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解説記事2019年11月18日 判例評釈 支配関係発生後に生じた欠損金額の引継ぎを、法人税法132条の2の適用により否認した事件(東京地判令和元年6月27日)(2019年11月18日号・№811)

判例評釈
支配関係発生後に生じた欠損金額の引継ぎを、法人税法132条の2の適用により否認した事件(東京地判令和元年6月27日)
 ジョーンズ・デイ法律事務所 弁護士・ニューヨーク州弁護士 片平享介

Ⅰ はじめに

 本件は、完全子会社を被合併法人とする適格合併を行った原告が、同会社が有していた未処理欠損金額を、法人税法(平成22年改正前。以下単に「法」という。)57条2項の適用により原告の欠損金額とみなして損金の額に算入したところ、法132条の2の適用を根拠に処分行政庁による更正処分等を受けたため、同処分の取り消しを求めて争った事案である。東京地裁は、国の主張を容れて原告の請求を棄却する判決を下しており、本稿はその地裁判決について評釈を行うものである。なお、本判決は原告によって控訴されており、未だ確定していない。
 本件は「特定資本関係5年超要件を満たす合併」の事案などとして紹介されることがあり、誤解している向きが多いと思われるが、本件では、問題となった子会社との支配関係発生後に生じた欠損金額の引継ぎが否認の対象とされている。後述するように、法57条2項及び3項は、飽くまで支配関係発生前に生じた欠損金額(又は支配関係発生後に生じた欠損金額であっても、支配関係発生前から当該子会社が有していた資産の譲渡に起因する欠損金額)についてのみ、特定資本関係5年超の要件又はみなし共同事業要件の充足を条件に、欠損金額の引継ぎを認める規定である。よって、本件のように支配関係発生後に発生した欠損金額であれば、特定資本関係5年超云々を問題にするまでもなく、当然に引継ぎが認められている。
 日本の組織再編税制は、被合併法人からの欠損金額の引継ぎの可否を含め、「グループ」という概念を前提に作られている。適格要件についていえば、支配関係が密接となるに応じて要件が緩やかになるという関係にあり、事業継続(見込)要件等の事業に係る要件は、支配関係が希薄になるにつれて加重されるものである。欠損金額の引継ぎについても、それが支配関係発生後に生じたものであれば、適格合併については無条件に引継ぎを認めている。支配関係と事業継続(見込)要件等の事業に係る他の要件は、いわば反比例の関係にあり、支配関係が最も密接である完全支配関係が合併の当事会社間に存在し、かつ支配関係発生後に生じた欠損金額であれば、本来何らの実質的要件の充足をも要求することなく、引継ぎが認められている。法132条の2の適用について最高裁が定立した基準に従い、法57条2項の趣旨目的からの逸脱の有無を検討するに際しても、かかる組織再編税制の趣旨を考慮に入れるべきであり、その点が十分考慮されていれば、裁判所の判断も変わっていた可能性がある。

