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解説記事2022年03月14日 未公開判決事例紹介 ケイマンSPCへのCFC税制適用でメガバンク敗訴(2022年3月14日号・№922)

未公開判決事例紹介
ケイマンSPCへのCFC税制適用でメガバンク敗訴
「租税回避の目的等」は適用要件にあらず

 本誌876号40頁で紹介した法人税更正処分等取消請求事件の判決について、一部仮名処理した上で紹介する。

○メガバンクがケイマンに置いたSPC(特別目的会社)に係るタックス・ヘイブン対策税制の適用の可否が争われた事件。具体的には、原告の益金の額に算入されるべき「課税対象金額」を算定するための「請求権勘案保有株式等割合」が争われたもの。原告は、目的論的解釈により当該割合は0%であると主張したが、東京地裁(清水知恵子裁判長)は令和3年3月16日、規定の文理から、当該割合を判断すべき時点は「当該外国子会社の事業年度終了時」であり、当該割合は100%であるとして、メガバンク(原告)の請求を棄却した(平成31年(行ウ)第42号)。

主  文

1 原告の請求をいずれも棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由

第1 請求
1
 処分行政庁が原告に対し平成29年11月7日付けでした平成27年4月1日から平成28年3月31日までの事業年度の法人税に係る更正処分(ただし、令和元年7月29日付け減額更正による一部減額後のもの)のうち所得の金額4960億4017万1081円を超える部分及び納付すべき法人税額638億6455万3000円を超える部分並びに上記更正処分に伴う過少申告加算税の賦課決定処分(ただし、同日付け変更決定による一部減額後のもの)をいずれも取り消す。
2 処分行政庁が原告に対し平成29年11月7日付けでした平成27年4月1日から平成28年3月31日までの課税事業年度の地方法人税に係る更正処分(ただし、令和元年7月29日付け減額更正による一部減額後のもの)のうち課税標準法人税額1183億9211万円を超える部分及び納付すべき地方法人税額38億7088万3300円を超える部分並びに上記更正処分に伴う過少申告加算税の賦課決定処分(ただし、同日付け変更決定による一部減額後のもの)をいずれも取り消す。

第2 事案の概要
1
 原告は、英領ケイマン諸島(以下「ケイマン」という。)に所在する原告の特定外国子会社等(租税特別措置法〔以下「措置法」といい、特に断りのない限り平成28年法律第15号による改正前のものを指す。〕66条の6第1項)である△△△△(以下「SPC①」という。)及び□□□□(以下「SPC②」といい、SPC①と併せて「本件各子SPC」という。なお、SPCとは、特別目的会社〔special purpose company〕の略称である。)について、本件各子SPCの2014年(平成26年)12月30日から2015年(平成27年)12月3日までの事業年度(以下「本件各子SPC事業年度」という。)に係る本件各子SPCの発行済株式等のうち原告の請求権勘案保有株式等の占める割合(租税特別措置法施行令〔以下「措置法施行令」といい、特に断りのない限り平成29年政令114号による改正前のものを指す。〕39条の16第1項。以下「本件保有株式等割合」という。)が0%であるとして、本件各子SPC事業年度の課税対象金額を0円と算出し、原告の平成27年4月1日から平成28年3月31日までの事業年度又は課税事業年度(併せて以下「本件事業年度」という。)に係る法人税及び地方法人税(併せて以下「法人税等」という。)の確定申告及び修正申告を行った。
  処分行政庁は、本件保有株式等割合は100%であり、本件各子SPCの適用対象金額の全額が課税対象金額として原告の本件事業年度の所得の金額の計算上益金の額に算入されることなどを理由として、平成29年11月7日付けで法人税及び地方法人税に係る各更正処分並びにこれらに伴う過少申告加算税の各賦課決定処分をした。なお、上記各処分については、それぞれ、令和元年7月29日付け減額更正又は変更決定により税額が一部減額されている(以下、上記各処分につき、上記減額更正により一部取り消された後の法人税の更正処分を「本件法人税更正処分」、上記減額更正により一部取り消された後の地方法人税の更正処分を「本件地方法人税更正処分」といい、上記変更決定による変更後の法人税に係る過少申告加算税の賦課決定処分を「本件法人税賦課決定処分」、上記変更決定による変更後の地方法人税に係る過少申告加算税の賦課決定処分を「本件地方法人税賦課決定処分」という。また、本件法人税更正処分と本件地方法人税更正処分を併せて以下「本件各更正処分」と、本件法人税賦課決定処分と本件地方法人税賦課決定処分とを併せて「本件各賦課決定処分」といい、本件各更正処分と本件各賦課決定処分を併せて「本件各処分」という。)。
