解説記事2021年11月01日 特別解説 日本企業が日本の会計基準からIFRSに移行した際に開示した差異の調整表(表示と認識・測定)(その1)(2021年11月1日号・№904)
特別解説
日本企業が日本の会計基準からIFRSに移行した際に開示した差異の調整表(表示と認識・測定)(その1)
はじめに
わが国の企業に対して、国際財務報告基準(IFRS)を任意に適用して連結財務諸表を作成・公表することが認められてから10年が経過し、200社を超える日本企業がIFRSを任意適用するまでになった。これまでわが国の会計処理や表示の基準を適用していた日本企業がIFRSに移行する場合、IFRS第1号「国際財務報告基準の初度適用」第23項に基づいて、企業は、従前の会計原則からIFRSへの移行が、報告された財政状態、財務業績及びキャッシュ・フローにどのように影響したのかを説明しなければならない。これは、従前の会計原則に従って報告されていた資本から、IFRSに準拠した資本への調整表(以下、「調整表」という。)と呼ばれ、ここでは、利用者が財政状態計算書及び包括利益計算書に対する重要な修正を理解できるようにするのに十分な詳細を示さなければならないとされている(IFRS第1号第25項)。この「重要な修正」には、のれんの償却/非償却や有給休暇引当金の計上に代表される、IFRSとわが国の会計基準との間の差であるいわゆる「GAAP差異の修正(認識と測定に係る修正)」と、特別損益項目の区分表示の可否などの「財務諸表の表示科目の差異の修正」の2種類があり、いずれも調整表で説明が加えられている。本稿では、IFRSを任意適用して有価証券報告書を作成・提出した企業」(以下「IFRS任意適用日本企業」という。)の各社が、IFRSを初めて適用した期に作成した調整表を題材として、どのような項目が「財務諸表の表示科目の差異の修正」や「認識と測定に係る差異の修正」として説明されているかを調査分析した。本稿では、その結果を実際の開示例を参照しつつ、2回に分けて紹介することとしたい。
今回調査対象とした企業
今回の調査の対象とした企業は、日本の会計基準からIFRSへ任意で移行し、2021年3月期の有価証券報告書までに調整表を作成して開示したIFRS任意適用日本企業の223社である。なお、開示例は、なるべく直近のもの(2021年3月期、及び2020年12月期等)を中心に取り上げている。
IFRS任意適用日本企業が初度適用時に開示した主な表示組替の内容
IFRS任意適用日本企業が、IFRSの初度適用時に調整表で開示した連結貸借対照表及び連結損益計算書の表示科目の主な組替を、開示件数が多い(開示件数が40件以上のもの)順に示すと、表1のとおりであった。

わが国でもよく知られている「営業外・特別損益項目の組替」に関する相違点の開示が圧倒的に多く、以下、「預入期間が3か月超の定期預金の区分変更」、「貸倒引当金の債権からの直接控除」や「持分法適用投資及び持分法投資損益の区分表示」といった項目が続いている。以下で、それぞれの項目について、わが国の会計基準とIFRSとの相違点を簡単に説明するとともに、具体的な開示例も併せて紹介することとしたい。
① 営業外・特別損益項目の組替
IAS第1号「財務諸表の表示」第87項において、企業は収益又は費用のいかなる項目も、純損益及びその他の包括利益を表示する計算書又は注記において、異常項目(extraordinary item)として表示してはならないとされている。そしてIFRSでは、わが国でいう営業外損益や特別損益といったくくりを設けない代わりに、金融(財務)収益と金融費用という区分を設けている。そのため、従来わが国において営業外収益・費用とさ れてきた項目(受取利息、支払利息、為替差損益等)の大部分は、金融収益又は金融費用に組み替えられている。そして、金融収益、金融費用以外の営業外収益・費用の項目については、例えば売上割引(営業外費用)は売上高から控除され、雑収益はその他の(営業)収益の区分に表示されることとなる。営業外損益に比較すると、特別損益項目は更にバラエティに富んでいる。投資有価証券の売却損や評価損はIFRSでは金融費用に含めて表示され、リストラ費用、訴訟損失、固定資産売却損、減損損失、本社移転費用等は、その他の(営業)費用に組替表示されていた事例が多い。
【開示例】 2021年3月期 レノバ
日本基準では、営業外収益、営業外費用、特別利益又は特別損失に表示していたものを、IFRSでは財務関連損益については金融収益及び金融費用として計上し、その他の項目はその他の収益、その他の費用、持分法による投資損益として営業利益に区分しています。
なお、レノバはこの他に、連結損益計算書及び連結包括利益計算書において、日本基準では費用を機能的に分類し表示していたのを、IFRSでは性質別での分類表示に変更している。
② 預入期間が3か月超の定期預金の区分変更と、短期有価証券等の現金同等物への振替
IAS第7号「キャッシュ・フロー計算書」では、現金同等物は「短期の流動性の高い投資のうち、容易に一定の金額に換金可能であり、かつ、価値の変動について僅少なリスクしか負わないものをいう」と定義されており(第6項)、第7項において、「投資は通常、満期が取得日から例えば3か月以内といった短期である場合にのみ、現金同等物に該当する。」とされている。
