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解説記事2021年11月22日 ニュース特集 固定資産税における家屋の評価を巡る最近の裁判(2021年11月22日号・№907)

ニュース特集
15年にわたる評価の計算ミスも
固定資産税における家屋の評価を巡る最近の裁判


 固定資産税については評価誤りやミスが訴訟に発展するケースも少なくないが、本特集では最近の家屋の評価を巡る3つの判決を紹介する。1件目は家屋の建築当初の再建築費評点数の誤りが認められたもの。結果的に過去15年にわたり評価の計算ミスが続いていたことになる。2・3件目は評価方法の可否が争われたものだが、いずれも納税者側の主張が斥けられたものとなっている。

再建築費評点数を過大に算出、固定資産評価担当者の過失と認定

 1件目に紹介する裁判は、家屋の建築当初の再建築費評点数の誤りにより過大な固定資産税等が課されたとして争われたもの(令和3年3月29日判決)。固定資産税等を納付してきた金融機関である原告が家屋の建築当初の再建築費評点数に誤りがあり、その後の各年度において過大な固定資産税等が課されたなどとして大阪市(被告)に対して国家賠償法1条1項に基づき、固定資産税等の過納金相当額である約3,200万円余りの支払いを請求した事案である。
公務員が注意義務を尽くさない場合に違法
 東京地方裁判所(大嶋洋志裁判長)は、固定資産の価格決定及び固定資産税等の賦課決定において、その価格ないし課税標準額及び税額等を過大に認定していたとしても、直ちに国家賠償法1条1項の適用上違法の評価を受けるものではないが、当該価格決定及び賦課決定に関与した公務員が職務上通常尽くすべき注意義務を尽くすことなく漫然と価格決定等を行ったと認め得るような事情がある場合には違法の評価を受けるものと解するのが相当であるとした(最高裁平成元年(オ)第930号、第1093号)。
 この点、裁判所は、本件家屋の建築当初の再建築費評点数の算出行為は被告の評価担当者の過失によって違法に行われたと認められるとの判断を示した(参照)。

【表】認定されたミス

部分別区分「外部仕上げ」における計算ミスについて
外部仕上げの部分別区分の各評点項目の標準評点数の合計値は2億5,830万9,177点と算出されているが、正しくは2億1,236万1,805点である。
被告の評価担当者は、慎重に足し算を行い、検算をすることにより、計算ミスを回避することは可能であった。
部分別区分「建築設備」に係る評点項目「空調設備」中の「換気設備」(排煙設備)について
家屋の排煙設備について「換気設備」という評点項目を設けて評点を敷設するに当たり、設置床面積7,079.90平方メートルを計算単位として単位補正をするのが相当である。
被告の評価担当者は、家屋全体の延べ床面積(1万9,727.33平方メートル)を計算単位として建物の排煙設備を評価したものであり、固定資産評価基準を正しく解釈し、これを前提として家屋の竣工図を精査することによって、排煙設備の設置床面積を算出することが可能であったにもかかわらず、これを怠ったものと認められる。
部分別区分「建築設備」に係る評点項目「防災設備」中の「スプリンクラー設備」について
家屋におけるスプリンクラー設備の計算単位は、1万9,030平方メートルとすべきであったが、単位補正をしておらず、家屋全体の延べ床面積を計算単位としている点で誤りが認められる。
被告の評価担当者は、竣工図等を用いることによってスプリンクラー設備の設置部分の延べ床面積を算出して家屋の建築当初の再建築費評点数を算出することが可能であったと認められるが、これらの確認を怠り、通常要求される程度の注意を払って固定資産評価基準に従って固定資産を評価すべき職務上の注意義務に違反したものといえる。

従前の過誤により後の年度の税額が過大に
 その上で裁判所は、従前の年度において過誤のあった行為を基礎として、後の年度に家屋の固定資産税等の税額が過大に決定されて所有者に損害を生じさせた賦課決定等についても公務員の故意または過失により違法に行われたものということができると指摘。本件では、平成16年度から平成30年度までの各年度における家屋の建築当初の再建築費評点数の算出行為において過誤があり、それが原因となって家屋の固定資産税等の税額が過大に決定されたことによりその所有者である原告に損害が生じたものであることから、裁判所は平成16年度から平成30年度における家屋の価格決定及び固定資産税等の賦課決定を過失により違法に行ったということができ、被告は原告が被った損害に対する国家賠償責任を負うとの判断を示し、損害額は3,198万5,857円と認定している。
税理士費用は50万円
 なお、原告は税理士法人に依頼して審査の申出を行っている。裁判所は、登録価格に不服がある納税者は固定資産評価審査委員会に対する審査申出以外に争う方法はないこと、また、審査申出の専門的、技術的性格に照らし、専門家である税理士の助力を得るのも相当といえることから、審査の申出に要した税理士費用は家屋の固定資産価格の価格決定と相当因果関係のある損害であるとし、50万円と認めるのが相当であると判断している。

