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解説記事2021年10月11日 論考 場所の定めのない株主総会(バーチャルオンリー株主総会)の在り方(2021年10月11日号・№901)

論考
場所の定めのない株主総会(バーチャルオンリー株主総会)の在り方
 神奈川大学法学部教授 葭田英人

1 はじめに

 上場会社がバーチャルオンリー株主総会を開始できる旨を盛り込んだ産業競争力強化法(以下、産競法という。)の一部改正案が、2021年2月5日に閣議決定された。同年6月9日、第204回通常国会において改正法が可決・成立し、同月16日に公布され、同年8月2日に施行された。この改正により、上場会社を対象に、「場所の定めのない株主総会(バーチャルオンリー株主総会)」の開催が可能となり、原則の施行日に先んじて、同年6月16日に施行されている。
 会社法においては、株主総会は開催場所を定めなければならないとされているが(会社法298条1項1号)、2020年7月に閣議決定された「成長戦略フォローアップ」や内閣府の規制改革推進会議、日本経済団体連合会、政府の成長戦略会議において、新型コロナへの対応や、株主との建設的な対話、DX(デジタルトランスフォーメーション)の促進の観点から提言され、産競法の改正により会社法の特例措置としてバーチャルオンリー株主総会の実施が認められた。
 海外においては、アメリカのデラウェア州をはじめ30州で、イギリスおよびドイツでは立法措置により、フランスでは行政命令により、バーチャルオンリー株主総会が認められている。
 2021年8月26日、バイオ関連企業の株式会社ユーグレナ(東証1部上場)が、国内上場企業ではじめて完全オンラインで臨時株主総会を開催した。今後、この事例を参考に、バーチャルオンリー株主総会が他の企業にも広がるものと思われる。

2 バーチャル株主総会の種類

 WEB会議システムなどを用いて行う株主総会をバーチャル株主総会という。さらに、バーチャル株主総会には、ハイブリッド型バーチャル株主総会とバーチャルオンリー株主総会がある。
 ハイブリッド型バーチャル株主総会とは、リアル株主総会のように会場を設ける一方、取締役、監査役、株主などが、インターネットなどを使用して株主総会に参加・出席するものである。バーチャルで参加・出席した株主が、審議等の確認や傍聴のみが許される参加型と、議決権を行使したり、質問や動議を行うことができる出席型に分けられる。
 また、バーチャルオンリー株主総会とは、リアル総会場を設けずに、取締役、監査役、株主などが、すべてインターネットなどを使用して株主総会に出席するものである。
(1)ハイブリッド型バーチャル株主総会
 ① ハイブリッド参加型バーチャル株主総会

 ハイブリッド参加型バーチャル株主総会とは、リアル株主総会にインターネットを介して参加する株主が、会社から通知されたIDやパスワードによる確認を経て、配信された中継動画を傍聴できる株主総会をいう。ただし、株主は出席とはみなされないことから、質問や動議は議長の裁量でコメントとして受け付けることは可能である。
 ② ハイブリッド出席型バーチャル株主総会
 ハイブリッド出席型バーチャル株主総会とは、リアル株主総会にインターネットを介して参加した株主が、出席として扱われる株主総会をいう。ただし、リアル総会場に出席している株主とインターネットを介して出席した株主の平等性が損なわれることが懸念されることから、情報伝達の双方向性と即時性の確保が担保されることが前提条件となる。
 また、この場合、会社は、株主がリアル総会場に来ることを拒むことはできない。逆に、株主が1人もリアル総会場に来なかったときには、結果として、バーチャルオンリー株主総会となることもありうる。
(2)バーチャルオンリー株主総会
 バーチャルオンリー株主総会とは、リアル総会場を一切設けず、取締役、監査役、株主など全員が、完全オンラインで出席する株主総会をいう。感染症等のリスクの低減を図ることができ、コロナ禍でも開催が容易なうえ、地方や海外などの遠隔地の株主や物理的に出席が難しい株主であっても参加しやすくなる。
 また、情報伝達の双方向性と即時性の確保が担保されることが前提条件となるが、リアルタイムで情報が開示され、株主総会の透明性・公正性が担保されることから、株主の権利が保障される。
 会社にとっても、感染対策ができ、大きな会場を確保する手間が省け、運営コストの低減を図ることができる。さらに、株主総会の開催日時の制約がほとんどなくなることから、柔軟に対応することが可能となる。
 また、リアル株主総会に出席できる株主の選別をめぐる紛争を予防することが可能となり(脚注1)、すべての出席者が、完全オンラインにより出席することから、権利行使の平等性・公平性が確保されることになる。しかし、株主はバーチャルで参加することから心理的なハードルが下がり、株主総会が活性化する可能性が広がる反面、濫用される可能性も高まる。

