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解説記事2019年12月09日 ニュース特集 「居住者の認定」一審に続き課税当局の主張認められず(2019年12月9日号・№814)

ニュース特集
東京高裁、「国側の新たな主張(時系列的な検討)は時代遅れ」
「居住者の認定」一審に続き課税当局の主張認められず


 東京高裁第11民事部(野山宏裁判長)は11月27日、納税者Aの所得税法上の住所の認定(「居住者」に該当するのか「非居住者」に該当するのか)を主たる争点とする裁判で、納税告知処分等の取消しを求める納税者の主張を認め、課税当局の主張(「居住者」に該当するとの主張)を斥けた一審(東京地裁)に続き、国の控訴を棄却する判決を言い渡した(一審判決については、本誌799号4頁・812号19頁参照)。

東京地裁は「生活の本拠が日本にあったとは認められない」と判断

 原審(東京地裁)は、「住所の認定」について、「ここにいう住所とは、反対の解釈をすべき特段の事由はない以上、生活の本拠、すなわち、その者の生活に最も関係の深い一般的生活、全生活の中心を指すものであり、一定の場所がある者の住所であるか否かは、客観的に生活の本拠たる実体を具備しているか否かにより決すべきものと解するのが相当である。」とする確立された最高裁判例の判示を引用。そのうえで「そして、客観的に生活の本拠たる実体を具備しているか否かは、①滞在日数、住居、②職業、③生計を一にする配偶者その他の親族の居所、④資産の所在等を総合的に判断するのが相当である。」と判示し、上記①~④に加えて⑤その他の事情について検討し、「Aは、本件各海外法人の業務に従事し、そのために相応の日数においてシンガポールに滞在し、また、シンガポールを主な拠点としてインドネシアや中国その他の国への渡航を繰り返しており、これらの滞在日数を合わせると年間の約4割に上っていたことなどからすれば、Aの職業活動はシンガポールを本拠として行われていたものと認められ、他方、日本国内における滞在日数とシンガポールにおける滞在日数とに有意な差を認めることはできず、Aと生計を一にする家族の居所、資産の所在及びその他の事情についても、Aの生活の本拠が日本にあったことを積極的に基礎付けるものとはいえない。これらを総合すると、Aの生活の本拠が日本にあったと認めることはできない。」と判断した。

国、「時系列的な分析では住所の移転を認識できない」と主張

 控訴審において、国は「納税者の所在(滞在日数及び滞在の実態)を重視して判断すべき」としながらも、滞在の実態にも差がない場合には、「納税者の生活の本拠たる実体を最もよく表していると認められる他の考慮要素が重視されるべき」であるとし、「過去にあった生活の本拠たる実体が移転したか否かという時系列的な観点から検討することができる。」と主張。すなわち、「そこから他の場所に住所が移転しているか否かという観点から、その後の一時点における住所がいずれにあるかを判断することができる。」という新たな主張を展開した。そして、本件においては目に見える形でのAの住所の移転が認識できないことを挙げ、Aの住所は日本から海外には移転していないと主張した。

東京高裁、「資産の所在での判定は無理」

 東京高裁は、①の滞在日数について「シンガポールの滞在日数にインドネシア等の滞在日数を合算して、日本の滞在日数と比較するのは誤りである。」とする国の主張に対しては、「Aは、インドネシア等への渡航の利便性をも考慮して、定住できる態勢の整った居宅をシンガポールに構えていたから、シンガポールをハブ(拠点)とする他国への短期渡航はシンガポール滞在と実質的に同一視する方が経済社会の実態に適合する。」と判示する。
 また、④の資産の所在について「金額だけでなく、その質からも、Aは資産の多くを日本国内に保有しており、本件各年に日本国内の資産を増加させ、シンガポール国内の資産を減少させていた。」とする国の主張に対しては、「Aは日本国籍を有し、生計を一にする妻らの生活の本拠も日本であったから、金額及びその質の面から日本国内の保有資産が大きくなるのは自然なことである。しかし、資産の所在は、それだけで居住者判定に大きな影響力を与える要素ではない。資産の大半をカリブ海の国又は地域で保有していても、主に日本に滞在し、主に日本で経済活動をしている者は、居住者である。本件各海外法人の業務への従事状況、シンガポールを中心とする日本国外滞在日数を考慮するとき、資産の所在を理由に日本国内の居住者と判定するには無理がある。」と判示し、国の主張を斥けた。
 東京高裁の判断からは、Aが海外業務のために各国に滞在していたことを背景に、住所の認定のポイントのうち、③生計を一にする配偶者その他の親族の居所、④資産の所在等、⑤その他の事情、については、住所の認定のポイントとしての位置付けが低いことが窺われる。