【開示例】 2021年3月期 野村総合研究所
日本基準で、「現金及び預金」に含めていた預入期間3か月超の定期預金は、IFRSでは、「その他の金融資産(流動)」に振り替えています。また、有価証券のうち、即換金可能かつ価値変動が僅少なものは、IFRSでは「現金及び同等物」に振り替えています。
③ 貸倒引当金の債権からの直接控除
IFRSでは、引当金は「時期又は金額が不確実な負債をいう」と定義されており(IAS第37号「引当金、偶発負債及び偶発資産」第10項)、引当金であるためには負債であることが条件とされている。したがって、貸倒引当金や投資損失引当金のようないわゆる「評価性引当金」の計上は、IFRSでは認められない。その代わり、営業債権(売掛金)や貸付金から直接控除して純額で表示されることとなる。
【開示例】 2021年3月期 IHI
日本基準では区分掲記していた「貸倒引当金(流動)」については、IFRSでは「営業債権及びその他の債権」及び「その他の金融資産(流動)」から直接控除して純額で表示するように振り替え、また、「貸倒引当金(固定)」についても同様に、「その他の非流動資産」から直接控除して純額で表示するように振り替えています。
④ 持分法適用投資や投資損益の区分掲記
IAS第1号「財務諸表の表示」第54項(e)では「持分法で会計処理されている投資」を、第82項(c)では、「持分法で会計処理されている関連会社及び共同支配企業の純損益に対する持分」をそれぞれ区分表示することが求められているが、わが国の連結財務諸表規則においては、これらの項目は個別に重要性があるような場合を除き、区分表示は求められていない。
【開示例】 2021年3月期 キッコーマン
日本基準では「投資有価証券」に含めていた「持分法で会計処理されている投資」について、IFRSでは区分掲記しております。
⑤ 資産除去債務を引当金として表示
わが国では、資産除去債務に関する会計基準(企業会計基準第18号)と同適用指針があるが、IFRSの場合には、借方側はIAS第16号「有形固定資産」が適用され、貸方はIAS第37号「引当金、偶発負債及び偶発資産」が適用される(資産除去債務は、引当金や負債の定義を満たす)。また、わが国の資産除去債務適用指針第9項では、建物等賃借契約に関連して敷金を支出し、資産計上されている場合には、当該計上額に関連する部分について、当該敷金の回収が最終的に見込めないと認められる金額を合理的に見積り、そのうち当期の負担に属する金額を費用に計上する方法によることができるとされていたが、IFRSではこのような簡便法は認められず、原則どおり資産除去債務の負債(引当金)計上及びこれに対応する除去費用の資産計上を行うことになる。
【開示例】 2021年3月期 IHI
固定負債の「その他」に含めていた資産除去債務については、IFRSでは「引当金(非流動)」に振り替えて表示しています。
⑥ 法人税等調整額を法人所得税に組替
わが国の損益計算書においては、「法人税、住民税及び所得税」と「法人税等調整額」とに区分して表示することが要求されているが(連結財務諸表規則第65条)、IAS第1号第82項(d)では、「税金費用」を区分表示することが求められている。このため、法人税等調整額が法人所得税(税金費用)に組み替えられて、税金関連費用が一本で表示されることになる。
【開示例】 2021年3月期 ビジネスブレイン太田昭和
日本基準では、「法人税、住民税及び事業税」、「法人税等調整額」を区分表示しておりましたが、IFRSでは、「法人所得税費用」として一括して表示しております。
⑦ 原材料、製品、仕掛品等を、棚卸資産に集約表示
連結財務諸表規則第23条では、商品及び製品(半製品を含む)、仕掛品、原材料及び貯蔵品に区分して表示することが求められているが(金額的に重要性がないため、他の項目と一括して表示する場合を除く)、IAS第1号では、第54項(g)において、棚卸資産(Inventories)として区分表示することが要求されている。
【開示例】 2021年3月期 キッコーマン
日本基準では区分掲記している「商品及び製品」「仕掛品」、「原材料及び貯蔵品」については、IFRSでは「棚卸資産」として表示しております。
⑧ 新株予約権等をその他の資本の構成要素へ振替
新株予約権は、株主に帰属するものではないため株主資本ではなく、かつ負債でもないと整理されているために、わが国では純資産の部に「新株予約権」の科目にて掲記しなければならないとされている(連結財務諸表規則第43条の3)。一方IFRSでは、新株予約権は資本の構成要素として表示されるため、振替が生じることになる。
【開示例】 2021年3月期 テクマトリックス
日本基準では、純資産の部に独立掲記していた「その他有価証券評価差額金」、「繰延ヘッジ損益」及び「新株予約権」については、IFRSでは「その他の資本の構成要素」として表示しております。
IFRS任意適用日本企業が初度適用時に開示した認識・測定にかかる主な差異の内容