Ⅱ 事案の概要

1 原告は、自動車部品等の製造及び販売を目的とする法人(公開会社)である。
2 A社は鉄製品、銅、アルミニウム、チタン等非鉄金属製品の製造及び販売を目的とする法人であり、自動二輪車用アルミホイール製造事業を営んでいた(以下「本件事業」という。)。
3 原告は、平成14年2月9日、A社の発行済株式総数の3分の2を取得し、平成15年3月18日に同社の発行済株式を追加取得して、同社の発行済株式の全てを保有することとなった。なお、A社は、三月期決算の会社である。
4 原告は、平成14年2月13日付で、A社との間で、同社との取引に係る取引基本契約(以下「旧取引基本契約」という。)を締結し、C社から受注した自動二輪車用アルミホイールの製造をA社に委託した。
5 A社は、平成16年3月期以降、平成20年3月期を除き継続して損失を計上しており、原告においては、かねてからA社の経営計画、損益改善等のための検討が行われていた。
6 原告の社内会議等において、A社の債務超過解消の方法として、①株式の無償譲渡(100パーセント減資)の活用、②企業組織再編税制の活用(適格合併/適格分割)、③連結納税制度の活用の比較検討等が行われ、②の方法について、資産等を簿価で引き継ぐことができるほか、税務上の繰越欠損金を引き継ぐことができるというメリットが挙げられるなど、適格合併についての税務上のメリットが原告内で議論されていた。
7 平成21年12月21日、A社の経営会議及び取締役会において、原告がA社を吸収合併する合併契約(以下「本件合併」又は「本件合併契約」という。)を締結することが承認され、同月22日、原告はA社との間で本件合併契約を締結した。
8 原告は、平成22年1月13日、経営会議を開催し、原告が新会社を設立し、新会社がA社の事業内容を継承すること、A社の従業員は、A社の解散と同時に新会社に転籍し、A社の労働条件を継承すること、同社の資産・負債は合併により原告に移転するが、移転後、A社の棚卸資産は新会社に売却することなどを承認した。原告は、平成22年2月5日、取締役会を開催し、上記と同様の旨を承認した。
9 その後原告は、新会社としてB社を設立した。設立当時、B社の商号、目的及び役員構成はA社のそれらと同一であり、また、B社の本店所在地も、A社の解散当時の本店所在地と同一の場所に移転された。
10 原告は、本件合併契約上の効力発生日である平成22年3月1日付で、A社を吸収合併した。また、原告は、同日付けで、A社の従業員を同一の労働条件でB社に転籍させ、また、B社に対し、棚卸資産を譲渡するとともに、本件事業に係る製造設備等(以下「本件製造設備等」という。)を賃貸した。当該賃貸に係る賃借料は、本件製造設備等の減価償却費に相当する額であった。更に、原告は、同日付で、B社との間で旧取引基本契約に代わる新取引基本契約を締結した。新取引基本契約に係る契約書は、旧取引基本契約に係る契約書と概ね同じ内容であった。
11 A社は、(原告の子会社となった平成14年3月期の翌期である)平成15年4月1日から平成16年3月31日までの事業年度から、平成21年4月1日から平成22年2月28日までの事業年度までの7事業年度のうち、平成19年4月1日から平成20年3月31日までの事業年度を除く各事業年度において損失を計上しており、平成22年2月28日までの事業年度の時点で一定の額の未処理欠損金額(以下「本件未処理欠損金額」という。)を有していた。
  原告は、法57条2項に基づき、A社の本件未処理欠損金額を原告の欠損金額とみなして、同条1項に基づき、原告の平成21年4月1日から平成22年3月31日までの事業年度の損金の額、及び同年4月1日から平成23年3月31日までの事業年度(平成22年3月期と平成23年3月期を併せて「本件各事業年度」という。)の損金の額に、それぞれ算入した。
12 処分行政庁は、法132条の2を根拠に、本件各事業年度の所得金額を加算する等の更正処分(以下「本件各更正処分等」という。)を行った。原告は、本件各更正処分等を不服とし、国税不服審判所長に審査請求をしたが、国税不服審判所長は請求を棄却する裁決を行った。