3 産業競争力強化法の改正

 バーチャルオンリー株主総会は、産競法の改正により、次に掲げる一定の要件を満たす場合に、会社法の特例として開催することができる(産競法66条1項・2項)。
(1)上場会社であること
 上場会社に限定しているのは、株主数が多く、開示制度が整備されていること等から、バーチャルオンリー株主総会を実施することによる株主総会の活性化、効率化、円滑化が効果的に行われ、株主総会の透明性、公正性が確保されやすいからである(脚注2)。
(2)経済産業大臣および法務大臣の確認を受けること
 上場会社がバーチャルオンリー株主総会を開催するには、次の省令要件について経済産業大臣および法務大臣の確認を受けなければならない。①場所のない株主総会の議事における情報の送受信に用いる通信の方法に関する事務の責任者を置いていること(省令1条1号)、②場所のない株主総会の議事における情報の送受信に用いる通信の方法に係る障害に関する対策についての方針を定めていること(省令1条2号)、③場所のない株主総会の議事における情報の送受信に用いる通信の方法としてインターネットを使用することに支障のある株主の利益の確保に配慮することについての方針を定めていること(省令1条3号)、④株主名簿に記載され、または記録されている株主の数が100人以上であること(省令1条4号)。
(3)定款の定めがあること
 株主の利益を保護する観点から、株主総会をバーチャルオンリー株主総会とすることができる旨の定款の定めがあることを要件としている。また、この定款の定めを設けるためには、株主総会の特別決議による定款変更が必要である(会社法309条2項11号・466条)。なお、改正産競法施行後2年間は、経済産業大臣および法務大臣の確認を受けた上場会社は、この定款の定めがあるものとみなすことができる(附則3条1項)。ただし、招集する場所の定めのない株主総会においては、この定款の定めを設ける定款変更の決議をすることはできない(附則3条2項)。したがって、改正産競法施行後2年経過後にバーチャルオンリー株主総会を開催するためには、リアル株主総会またはハイブリッド型バーチャル株主総会で定款変更の決議をしなければならない。
(4)バーチャルオンリー株主総会招集決定時に省令要件に該当していること
 経済産業省・法務省「産業競争力強化法に基づく場所の定めのない株主総会に関するQ&A」(以下、Q&Aという。)のQ1−3において、バーチャルオンリー株主総会ごとに経済産業大臣および法務大臣の確認を受ける必要はないが、バーチャルオンリー株主総会の招集決定時には省令要件に該当している必要があり、この時点での省令要件の該当性を確認するのは、招集決定者自らが確認することになると説明されている。

