カートの中身空

閲覧履歴

最近閲覧した商品

表示情報はありません

最近閲覧した記事

解説記事2022年02月07日 ニュース特集 確定申告期に確認したい所得税関係の取消裁決(2022年2月7日号・№917)

ニュース特集
居住用財産3,000万円特別控除、所得区分判定、重加算税
確定申告期に確認したい所得税関係の取消裁決


 本特集では、所得税関係の取消裁決に係る課税当局の対応等を内部資料から紹介する。審判所が居住用財産3,000万円特別控除の対象となる土地の面積を「建築面積」の割合で算定した事案では、各家屋の間に堀や障壁等が存在すれば当該判定基準が当てはまらないケースもあることから、事案ごとに事実関係を詳細に確認し、社会通念に従った判断をする必要があるとしている。また、原処分庁が簿外報酬の所得区分の認定を誤った事案では、帳簿上の費目による形式的な判定ではなく、支払の背景や実態を審理すること、申告準備資料へのストックオプション報酬の不記載に対する重加算税取消事案では、確定申告書作成過程を具体的かつ詳細に質問調査し、その答述を証拠化することが重要であるとしている。

請求人の娘夫婦が居住(所有)するB家屋の敷地に特例適用なし

 最初に紹介するのは、同一の土地上に居住用財産の譲渡の3,000万円特別控除(本件特例)の適用対象となる家屋と対象とならない家屋が混在している場合において、本件特例が適用される土地の面積の算定方法を審判所が判断した事例(令和2年6月19日裁決、裁決事例集No.119参照)。
 事案の概要は、請求人が、譲渡したA家屋及び土地(本件土地)に係る譲渡所得について、本件特例を適用して確定申告したのに対し、原処分庁が、本件土地の上に存する2棟ある建物のうち、請求人の娘夫婦が居住するB家屋(所有者は娘夫婦)の敷地(本件B家屋敷地)に係る部分については、本件特例を適用することはできないとして、所得税等の更正処分及び過少申告加算税の賦課決定処分を行ったもの(図1参照)。

A家屋及びB家屋は併せて一構えの一の家屋ではない

 争点は、本件B家屋敷地は、本件特例が適用される請求人の居住用財産に当たるか否か。
 請求人は、A家屋及びB家屋は渡り廊下で接合されており、一体で売却することしかできない家屋であるから、併せて一構えの一の家屋であるなどと主張。これに対し、審判所は、A家屋及びB家屋の規模、構造及び設備等の状況からすると、それぞれ独立した家屋としての機能を有しており、A家屋及びB家屋は併せて一構えの一の家屋とは認められないと判断。本件B家屋敷地は、請求人の居住用財産には当たらず、本件特例の適用はないとしている。

特例の適用範囲、延床面積の割合による計算は不合理

 ただし、審判所は、争点外である本件特例の適用範囲の計算方法について、原処分庁の計算方法は不合理であるとして処分の一部を取り消している。具体的には、原処分庁の計算方法(延床面積の割合)によれば、建築面積が同じ家屋であっても階数が異なる等の理由によって家屋の延床面積に大きな差異が生じ、結局、本件特例が適用される土地の範囲に大きな違いが生じるなど、不合理な結果となりえるから、その計算方法は採用することはできないと指摘。その上で、土地上に本件特例の適用対象となる家屋とそれ以外の家屋が存在し、両者の間に塀や障壁等が存在しないため当該家屋と一体として利用されている土地の範囲が不明確な場合には、経験則上、その範囲は、特段の事情が存しない限り、各家屋の建築面積の割合により本件特例が適用される土地の面積を算定するのが相当であるとした。

特段の事情の有無を考慮し、社会通念に従った判断が必要

 上記の判断を踏まえ、審判所は、本事案について、A家屋及びB家屋の各建築面積は不明であるが、A家屋及びB家屋の各階の登記上の床面積が明らかとなっており、A家屋及びB家屋の各階の登記上の床面積のうち、最も広い面積が建築面積に近似するものと考えられるため、A家屋及びB家屋の各階の登記上の床面積のうち、最も広い面積をA家屋及びB家屋の各建築面積の代わりに用いるのが合理的であるとしている(図2参照)。

 この取消裁決を受け、課税当局は、今後の調査に向けた教訓として、次のように記載している。

 今回の事例は、各家屋の「建築面積」の割合により本件特例が適用される土地の面積を算定するのが相当であると判断された。ただし、各家屋の間に堀や障壁等が存在するなど、特段の事情がある場合には、当該判断基準が当てはまらないこともある。したがって、事案ごとに、事実関係を詳細に確認し、社会通念に従った判断をする必要がある。