国賠法上、是正された価格を上回らなければ納税者への損害といえず

 2件目は、複合構造家屋の主たる構造の認定方法が争われたもの(令和3年3月26日判決)。相続により家屋を相続した原告らが富山市(被告)に対して、複合構造家屋の主たる構造の認定につき一般的な合理性を有しない方法を採用したなどとして固定資産税等の過納金相当額及び弁護士費用相当額の損害を被ったとして国家賠償法1条1項に基づき400万円余りの支払いを求めた事案である。
 問題となった家屋は昭和45年5月に新築された地下1階付8階建の非木造家屋。その構造は、登記簿表題部「構造」欄に「鉄骨・鉄筋コンクリート造」との記載があるものの、実際には、地階が鉄筋コンクリート造(RC造)、地上1階が鉄骨鉄筋コンクリート造(SRC造)、地上2階以上が鉄骨造(S造)で構成された複合構造家屋であった。複合構造家屋の経年減点補正率の算出基準について富山市では、平成21年までは当該家屋を構成する複数の構造のうち、登記簿表題部の構造欄の記載により判断される主体構造を認定し、その経年減点補正率を一棟単位で適用する登記簿表題部方式、平成22年度から平成26年度までは床面積割合方式によっていた。平成27年度以降は、別件の複合構造家屋の固定資産税等の価格決定に対する国家賠償請求訴訟の平成26年富山地裁判決を踏まえ、複合構造家屋の主体構造の認定については、地下階、低層階の構造又は登記簿表題部の構造ではなく、床面積割合の大きい構造を一棟の構造とすることに見直しがなされている。
 原告は、被告は登記簿表題部方式又は低層階方式により、家屋の構造をSRC造・RC造と認定しているが、登記簿表題部方式及び低層階方式には一般的な合理性が認められないなどと主張した。
登記簿表題部方式は適正といえないが
 東京地方裁判所(清野正彦裁判長)は、登記簿表題部方式は適正な時価を算定する方法として一般的な合理性を有するとまではいえず、被告による同方式に従った本件家屋の登録価格の決定は、同登録価格が客観的な交換価値としての適正な時価を上回る場合には客観的に違法であるといわざるを得ないとした。しかし、登録価格の決定に客観的違法性が認められるとしても、登録価格が価格決定当時の他の自治体の取扱いや裁判所の判断等諸般の事情を踏まえて合理性を否定しがたい方法により是正されたときの価格を上回らない場合には、職務上の注意義務に違背して納税者に損害を加えたとはいえないとした。
低層階方式は合理性を否定できず
 本件については、低層階方式は登記簿表題部方式とは異なり、建物の現況の構造に基づき一棟単位で建物の構造を判断する方式であり、基礎部分と一体となって家屋の自重を支える地下階や低層の構造の耐用年数が残存している限り家屋としての効用を発揮させることが可能であることに鑑み、一棟単位で経年減点補正を行うべきであるとする考え方に依拠するものであり、複合構造家屋の構造の判断手法として相当の合理性を有していることは否定し難いとの判断を示した。低層階方式は、過去に東京都、名古屋市、川崎市、神戸市、福岡市といった相当規模の自治体で採用されたことがあったほか、低層階方式の適用の当否が争われた訴訟において、一般的な合理性を否定する判断を示した裁判例は見当たらないことからすると、低層階方式に基づいて家屋の登録価格を決定しても国賠法上違法の評価を受けるものではないとした。

平成26年富山地裁判決平成26年富山地裁判決
 複合構造家屋の固定資産税等の価格決定に当たり、職務上の義務に違反してSRC造の家屋に係る経年減点補正率を適用したことなどが国家賠償法上違法であるとして富山市に対して提起された裁判。富山地裁判決(平成26年5月28日)は、富山市が平成21年度まで採用していた登記簿表題部方式は一般的な合理性を有するものとは認められないが、固定資産の評価は複合構造家屋の主たる構造を地下階、低層階の構造により判断する方式(低層階方式)に従って決定される価格を上回るものではなく、低層階方式には一般的な合理性があるなどとして納税者の請求を棄却している。

再建築費を基準とする家屋の評価方法は一般的な合理性あり

 3件目は、固定資産税における家屋の評価について、再建築費を基準とする評価方法を適用することが適切であるか否かが争われたもの(令和3年6月18日判決)。本件は、家屋を所有していた原告(納税者)が東京都(被告)の行った固定資産税課税台帳に登録された価格を不服として東京都固定資産評価審査委員会に登録価格の審査の申出を行ったところ、これを棄却する決定を受けたため、その取消しを求めた事案である。
 原告は、家屋の適正な時価を算定するに当たっては賃貸料等の収益が考慮されなければならないにもかかわらず、本件家屋に適用される平成30年度評価基準の定める評価方法では再建築費が考慮されている一方で、賃貸料等の収益が考慮されていないから、適正な時価を算定する方法として一般的な合理性を有するものとはいえないなどと主張した。
固定資産税は所有の事実に課される財産税
 東京地方裁判所(市原義孝裁判長)は、土地又は家屋の基準年度に係る賦課期日における登録価格の決定が違法となるのは、登録価額が①土地又は家屋に適用される評価基準の定める評価方法に従って決定される価格を上回るときであるか、あるいは②これを上回るものではないが、その評価方法が適正な時価を算定する方法として一般的な合理性を有するものではなく、又はその評価方法によっては適正な時価を適切に算定することのできない特別の事情が存する場合であって、同期日における当該土地又は家屋の客観的な交換価値としての適正な時価を上回るときであるとした(最高裁平成24年(行ヒ)第79号)。
 本件については、登録価格が家屋に適用される平成30年度評価基準の定める評価方法に従って決定されたものであることは当事者間で争われていないため、上記②に該当するか否かが争点となっている。
 裁判所は、平成30年度評価基準(昭和38年自治省告示第158号(平成30年総務省告示第229号による改正前のもの)は、家屋の評価について、再建築費を基準とする評価方法を採用し、再建築費を求めた上でこれに家屋の年数の経過に応じて生ずる損耗の状況による減価等をして当該家屋の価格を求めるとしたものであり、適正な時価を算定する方法として一般的な合理性を有するものであると認められるとし、原告の請求を棄却した。
 原告は賃貸料等の収益が考慮されていないと主張したが、裁判所は、賃貸料等の収益を基準とする評価方法は実際の賃貸料等の収益に個別的な事情による偏差があることに加え、一時金の運用益、必要経費や利回りなどの査定における想定事項が多く、評価者によって不均衡が生じ得るという難点があると指摘した。

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