  本件は、原告が、被告を相手に、本件各処分のうち申告額を超える部分及び本件各賦課決定処分の各取消しを求める事案である。
2 関係法令の定め
 本件に関連する措置法及び措置法施行令の定めは、別紙2−1、2−2のとおりである。
(1)タックス・へイブン対策税制(措置法66条の6)について
ア 措置法66条の6第1項は、内国法人に係る外国関係会社(後記イ)のうち、本店又は主たる事務所の所在する国又は地域におけるその所得に対して課される税の負担が、本邦における法人の所得に対して課される税の負担に比して著しく低いものとして政令で定める外国関係会社に該当するもの(以下「特定外国子会社等」という。)が、各事業年度において適用対象金額(後記ウ)を有する場合には、その適用対象金額のうち、その内国法人の有する当該特定外国子会社等の直接及び間接保有の株式等(株式又は出資をいう。以下同じ。)の数に対応するものとしてその株式等の請求権(剰余金の配当等、財産の分配その他の経済的な利益の給付を請求する権利をいう。以下同じ。)の内容を勘案して政令で定めるところにより計算した金額(以下「課税対象金額」という。後記エ。)に相当する金額は、その内国法人の収益の額とみなして当該各事業年度終了日の翌日から2か月を経過する日を含むその内国法人の各事業年度の所得の金額の計算上、益金の額に算入する旨規定して、いわゆるタックス・へイブン対策税制を設けている。
イ 特定外国子会社等の範囲について
 措置法施行令39条の14第1項は、タックス・へイブン対策税制の対象となる特定外国子会社等について①法人の所得に対して課される税が存在しない国又は地域に本店又は主たる事務所を有する外国関係会社(同項1号)及び②各事業年度の所得に対して課される租税の額が当該所得の金額の100分の20未満である外国関係会社(同項2号)をいう旨規定する。
 なお、外国関係会社とは、措置法2条2項1号の2に規定する外国法人(以下、単に「外国法人」という。)で、その発行済株式又は出資の総数又は総額のうちに居住者及び内国法人等が有する直接及び間接保有の株式等の数の合計数又は合計額の占める割合が100分の50を超えるものをいい(同法66条の6第2項1号)、外国法人が外国関係会社に該当するかどうかの判定は、当該外国法人の各事業年度終了時の現況によるものとされている(措置法施行令39条の20第1項)。
ウ 適用対象金額の意義について
 適用対象金額とは、特定外国子会社等の各事業年度の決算に基づく所得の金額につき、法人税法及び措置法による各事業年度の所得の金額の計算に準ずるものとして政令で定める基準により計算した金額(以下「基準所得金額」という。)を基礎として、政令で定めるところにより、当該各事業年度開始の日前7年以内に開始した各事業年度において生じた欠損の金額及び当該基準所得金額に係る税額に関する調整を加えた金額をいう(措置法66条の6第2項2号)。
エ 課税対象金額及び請求権勘案保有株式等割合について
 措置法施行令39条の16第1項は、タックス・ヘイブン対策税制において内国法人の収益の額とみなされる課税対象金額について、適用対象金額に、当該特定外国子会社等の当該各事業年度終了時における発行済株式等のうちに当該各事業年度終了時における当該内国法人の有する当該特定外国子会社等の請求権勘案保有株式等の占める割合(以下「請求権勘案保有株式等割合」という。)を乗じて計算した金額とする旨規定する。
オ 請求権勘案保有株式等の意義について
