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解説記事2022年03月07日 SCOPE 国外財産調書を巡る裁決事例、審判所が国外財産の定義で見解(2022年3月7日号・№921)

明確な権利といえない財産上の法的地位も対象
国外財産調書を巡る裁決事例、審判所が国外財産の定義で見解


 国外財産調書制度では、その提出のインセンティブとして調書に記載すべき国外財産に起因する所得に過少申告があった場合の過少申告加算税について、調書の提出又は記載の有無により増減することとしている。国税庁によると、令和2事務年度の加重措置は307件であり、増差所得金額は88億円にのぼっている。今回紹介する2件の裁決はいずれも国外財産調書を提出せず、過少申告加算税の加算特例が適用された事案だ。1件目の事案は国外財産調書制度における「国外財産」の定義が問われたものであり、2件目の事案は外貨建未収金について、その支払を受けたことに伴う為替差益を所得として申告しなかったというものである。

係争中で権利が確定していなくても提出義務を妨げず

 1件目は国外財産調書を提出しなかったことによる加算特例の適用の可否が争われた事案だ(大裁(所)令2第51号)。本件は、請求人が韓国の銀行に預け入れていた預金を同行の元支店長に横領されたとして裁判となり、裁判所の和解勧告に基づき和解金を取得したところ、原処分庁が①和解金の一部は預金の返還額に対する遅延損害金であるから雑所得である、②請求人は国外財産調書を提出していなかったから国外財産調書の不提出に係る過少申告加算税の加算特例が適用されるとして、所得税等の更正処分等を行ったもの。請求人は、平成25年12月31日時点では銀行に対する預金返還請求権の存否が争われており、国外財産調書に記載すべき国外財産に該当しないなどとして、原処分の全部の取消しを求めた。
 審判所は、国外財産(国送法2条14号)の「財産」とは、金銭に見積ることができる経済的価値のあるすべてのものをいい、既に存在する物権や債権のほか、いまだ明確な権利とはいえない財産上の法的地位なども含まれると解するのが相当であるとした。
 その上で審判所は、請求人が提起した民事裁判については、訴訟係属後3年近くが経過した平成26年3月17日(国外財産調書の提出期限)に至っても控訴審で係属中であることからすれば、平成25年12月31日の時点において請求人の有する特定の権利及びその額が確定していたとはいえないとしたが、民事裁判において係争中で特定の権利として確定していないことが直ちに調書の提出義務を妨げる事情となるとは解し難いと指摘。また、国外財産調書の記載は、権利としての厳密な特定までを求められるわけではなく、経済的価値のある財産が複数の権利のいずれであるかを特定できない場合において、成立し得るいずれかの権利を記載した調書を提出しているときに、重要なものの記載が不十分として加算税が加重されるものとも考え難いとした。
 本件では、平成25年12月31日の時点において、①元支店長の横領に係る刑事裁判における有罪判決が確定していたこと、②請求人は、銀行に対する預金返還請求権があることを前提として民事裁判を提起していたこと、③請求人が民事裁判で主張していた預金返還請求権の金額は11,988,576,896ウォン(日本円で1,197,658,831円)であったところ、請求人の請求を全部認容する第一審判決が言い渡されていたことなどからすれば、請求人は、平成25年12月31日時点で、銀行に対する預金返還請求権という「国外財産」を有していたということができるとし、請求人の請求を斥けている(雑所得の金額の計算上、必要経費として認められるべき金額が変更され、裁決は一部取消し)。

未収金が外貨建預金債権に変化、所得税の課税対象に

 2件目は、為替差益が所得税等の課税対象として認識すべきか争われた事案だ(東裁(所)令2第72号)。本件は、請求人が有する株式等譲渡代金に係る外貨建未収金について、原処分庁がその支払を受けたことに伴う為替差益を所得として認識すべきとして更正処分等を行ったもの(国外財産調書は未提出)。請求人は米国デラウェア州法に基づき設立された法人に対し、保有していた株式及びストックオプションを15,000,000米国ドルで譲渡する契約を締結。契約書には、クロージング(株式等の取得の完了)の際、株式等の譲渡代金(15,000,000米国ドル)から留保金として4,386,120米国ドルを留保するものとし、クロージング日の1年後、2年後、3年後、4年後の各応当日までに留保金額の4分の1に相当する金額を支払うとされていた。請求人は、株式譲渡代金に係る米ドル建て未収金の支払を米ドルで受けたことに伴う為替差益は、未収金という債権の回収に係る取引により生じたものであり、外貨建取引(所法57条の3)に該当しないなどと主張した。
為替差益が所得として実現したかで判断
 審判所は、為替差益が所得税等の課税対象として認識すべきか否かは、各為替差益が所得として実現したものであるか否かにより決することになるとし、その判断に当たっては、各支払の前後において、請求人が保有する外貨建金銭債権(各未収金と外貨建預金債権)の内容に実質的な変化があるか否かを検討すべきであり、かかる実質的な変化がなく、同一の外貨建金銭債権を保有し続けている場合と変わりがない場合には、各為替差益は単に評価上のものにすぎないと考えられることから、未だ実現していないものとして所得税等の課税対象と認識しない一方、各支払の前後において、外貨建金銭債権の内容が実質的に異なる場合には、既存の外貨建金銭債権が新たな外貨建金銭債権に変化しており、その時点で、各為替差益は単に評価上のものとはいえず、実現したものとして所得税等の課税対象と認識することになるとした。
 本件では、各支払の前後において、株式譲渡先の法人を相手方とする債権である未収金が、銀行を相手方とする外貨預金債権に変わっていると認められ、未収金がその内容を実質的に異にする外貨預金債権に変化したことは明らかであるとし、審判所は、為替差益は単なる評価上のものとはいえず、実現したものとして、所得税等の課税対象として認識すべきであるとした。

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