Ⅲ 関連条文等

1 法57条2項及び3項
 法57条2項は、適格合併等が行われた場合において、被合併法人等の当該適格合併等の日前7年以内に開始した各事業年度(前7年内事業年度)において生じた未処理欠損金額があるときは、合併法人等の欠損金額とみなし、当該適格合併等の日の属する事業年度(合併等事業年度)以後の各事業年度において、一定の限度で損金の額に算入する旨規定する。
 法57条3項は、被合併法人等と合併法人等との間に特定資本関係(いずれか一方の法人が他方の法人の発行済株式の総数の100分の50を超える数の株式を直接又は間接に保有する等の関係その他政令で定める関係)があり、当該特定資本関係が合併等事業年度開始の日の5年前の日以後に生じている場合において、当該適格合併等が共同で事業を営むための適格合併等として政令で定めるもの(みなし共同事業要件)に該当しないときは、前項に規定する未処理欠損金額には、次に掲げる欠損金額を含まないとする。
一 当該特定資本関係が生じた日の属する事業年度(特定資本関係事業年度)(注:傍点は筆者)の各事業年度で前7年内事業年度に該当する事業年度において生じた欠損金額
二 特定資本関係事業年度以後(注:傍点は筆者)の各事業年度で前7年内事業年度に該当する事業年度において生じた欠損金額のうち、特定資産譲渡等損失額に相当する金額から成る部分の金額として政令で定める金額
 この「特定資産譲渡等損失額」とは、合併法人等が被合併法人等から適格合併等により移転を受けた資産で当該被合併法人等が特定資本関係が生じた日前から有していた一定の資産の譲渡等から生じた損失の額等をいう。
 すなわち、法57条2項によれば、適格合併においては、被合併法人の未処理欠損金額を合併法人に引き継ぐことができることが原則である。法57条3項は、かかる欠損金額の引継ぎの例外について定めるが、その例外規定は、飽くまで特定資本関係事業年度より前に被合併法人に生じた欠損金額(又は特定資本関係事業年度以後に生じた欠損金額でも、特定資本関係事業年度より前に既に発生していた含み損が特定資本関係事業年度以後に実現した欠損金額)のみを対象とするものである。大蔵財務協会「平成13年版改正税法のすべて」202頁においても、「特定資本関係後に生じた欠損金額に対する制限は、被合併法人等が特定資本関係前から有する資産の含み損を合併等の前に実現する場合には、その損失に相当する欠損金額が未処理欠損金額として合併法人等に引き継がれることにもなり、事実上、含み損を使用するような租税回避等を許容することにもなりかねないことから、これを防止する」とし、飽くまで特定資本関係発生前に発生した欠損金額乃至それと同視し得る欠損金額の引継ぎを否認するとしている。

2 法132条の2
 法132条の2は組織再編成に係る行為又は計算の否認規定である。同規定によれば、税務署長は、合併等をした一方の法人又は他方の法人(1号)等の法人税につき更正又は決定をする場合において、その法人の行為又は計算で、これを容認した場合には、合併等により移転する資産及び負債の譲渡に係る利益の額の減少又は損失の額の増加、法人税の額から控除する金額の増加等により法人税の負担を不当に減少させる結果となると認められるものがあるときは、その行為又は計算にかかわらず、税務署長の認めるところにより、その法人に係る法人税の課税標準若しくは欠損金額又は法人税の額を計算することができる。
 いわゆるヤフー事件(最一小判平成28年2月29日(平成27年(行ヒ)第75号))において、最高裁は、「法人税の負担を不当に減少させる結果となると認められるもの」とは、法人の行為又は計算が組織再編税制に係る各規定を租税回避の手段として濫用することにより法人税の負担を減少させるものであることをいうと述べ、制度濫用論に立つことを明らかにした。そして、その濫用の有無の判断に当たっては、①当該法人の行為又は計算が、通常は想定されない組織再編成の手順や方法に基づいたり、実態とは乖離した形式を作出したりするなど、不自然なものであるかどうか(行為計算の不自然性)、②税負担の減少以外にそのような行為又は計算を行うことの合理的な理由となる事業目的その他の事由が存在するかどうか(事業目的の存在)等の事情を考慮した上で、当該行為又は計算が、組織再編成を利用して税負担を減少させることを意図したものであって、組織再編税制に係る各規定の本来の趣旨及び目的から逸脱する態様でその適用を受けるもの又は免れるものと認められるか否かという観点から判断するとした。

Ⅳ 判旨

 裁判所が取り上げた本件の争点は、(1)特定資本関係5年超の要件を満たす場合に法132条の2を適用することができるか否か、及び(2)本件合併が法132条の2にいう「法人税の負担を不当に減少させる結果となると認められるもの」に当たるか否か、の二点である。
 裁判所は、いずれの争点についても原告の主張を採用せず、結論として原告の請求を棄却した。

