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解説記事2021年05月31日 ニュース特集 隠蔽・仮装行為の意図、重加算税賦課で問わず(2021年5月31日号・№884)

ニュース特集
故意(認識)、ことさら過少の「過少申告の意図」との違いは?
隠蔽・仮装行為の意図、重加算税賦課で問わず


 課税当局が調査担当者の審理能力の向上等を目的として昨年作成した重加算税に関する執務参考資料(個人課税関係)の内容が判明。重加算税賦課の際、隠蔽・仮装行為の意図(目的)は問わないことを明確化している。本特集では、当該資料に基づき重加算税の課税要件とされる「隠蔽又は仮装」に係る故意(認識)と意図(目的)について確認するとともに、「ことさら過少」における「過少申告の意図」との関係等をQ&A形式で整理する。

重加算税の課税要件と解釈上の問題点
Q1
重加算税に関する執務参考資料では、重加算税の課税要件と解釈上の問題について、どのように記載されていますか。
A

 課税当局は、国税通則法68条1項の規定から、次の「三つの要件」を読み取ることができるとしています。要件①過少申告加算税が課される場合であること、要件②納税者が課税標準等又は税額等の計算の基礎となるべき事実の全部又は一部を隠蔽し、又は仮装したこと、要件③その隠蔽し、又は仮装したところに基づき納税申告書を提出したこと。
 そして、要件②における問題の一つとして、「隠蔽又は仮装」の意義を挙げています。

へそくり・横領目的、脱税の意図を問わず
Q2
「隠蔽又は仮装」の意義に関する執務参考資料の解説はどのようなものですか。
A

 「隠蔽又は仮装」の意義について、課税当局は、法令上定義は置かれておらず、裁判例においてもこれについて説示するいくつかの下級審判決はあるものの、確立した解釈は存在していないと指摘しています。その上で、学説において「隠蔽・仮装とは、その語義からして故意を含む観念であると解すべきであり、……」(金子宏『租税法』[第23版])とされていることについて、ここにおける「故意」とは、事実を隠蔽・仮装することについての認識をいうものであって、その後の過少申告等についての認識をいうものではないと解されるとしています。この点、執務参考資料には、最高裁昭和62年5月8日判決の判示内容も記載されています(下掲参照)。

〇最高裁昭和62年5月8日判決(一部抜粋)  (下線は編集部)

 国税通則法68条に規定する重加算税は、…違反者に対して課される行政上の措置であって、故意に納税義務違反を犯したことに対する制裁ではないから、…同法68条1項による重加算税を課し得るためには、納税者が故意に課税標準等又は税額等の計算の基礎となる事実の全部又は一部を隠ぺいし、又は仮装し、その隠ぺい、仮装行為を原因として過少申告の結果が発生したものであれば足り、それ以上に、申告に際し、納税者において過少申告を行うことの認識を有していることまでを必要とするものではないと解するのが相当である。

 上記を踏まえ、課税当局は、例えば、①へそくりや横領を目的として隠蔽・仮装行為を行い、その結果として過少申告となったケースであっても、②脱税の意図をもって隠蔽・仮装行為を行い過少申告となったケースであっても、過少申告の原因となる隠蔽・仮装行為の事実があったことに変わりはなく、重加算税の賦課に際し、その意図(目的)は問わないこととなるとしています(図1参照)。
 ただし、いわゆる「ことさら過少」に重加算税が賦課されるケースにおいては、「過少申告の意図」が必要とする見解が一般的であるとしています。


直接該当しない場合も積極的な事実認定の試みが重要
Q3
 重加算税事務運営指針には、「隠蔽・仮装に該当する場合」(不正行為)が示されていますが、執務参考資料はどのように位置づけていますか。
A

 所得税重加算税指針には隠蔽・仮装行為の典型的なものが例示的に列挙されていることから、重加算税の賦課に際し、実務上の判断基準とすることが促されています。ただし、同指針はあくまでも「例示」であることから、同指針の例示に直接該当しないケースであっても、積極的な事実認定の試みが重要であるとしています。
 なお、同指針(1)ないし(7)に挙げられた各事実は、隠蔽・仮装行為(要件②)の要件事実となるものである一方、(8)における「調査等の際の虚偽の答弁等」は、間接事実として挙げられているものであり、それ単独で隠蔽・仮装行為があったと認定できるものではないことから、このような場合には、「その他の事実関係を総合的に判断」することになるとしています。


「過少申告の意図」を求めた最高裁判決
Q4
 Q2において、「ことさら過少」に重加算税が賦課される場合、「過少申告の意図」が必要とされていますが、どのようなことでしょうか。
A

