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解説記事2022年02月28日 特別解説 上場会社を監査する監査事務所(監査法人等)(2022年2月28日号・№920)

特別解説
上場会社を監査する監査事務所(監査法人等)

はじめに

 令和3年(2021年)11月12日付で、会計監査のあり方に関する懇談会(令和3事務年度)は、論点整理「会計監査のさらなる信頼性確保に向けて」を公表した。
 令和3事務年度の同懇談会は、同年9月15日付で1回目が開催され、2か月弱という極めて短期間の間に論点整理を取りまとめて公表したことになる。
 この論点整理の中では、「上場会社の監査を行う監査法人に対しては、海外の状況を見ても、上場会社等の監査を行わない監査法人に比してより高い規律が求められており、中小監査事務所を含む上場会社の監査の担い手全体の監査品質の向上が急務である。」と明記されている。本稿では、日本公認会計士協会(以下、「JICPA」という。)が管理・運用する上場会社監査事務所名簿に掲載されている情報を基に、色々な切り口から我が国の上場会社を監査する監査事務所の実像に迫ってみることとしたい。

上場会社監査事務所名簿

 現在、上場会社の監査を行う監査事務所は、JICPAが自主規制として運用している上場会社監査事務所登録制度に基づいて、JICPAに登録することが求められている。名簿には、上場会社監査事務所名簿と準登録事務所名簿とがあり、2021年12月末日現在で、上場会社監査事務所名簿には124事務所、準登録事務所名簿には17事務所が登録されている。名簿には、各監査事務所に所属する人員数(常勤、非常勤)や社員(パートナー)数、被監査会社数等の情報や、各事務所の品質管理の概要等が記載されているほか、それぞれの監査事務所がJICPAに提出した説明書類等を閲覧することができる。
 本稿では、上場会社監査事務所名簿に本登録されている124事務所の情報を調査・分析した。

監査事務所の形態や決算期

 124事務所のうち、監査法人の形態をとる事務所が116事務所、個人の公認会計士事務所の形態が8事務所であった。また、監査法人の内訳は、有限責任監査法人が14法人、無限責任監査法人が102法人であった。
 そして、各事務所の決算月の分布は、表1のとおりであった。

 3月決算の会社の監査が終了する6月末日を決算期末とする監査法人及び監査事務所が最も多く、次いで3月決算が多かった。4月決算と10月決算を除き、決算期は幅広く分布していた。

監査事務所に所属する人員の規模別の分布

 各監査事務所に所属する人員(社員及び職員の合計。常勤者と非常勤者両方を含む)別の分布を示すと、表2のとおりであった。

 2021年9月30日現在で、4大監査法人(EY新日本、あずさ、トーマツ及びPwCあらた)に次ぐ規模を持つ太陽有限責任監査法人(以下「太陽」という。)の人員数が1,000名に達した(常勤者810名及び非常勤者190名。)。太陽はこれまでに、霞が関監査法人や優成監査法人と立て続けに合併をして規模を急激に拡大してきたが、ついに所属する人員が区切りの1,000名の大台を突破した。
 我が国でいわゆる「準大手監査法人」と言われる監査法人の中で、所属する人員の規模では太陽が一歩抜け出した感がある(後述する上場被監査会社数の面からも、太陽は他の準大手監査法人を大きくリードしている)。
 準大手監査法人の中で、太陽の規模が大きく拡大したこともあり、所属する人員数が500名以上1,000名未満の上場会社監査事務所が我が国では1つも存在しないこととなった。
 我が国の上場会社監査事務所に所属する人員の分布で一番のボリュームゾーンは10名以上50名未満であり、ここだけで全体の3分の2弱を占めている。そして、所属する人員数が10名未満の小規模な事務所も合わせて合計すると、我が国の上場会社監査事務所の実に4分の3以上が、所属する人員が50名未満の小規模な所帯で業務を行っていることが分かる。
 事務所の規模が大きければそれでよい、といった単純な話では決してないものの、トーマツ、あずさ、EY新日本、PwCあらた及び太陽の「5強」に次ぐ、所属人員数が100名以上1,000名未満の中規模監査事務所が9法人しかないというところが、我が国の監査法人の「人員集中の状況」やそれと表裏一体である「層の薄さ」を表しているものと思われる。
 次に、所属する人員数が多い上位10事務所を一覧にすると、表3のとおりであった。

