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解説記事2021年04月26日 SCOPE 相続人に対する「預け金処理」の説明義務違反を認定(2021年4月26日号・№880)

東京高裁、原判決を翻し実損分に税理士賠償
相続人に対する「預け金処理」の説明義務違反を認定


 東京高裁は令和3年4月14日、相続税の税務手続を受任した税理士法人に対して「説明義務に違反する債務不履行があった」旨判示し、損害賠償を命じる判決を言い渡した。本件では、被相続人甲の生前に甲から相続人Aらへの670万円の資金移動があり、この金額をAへの預け金として被相続人の財産に取り込んで相続税申告をしたことが問題となった。このような処理自体は(生前贈与の無申告課税を回避するという隠れた動機もあり)相続税事案では散見されるが、Aの確認書も整備されている中、なぜ受任税理士に税理士賠償が命じられたのか、検証する。

費消した670万円を相続人への預け金として相続財産に計上

 控訴人Bは、平成25年に死亡した被相続人甲の相続人の一人である。Bは他の相続人らと共に、税理士法人である被控訴人に対し、甲を被相続人とする相続税の税務手続を委任した。Bは、上記委任に基づいて被控訴人が行った税務手続に際して被控訴人担当税理士の控訴人への説明が不十分であったために、相続財産を真実の額よりも多く申告することになったなどと主張して、被控訴人に対し、不法行為又は債務不履行による損害賠償として、過分に支払った相続税等の損害合計170万8,900円の支払いを求めた。
 原審が控訴人の請求を棄却したところ、控訴人が請求の認容を求めて控訴した。本件相続税申告では、甲が生前、相続人A家族と同居するための資金として、Aらに670万円の資金移動を行っていた。資金移動を把握した被控訴人はAに確認を求め、Aからは預け金670万円の名義財産があることの確認書の提出を受けていた。
 一方、BはAに対して670万円の返還を別件訴訟で求めたが、Aは「被控訴人の指導により遺産としたもので遺産ではない」と主張。別件訴訟は「預り金の不存在」で確定した。

原審は「Aの選択に従った税理士法人に問題ない」と判示

 原審の横浜地裁は、「相続人かつ委任者であるAの選択に従い、預け金670万円を『相続税の課税対象の財産』として計上した被告の税務手続について、原告に対する不法行為又は債務不履行が成立するとか、税理士としての使命や助言業務に違反したとはいえない。」と判示し、Bの請求を斥けていた。
 被控訴人は、原審から一貫して次のように主張している。
 「相続税申告の調査の中で、甲からA宛の670万円の移動の事実が判明し、事情を聞いたところ、Aの夫名義の車の購入費用や家の改築費用に使ったとのことであり、被告担当税理士は、甲からの贈与として申告するか、いわゆる名義財産として相続税の対象財産とするか、税務署から指摘されるまで申告をしないでおくか、などについて、リスクを含めて説明したところ、Aから、預け金(名義財産)として申告する旨の申し出があったのである。被告(被控訴人)の指導によって預け金としたわけではなく、Aの申し出によって預け金としたのであり、被告が行った業務に何ら問題はない。」

預け金の事情は全相続人に対して説明責任

 東京高裁は、Bが主張した「虚偽申告」との主張は斥けたものの、被控訴人の説明義務に違反する債務不履行があったと認められるとして、実損分26万4,846円の損害賠償を命じる判決を言い渡した。東京高裁の主な判示は以下のとおり。
 「本件申告においても、預け金670万円は控訴人ら4名が法定相続分で取得したものとして申告されているから、上記預け金を課税対象財産として計上するか否かは、Aのみならず相続人全員が利害関係を有する事項である。また、本件委任契約において、被控訴人は、業務の遂行に当たり、とるべき処理の方法が複数存在し、いずれかの方法を選択する必要があるときは、控訴人に説明し、承諾を得ることが規定されている。これらの事情からすれば、相続税申告に関する税務手続を受任した被控訴人には、預け金670万円を相続税の課税対象財産に計上して申告することにつき、控訴人ら4名全員に上記の事情を説明して、その意思を確認すべき義務があったというべきである。」「ところが、被控訴人担当者は、上記の事情を控訴人に説明せず、本件申告前の説明の際に控訴人に提示された預金移動表の記載も修正されていなかった。そのため、Bは、Aが申告した預け金670万円が実際にはリフォーム代等に費消されて存在しないことを認識しないまま、これを課税対象財産に計上した本件申告書を税務署に提出することに同意したものである。したがって、被控訴人には、説明義務に違反する債務不履行があったと認められる。」

使途不明金の安易な「預け金」処理に要注意

 控訴審判決が容認した損害金は、相続財産として670万円を過大に計上したことによる相続税の差額25万1,400円及び670万円を過大に相続財産に取り込んだことによる税理士報酬の差額1万3,446円の合計額26万4,846円と認定された。別件訴訟の関連費用及び慰謝料は損害としては認められなかった。
 670万円の過大計上分については、様々な手続きに時間を要したこともあり、更正の請求による国からの還付は認められなかったため、結果として、善意の(預り金の事情を知らなかった)Bに対して預り金の事情を知っていた税理士法人が「説明義務違反」として賠償を命じられる形となった。
 これまでの訴訟の経緯を踏まえると控訴人・被控訴人ともに納得する結論とは思えないが、いずれにせよ、相続税の実務家が安易に使途不明金を「預け金」として処理することに警鐘を鳴らす事案と言えよう。

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