1 争点(1)について
 裁判所は、特定資本関係5年超要件を満たす適格合併についても、法132条の2を適用することができるとした。その理由として、①法132条の2が、その文言上、組織再編成に係る特定の行為又は計算を否認対象とし、又は否認の対象から除外するとはされていないこと、②同条の趣旨についてヤフー事件の判旨を引用のうえ、組織再編成の形態や方法が複雑、多様であり、立法の際に、組織再編成を利用したあらゆる租税回避行為をあらかじめ想定した上で、個別的な否認規定を網羅的に設けることは、事柄の性質上困難であるから、個別的な否認規定である法57条3項の適用が排除される適格合併についても、同項の規定が一般的否認規定の適用を排除するものと解されない限り、法132条の2が適用されることを予定していると解されること、③法57条3項は、未処理欠損金額を有するグループ外の法人をいったんグループ内の法人に取り込んだ上でグループ内の他の法人と組織再編成を行うといったグループ外の法人が有する未処理欠損金額を利用した租税回避行為を防止するために設けられた規定であって、未処理欠損金額を利用したあらゆる租税回避行為をあらかじめ想定して網羅的に定めたものとはいい難く、法57条2項に関する否認とその例外の要件を全て書き尽くしたものとはいえないため、特定資本関係5年超の組織再編成について一般的否認規定の適用が排除されているとはいえないことなどを挙げている。

2 争点(2)について
 裁判所は、法132条の2にいう「法人税の負担を不当に減少させる結果となると認められる」か否かの判定において、ヤフー事件において最高裁が定立した制度濫用論の準則に依拠した。そのうえで、裁判所は、組織再編税制の基本的な考え方が「移転資産等に対する支配の継続」にあるとし、移転資産等の譲渡損益が実現するか否かは、組織再編成による資産等の移転が形式、実質ともにその資産等を手放したといえるかどうかによるとしたうえで、欠損金額の取扱いも、基本的に移転資産等の譲渡損益に係る取扱いに合わせて決めるものだとした。
 そして、適格合併の要件を概観し、とりわけ移転資産の対価として株式又は出資以外の資産の交付がされないことが適格合併共通の要件となっており、その趣旨が、株式又は出資以外の資産が交付される場合には、その経済実態は通常の売買取引と異なるところがなく、移転資産に対する支配が継続していないことになるからであるなどと述べた上で、「『移転資産等に対する支配が継続している場合』としては、当該移転資産等の果たす機能の面に着目するならば、被合併法人において当該移転資産等を用いて営んでいた事業が合併法人に移転し、その事業が合併後に合併法人において引き続き営まれることが想定されているものといえるところ、このことからすれば、組織再編税制は、組織再編成による資産の移転を個別の資産の売買取引と区別するために、資産の移転が独立した事業単位で行われること及び組織再編成後も移転した事業が継続することを想定している」と判示した。よって、当事会社間に完全支配関係がある場合の適格合併についても、また法57条2項についても、合併による事業の移転及び合併後の事業の継続が想定されているとした。
 本件においては、原告はA社を吸収合併したものの、本件合併に併せてB社を設立し、効力発生日と同日においてB社に対する従業員の転籍や棚卸資産の譲渡、本件製造設備等の賃貸を行ったこと、本件製造設備等の所有権は原告に帰属したが、減価償却費相当額は賃借料という名目でB社が負担することになったこと、B社の商号、目的及び役員構成がA社のそれらと同じであり、本店所在地も共通であることなどから、実態としては、本件事業はほぼ変化のないままB社に引き継がれ、原告は、A社の未処理欠損金額のみを引き継いだに等しいとして、「事業の移転及び継続という実質を備えているとはいえず、適格合併において通常想定されていない手順や方法に基づくもので、かつ、実態とはかい離した形式を作出するものであり、不自然なものというべき」とした。さらに、本件合併の実施前に、原告社内でA社の未処理欠損金額を利用した節税効果が議論されていたことを縷々指摘のうえ、税負担の減少以外に本件合併を行うことの合理的理由となる事業目的が存在するとは認め難いとした。
 このように、本件では税負担減少の意図も法57条2項の趣旨目的からの逸脱も認められるから、本件合併は法人税法132条の2にいう「法人税の負担を不当に減少させる結果となると認められるもの」に当たると結論付けた。