 特に中堅規模以下の監査法人の場合、常勤者の採用が十分にできないために非常勤者に頼る事例がよく見られるが、PwC京都監査法人は、非常勤者はわずか3名である。それに対してひびき監査法人は、所属人員数のおおよそ8割が非常勤者となっており、法人ごとの戦略の違いが際立っていて興味深い。

所属する社員(パートナー)数の分布

 監査法人とは、他人の求めに応じ報酬を得て、財務書類の監査又は証明を組織的に行うことを目的として、公認会計士法34条の2の2第1項によって、公認会計士が共同して設立した法人をいう(公認会計士法1条の3第3項)。そして、監査法人は、社員となろうとする5名以上の者によって設立され(このうち、少なくとも5名は公認会計士であることを要する)(34条の7第1項)、原則として公認会計士を社員とし(ただし、登録を受けた公認会計士以外の者も社員となりうる)(34条の4第1項)、公認会計士である社員が4名以下となった状態を法定解散事由とする(34条の18第2項)法人である。
 公認会計士でない社員(=特定社員)の割合は25%以下でなければならない(34条の4第3項、同施行規則19条)。
 なお、監査法人における「社員」とは出資者であり、通常の事業会社等でいうと、「役員」に近い立場であることに留意が必要である。事業会社等における「社員」に相当する立場の者は、監査事務所では「職員」あるいは「専門要員」などと呼ばれる。
 ここでは、上場会社監査事務所に所属する社員(パートナー)数の分布を見てみたい。
 上場会社監査事務所に所属する社員数の分布を一覧にすると、表4のとおりとなった。

 30名以上の社員(パートナー)を有する監査事務所はわずかに10事務所に過ぎず、全体の約7割の監査事務所が10名未満の社員により運営されていることが分かる。社員数が法定要件の下限ギリギリの5名という監査事務所も少なくない。
 次に、社員数が多い上場会社監査事務所(上位10事務所)を一覧にすると、表5のとおりであった。

上場会社を含む、被監査会社数の分布

 次に、上場被監査会社数の分布と、上場会社を含む被監査顧客数合計の分布を一覧にして見てみたい。
 まず、上場被監査会社数の分布を一覧にすると、表6のとおりであった。

 上場被監査会社数が30社以上の監査事務所は、上場会社監査事務所全体の1割未満に過ぎず、上場会社監査事務所全体の約半分(124法人のうちの61法人)の上場被監査会社数が5社未満であった。このことから、少なくない上場会社の監査業務を、規模が小さい監査法人が担っている現状を読み取ることができる。
 上場被監査会社数が多い上場会社監査事務所のランキング(上位10法人)を示すと、表7のとおりであった。

 2021年12月末日の時点において、我が国の上場会社は3,928社(東証3,822社、名証65社、札証16社、及び福証25社。東証以外の証券取引所はいずれも単独上場会社のみを集計対象とした。)であるが、3大監査法人(EY新日本、トーマツ及びあずさ)だけで65%を超えるシェアとなり、第4位の太陽と第5位のPwCあらたを加えると、シェアは約76%にまで高まる。ここ数年は3大監査法人が上場会社との監査契約を解除する事例が増えてきたとはいえ、まだまだかなりの寡占状態にあるといえよう。
 さらに、上場会社のほか、非上場会社や学校法人等を含む、被監査顧客全体の数の分布を示すと、表8のとおりであった。