次に、IFRS任意適用日本企業が、IFRSを初度適用する際に、日本基準とIFRSとの差異として説明していた認識・測定に係る項目を、企業数が多い(開示の件数が50件以上のもの)順に列挙すると、次の表2のとおりであった。有給休暇引当金(未払有給休暇)の計上、のれんの非償却、在外営業活動体に係る累積換算差額の振替及び退職給付に係る数理計算上の差異の処理方法については、ほとんどのIFRS任意適用日本企業が、日本の会計基準とIFRSとの間の差異として開示を行っていた。

① 有給休暇引当金(未払有給休暇)の計上
IFRSを適用する企業は、有給休暇の形式による短期従業員給付の予想コストを、次の時期に認識しなければならないとされている(IAS第19号「従業員給付」第13項)。
(a)累積型有給休暇の場合には、将来の有給休暇の権利を増加させる勤務を従業員が提供した時
(b)非累積型有給休暇の場合には、休暇が発生した時
そして企業は、累積型有給休暇の予想コストを、報告期間の末日現在で累積されている未使用の権利の結果により企業が支払うと見込まれる追加金額として、測定しなければならない(IAS第19号「従業員給付」第13項)。これに対して、わが国の会計基準では未消化の有給休暇について負債として認識していないため、IFRSを新たに適用する際には、未消化の有給休暇について、「有給休暇引当金」等の負債を新たに計上することが必要となる。
【開示例】 2021年3月期 野村総合研究所
日本基準では会計処理をしていなかった未払有給休暇について、IFRSでは「その他の流動負債」として負債計上しています。
なお、野村総合研究所は、日本基準では会計処理をしていなかった未払永年勤続報酬についても、IFRS上「その他の非流動負債」として負債計上を行っていた。
② のれんの非償却
わが国の会計基準では正ののれんは20年以内の合理的な年数での償却が求められるが、IFRSでは償却してはならず、毎期末及び減損の兆候があるときはいつでも、減損テストの実施が要求される。
【開示例】2021年3月期 東レ
日本基準ではのれんは計上後20年以内のその効果の及ぶ期間にわたって均等償却しておりましたが、IFRSでは償却を行っておりません。
③ 在外営業活動体に係る累積換算差額の振替
IFRSの初度適用企業は、IFRS第1号が定める免除規定のうちの1つ又は複数を使用することを選択することができる。そのうちの1つとして、初度適用企業は、IFRS移行日現在で存在していた換算差額累計額については、下記の免除措置を使用することができる。
(a)すべての在外営業活動体に係る換算差額累計額をIFRS移行日現在でゼロとみなす。
(b)在外営業活動体のその後の処分による利得又は損失は、IFRS移行日前に生じた換算差額を除外し、その後の換算差額を含めなければならない。この初度適用にあたっての免除規定(IFRS第1号D13項)は、初度適用企業の間で最も幅広く利用されている規定のうちの一つであると思われる。この免除規定を利用する企業は、IFRS移行日時点における在外営業活動体の為替換算差額累計額を、すべて利益剰余金に振り替える。
【開示例】2020年12月期 ブリヂストン
日本基準における「為替換算調整勘定」は、免除規定を適用し移行日において全額を「利益剰余金」に振り替えております。
④ 数理計算上の差異の処理方法及び過去勤務費用の処理方法
わが国の「退職給付に関する会計基準」では、数理計算上の差異の当期発生額及び過去勤務費用の当期発生額のうち、費用処理されない部分(未認識数理計算上の差異及び未認識過去勤務費用となる。)については、その他の包括利益に含めて計上し、その他の包括利益累計額に計上されている未認識数理計算上の差異及び未認識過去勤務費用のうち、当期に費用処理された部分については、その他の包括利益の調整(組替調整)を行うとされているのに対し(第15項)、IFRSでは、数理計算上の差異についてはその他の包括利益に認識し、その後の期間において純損益に振り替えてはならない(その他の包括利益に認識した金額を資本の中で振り替えることはできる)とされている(IAS第19号「従業員給付」第120項、第122項)。また、過去勤務費用については、制度改訂又は縮小が発生した時、又は関連するリストラクチャリングのコスト又は解雇給付を企業が認識する時のうちのいずれか早い方の日に、費用として認識しなければならないとされている(IAS第19号第103項)。
【開示例】 2021年3月期 IHI
日本基準では数理計算上の差異及び過去勤務費用は、発生時にその他の包括利益で認識し、従業員の平均残存勤務期間以内の一定の年数により按分した額を発生の翌期から費用処理していました。IFRSでは、数理計算上の差異は発生時にその他の包括利益に認識し、直ちに利益剰余金に振り替えており、過去勤務費用は発生時に純損益として認識しています。
終わりに
次回の解説(パート2)では、「非上場株式の公正価値評価」以降の各項目について、わが国の会計基準とIFRSとの間の取扱いの相違を簡単に説明するとともに、調整表における開示の具体的な事例も併せて紹介することとしたい。
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