Ⅴ 評釈

1 争点(1)について
 争点(1)については裁判所の結論は妥当であると思料する。法132条の2の文言や組織再編成についての一般的否認規定という趣旨に鑑みると、原告が主張するような、法57条3項の要件を満たす欠損金額の引継ぎについてのみ、法132条の2の適用が排除されるとは考えられないからである。

2 争点(2)について
 問題は本件合併に法132条の2を適用して否認することができるか否かである。この点については、本件未処理欠損金額が原告とA社との支配関係発生後に生じたものであることが、組織再編税制の趣旨との関係で十分に考慮されたとはいえず、裁判所の結論には疑問が残る。
(1)組織再編税制の趣旨
 そもそも移転資産等に対する支配の継続を組織再編成の基本的考え方と捉え、それを完全支配関係のある法人間の合併についても敷衍することは妥当であろうか。裁判所は「移転資産等に対する支配の継続」を「事業の継続性」と言い換えているが、日本の組織再編税制は「グループ」に着目した制度であり、ヨーロッパにおいてそうだとされるように、「事業の継続性」を基本的要件としているわけでは必ずしもない(「組織再編成税制を巡る否認が相次ぐ中、今明かされる「行為計算否認規定(法人税法132条の2)の創設の経緯・目的と解釈」」T&Amaster No.449)。
 日本の組織再編税制は、組織再編成を①当事会社間に完全支配関係がある場合、②当事会社間に支配関係がある場合、及び③当事会社間に支配関係すらない場合(共同事業を営むための組織再編成)の三類型に分け、それぞれ異なる適格要件を課している。さらに、①の完全支配関係がある場合と一口にいっても、当事会社間の資本関係の違いに応じて要件が異なっている。適格合併を例にとれば、①-1被合併法人と合併法人との間にいずれか一方の法人が他方の法人の発行済株式等の全部を保有する関係がある場合(法人税法施行令(平成22年改正前。以下単に「法令」という。)4条の2第2項1号。典型例は、公開会社である合併法人がその完全子会社を被合併法人として合併する場合である。)、及び①-2同一の者が被合併法人等と合併法人それぞれの発行済株式の全部を保有する関係がある場合(法令4条の2第2項2号。典型例は、同一の会社を親会社とする完全子会社間で合併する場合である。)があり、本件は①-1に該当する。①-1の場合、適格合併の要件は、合併法人株式又は合併親法人株式以外の資産が交付されないことのみであり(対価要件)、他方、①-2については、対価要件に加え、当該同一の者が、合併後も、当該合併法人の発行済株式等の全部を直接又は間接に継続して保有することが見込まれていることである(継続保有見込要件)。対価要件といっても、本件のように、親会社が完全子会社を吸収合併する場合には、対価を発行することがそもそも認められておらず(会社法749条1項3号・3項)、無対価以外に考えられないので、この場合、適格合併は無条件に認められる。そのため、株式又は出資以外の資産が交付されて非適格となることは考えられない。
 本件で裁判所がいう「移転資産等に対する支配の継続」を「事業の継続性」と捉えた場合、それが要件となっているのは上記②と③の類型のみであり、①の類型、すなわち合併の当事会社間に完全支配関係がある場合の適格性の要件になっていないことは、条文上自明である。一方、裁判所は対価要件が適格合併共通の要件であり、それが適格合併による資産の移転を売買取引と区別するためのメルクマールであるという趣旨を述べていることから、「移転資産等に対する支配の継続」を株主から見た支配の継続性と理解している可能性もある。仮にそうだとしても、本件のように公開会社たる親会社が完全子会社を吸収合併する場合には支配の継続性が要件とされているわけでなく、対価要件も問題とならない。
 結局、適格合併に上記①-1の類型があることも考えると、裁判所がいう「移転資産等に対する支配」をどのように解したところで、それが合併を含めた適格組織再編成の趣旨なり共通の要件と考えることはできないと思われる。
 日本の組織再編成は「グループ」に着目していると述べたが、その趣旨は、支配関係が緊密であればあるほど、合併の当事会社同士を経済的に一体のものとみて、適格要件を緩和しているということであり、その極が上記①-1の類型である。この場合は、異なる法人格を持つとはいえ、その経済的一体性に着目し、実質的には何の要件も課さずに、適格性を認めているのである。逆に、合併の当事会社同士の資本関係が疎遠になればなるほど、事業継続(見込)要件など他の要件が加重されるという関係にあり、その極が上記③の共同事業を営むための組織再編成ということになる。
(2)未処理欠損金額の引継ぎ