 たとえ上場会社の監査を手掛ける監査事務所であっても、被監査顧客数は全体的に決して多いとは言えない。すなわち、124事務所のうちの半数を超える68事務所の被監査顧客数が30社未満であり、上場会社監査以外の監査(会社法監査や任意監査、労働組合監査、学校法人監査等)を手広く手掛けているわけではないことが分かる。

上場会社監査事務所の業務収入の分布(監査業務及び非監査業務の合計)

 次に、上場会社監査事務所124事務所の業務収入(監査業務収入と非監査業務収入の合計)の分布を示すと、表9のとおりであった。

 全部で124ある上場会社監査事務所のうち、業務収入(監査業務収入と非監査業務収入との合計)が10億円を上回る監査事務所は、わずか14事務所、比率にすると約11%に過ぎなかった。主に個人事務所が中心ではあるが、業務収入が1億円を下回る上場会社監査事務所も29事務所と全体の2割強を占めており、上場会社監査事務所の大半は中小規模の監査法人で占められていることがあらためて分かる。
 また、最後に、業務収入が多い上場会社監査事務所の上位10事務所を一覧にすると、表10のとおりであった。

 監査業務収入と非監査業務収入の合計ベースでは表10の順位となったが、監査業務収入のみで比較すると、1位:EY新日本、2位:あずさ、3位:トーマツとなる。いずれにせよ、上位3法人の収入は高水準でかつ非常に拮抗しているといえよう。4位のPwCあらたは非監査業務収入の割合が大きいが、5位以下の法人は逆に監査業務に集中する傾向が見られ、非監査業務収入が占める割合は非常に小さいと言える。

終わりに

 本稿では、JICPAの上場会社監査事務所名簿に登録され、我が国の上場会社の会計監査を担っている監査事務所(監査法人等)の横顔を様々な観点から調査分析してきた。その結果、トーマツ、あずさ、EY新日本及びPwCあらたの4大監査法人や、太陽、PwC京都、東陽、仰星、三優のいわゆる準大手5法人を除いた115事務所は、きわめて規模が小さいこと、上場会社の会計監査人のシェアは、4大監査法人と準大手監査法人の寡占状態にあるとはいえ、上場会社全体の2割弱にあたる600社強の上場会社の監査は、4大監査法人及び準大手監査法人以外の中小監査法人・監査事務所が担っていることが明らかになった。
 この「中小監査事務所」の中には、上場会社以外の被監査顧客がほとんどないような事務所や、売上高が1億円に満たないような事務所、常勤者が社員(パートナー)しかおらず、監査現場での業務は非常勤職員に大きく依存していると思われるような事務所も少なからず存在しているものと思われる。
 本稿の冒頭で取り上げた会計監査のあり方に関する懇談会の論点整理に、以下のようなくだりがある。「上場会社の監査の担い手として、大手監査法人のみならず、準大手監査法人や中小監査事務所が果たす役割が大きくなっている。そうした中、監査品質の向上につながるような競争原理が監査市場において自律的に働くことを確保する観点でも、監査の担い手の裾野が広がるよう、自らの監査品質の向上に取り組む中小監査事務所等への支援が重要である。」。
 4大法人や準大手監査法人とは体力・リソース面等で大きく異なる中小の監査法人に対しては、業界の自主規制団体であるJICPAによる様々な支援が必須であることは言うまでもない。しかしながら、中小監査事務所の側でも、いつまでも「指示待ち」や「支援の要請」といった受け身の対応に終始していてはならないであろう。
 中小規模の監査事務所には、小回りが利くこと、風通しが良いこと、被監査会社からの要望に合わせたきめの細かい対応が可能なこと、といった、大手の監査法人ではなかなか得られないような利点が必ずあるはずである。近年は会計・監査基準の変更が頻繁にあり、コロナ下のリモート監査に対応するために必要なITへの投資等も決して軽くはないと思われるが、リソース不足等を言い訳とせずに、中小監査事務所が自律的に監査品質の改善に継続的に取り組むことによって、上場被監査会社や資本市場からの支持を積み重ねてゆくことが望まれる。

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