4 バーチャルオンリー株主総会の留意点

(1)議決権行使の効力
 株主が事前に議決権行使をした上で、バーチャルオンリー株主総会に出席した場合、事前の議決権の効力をどのように取り扱うかが問題となる。Q&AのQ4−6において、①株主が場所の定めのない株主総会のシステムにアクセス(ログイン等)をした時点で、事前の議決権の効力を失わせるという取扱い、②株主が場所の定めのない株主総会の中で議決権を行使した時点で、事前の議決権の効力を失わせるという取扱い等が、具体的に例示されている。
 しかし、株主は、途中で退席することも考えられるので、システムにアクセス(ログイン等)をもって事前の議決権の効力を失わせるという取扱いは、無効票を増やす結果になってしまう。そこで、前記②の株主が場所の定めのない株主総会の中で議決権を行使した時点で、事前の議決権の効力を失わせるという取扱いにすべきである。さらに、株主にその旨を前もって通知しておく必要がある。
(2)代理人出席の可否
 バーチャルオンリー株主総会において、代理人による出席を認める必要があるか、その取扱いが問題となる。経済産業省「ハイブリッド型バーチャル株主総会の実施ガイド」において、次のように説明されている。「会社が代理人のバーチャル出席を受け付けると判断した場合には、リアル株主総会への代理人出席の場合の本人確認に準じた取扱いが望まれる。リアル株主総会への代理人出席の場合、一般に、上場会社は定款で代理人の数および資格を「議決権を有する他の株主1名」に制限しているところ、株主総会当日または前日までに、①委任状と、委任者の本人確認書類(委任者の議決権行使書)を会社に提出し、さらに、②代理人本人の議決権行使書を提出することで出席を認めている。
 したがって、代理人のバーチャル出席を受け付ける場合には、委任者からメール添付等の何らかの方法で委任状を受領した上で、代理人による委任者の議決権行使を可能とする必要がある」(脚注3)。
 ハイブリッド型バーチャル株主総会においては、代理人の出席はリアル株主総会に限定することも許されると解されるが、バーチャルオンリー株主総会においては、前記のように、リアル株主総会への代理人出席の場合の本人確認に準じた取扱いをすべきである。その上で、代理人による出席を認める必要がある(Q&AのQ6−1)。
(3)本人確認(なりすましの危険性)
 バーチャルオンリー株主総会における「なりすましの危険性」について、経済産業省「ハイブリッド型バーチャル株主総会の実施ガイド」において、次のように説明されている。
 「リアル株主総会の受付における議決権行使書面の確認は、株主の住所に送付された議決権行使書面の体裁が目視で確認されるなど、人間の知覚作用を介して行われているが、バーチャル出席株主の出席確認をIDとパスワードのみで行う場合には、そのような追加的な確認はされないことになる。事前の電磁的方法による議決権行使時における本人確認の際にも同様の指摘が妥当しうるが、株主総会への出席の場合には、議決権行使に加え、審議における質問等を行うことが可能であることを踏まえると、なりすましの危険が株主総会の運営に与える影響は相対的に大きい可能性がある。
 したがって、なりすましの危険が相対的に高いと考えられる具体的事情がある場合などであって、比較的低コストで確実な本人確認手段が利用可能となった場合は(例えば、二段階認証やブロックチェーンの活用などが考えられる)、会社の規模やバーチャル出席株主の数等によっては、当該手段を用いることが妥当な場合も考えられる」(脚注4)。
 現在のリアル株主総会では、議決権行使書面を持参すれば、本人確認手続をすることなく会場へ入場することができる。バーチャルオンリー株主総会においても、株主に郵送した議決権行使書面に記載されたIDとパスワード入力すればログインすることができ、その株主の出席があったものとして取り扱われることになる。これでは「なりすまし」の危険を回避することはできない。リアル株主総会同様、それで差し支えないとする考え方もあるが、不正行為であることは間違いないのであるから、今後、二段階認証やブロックチェーンなどの活用も検討する必要がある。
(4)質問・動議の取扱い 
 バーチャルオンリー株主総会において、株主からの質問や動議の取扱いが問題となる。産競法および省令において、株主からの質問や動議を受け付けない取扱いを許容する規定はなく、場所の定めのない株主総会においては、会社法の原則どおり、質問や動議を受け付ける必要がある(Q&AのQ6−4)。
 質問については、自由に質問することが原則であるが、アプリのチャット機能を用いて入力されたものを受け付ける方法もある。動議については、受け付ける時間帯を設けることも許容される。
 一方、議長には議事整理権があるが(会社法315条1項)、恣意的な運用はあってならない。そこで、質問や動議の取扱いの公正性や透明性を担保するために、株主総会招集通知にその取扱い方法を記載し、総会終了後、質問や動議の内容を回答と併せて公表する必要がある。
(5)通信障害が起こった場合の対応
 バーチャルオンリー株主総会において、通信障害が起こった場合には、その取扱いが問題となる。
 バーチャルオンリー株主総会の冒頭において、議長から通信障害が起こった場合の延期・続行の議長一任決議について説明をした上で、議場に諮り、その決議を行っておく必要がある(Q&AのQ7−5)。さらに、延会・継続会の日時の決定も併せて議長に一任することも可能である(Q&AのQ7−7)。なお、株主総会招集通知に、開会前に通信障害が発生した際には、開会時刻の変更があり得ることや、その際にどこのウエブサイトにその旨を掲載する予定かを掲載し、株主に対して周知しておく必要がある(脚注5)。
 また、株主側の事情(株主側の通信環境の不具合等)により通信障害が生じた場合等には、それが決議取消事由となることはないと解される。他方、採決のタイミングで、通信障害により大多数の株主の議決権行使が妨げられるような場合等には、決議不存在事由と評価される可能性がある(Q&AのQ8−1)。