 措置法施行令39条の16第2項1号は、請求権勘案保有株式等割合等の算定の基礎となる請求権勘案保有株式等につき、内国法人が直接に有する外国法人の株式等の数又は金額(当該外国法人が請求権の内容が異なる株式等を発行している場合には、当該外国法人の発行済株式等に、当該内国法人が当該請求権に基づき受けることができる剰余金の配当等の額がその総額のうちに占める割合を乗じて計算した数又は金額)及び請求権勘案間接保有株式等(同項2号)を合計した数又は金額をいう旨規定する。
(2)適用除外について
 措置法66条の6第3項は、外国法人が特定外国子会社等に該当する場合であっても、所定の要件(以下、同項に掲げる要件を「適用除外要件」という。)を満たした場合には、当該特定外国子会社等のその該当する事業年度に係る適用対象金額について、同条1項の規定(上記(1)ア)を適用しない旨を規定する。
(3)平成17年税制改正
 タックス・へイブン対策税制は、平成17年法律第21号による措置法の改正及び平成17年政令第103号による措置法施行令の改正(併せて以下「平成17年税制改正」という。)により改正されているところ、平成17年税制改正前の措置法66条の6第1項は、特定外国子会社等が、各事業年度において、適用対象留保金額(平成21年法律第13号による改正後の措置法における「適用対象金額」に相当する。以下、同改正の前後を問わず、「適用対象金額」という。)を有する場合には、その適用対象金額のうちその内国法人の有する当該特定外国子会社等の直接及び間接保有の株式等(その株式等を発行する法人に対しその利益の配当、剰余金の分配、財産の分配その他の経済的な利益の給付を請求する権利のない株式等又は実質的に当該権利がないと認められる株式等〔以下「請求権のない株式等」という。〕に係るものを除く。)に対応するものとして政令で定めるところにより計算した金額(課税対象留保金額。平成21年法律第13号による改正後の措置法における課税対象金額に相当する。以下、同改正の前後を問わず、「課税対象金額」という。)に相当する金額は、その内国法人の収益の額とみなして当該各事業年度の終了日の翌日から2月を経過する日を含むその内国法人の各事業年度の所得の金額の計算上、益金の額に算入する旨規定していた。そして、平成17年税制改正前の措置法施行令39条の16第2項は、課税対象金額につき、特定外国子会社等の各事業年度の適用対象金額に、当該特定外国子会社等の当該各事業年度終了時における発行済株式等(請求権のない株式等に係るものを除く。)のうちに当該各事業年度終了時における当該内国法人の有する当該特定外国子会社等の直接及び間接保有の株式等の占める割合を乗じて計算した金額とする旨規定していた。
 そのため、平成17年税制改正前においては、課税対象金額は、特定外国子会社等が請求権の内容の異なる複数の種類の株式等を発行している場合であっても、それが請求権のない株式等である場合を除き、そのような株式等の種類ごとの請求権の内容は、課税対象金額の計算において考慮されないこととなっていた。
3 前提事実(争いのない事実、顕著な事実並びに掲記証拠〔書証は特記しない限り枝番を含む。以下同じ。〕及び弁論の全趣旨により容易に認められる事実)
(1)当事者等

ア 原告は、銀行法4条所定の内閣総理大臣の免許を受けて同法2条2項所定の銀行業を営む内国法人である。
  なお、原告が現在の商号に変更する前の旧商号は、「株式会社○○コーポレート銀行」であり、原告は、平成25年7月1日を合併効力発生日として、株式会社○○銀行を吸収合併した上で、同日付けで現商号に商号変更した(乙3、7。以下、上記商号変更の前後を問わず、また、上記吸収合併前の株式会社○○銀行を含めて「原告」という。)。
イ 持株SPCについて
  ▲▲▲▲(以下「持株SPC」という。)は、2008年(平成20年。なお、以下においては、ケイマンにおける出来事についても和暦のみで表記することがある。)11月13日、ケイマンの法令(以下「ケイマン法」という。)に基づき、有限責任免除会社(an exempted company;以下「免除会社」という。)として設立された外国法人であり、その発行する普通株式の全部を株式会社○○フィナンシャルグループ(以下「○○持株会社」という。)が保有していた(乙8、9)。
ウ 本件各子SPCについて
 (ア)SPC②について
   SPC②は、平成20年11月13日、ケイマン法に基づき、登録上の事務所をケイマンに置き、免除会社として設立された外国法人であり、本件各子SPC事業年度を通じてその発行する普通株式の全部を原告が保有していた(乙10、11)。