【表】控訴審での東京高裁の判断

認定のポイント 控訴審での国の主張と高裁の判断
①滞在日数及び
 住居
国の主張
 シンガポールの滞在日数にインドネシア等の滞在日数を合算して、日本の滞在日数と比較するのは誤りである。

高裁の判断
 Aは、インドネシア等への渡航の利便性をも考慮して、定住できる態勢の整った居宅をシンガポールに構えていたから、シンガポールをハブ(拠点)とする他国への短期渡航はシンガポール滞在と実質的に同一視する方が経済社会の実態に適合する。国の主張を採用するには無理がある。
④資産の所在 国の主張
 
金額だけでなく、その質からも、Aは資産の多くを日本国内に保有しており、本件各年に日本国内の資産を増加させ、シンガポール国内の資産を減少させていた。

高裁の判断
 
Aは日本国籍を有し、生計を一にする妻らの生活の本拠も日本であったから、金額及びその質の面から日本国内の保有資産が大きくなるのは自然なことである。しかし、資産の所在は、それだけで居住者判定に大きな影響力を与える要素ではない。資産の大半をカリブ海の国又は地域で保有していても、主に日本に滞在し、主に日本で経済活動をしている者は、居住者である。本件各海外法人の業務への従事状況、シンガポールを中心とする日本国外滞在日数を考慮するとき、資産の所在を理由に日本国内の居住者と判定するには無理がある。
⑥新たな争点 国の主張
 
納税者の所在(滞在日数及び滞在の実態)を重視して判断すべきだが、滞在の実態にも差がない場合には、納税者の生活の本拠たる実体を最もよく表していると認められる他の考慮要素が重視されるべきである。
 過去にあった生活の本拠たる実体が移転したか否かという時系列的な観点から検討することができる。すなわち、そこから他の場所に住所が移転しているか否かという観点から、その後の一時点における住所がいずれにあるかを判断することができる。

高裁の判断
 
国は、従前のAの生活の本拠は日本にあったところ、精緻に時系列的に検討しても、過去にあった生活の本拠たる実体が日本から移転したと認めるべき事情は存しないと主張する。
 Aは、経営する会社の活動を日本から海外に広げ、日本と海外に複数の居所を有し、海外滞在日数が徐々に増加していったのであるから、通常の引越しのように、特定の日又は期間に目に見える形での生活の本拠が日本から海外に移転するというイベント的なものが存在しないのは当たり前のことである。このような者に対して、過去に日本にあった生活の本拠たる実体が時系列的にみて日本から海外に移転したかどうかを精緻に時系列的に検討することは、検討手法として時代遅れである。国の主張を採用するには無理がある。

※認定のポイント②職業、③生計を一にする配偶者その他の親族の居所、⑤その他の事情については、高裁は補足的判断を行っていない。

東京高裁、「目に見える形での移転がないのは当たり前」

 また、東京高裁は上述した控訴審での国の新たな主張に対して、「Aは、経営する会社の活動を日本から海外に広げ、日本と海外に複数の居所を有し、海外滞在日数が徐々に増加していったのであるから、通常の引越しのように、特定の日又は期間に目に見える形での生活の本拠が日本から海外に移転するというイベント的なものが存在しないのは当たり前のことである。このような者に対して、過去に日本にあった生活の本拠たる実体が時系列的にみて日本から海外に移転したかどうかを精緻に時系列的に検討することは、検討手法として時代遅れである。国の主張を採用するには無理がある。」として、「居住者」であることを前提になされた本件各処分は違法であると判断した。
 東京高裁は、上記の判断から、Aらの請求はいずれも理由があるからこれを認容すべきであり、これと同旨の原判決は相当であるとして、本件控訴を棄却した。
 本件については、控訴審判決に不服であっても、上告理由(憲法違反)及び上告受理申立理由(判例違反又は法令の解釈に関する重要な事項が含まれている場合)に該当するかという問題もあり、国は困難な立場に立たされたといえるだろう。

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