経理した金額が120万円ありました。決算時において、納付すべき消費税等の額が90万円算出されたため、仮受消費税等の額から仮払消費税等の額を控除した金額との間に差額が90万円生じることとなり、その差額を雑損失として計上しました。この場合の課税仕入れに係る法人税の取扱いはどうなりますか。
  なお、この建物は取得後直ちに事業の用に供しており、耐用年数20年で定額法により減価償却費を算出しています。

【回答】
 以下のような申告調整を行います。

【解説】
1 決算修正で税務上の適正額に修正するケース

○決算修正により建物の帳簿価額を税務上の適正額に修正すると12,600,000円(12,000,000円+600,000円)、仮払消費税等の金額は600,000円

○繰延消費税額等の金額は300,000円、償却限度額は30,000円となり、仮払消費税等の残額は300,000円(600,000円−300,000円)になる。

2 法人税法別表四・五(一)により調整するケース(問9の回答)
○仮払消費税等を経由して雑損失に振り替えられた仮払消費税等の金額600,000円は、償却費として損金経理をした金額に含まれることとなる(新経理通達3の2(1)の(注))ので、減価償却の償却超過額は570,000円となる。
  (600,000円+600,000円)−630,000円(建物の償却限度額)=570,000円

○雑損失として損金経理した900,000円から建物の減価償却費となる600,000円を差し引いた残額(300,000円)が、繰延消費税額等の損金算入額となるので、繰延消費税額等の償却超過額は270,000円となる。
  300,000円−30,000円(繰延消費税額等の償却限度額)=270,000円

□令和11年10月1日以後に免税事業者から減価償却資産を取得した場合の取扱い

問5 当社(9月決算法人、飲食業)は、インボイス制度導入後である令和11年10月1日に免税事業者から国内にある店舗用の建物を取得し、その対価として1,100万円を支払いました。当社は税抜経理方式で経理しており、本件取引について支払対価の額の110分の10相当額を仮払消費税等の額として経理し、決算時に雑損失として計上しましたが、この場合の課税仕入れに係る法人税の取扱いはどうなりますか。
  なお、この建物は取得後直ちに事業の用に供しており、耐用年数20年で定額法により減価償却費を算出しています。

【回答】
 以下のような申告調整を行います。

【解説】
1 決算修正で税務上の適正額に修正するケース

 決算修正により建物の帳簿価額を税務上の適正額に修正すると11,000,000円(10,000,000円+1,000,000円)になる。

2 法人税法別表四・五(一)により調整するケース(問5の回答)
 仮払消費税等を経由して雑損失に振り替えられた金額1,000,000円は、償却費として損金経理をした金額に含まれることとなる(新経理通達3の2(1)の(注))ので、減価償却の償却超過額は950,000円となる。
  500,000円+1,000,000円−550,000円(建物の償却限度額)=950,000

□令和11年10月1日以後に免税事業者から棚卸資産を取得した場合の取扱い

問6 当社(9月決算法人、小売業)は、インボイス制度導入後である令和12年9月1日に免税事業者から国内にある商品(家具)20個を仕入れ、その対価として220万円(11万円×20個)を支払いました。当社は税抜経理方式で経理しており、本件取引について支払対価の額の110分の10相当額を仮払消費税等の額として経理し、決算時に雑損失として計上しました。また、この商品のうち10個は期末時点で在庫として残っています。この場合の課税仕入れに係る法人税の取扱いはどうなりますか。

【回答】
 以下のような申告調整を行います。

【解説】
1 決算修正で税務上の適正額に修正するケース

 決算修正により仕入の帳簿価額を税務上の適正額に修正すると2,200,000円(2,000,000円+200,000円)になる。
 また、期中に販売した商品に係る部分の金額は売上原価として当事業年度の損金の額に算入されることから、期末在庫10個分だけを税込金額により評価することとなる。

2 法人税法別表四・五(一)により調整するケース(問6の回答)
 雑損失として計上した200,000円のうち、期中に販売した商品に係る部分の金額は売上原価として当事業年度の損金の額に算入されていることから、期末在庫10個分だけを雑損失の過大計上額として別表調整することになる。

□令和11年10月1日以後に免税事業者に経費等を支出した場合の取扱い

問7 当社(9月決算法人、小売業)は、全社員の慰安のため、インボイス制度導入後である令和12年9月1日に免税事業者が営む国内の店舗において飲食を行い、その対価として11万円を支払いました。当社は税抜経理方式で経理しており、本件取引について支払対価の額の110分の10相当額を仮払消費税等の額として経理し、決算時に雑損失として計上しました。この場合の課税仕入れに係る法人税の取扱いはどうなりますか。

【回答】
 申告調整は不要です。

【解説】
 決算修正により福利厚生費の帳簿価額を税務上の適正額に修正すると110,000円(100,000円+10,000円)になる。ただし、福利厚生費は単純損金となる費用であるから、決算時に雑損失として仮払消費税等を損金計上したとしても、税務上の申告調整は不要となる。

3 免税事業者が税抜経理方式を採用した場合

 免税事業者については、法人税の課税所得金額の計算上、税抜経理方式は認められない(新経理通達5)。しかし、新設のSPCなどについては、免税事業者であるにも関わらず、監査法人の要請により税抜経理方式の採用を指示されることがある。このような場合、決算書上は棚卸資産や減価償却資産については税抜金額で計上しなければならない。また、交際費や寄付金についても税抜金額で計上することとなるので、法人税の課税所得金額の計算では、これらの金額を法人税法別表四で調整(税込金額に修正)する必要がある。
 このような場合には、Q&Aの「Ⅲ 会計上、インボイス制度導入前の金額で仮払消費税等を計上した場合の法人税の取扱い」問5〜問9を参考に、税務調整すべき金額を検討すればよいものと思われる。


※取り上げて欲しいテーマを編集部にお寄せください。
 ta@lotus21.co.jp

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