  SPC②の設立目的は、①原告に対する普通株式の発行、②持株SPCに対する優先出資証券の発行③上記の普通株式及び優先出資証券による発行収入を利用して原告に対して劣後ローンの貸出を行うこと、並びに④上記の普通株式及び優先出資証券の株主に対する分配のための資金調達の目的で劣後ローン及びその他適格投資を保有すること等であった(乙10)。
 (イ)SPC①について
   SPC①は、平成20年11月13日、ケイマン法に基づき、登録上の住所をケイマンに置き、免除会社として設立された外国法人であり、本件各子SPC事業年度を通じてその発行する普通株式の全部を原告が保有していた(乙12、乙13)。
  SPC①の設立目的は、SPC②の上記(ア)の目的と同様である(乙12)。
 (ウ)免除会社について
   ケイマン法は、一般に、ケイマン籍の保有者により持分の過半が所有されていなければならないケイマンの通常の会社(Local ordinary companies)とそのような規定がない免除会社とを区分して定めており、前者(通常の会社)は、ケイマン内で事業を行うことができるが、後者(免除会社)は、ケイマンの居住者ではあるが、ケイマン外で行う事業に付随する場合を除き、ケイマン内で事業を行うことはできないこととされている。
  ケイマンでは、ケイマン外で事業を行う法人に対して、法人税、法人所得税、資本利得税、相続税、贈与税、富裕税などの税が課されることはない。(以上につき、乙20〜22)
エ 本件各子SPCの特定外国子会社等該当性について
 (ア)SPC②について
   SPC②は、本件各子SPC事業年度の終了日(平成27年12月3日)において、普通株式6410万株(発行価額:32億0500万円)を発行しており、原告がその全部を直接保有していた(乙3)。
 (イ)SPC①について
   SPC①は、本件各子SPC事業年度の終了日(平成27年12月3日)において、普通株式1210万株(発行価額:6億0500万円)を発行しており、原告がその全部を直接保有していた(乙3)。
 (ウ)上記(ア)及び(イ)のとおり、原告は、本件各子SPC事業年度の終了日において、本件各子SPCが発行する株式の全部をそれぞれ保有していたから、本件各子SPCは、いずれも原告の外国関係会社に該当する。
   本件各子SPCは、いずれもケイマンにおいて税を課されておらず、ケイマンにおいて本件各子SPCの所得に対して課される税の負担割合は、それぞれ0%であったから、原告の特定外国子会社等に該当する。(関係法令(1)イ、乙3)
(2)優先出資証券の発行、劣後ローン等について(甲4、乙10、12)
ア 持株SPCは、平成20年12月29日、額面1億円の優先出資証券を3550口(併せて以下「持株SPC優先出資証券」という。)を発行した。持株SPC優先出資証券は、投資家に販売された。
  本件各子SPCは、同日、それぞれ以下の優先出資証券(併せて以下「本件優先出資証券」といい、SPC②発行に係るものを「SPC②優先出資証券」、SPC①発行に係るものを「SPC①優先出資証券」という。)を発行し、持株SPCは、持株SPC優先出資証券の発行により調達した資金を原資として本件優先出資証券の全部を購入した。
 (ア)SPC②優先出資証券
   額面1億円の持株SPCに対する優先出資証券3200口(合計3200億円)(乙10、弁論の全趣旨)
 (イ)SPC①優先出資証券
   額面1億円の持株SPCに対する優先出資証券350口(合計350億円)(乙12、弁論の全趣旨)
 (ウ)なお、優先出資証券とは、ケイマン法及びSPC(特別目的会社)の定款に基づき発行される証券であり、優先出資証券の保有者は、一定の場合を除き普通株式に優先して配当受領権を有するが、原則として議決権を有しないものとされている(乙10、12)。
イ 本件各子SPCは、平成20年12月29日付けで、原告に対し、本件優先出資証券の発行により調達した資金を原資として、劣後ローンによる貸付けを行った(以下、SPC②がした貸付けを「SPC②劣後ローン」SPC①がした貸付けを「SPC①劣後ローン」といい、これらを併せて「本件劣後ローン」という。また、持株SPC優先出資証券及び本件優先出資証券の発行並びに本件劣後ローンによる資金調達の仕組みを「本件資金調達スキーム」という。)。