5 むすび

 従来、バーチャル株主総会はハイブリッド型バーチャル株主総会しか実施することはできなかった。今回の産競法の改正により、日本においても、上場会社によるバーチャルオンリー株主総会の開催が可能となった。
 バーチャルオンリー株主総会は、感染症対策や株主の出席機会の拡大により開催しようとする企業が多くなるものと予想される。バーチャルオンリー株主総会は、株主総会の活性化・効率化・円滑化の観点から、そして、株主総会の透明性・公正性の確保の観点から創設導入された制度である。
 株主総会を一律バーチャルオンリー株主総会に統一することにより、すべての出席者が完全オンラインで参加することになるので、権利行使の平等性・公平性が担保される。したがって、ビジネスのデジタル化が進み、バーチャルオンリー株主総会はさらに浸透し広く求められることが予想される。
 しかし、リアル株主総会のように、対面でのコミュニケーションも重要であり、バーチャルオンリー株主総会は、企業と株主との有意義な意見交換の機会を損なう懸念がある。バーチャルオンリー株主総会は、リアル株主総会やハイブリッド型バーチャル株主総会の補完的位置づけとすべきなのか、原則的な形態とすべきなのか。今後の検討課題である。

葭田英人 よしだ ひでと
筑波大学大学院修了。専門分野は、会社法・税法・信託法。近著は『コーポレートガバナンスと社外取締役・社外監査役』(三省堂・2020)、『会社法入門(第六版)』(同文舘出版・2020)、『合同会社の法制度と税制(第三版)』(税務経理協会・2019)など。

脚注
1 太田 洋「バーチャルオンリー株主総会を解禁する産競法一部改正法案の概要と実務対応[上]」商事法務2259号(2021年4月5日)17頁。
2 白岩直樹「産業競争力強化法に基づく場所の定めのない株主総会(バーチャルオンリー株主総会)に関する制度の解説」商事法務2269号(2021年7月25日)6頁。
3 経済産業省「ハイブリッド型バーチャル株主総会の実施ガイド」(2020年2月26日)17頁。
4 経済産業省、前掲注(3)17頁。
5 奥山建志「バーチャル株主総会とその実施に際しての留意点−参加型、出席型、産競法改正法案に基づくバーチャルオンリー株主総会−」資料版/商事法務444号(2021年3月号)177頁。

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