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解説記事2021年05月24日 ニュース特集 新たな132条の2適用事例の全容(2021年5月24日号・№883)

ニュース特集
不振子会社の吸収合併に課税リスク、子会社整理の手法に大きな影響も
新たな132条の2適用事例の全容


 ゴルフ場運営会社大手のPGMのグループ会社であるPGMプロパティーズが組織再編税制上の「適格合併」として行った吸収合併に対し法人税法132条の2(組織再編成に係る行為又は計算の否認)が適用され、被合併会社からの繰越欠損金の引継ぎが否認された事案は新聞報道等でも見られたところだが、本件の詳細が本誌取材により判明した。
 本件については、2回連続して行われた合併は休眠会社から繰越欠損金をPGMプロパティーズに付け替えるためのものだとして、2回目の合併における繰越欠損金の引継ぎが否認されたなどと報じられているが、国税庁のウェブサイトで公表されている照会事例では、各合併について、合併の順にそれぞれ適格判定を行ってもよいとされている。この照会事例が存在するにもかかわらず、PGMプロパティーズへの繰越欠損金の引継ぎは国税不服審判所においても否定されている(PGMプロパティーズの請求棄却)。
 国税不服審判所が繰越欠損金の引継ぎを認めない根拠としたのがTPR事件判決で示された「完全支配関係下の適格合併にも、組織再編税制の基本的な考え方から事業の継続が想定されている」との解釈だ。事業継続が難しくなった100%子会社を吸収合併するという経営判断は、決して珍しいものではない。仮にこのようなケースにまで「事業の継続」が求められることになれば、子会社整理の手法として、吸収合併ではなく、売却、解散など他の選択肢を検討せざるを得なくなる。今後本格化する裁判の行方は、グループ経営を行う多くの企業にとって目の離せないものとなろう。 

傘下のゴルフ場運営会社の合併はビジネスモデルの根幹

 PGMグループは、国内最大級のゴルフ場運営会社であり、経営不振に陥ったゴルフ場の運営会社を次々に買収して傘下に置いた上で、例えば地域単位で合併させるなどして運営の効率化を図り再生するというビジネスモデルにより急速に規模を拡大、同様のビジネスモデルを採用するアコーディアグループと業界を二分している。
 PGMグループは、これまで単独で運営されてきたゴルフ場を傘下に集約することで、単独の会社のまま存続させると不可避となる様々なコストを削減するとともに、スケールメリットを生かして、カートや備品などを安く仕入れられるようにしたり、ゴルフ場間でキャディを融通し合ったりできるようにして、コスト削減と効率的な運営を実現してきた。
 このように、傘下のゴルフ場運営会社同士を合併させることは、PGMグループにおいては、コスト削減と効率的な運営実現の手段の一部を構成するものとなっており、ビジネスモデルの根幹とも言える。

ゴルフ場を分社型分割・株式譲渡、残りは債権者対応等のため存続

 本件で控除が否認された57億円の繰越欠損金を元々有していたPGPAH6(2回の合併のうち最初の合併でPGMP4に吸収されて消滅)は、かつては某大手商社が所有していたゴルフ場を運営していた会社であり、経営不振に伴い、PGP(PGMプロパティーズの親会社)に買収された。ここまではPGMグループが繰り返して来た買収と特段変わりないが、本件買収が他の買収案件と異なっていたのは、PGPAH6において元幹部の横領事件が発生していたことだ。
 PGPとしては、PGPAH6にどれだけの簿外債務があるか分からず、債権者からの損害賠償請求リスクがあることから、PGPAH6のうちゴルフ場部分だけを買収しようとしたが、大手商社側はあくまでPGPAH6を丸ごと買収することを求めた。このため、PGPは、簿外債務があるおそれのあるPGPAH6の全株式を買い取ることとせざるを得なかった。
 そこで、PGPは、簿外債務の債権者から損害賠償請求を受けてゴルフ場が差し押さえられるという不測の事態が生じることがないように、PGPAH6からゴルフ場部分(Good部分)だけを分社型分割で切り出した上で、PGMグループの会社にその全株式を譲渡し、ゴルフ場部分をPGPAH6から完全に切り離した。この分社型分割と株式の譲渡により、PGPAH6においては、過去に経営不振のために生じていた資産の含み損が株式の譲渡損という形で発生した。この株式の譲渡損が57億円の欠損金の大部分を占めている。
 一方、残りのPGPAH6(Bad部分)は簿外債務の管理や債権者対応などのために存続させることとなり(独自の人員は配置せず)、実際に、簿外債務に係る債権者から損害賠償請求を受けて、PGPAH6がそれに対応するというケースも数件発生している。
 PGPAH6を解散させるという選択肢も理論的には考えられたが、解散するとなれば公告が必要になり、債権者からの損害賠償請求を惹起するなどのリスクがあるため、そのような選択肢を採る余地はなかった。