自己に帰属する報酬→関連法人に帰属する収入として更正の請求

 次に紹介するのは、請求人が得ていた簿外報酬の所得区分の認定に誤りがあるとして、原処分の一部が取り消された事例(令和2年9月17日裁決)。
 事案の概要は、請求人Xが、所得税等の確定申告において自己に帰属するとした報酬は、Xではなく、関連法人Yに帰属する収入であることを理由として所得税等の更正の請求を行ったのに対し、原処分庁が、報酬についてはXに帰属する収入であるとしつつ、法人Yに対する同額の外注費を認め、他方で、Xには同報酬以外に法人Yからの簿外の外注費収入(本件簿外報酬:事業所得と認定)が認められるなどとして、更正をすべき理由がない旨の各通知処分を行ったもの。
 Xは、本件簿外報酬は給与であって事業所得の収入金額に算入すべきではないとして、原処分の全部の取消しを求めた(図3参照)。

Xは法人Yの実質的な主宰者、簿外報酬は給与(役員報酬)

 原処分庁は、本件簿外報酬は、法人Yが外注費として計上していたことからすれば、その処理どおり、外注費(事業所得)に該当すると主張。
 原処分庁の主張に対し、審判所は、法人Yの総勘定元帳上、本件簿外報酬が外注費として処理されていたとしても、当該費用の所得区分については、帳簿上の費目だけではなく、当該支払がいかなる役務の提供に対して行われたのかを判断すべきであると指摘。本件については、本件簿外報酬が、①法人YからXに対して毎月定額の金員が支払われていること、②Xは、法人Yの実質的な主宰者として、法人Yにおいて取引先の獲得に中心的な役割を果たしていたとともに、③人事、経理、業務運営等、経営の全般において重要な判断を行うなどの業務を担っていたものであることからすれば、法人YからXに対して支払われた毎月定額の金員は、法人Yの実質的な主宰者であるXに対する上記の業務の対価、すなわち給与(役員報酬)であったと認められるとした。
 なお、審判所による認定事実は、表1のとおり。

【表1】審判所の認定事実

① 請求人Xは、法人Yを設立し、自らの営業活動等により法人Yの事業規模を拡大し、法人Yを含めた事業グループの取引先獲得につき、中心的な役割を果たしていた。
② Xは、法人Yを含めた事業グループの従業員の採用に際し、採用面接に同席したり、Xの縁故による採用を行うなど、法人Yの人事に深く関与していた。
③ Xは、法人Yの取引先が増えるに従って、上得意先や問題のある取引先については、自ら対応方法等を管理しており、法人Yの主要な業務に直接関わっていた。
④ Xは、経理面においても、法人Yの代表のZに対し、臨時の支出についての権限を与えず、Xの承諾を必要とするなど、Zよりも上位の地位にあり、Zに法人Yの経営上重要な判断を委ねていなかった。

個人事業者の収入金額の所得区分は形式的に判断せず

 本事案が取消裁決に至った原因として、課税当局は、支払元である法人の帳簿において、本件簿外報酬が請求人に対する外注費として損金計上されていることを根拠として、請求人(受取人)の所得区分を事業所得における雑収入と認定してしまい、支払の実態や支払元との関係についての検討が十分ではなかったなどとしている。
 また、課税当局は、調査担当者に向けて、次のように記載している。

 調査において、個人事業者の収入金額の所得区分を判断するに当たっては、当該事業者が得た収入の支払元が経理処理した費目をもって形式的に所得区分を判定するのではなく、当該支払がいかなる業務(役務の提供)に対して行われたかなど、その背景や実態を審理することが重要

ストックオプションに係る経済的利益2億円が申告漏れ

 最後に紹介するのは、申告準備資料へのインセンティブ報酬(米国親会社から付与されたストックオプション)に係る経済的利益の不記載を理由とする重加算税の賦課決定処分が取り消された事例(令和3年6月1日裁決)。
 事案の概要は、請求人が勤務先の米国親会社から付与されたRSUに係る経済的利益8,000万円を申告していたにもかかわらず、同社から付与されたSO(本件SO)に係る経済的利益(本件利益)約2億円が申告漏れとなっていたもの(図4参照)。原処分庁は、調査で本件利益の申告漏れを是正させる(修正申告を勧奨する)とともに、請求人は行使した本件SOがあることを認識していたにもかかわらず、請求人自身が作成していた平成29年分の申告準備用のエクセルシート(給与計算シート)に故意に本件利益を入力しなかったと認定。この請求人の行為は通則法68条1項に規定する「隠蔽又は仮装」に該当するとして、重加算税の賦課決定処分を行った。