 組織再編成における未処理欠損金額の引継ぎについては、組織再編税制の考え方を基本としつつも、租税回避防止の観点から要件が加重されている(法57条3項)。法57条3項の趣旨は、裁判所自身がいみじくも明らかにしている通り、「未処理欠損金額を有するグループ外の法人をいったんグループ内の法人に取り込んだ上でグループ内の他の法人と組織再編成を行うといったグループ外の法人が有する未処理欠損金額を利用した租税回避行為を防止する」点にある。そこで念頭に置かれているのは、グループ外の法人が既に未処理欠損金を有している場合であり、それを組織再編税制を利用して取り込もうとする行為である。この点は、法57条3項が「特定資本関係事業年度より前に被合併法人に生じた欠損金額」(又は特定資本関係事業年度より前に生じた含み損に起因する欠損金額)のみを対象としていることからも疑いの余地はない。日本の組織再編成は「グループ」に着目していると述べたが、未処理欠損金額の引継ぎの場面でも「グループ」の考え方が重視されており、グループ内で発生した欠損金額を適格合併によって引き継ぐ行為については、法人税法は何らの制約も課していない(法57条の2も欠損金額の否認規定であるが、同条も特定支配関係発生前に生じた欠損金額の利用を問題にしている点で同様である。)。
 実質的に考えても、親会社との支配関係発生後に子会社において欠損金額が生じたのであれば、親会社自身の事業投資の損失という面があり、当該欠損金額の引継ぎを認める合理的理由がある。本件でも、原告がA社を支配した後、原告との取引や原告からの投資をもってA社が事業を行い、それによって生じた損失からなる欠損金額を、適格合併によって原告が引き継ぐことは、かかる投資の損失を税務上損金として認めるという意味がある。原告はA社の債務超過解消の方法として「株式の無償譲渡(100パーセント減資)の活用」を検討していたようであるが、平成22年税制改正前の本件当時、親会社は、その保有する完全子会社株式について、当該子会社の清算時に株式消滅損を認識することが可能であった。また、寄附金の問題は残るが、親会社が子会社に対して貸付金を保有していれば、債権放棄による貸倒損失の損金算入も可能であった。子会社の解散清算という方法をとれば、税務上投資額について一定の損金算入が認められたにもかかわらず、適格合併という方法を選択した場合に子会社の未処理欠損金額の引継ぎを一切認めないとすれば、親会社にとっては税務上不公平な結果となる。
(3)特定資本関係事業年度以後に生じた欠損金額の引継ぎが「法人税の負担を不当に減少させる結果となると認められるもの」に該当するか
 ア 行為計算の不自然性
 裁判所は、本件事業はほぼ変化のないままB社に引き継がれたことをもって本件合併が不自然であるとし、その根拠して、本件合併後(合併の効力発生日と同日)に行われた、B社に対する従業員の転籍や棚卸資産の譲渡、本件製造設備等の賃貸を行ったこと、本件製造設備等の所有権は原告に帰属したが、減価償却費相当額は賃借料という形でB社が負担することになったことなどを挙げている。
 しかしながら、裁判所の立論は、適格合併にも事業の移転及び継続性が必要であるという前提があってのことである。前述のとおり、事業の移転及び継続性は、完全子会社との適格合併や完全子会社からの欠損金額の引継ぎの要件ではないから、事業の移転や継続性がないから本件合併が不自然であると断ずることはできない。
 そもそもB社に対する従業員の転籍や棚卸資産の譲渡、本件製造設備等の賃貸等の行為を理由に、合併の形式や実態と乖離があるともいえない。合併の本質は被合併法人からの権利義務の包括承継と被合併法人の当然消滅であり、本件ではそれらは問題なく発生していると思われる。本件合併の結果、原告は本件製造設備等の所有権を取得するに至ったのであり、A社の従業員をすべて承継したのである。本件製造設備等の減価償却費相当額を賃借料という形でB社から収受しているとはいえ、B社が倒産すれば賃借料は得られなくなるし、原告は本件製造設備等の所有者としての責任を依然負っている。また、従業員の他社への転籍は個々の従業員の同意が必要であり、それが得られなければ原告が当該従業員の雇用の責任を負うことになる。このように、本件では合併の本質である包括承継と当然消滅は問題なく発生しており、原告は、承継した資産についての所有者としての責任や従業員の雇用リスクを抱えているため、本件合併にもかかわらず実態に変化はないとはいえないし、本件製造設備等の賃貸や従業員の転籍が本件合併による包括承継と法形式上矛盾するものでもない。
 また、本件合併を含む一連の行為を、事業再生の場面で実務上用いられる第二会社方式(収益性のある事業を別会社に切り出して存続させ、不採算の事業を清算すること)とみれば、本件事業をB社にて存続させつつ、A社を清算する方法として親会社たる原告に吸収合併するという手法は、特段不自然ではない。
 イ 事業目的の存在
 組織再編成における事業目的の存在は、組織再編成を行う当事者に節税の意図があることと両立し得るから、原告内で欠損金額の引継ぎによる税務上のメリットについて議論されていたところで、その点のみから事業目的がないことが導かれるわけではない。少なくとも原告には本件事業を再生するという目的がうかがえるから、本件合併に本件未処理欠損金額の引継ぎ以外の事業目的がないと即断できるか疑問である。
(4)小活
 このように、本件未処理欠損金額が特定資本関係発生以後に生じたという点や親会社自身にとっての事業投資の損失という面を考慮すれば、本件合併を通じて原告が本件未処理欠損金額を引き継ぐことには合理性があると思われるし、裁判所の認定した事実関係のみをもって、本件合併が不自然あり、節税効果以外の事業目的がないと断ずることはできないと思われる。