PGMプロパティーズがPGPAH6を直接吸収合併しなかった理由

 その後、PGPAH6はPGMグループのゴルフ場運営会社であるPGMP4に吸収合併され、次いでPGMP4がPGMプロパティーズに吸収合併されたことは新聞報道等の通りだが、ここで気になるのは、なぜPGMプロパティーズがPGPAH6を直接吸収合併しなかったのかという点だ。
 この点については新聞報道等では触れられていないが、PGPがPGMプロパティーズの株式の99.999%を保有していたものの、大手電機メーカーのグループ会社がPGMプロパティーズの株式の0.001%を保有していたことが理由とみられる。

 仮にPGPがPGMプロパティーズの株式の100%を保有していれば、PGMプロパティーズは100%グループ内再編としてPGPAH6を税制適格で吸収合併できたはずだが、99.999%の保有関係にとどまっていたため、吸収合併を税制適格として繰越欠損金を引き継ぐためには、50%超100%未満のグループにおける税制適格要件である事業継続要件と従業者継続要件を満たす必要があった。ここで問題となるのが、事業継続要件だ。上述の通り、PGPAH6は既にゴルフ場を所有しておらず、簿外債務管理や債権者対応のためだけに存続していた。PGMプロパティーズがPGPAH6を直接吸収合併しなかったのは、PGPAH6が事業継続要件を満たすかどうかということに疑義を抱いていたためであると推測される。
 そこで、まず事業継続要件がなくても税制適格となる100%グループ内再編によってPGMP4がPGPAH6を吸収合併することを先行させ、その後、ゴルフ場運営という明確な事業を行っているPGMP4をPGMプロパティーズに吸収合併させて事業継続要件を満たすこととし、PGPAH6の繰越欠損金が疑義なくPGMプロパティーズに引き継がれるようにしたものと考えられる。

問題視された2回の合併は国税庁の照会事例ではいずれも適格

 もっとも、ゴルフ場運営会社を買収して吸収合併によって法人数を削減するということがビジネスモデルとなっていることからすると、PGMプロパティーズがPGPAH6とPGMP4を吸収合併すること自体に何ら問題はなく、また、2段階で合併をすること自体も、現行の税務上の取扱いでは何ら問題がないはずである。
 国税庁のウェブサイト上で公表されている「三社合併における適格判定について」と題する下記の照会事例には、このような2段階合併では、各合併について、合併の順にそれぞれ適格判定を行う旨の解説がある。
 これを本件に当てはめれば、PGMP4によるPGPAH6の吸収合併は100%グループ内再編であることから適格、PGMプロパティーズによるPGMP4の吸収合併も50%超100%未満のグループ内再編として適格と判断され、元々はPGPAH6が有していた57億円の繰越欠損金のPGMプロパティーズへの引継ぎも容認されるものと考えられる。

三社合併における適格判定について(抜粋)

1 照会の趣旨

中略
(2)三社合併が行われた場合において、当該三社合併に係る個々の合併に順序が付されているときには、その順序に従って個々の合併に対する適格判定を行う。
  したがって、第1合併が行われた後に第2合併が行われるよう三社合併に係る個々の合併に順序が付されているときには、第1合併は三社合併が行われる前のA社とB社との合併とし、第2合併は第1合併が行われた後のA社とC社との合併として、それぞれに適格判定を行うこととなる。
(注)個々の合併に順序が付されている場合としては、第1合併の効力発生を第2合併の実施に係る停止条件とすることにより、第1合併の効力発生がないと第2合併の効力が発生しないような契約内容とすることなどが考えられます。

2 照会者としての見解
中略
(2)1(2)の照会について
  三社合併に係る個々の合併に順序が付された場合、私法上は、原則としてその順序に応じ個々の合併の効力が生ずることとなりますので、税制上もその順序どおり合併が行われたものとして適格判定を行うことになると考えられます。

含み損実現や利益法人への欠損金の引継ぎには経済合理性

 税制上、分割型分割と分社型分割は異なる取扱いとされており、仮に本件において、PGPAH6が分社型分割を行った上で分割承継会社の株式を他のグループ会社に譲渡するのではなく、PGPAH6が分割型分割を行っていれば、PGPAH6の税制上の資産の含み損はその時には実現しないままとなっていたものと思われる。しかし、税制上の資産の含み損を実現損にできる状況にあれば、会社がそうするのは当然のことであり、国税当局がそれを「しない」という選択を求め、また、それをしたことを租税回避と認定するなどということができるとは考え難い。
 また、57億円の繰越欠損金の“引継先”として利益が出ていたPGMプロパティーズが選択されたことも、業績の良くない子会社の整理策として同様のことが一般的に行われている中、企業にとっては経済合理性の観点から当然の行動に過ぎないと言うべきであろう。