本件利益を給与計算シートに記載せず=故意の隠蔽・脱漏

 争点は、請求人に「隠蔽又は仮装」に該当する事実があるか。原処分庁は、下記(1)〜(4)を根拠として、請求人が本件利益を一切記載せずに給与計算シートを作成した行為は、課税標準等又は税額等の計算の基礎となる事実、すなわち本件利益を故意に隠蔽又は脱漏したことに該当すると主張した。
(1)確定申告書は給与計算シートに基づき作成されているところ、①本件SOの権利行使により取得する株式の売却時期を決めるために作成した表(検討表)のデータ保存日時が確定申告書提出日の2日前であることなどから、請求人が本件利益を確認していたと認められること及び②本件SOに係る情報の記載のある書面(年間報告書)の一部を給与計算シートの出力書面に添付し、保存していたことを併せ鑑みると、請求人が本件利益に係るデータを記載せずに同シートを作成した行為は、故意に行われたものといえる。
(2)請求人が、調査初日の前日、本件SOに関する申告漏れを把握していたにもかかわらず、当日、調査担当職員に対し本件利益が生じていたことを否定する虚偽申述を繰り返した。
(3)請求人は、自身が本件利益を把握するためには、本件利益を管理する証券会社の口座情報を確認する必要があることを認識しながら、その確認を行わなかったのであるから、あえて不自然な方法で給与計算シートを作成した点で故意に本件利益に係るデータを入力しなかったと認められる。
(4)請求人が、①本件SOの課税適状となる時期・権利消滅時期を知っていたこと、②前年分については、自らが作成した給与計算シートと同様のエクセルシートの入力内容のとおり同年分の本件SOに係る経済的利益も含めて申告していたことは、客観的にみて、請求人が本件利益の全部を給与計算シートから除外していたことを強く推認させる。

確定申告書の提出時に本件利益を認識していなかった

 原処分庁の主張に対し、審判所は、表2①〜④の認定事実から、請求人が給与計算シートの作成時又は確定申告書の提出時において本件利益を認識していたと認めることはできないため、請求人が本件利益を記載せずに給与計算シートを作成した行為は、本件利益を故意に隠蔽又は脱漏したことに該当するとは認められないと判断した。

【表2】審判所の認定事実

① 請求人が本件利益を「故意に隠蔽又は脱漏した」と認められるためには、請求人が確定申告時において、本件利益を申告すべきことを認識していたことが前提となる。
② 請求人が作成した検討表は、平成29年5月以降使用されていなかったと推認される上、本件SOの権利行使の状況を備忘する目的で作成されたものではなく、当該表を資料として重要視していたとは認められない。なお、当該表のファイルの保存日時が確定申告書提出日の2日前であることについては、請求人がその内容を確認するも、同ファイル内の当該表の記載内容の詳細までは確認しなかったために、本件SOの権利行使については、記憶を喚起するには至らなかった可能性を否定できない。
③ 請求人が、調査時に調査担当職員に対し年間報告書の一部を給与計算シートの証拠書類として提示した事実は認められるものの、この事実から請求人が確定申告時において年間報告書の内容を確認していたとまでは当然には認められない。むしろ、請求人は確定申告書作成の際、年間報告書の内容を確認することなく給与計算シートを作成したと認めるのが相当である。
④ なお、本件においては、本件SOの権利行使等に係る法定調書が所轄税務署長に提出されていることから、請求人が本件利益を除外して申告したとしても、その事実は原処分庁に比較的容易に発覚するものといえる。そして、インセンティブ報酬に係る法定調書が税務署長に提出されることは知っている旨申述する請求人が、本件利益を収入金額から除外して申告したことが発覚するリスクを考慮してもなお、本件利益を除外し、過少の給与収入金額を申告することを選択したというのであれば、合理的に説明し得る積極的な動機があると考えられるものの、請求人にそのような積極的な動機は存在しなかったと認めるほかない。

積極的な隠蔽・仮装に該当する事実があったと認定したが……

 課税当局は、本事案が取消に至った原因の一つとして、請求人が確定申告書を作成する際に、本件SOの行使により得た経済的利益(本件利益)を給与計算シートに記載(入力)することなく、本件利益を給与所得の収入金額に算入しなかったことについて、請求人に積極的な隠蔽・仮装に該当する事実があったと認定し、重加算税を賦課したことを挙げている。
 また、今後の調査に向けた教訓として、次のように記載している。

 「納税者の隠蔽・仮装」を立証するためには、納税者がどのような取引に関する書類(又はデータ)に基づいて確定申告書を作成したかについて具体的かつ詳細に質問調査を行い、その答述を証拠化することが重要であり、その答述の信用性を高めるために、その答述の裏付けとなる客観的な証拠資料を収集することも重要である。

当ページの閲覧には、週刊T&Amasterの年間購読、
及び新日本法規WEB会員のご登録が必要です。

週刊T&Amaster 年間購読

お申し込み

新日本法規WEB会員

試読申し込みをいただくと、「【電子版】T&Amaster最新号1冊」と当データベースが2週間無料でお試しいただけます。

週刊T&Amaster無料試読申し込みはこちら

人気記事

人気商品

  • footer_購読者専用ダウンロードサービス
  • footer_法苑WEB
  • footer_裁判官検索