 「ことさら過少」(つまみ申告)は、積極的な隠蔽・仮装行為の認定が困難な事案とされています。不正経理、二重帳簿の作成等の帳簿操作といった隠蔽・仮装行為を前提としておらず、単なる故意ある過少申告行為ともいえるため、国税通則法68条1項の文理上、こうした過少申告行為が「事実の全部又は一部を隠蔽し、又は仮装し」た(要件②)といえるかどうか、また隠蔽又は仮装に「基づき」納税申告書を提出した(要件③)といえるか否かが問題となります。
 「ことさら過少」が重加算税の課税要件を満たすかどうかが争点とされた事案として、最高裁平成6年11月22日判決、最高裁平成7年4月28日判決があります。前者について、課税当局は、故意ある過少申告が直ちに重加算税の対象となるものでないことを明らかにしつつ、過少申告に関する外形的、客観的な諸事情を挙示した上、帳簿に不正操作を加えていない場合でも、そのような諸事情の下では、ことさら過少が重加算税の賦課要件を満たすとしているが、一般論を示していないとしています。
 一方、最高裁平成7年4月28日判決については、①納税者が、当初から所得を過少に申告することを意図し、②その意図を外部からもうかがい得る特段の行動をした上、③その意図に基づく過少申告をしたような場合には重加算税の賦課要件が満たされることを示した上、これに各事実認定を当てはめて判断しているとしています。Q2では、重加算税の賦課に際し、隠蔽・仮装行為の事実があれば、その意図(目的)は問わないとしていますが、当該判示内容に基づき「ことさら過少」に重加算税を賦課する場合には、「過少申告の意図」が必要となります(図2参照)。

課税当局は平成24年4月16日裁決を重視か
Q5
 「ことさら過少」で必要となる「過少申告の意図」について、その意図を外部からもうかがい得る特段の行動が認定できない場合、課税当局はどう対応しますか。
A

 以前の当局資料では、重加算税の賦課見込み事案(前提:収支内訳書、決算書に真実の金額が記載されていないと見込まれるとき)の調査展開・審理の流れとして、(1)積極的な隠蔽・仮装行為(重加算税事務運営指針の例示に該当する)の有無の確認→(2)いわゆる「ことさら過少」に該当するか確認するとされています。
 そして、(2)において「過少申告の意図を外部からもうかがい得る特段の行動」を認定できるだけの証拠がある場合は、いわゆる「ことさら過少」として重加算税賦課相当。一方、「過少申告の意図を外部からもうかがい得る特段の行動」を認定できるだけの証拠がない場合には、例えば、①正当な収入金額等を把握していながら、②過少申告をする意図の下、③収入金額等について独自の計算により恣意的に操作して過少な所得金額を算出し、内容虚偽の決算書等を作成した場合には、重加算税賦課相当であると判断した裁決があることから、当該裁決等を参考に個別事案として重加算税賦課の可否の検討を行うとしていました(本誌807号特集参照)。
 今回の執務参考資料には、上記裁決に該当すると思われる平成24年4月16日裁決の要旨(下掲参照)が掲載されており、積極的な隠蔽・仮装行為、「特段の行動」がなく、収支内訳書、決算書に真実の金額が記載されていないと見込まれる事案に対する重加算税の賦課において、同裁決が重視されていることがうかがわれます。

〇平成24年4月16日裁決(裁決事例集未搭載)・裁決要旨(一部)  (下線は編集部)

 請求人は、税法の知識に乏しく、領収証等の保存状態が悪かったため、正確な所得金額を把握できず、その結果、所得金額の計算を誤ったものであり、当初から所得を過少に申告することを意図し、その意図を外部からもうかがい得る特段の行動をしていないので、隠ぺい又は仮装に該当する行為は存在しない旨主張する。しかしながら、請求人は、本件各年分の事業所得の総収入金額を正確に把握していながら、その所得金額を過少に申告する意図をもって、あえて所得税法等の所定の計算方法によらず、本件各年分の事業所得の金額、総収入金額及び必要経費の額について、所得金額及び収入金額の一部を除外し、また、必要経費の額を上乗せするなどの恣意的な操作をして、真実の事業所得の金額よりも少ない額の事業所得の金額を算出するための独自の計算を行い、その計算結果に基づく過少な事業所得の金額等を記載した内容虚偽の各収支内訳書を作成し、これに合わせて同様の記載をした本件各確定申告書を、当該各収支内訳書を添付して提出したものである。このように、請求人は、作為的な計算等をして、故意に本件各年分の事業所得の金額の一部を当該各年分の所得税の税額等の計算の基礎となるべき金額から除外し、これに合わせた過少な申告をしたのであるから、いずれの年分においても、請求人が、過少申告行為そのものとは別に、隠ぺい又は仮装に該当する行為をしたことは明らかである。

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