ウ 本件劣後ローンに基づく原告の本件各子SPCに対する利息の支払日、本件優先出資証券に基づく本件各子SPCの持株SPCに対する配当の支払日、持株SPC優先出資証券に基づく投資家に対する配当の支払日は、いずれも毎年6月30日及び12月30日とされていた。
  また、本件劣後ローンの利息発生期間の終期は、配当の支払日の前日とされていた。
  本件優先出資証券は、平成27年6月30日以降の配当支払日(6月30日又は12月30日)に、発行会社の任意により償還をすることができることとされていた。(以上につき、乙10、12)
(3)銀行法上の自己資本比率規制及び本件資金調達スキームについて
ア 銀行法14条の2第2号は、内閣総理大臣は、銀行の業務の健全な運営に資するため、銀行がその経営の健全性を判断するための基準として、銀行の保有する資産等に照らし当該銀行の自己資本の充実の状況が適当であるかどうかの基準を定めることができる旨規定し、同法52条の25は、内閣総理大臣は、銀行の業務の健全な運営に資するため、銀行持株会社が銀行持株会社及びその子会社その他の当該銀行持株会社と内閣府令で定める特殊の関係のある会社(以下「子会社等」という。)の保有する資産等に照らし当該銀行持株会社及びその子会社等の自己資本の充実の状況が適当であるかどうかその他銀行持株会社及びその子会社等の経営の健全性を判断するための基準であって、銀行の経営の健全性の判断のために参考となるべきものを定めることができる旨規定している。本件優先出資証券の発行当時、内閣総理大臣から権限の委任を受けた金融庁長官(同法59条1項)は、バーゼル銀行監督委員会が国際的に活動する銀行の自己資本比率や流動性比率等に関する国際基準として策定していたいわゆるバーゼルⅡ規制(以下「バーゼルⅡ」という。)を踏まえ、「銀行法第14条の2の規定に基づき、銀行がその保有する資産等に照らし自己資本の充実の状況が適当であるかどうかを判断するための基準」(平成18年金融庁告示第19号。ただし、平成24年金融庁告示第28号による改正前のもの。以下「銀行告示」という。)及び「銀行法第52条の25の規定に基づき、銀行持株会社が銀行持株会社及びその子会社の保有する資産等に照らしそれらの自己資本の充実の状況が適当であるかどうかを判断するための基準」(平成18年金融庁告示第20号。ただし、平成24年金融庁告示第28号による改正前のもの。以下「持株告示」という。)を定めていた。
イ 銀行告示及び持株告示においては、銀行及び銀行持株会社のそれぞれについて、海外特別目的会社の発行する優先出資証券が一定の要件を満たす場合には、当該優先出資証券に係る連結子法人等の少数株主持分について、基本的項目(銀行告示2条及び持株告示2条参照)へ算入することができることとされているところ(銀行告示5条3項、持株告示5条3項参照)、本件優先出資証券及び持株SPC優先出資証券は、いずれもこれらの要件を充足するものとして設計されており、銀行持株会社である○○持株会社及び原告の双方について、自己資本比率規制上の基本的項目への算入が可能とされていた(甲5)。
(4)本件優先出資証券の償還及び本件各子SPCの清算等について
ア 本件各子SPC事業年度の前年度の状況
  本件各子SPC事業年度開始日の前日(平成26年12月29日。以下「前年度末日」という。)における本件各子SPCの株式等の発行状況等は次のとおりであった。
 (ア)SPC②について(乙2の1)
  a 発行していた株式等の種類
    SPC②は、前年度末日において次の2種類の株式等を発行していた。
   (a)普通株式6410万株(発行価額:32億0500万円)
   (b)SPC②優先出資証券3200口(発行価額:3200億円)
  b 株式等の保有の状況
    原告は、上記a(a)の普通株式の全部を直接保有し、また持株SPCは、上記a(b)のSPC②優先出資証券の全部を直接保有していた。
  c 原告の請求権勘案保有株式等割合
    原告の請求権勘案保有株式等割合(関係法令(1)エ)は、約0.04%(SPC②の当期純利益の額153億0150万5088円から持株SPCに対するSPC②優先出資証券に係る配当可能金額152億9600万円を控除した残額である550万5088円を上記当期純利益の額で除して算出した割合。小数点以下第3位を四捨五入したもの。)であった。