Ⅵ 結語

 ヤフー事件において最高裁が定立した制度濫用論に基づく準則は、節税を意図したことのみをもって法132条の2が適用できるとしているのではなく、飽くまでそれが組織再編税制の趣旨目的から逸脱する態様で行われる場合に、当事者の行為計算を否認し得るとするものである。事業再生において子会社の吸収合併を行うこと自体は不自然でも何でもなく、また、複数の選択肢がある場合に、それぞれの税効果を考慮に入れ、税負担の少ない方法を選択することは、ヤフー事件の準則に矛盾しない。特定資本関係発生以後に生じた未処理欠損金額の適格合併による引継ぎについて、法人税法は何らの制約も課していないのであるから、制度の趣旨目的からの逸脱を認定するには慎重であるべきである。

片平享介 かたひら きょうすけ
 ジョーンズ・デイ法律事務所オブカウンセル。2007年入所以来、10年以上にわたり、主に日本や米国の多国籍企業に対して国際税務に関するアドバイスを提供する。税務調査対応などの紛争解決のみならず、組織再編成、リストラクチャリング、CFC税制及び不動産取引などの分野において、プランニング段階や税制改正時の税務アドバイスを日常的に行っている。2014年ニューヨーク大学ロースクール卒業(修士、国際租税プログラム)後、ワシントンD.C.オフィスおよびニューヨークオフィスにて米国税務プラクティスにも従事した経験がある。弁護士実務の傍ら、第一東京弁護士会弁護士業務改革員会税務部会副部会長及び日本弁護士連合会税制委員会委員を務める。

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