カートの中身空

閲覧履歴

最近閲覧した商品

表示情報はありません

最近閲覧した記事

解説記事2021年08月02日 ニュース特集 最高裁が会計限定監査役に対する横領見逃しの責任を問う判決(2021年8月2日号・№892)

ニュース特集
税理士等の監査役は要注意、実務が変わる可能性も
最高裁が会計限定監査役に対する横領見逃しの責任を問う判決


 最高裁判所第二小法廷(草野耕一裁判長)は7月19日、会社(上告人)が会計限定監査役(被上告人)に対しその任務を怠ったことで従業員による継続的な横領の発覚が遅れて損害が生じたとして損害賠償を求めた事件で原判決を破棄し、審理を東京高裁に差し戻す判決を下した(令和1(受)1968)。最高裁は、会計限定監査役は計算書類等の監査を行うに当たり、会計帳簿が信頼性を欠くものであることが明らかでない場合であっても、計算書類等に表示された情報が会計帳簿の内容に合致していることを確認しさえすれば常にその任務を尽くしたといえるものではないと指摘した。会社から損害賠償請求を受けた会計限定監査役は会社の顧問税理士(公認会計士の資格あり)であった者だ。中小企業の監査役に税理士等が就任することも多いだけに留意したい判決といえそうだ。今後の実務では、会計帳簿の確認だけでは足りず、会計帳簿作成状況等について取締役に報告を求めたり、基礎資料の確認などが必要になってこよう。

原審、特段の事情がなければ会計帳簿を信頼して監査可能

 本件は、上告人である会社(以下「X社」)が当時の監査役(以下「Y」)であった被上告人に対して、従業員の行った横領の発覚が遅れたのは監査役の任務を怠ったからなどと主張して会社法423条1項に基づき約1億1,100万円の損害賠償を求めた事件である。
 X社(印刷業を営む資本金9,600万円の株式会社)は、取締役会設置会社かつ監査役設置会社であり、監査役の監査の範囲は会計に関するものに限定(会計限定監査役)されていた。会計限定監査役とは、非公開の中小会社において定款の定めにより会計監査権限に限定された監査役のことである(会社法施行前に設立の資本金の額が1億円以下でかつ株式の全部に譲渡制限がある株式会社は、監査役の監査の範囲を会計に限定する旨を定款で定めているものとみなされている)。
 被上告人であるYはX社の顧問税理士であり、昭和42年から平成24年まで同社の監査役に就任していた。X社では、同社の従業員が平成19年から平成28年までの間に126回にわたり預金口座から合計で約2億3,500万円を横領していたことが発覚。X社は、Yが毎年の監査において金融機関が発行する残高証明書の原本を確認するなどの方法などを用いて監査が実施されるべきであったにもかかわらずこれを怠ったとして、監査役に対して損害賠償請求をした。
 原審の東京高裁では、会計限定監査役が監査を行う場合は会計帳簿の信頼性欠如が会計限定監査役に容易に判明可能であったなどの特段の事情のない限り、会社作成の会計帳簿の記載内容を信頼して、会社作成の貸借対照表、損益計算書その他の計算関係書類等を監査すれば足りると指摘。特段の事情がないときには、会社作成の会計帳簿に不適正な記載があることを会計帳簿の添付資料を直接確認するなどして積極的に調査発見すべき義務を負うものではないとの判断を示していた(令和元年8月21日判決、平成31年(ネ)第1178号)。

最高裁、会計帳簿の確認のみでは任務を尽くしたといえず

 しかし、最高裁は6月28日に弁論を開催(本誌886号4頁参照)。今回の判決が注目されていた。弁論では、上告人(会社)は被上告人(会計限定監査役)に対して従業員の不正発見(実態監査)を求めているのではなく、情報の信頼性を検証する監査(情報監査)のみ求めていると主張。預金口座の残高証明書の原本を確認しなかったことについて任務懈怠があるなどとしていた。
基礎資料が必要な場合あり
 最高裁は、会計帳簿は取締役等の責任の下で正確に作成されるべきものであるとはいえ、監査役(会計限定監査役も含む)は会計帳簿の内容が正確であることを当然の前提として計算書類等の監査を行ってよいものではないとした上で、監査役は会計帳簿が信頼性を欠くものであることが明らかでなくとも、計算書類等が会社の財産及び損益の状況を全ての重要な点において適正に表示しているかどうかを確認するため、会計帳簿の作成状況等につき取締役等に報告を求め、又はその基礎資料を確かめるなどすべき場合があると指摘。会計限定監査役は、計算書類等の監査を行うに当たり、会計帳簿が信頼性を欠くものであることが明らかでない場合であっても、計算書類等に表示された情報が会計帳簿の内容に合致していることを確認しさえすれば、常にその任務を尽くしたといえるものではないとの判断を示し、原判決を破棄し、東京高裁に審理を差し戻した。