国税不服審判所はTPR事件を根拠に繰越欠損金の引継ぎを認めず

 上述の通り、PGMプロパティーズが行った2段階の合併は、国税庁のウェブサイト上で公表されている「三社合併における適格判定について」と題する照会事例によれば何ら問題がなく、元々はPGPAH6にあった57億円の繰越欠損金の引継ぎも容認されると考えられるが、国税不服審判所は同社への57億円の繰越欠損金の引継ぎを認めなかった。
 国税不服審判所が繰越欠損金の引継ぎを認めない根拠としたのがTPR事件判決で示された解釈である。ヤフー・IDCF事件に続く法人税法132条の2の適用事例であるTPR事件では、TPR側の「完全支配関係下の適格合併には事業継続要件が法令上要件とされていない」との主張に対し、裁判所は組織再編税制の立案担当者の講演録を引用しながら「組織再編税制は、組織再編成により資産が事業単位で移転し、組織再編成後も移転した事業が継続することを想定しているものと解される」と判示し、「完全支配関係下の適格合併にも、組織再編税制の基本的な考え方から事業の継続が想定されている」として、TPR側の主張を斥けた。TPR判決は既に最高裁で国側勝訴のまま確定している(令和3年1月15日付 TPRの上告棄却決定)。
 国税不服審判所は、本件においても上記の「完全支配関係下の適格合併にも、組織再編税制の基本的な考え方から事業の継続が想定されている」という判示部分を根拠に、簿外債務管理や債権者対応のためだけに存続しているPGPAH6のPGMP4による吸収合併の適格性を、「事業の継続性」の観点から否定したようだ。より端的に言えば、PGPAH6は事業を行っていないというのが国税不服審判所の判断ということになる。また、国税不服審判所は、PGMP4によるPGPAH6の吸収合併に伴う繰越欠損金の引継ぎは、100%グループ内での適格合併について規定した法人税法2条12号の8イや、適格合併が行われた場合における繰越欠損金の引継ぎについて規定した同法57条2項の趣旨に反するとの判断も示したようだ。
 PGMプロパティーズは、国税不服審判所での請求棄却を受け、既に4月に東京地裁に提訴しているが、裁判においても、PGPAH6が事業を行っていたかどうかが最大の争点となることが予想される。

従業者のいない投資法人同士の合併も「従業者引継要件」を充足

 この点、法人税法施行規則3条(事業関連性の判定)1項1号には、「事業」の定義が規定されており、例えば事務所等の「固定施設」を所有又は賃借していることや、「従業者」があることなどが規定されている。債権者対応のためだけに存続していたPGPAH6には独自の従業者がいなかったことは上述の通りだが、この法人税法施行規則3条1項1号だけをもって、PGPAH6が「事業」を行っていなかったとは必ずしも言えないだろう。
 国税庁のウェブサイトには、「投資法人が共同で事業を営むための合併を行う場合の適格判定について」と題する照会事例が掲載されており、使用人を雇用することが禁じられている投資法人について、「……実質的に投資法人は導管体であり、このような導管体には「事業」の実態がないものとみられるため、投資法人間の合併において事業関連性要件を満たすことはできないのではないかとも考えられます」としつつも、結論としては、使用人を雇用することが禁じられている投資法人同士の合併も、「従業者引継要件を充足しているもの」として共同事業要件を満たすかどうかを判定することなどが明記されている。
 この照会事例からすると、独自の従業員はおらず簿外債務の管理・債権者対応などのためだけに存続していたPGPAH6も、事業を行っていたと考える余地があるはずである。

国側はPGPAH6の簿外債務管理等を「受動的業務」と認める

 また、国側は、国税不服審判所における主張の中で、PGPAH6は「受動的業務を行っていた」とし、PGPAH6が「業務」を行っていたことを認めた点も注目される。
 TPR事件では「完全支配関係下の適格合併にも、組織再編税制の基本的な考え方から事業の継続が想定されている」と判示されたものの、ここでいう「事業の継続」の「事業」がどの程度の水準のものを指すのかは必ずしも明確ではない。「完全支配関係」という適格要件を満たしているにもかかわらず、さらに支配関係グループ内の組織再編成や共同事業を行うための組織再編成における事業継続要件と同等の水準まで事業が継続していることを求めるのは、法の規定を超えるものであって、法解釈を誤っているとの見方もある。仮に完全支配関係がある場合にも支配関係がある場合と同じように「事業の継続」を求めるのであれば、租税法律主義の観点からも、完全支配関係グループ内での適格合併について規定した法人税法2条12号の8イの中に事業継続要件が規定されるべきだろう。法人税法2条12号の8イと57条2項のいずれにも事業継続要件が設けられていないということは、これらの規定は、合併前の状態が合併後にそのまま引き継がれていれば合併前の課税関係もそのまま引き継がせるという趣旨目的の規定であるとも考えられる。すなわち、PGPAH6が「受動的」であったとしても「業務」と言い得るものを実際に行っており、その「業務」がそのままPGMプロパティーズに引き継がれているのであれば、PGPAH6から「事業」と言い得るものがPGMプロパティーズに引き継がれていなかったとしても、これらの規定を濫用したことにはならず、同法132条の2は適用されないということだ。
 本件はまだこれから裁判が始まるところだが、仮に本件のようなケースにまで法人税法132条の2の適用が容認されるとなれば、その影響は極めて大きい。事業継続が難しくなった100%子会社を吸収合併するという経営判断は一般的に見受けられる。仮にこのようなケースにまで「事業の継続」が求められるとなれば、吸収合併をやめて、売却、解散など他の選択肢を採らざるを得なくなる。今後本格化する裁判の行方は、グループ経営を行う多くの企業にとって目の離せないものとなろう。

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