  なお、原告は、本件事業年度の前年度における法人税の確定申告において、SPC②の課税対象金額が550万5088円である旨の申告をした。
 (イ)SPC①について(乙2の1)
  a 発行していた株式等の種類
   SPC①は、前年度末日において次の2種類の株式等を発行していた。
  (a)普通株式1210万株(発行価額:6億0500万円)
  (b)SPC①優先出資証券350口(発行価額:350億円)
  b 株式等の保有の状況
   原告は、上記a(a)の普通株式の全部を直接保有し、また持株SPCは、上記a(b)のSPC①優先出資証券の全部を直接保有していた。
  c 原告の請求権勘案保有株式等割合
   原告の請求権勘案保有株式等割合は、約0.43%(SPC①の当期純利益の額16億8025万1323円から持株SPCに対するSPC①優先出資証券に係る配当可能金額16億7300万円を控除した残額725万1323円を上記当期純利益の額で除して算出した割合。小数点以下第3位を四捨五入したもの。)であった。
   なお、原告は、本件事業年度の前年度における法人税の確定申告において、SPC①の課税対象金額が725万1323円である旨の申告をした。
イ 本件優先出資証券の償還
 (ア)SPC②について
   SPC②は、平成27年5月15日に開催された取締役会において、同社が発行する株式等のうち、SPC②優先出資証券の全部を、同年6月30日を償還日として償還することを全会一致で決議した。
   SPC②は、平成27年6月30日、原告からSPC②劣後ローンの全額の返済を受け、同日、これを原資として、SPC②優先出資証券に係る出資金3200億円と同証券に係る配当金76億4800万円との合計額3276億4800万円を持株SPCに送金し、SPC②優先出資証券の償還をした。
   その結果、SPC②が発行する株式等は、原告が保有する普通株式のみとなり、本件各子SPC事業年度の終了日においても、SPC②が発行していた株式等は原告が保有する普通株式6410万株のみであった。(以上につき、乙14、15)
(イ)SPC①について
   SPC①は、平成27年5月15日に開催された取締役会において、同社が発行する株式等のうち、SPC①優先出資証券の全部を、同年6月30日を償還日として償還することを全会一致で決議した。
   SPC①は、平成27年6月30日、原告からSPC①劣後ローンの全額の返済を受け、同日、これを原資として、SPC①優先出資証券に係る出資金350億円と同証券に係る配当金8億360万円との合計額358億360万円を持株SPCに送金し、SPC①優先出資証券の償還をした。
  その結果、SPC①が発行する株式等は、原告が保有する普通株式のみとなり、本件各子SPC事業年度の終了日においても、SPC①が発行していた株式等は原告が保有する普通株式1210万株 のみであった。(以上につき、乙16、17)
ウ 本件各子SPCの清算について
 (ア)SPC②について
   SPC②は、平成27年12月3日、株主総会を開催し、清算する旨の決議を行った。この最終株主総会の開催により、平成26年12月30日から始まる同社の事業年度(本件各子SPC事業年度)は、同日から平成27年12月3日までとなった。
   同社の本件各子SPC事業年度における当期純利益の額は76億4673万8142円であった。
  平成27年12月3日時点におけるSPC②の貸借対照表には、原告からの普通株式による出資に係る資本金の額として32億0500万円、利益剰余金の額として4227万9884円が計上されている。
   SPC②は、平成28年3月4日、解散した。(以上につき、乙3、11、18、弁論の全趣旨)
(イ)SPC①について
  SPC①は、平成27年12月3日、株主総会を開催し、清算する旨の決議を行った。この最終株主総会の開催により、平成26年12月30日から始まる同社の事業年度(本件各子SPC事業年度)は、同日から平成27年12月3日までとなった。
  同社の本件各子SPC事業年度における当期純利益の額は、8億3605万1965円であった。
  平成27年12月3日時点におけるSPC①の貸借対照表には、原告からの普通株式による出資に係る資本金の額として6億0500万円、利益剰余金の額として5366万5149円が計上されている。