資格があっても会計士監査を実施すべき義務はなしとの補足意見

 今回の判決は4人の裁判官全員一致の意見であるが、草野耕一裁判長の補足意見が付されている(参照)。草野裁判長は、差戻審で被上告人(会計限定監査役)が任務を怠ったか否かを検討するに当たっては、被上告人が公認会計士資格を有していたとしても、会計限定監査役は公認会計士又は監査法人であることが会社法上求められていない以上、上告人(会社)の監査に当たり被上告人にその専門的知見に基づく公認会計士法2条1項に規定する監査を実施すべき義務があったとは解し得ないとしたほか、監査役の職務は法定のものである以上、監査役の責任を加重する旨の特段の合意が認定される場合でない限り、監査役の属性によって監査役の職務内容が変わるものではないとしている。

【表】裁判官草野耕一の補足意見

 裁判官草野耕一の補足意見は、次のとおりである。
 私は法廷意見の理由及び結論に賛成であるが、審理を原審に差し戻した趣旨につき思うところを述べておきたい。
 差戻審が被上告人が任務を怠ったか否かを検討するに当たっては、次の点に留意すべきと考える。
 まず、会計限定監査役は、公認会計士又は監査法人であることが会社法上求められていない以上、被上告人が公認会計士資格を有していたとしても、上告人の監査に当たり被上告人にその専門的知見に基づく公認会計士法2条1項に規定する監査を実施すべき義務があったとは解し得ないという点である(会社計算規則121条2項が同法2条1項に規定する監査以外の手続による監査を容認しているのはこの趣旨によるものであろう。)。次に、監査役の職務は法定のものである以上、会社と監査役の間において監査役の責任を加重する旨の特段の合意が認定される場合は格別、そうでない限り、監査役の属性によって監査役の職務内容が変わるものではないという点である。被上告人の具体的任務を検討するに当たっては、上記の各点を踏まえ、本件口座の実際の残高と会計帳簿上の残高の相違を発見し得たと思われる具体的行為(例えば、本件口座がインターネット口座であることに照らせば、被上告人が本件口座の残高の推移記録を示したインターネット上の映像の閲覧を要求することが考えられる。なお、会計限定監査役にはその要求を行う権限が与えられているように思われる(会社法389条4項2号、同法施行規則226条22号参照)。)を想定し、本件口座の管理状況について上告人から受けていた報告内容等の諸事情に照らして、当該行為を行うことが通常の会計限定監査役に対して合理的に期待できるものか否かを見極めた上で判断すべきであると思われる。
 なお、平成19年5月期の監査の際に被上告人に提供された本件口座の残高証明書は本件従業員によりカラーコピーで偽造されたものであり、平成20年5月期以後の監査の際に被上告人に提供された残高証明書は本件従業員により白黒コピーで偽造された写しであったとの原審認定を前提とすると、平成20年5月期以後の監査の際に被上告人は本件口座の残高証明書の原本等の提示を求めるべきであったといえるか否かについても検討を要すると思われるが、その際には、平成19年5月期の監査の際に提供された残高証明書につき、被上告人がこれをどのようなものとして認識したか、これと平成20年5月期以後の監査の際に提供された上記写しとの形状・様式・内容の相違の有無・程度、被上告人の会計管理システムの仕組みや態勢、上記のカラーコピーの残高証明書と同様の形状・様式・内容を備えた残高証明書の作成の難易等を考慮して、上記の提示の求めが本件口座の実際の残高と会計帳簿上の残高の相違を発見し得たと思われる行為といえるか否かについて慎重に判断する必要があると思われる。

 会社(1審の原告)が全面的に勝訴していた1審の千葉地裁(平成31年2月21日判決、平成29年(ワ)第110号)では、監査役(1審の被告)が就任当時より公認会計士及び税理士資格を有していたことからすると、監査役として負う善管注意義務の水準は公認会計士及び税理士としての専門的能力を有さない一般的な監査役の善管注意義務の水準よりも高く、これに応じた具体的な監査手法を探る義務があったと指摘。その上で預金口座の残高証明書が明らかに写しであることを認識しながら、残高証明書の原本又は当座勘定照合表の原本の提示を求めることが容易であるにもかかわらず、これらを怠り漫然と残高証明書の写しを実査する方法のみで口座の預金の実在性を監査しており、横領行為に関する監査役の任務懈怠が認められるとしていた。
 草野耕一裁判長の補足意見は、1審の判断内容に疑義を呈した上で、口座の実際の残高と会計帳簿上の残高の相違を発見し得たと思われる具体的行為を想定し、口座の管理状況について上告人から受けていた報告内容等の諸事情に照らして、当該行為を行うことが通常の会計限定監査役に対して合理的に期待できるものか否かを見極めた上で判断すべきであるとしている。

当ページの閲覧には、週刊T&Amasterの年間購読、
及び新日本法規WEB会員のご登録が必要です。

週刊T&Amaster 年間購読

お申し込み

新日本法規WEB会員

試読申し込みをいただくと、「【電子版】T&Amaster最新号1冊」と当データベースが2週間無料でお試しいただけます。

週刊T&Amaster無料試読申し込みはこちら

人気記事

人気商品

  • footer_購読者専用ダウンロードサービス
  • footer_法苑WEB
  • footer_裁判官検索