解説記事2021年06月21日 SCOPE 当局、ことさら過少H6最判の隠蔽・仮装の時期にフォーカス(2021年6月21日号・№887)

確定申告後の虚偽の答弁等≠隠蔽・仮装
当局、ことさら過少H6最判の隠蔽・仮装の時期にフォーカス


 課税当局は重加算税に関する執務参考資料において、最高裁平成6年11月22日判決(いわゆる「ことさら過少」事案)の隠蔽・仮装の「時期」に焦点を当てている。当該資料では、同判決が「確定申告の時点」における隠蔽・仮装行為を認定している点を強調。確定申告後の調査時の虚偽の答弁等“自体”を隠蔽・仮装行為とは認定していないとしている。
 また、執務参考資料には隠蔽・仮装の時期と修正申告等の関係について、東京地裁平成16年1月30日判決を掲載している。

申告前に不正経理、帳簿操作なく「申告時」で認定

 重加算税の賦課要件には、・納税者が課税標準等又は税額等の計算の基礎となるべき事実の全部(一部)を隠蔽・仮装したこと、・その隠蔽・仮装したところに基づき納税申告書を提出したことがある。・では、主に隠蔽・仮装の「主体」、「意義」(本誌884号特集参照)、・では、隠蔽・仮装の「時期」(「基づき」の解釈)が問題となる。このうち隠蔽・仮装の「時期」について、課税当局は、通則法68条1項の文理を厳格に解釈すれば、納税申告書の提出行為よりも前に隠蔽・仮装行為が存在している必要があると考えられるとしている。
 また、課税当局は、重加算税の納税義務の成立時期(通則法15条2項14号)との関係から隠蔽・仮装の「時期」を判示した大阪高裁平成5年4月27日判決を資料に掲載(下掲参照)。さらに、当該大阪高裁判決を破棄した最高裁平成6年11月22日判決を掲載し、同判決も、確定申告後の調査の際の虚偽の答弁等自体を隠蔽・仮装行為とは認定せず、あくまで「確定申告の時点」における隠蔽・仮装行為を認定している点を強調している(次頁参照)。

〇大阪高裁平成5年4月27日判決 (下線は編集部)

 重加算税の納税義務の成立時期は、法定申告期限の経過の時である(国税通則法15条2項14号)から、隠ぺい、仮装行為は、この期限が到来する前の行為だけが加算税の対象になるのが原則である(修正申告書の提出が法律で義務付けられている場合のみ、右期限後の隠ぺい、仮装行為も重加算税賦課の要件を充たすことになると解する。)。したがって、隠ぺい、仮装行為の存否は、確定申告書提出時を中心に判断すべきであって、右期限後の隠ぺい、仮装行為は、法定申告時における隠ぺい、仮装行為の存否を推認させる一間接事実となりうるにすぎない。

〇最高裁平成6年11月22日判決 (下線は資料原文)

 亡Aは、正確な所得金額を把握し得る会計帳簿類を作成していながら、3年間にわたり極めてわずかな所得金額のみを作為的に記載した申告書を提出し続け、しかも、その後の税務調査に際しても過少の店舗数等を記載した内容虚偽の資料を提出するなどの対応をして、真実の所得金額を隠ぺいする態度、行動をできる限り貫こうとしているのであって、申告当初から、真実の所得金額を隠ぺいする意図を有していたことはもちろん、税務調査があれば、更に隠ぺいのための具体的工作を行うことをも予定していたことも明らかといわざるを得ない。以上のような事情からすると、亡Aは、単に真実の所得金額よりも少ない所得金額を記載した確定申告書であることを認識しながらこれを提出したというにとどまらず、本件各確定申告の時点において、白色申告のため当時帳簿の備付け等につきこれを義務付ける税法上の規定がなく、真実の所得の調査解明に困難が伴う状況を利用し、真実の所得金額を隠ぺいしようという確定的な意図の下に、必要に応じ事後的にも隠ぺいのための具体的工作を行うことも予定しつつ、前記会計帳簿類から明らかに算出し得る所得金額の大部分を脱漏し、所得金額を殊更過少に記載した内容虚偽の確定申告書を提出したことが明らかである。したがって、本件各確定申告は、単なる過少申告行為にとどまるものではなく、国税通則法68条1項にいう税額等の計算の基礎となるべき所得の存在を一部隠ぺいし、その隠ぺいしたところに基づき納税申告書を提出した場合に当たるというべきである。

 最高裁平成6年判決は、いわゆる「ことさら過少」における重加算税賦課要件の充足性を判断した事例。課税当局が、同判決が挙示する外形的、客観的な諸事情とは別に、隠蔽・仮装の「時期」に着目していることが注目される。
 なお、最高裁平成6年判決が申告前ではなく「申告時」における隠蔽・仮装行為を認定した理由について、課税当局は、この事案においては申告前に不正経理や二重帳簿の作成等の帳簿操作が認められなかったことを挙げている。

過少申告加算税の加重類型、重加算税も抽象的に成立

 また、隠蔽・仮装の「時期」については、いかなる場合でも隠蔽・仮装行為が「法定申告期限」前のものだけに限定されるとすれば、例えば、法定申告期限後に初めて隠蔽・仮装行為が行われ、その隠蔽・仮装行為に基づき期限後申告書や修正申告書が提出された場合、重加算税賦課要件を充足しないという問題もある。
 この点、課税当局は、東京地裁平成16年1月30日判決の判示内容を執務参考資料に記載し、重加算税賦課要件の充足性を周知している(上掲参照)。

〇東京地裁平成16年1月30日判決 (下線は編集部)

 国税通則法15条2項14号は、「昭和37年の通則法の制定に当たり、納税義務は成立しているが納付すべき税額が確定していない税額の徴収手続として繰上保全差押制度(通則法38条3項)が創設されたことに伴い、国税の納税義務の成立時期を明確にすべく、主として繰上請求の観点からみて必要な範囲において規定されたにすぎず、重加算税を含めた各種加算税の課税要件の充足時期を規律するものではない。
 そして、重加算税が過少申告加算税の加重類型であると解されているところ、法定申告期限の経過の時に重加算税の基礎となるべき過少申告加算税の納税義務が成立していれば、その加重類型である重加算税も抽象的に成立しているということができるから、法定申告期限の経過後に隠ぺい又は仮装が行われたとしても、通則法15条2項14号には反しない。

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