  SPC①は、平成28年3月4日、解散した。(以上につき、乙3、13及び19、弁論の全趣旨)
エ 適用対象金額
 本件各SPC事業年度における本件各子SPCの適用対象金額(関係法令(1)ウ)は、SPC②が76億4673万8142円、SPC①が8億3605万1965円である(いずれも、本件各子SPC事業年度における本件各子SPCの純利益と同額である。)。(乙3)
(5)課税の経緯等
ア 原告は、本件事業年度の法人税等の確定申告書を、法定申告期限内である平成28年6月30日に処分行政庁に提出し、確定申告をした。
  原告は、同年7月8日、修正申告書(以下「本件修正申告書」という。)を処分行政庁に提出して本件事業年度に係る法人税等の修正申告(以下「本件修正申告」という。)をした。
  なお、原告は、上記確定申告及び本件修正申告において、本件各子SPCに係る外国子会社合算税制の適用に関し、本件保有株式等割合(本件各子SPCの発行済株式等に係る原告の請求権勘案保有株式等割合)が0.00%、課税対象金額が0円であることを前提として申告をした。(以上につき、乙1、3)
イ これに対し、処分行政庁は、本件保有株式等割合は100%であり、本件各子SPCの適用対象金額の全額が、課税対象金額として、原告の本件事業年度の法人税に係る所得の金額の計算上、益金の額に算入されるなどとして、平成29年11月7日付けで本件事業年度の法人税等の各更正処分及びこれらに伴う過少申告加算税の各賦課決定処分(これらの処分を併せて「本件当初処分」という。)をした(甲1、2)。
ウ 原告は、平成30年1月22日、本件当初処分を不服として、国税不服審判所長に審査請求をしたところ、同年8月1日付けで、同審査請求をいずれも棄却する旨の裁決を受けた(甲3)。
エ 原告は、平成31年1月29日、本件当初処分について、その全部又は一部の取消しを求めて本件訴えを提起した(顕著な事実)。
オ 処分行政庁は、令和元年7月29日付けで、本件当初処分に係る法人税等の各減額更正、本件当初処分に係る過少申告加算税の各変更決定(これらの処分を併せて、以下「本件減額処分」という。)をした。
  原告は、上記の経緯を受け、本件訴えに係る請求の内容を、本件減額処分による一部取消し後の法人税等の各更正処分(本件各更正処分)のうち本件修正申告における申告額を超える部分及び本件減額処分による変更後の過少申告加算税の各賦課決定処分(本件各賦課決定処分)の各取消しを求めるものに変更した。(以上につき、乙27、顕著な事実)
カ 本件における課税の経緯の詳細は、別表1のとおりである。
(6)課税の根拠
 被告が主張する本件各処分の適法性の根拠は、別紙3のとおりであり、原告は、後記4の争点に関する部分を除き、その計算の基礎となる金額及び計算方法を明らかに争わない。
4 争点及び当事者の主張の要旨
 本件の争点は、本件各処分の適法性(具体的には、原告の本件事業年度の所得の金額の計算上、益金の額に算入されるべき本件各子SPCに係る課税対象金額)であり、争点に関する当事者の主張の要旨は別紙4のとおりである。
 なお、同別紙中において定義した略称は、本文中においても用いることとする。

第3 当裁判所の判断
1
 当裁判所は、本件各子SPC事業年度に係る原告の本件保有株式等割合は100%であり、本件各子SPCの同事業年度に係る適用対象金額の全額が課税対象金額となり、これに相当する金額が原告の本件事業年度の所得の金額の計算上益金の額に算入されるべきものであるから、本件各処分はいずれも適法であり、原告の請求はいずれも理由がなく棄却すべきものと判断する。その理由の詳細は、次のとおりである。
2 原告の本件事業年度の所得の計算上、益金の額に算入されるべき本件各子SPCに係る課税対象金額について
(1)本件各子SPCの特定外国子会社等該当性

 前記関係法令(1)イのとおり、外国法人がタックス・へイブン対策税制の対象となる特定外国子会社等に該当するか否かは当該外国法人の各事業年度の終了時の現況により判断すべきところ、前記前提事実(1)ウ、エのとおり、ケイマン法に基づき設立された外国会社である本件各子SPCは、いずれも、本件各子SPC事業年度の終了時において、その発行済株式又は出資の総数又は総額のうちに内国法人である原告が有する直接保有の株式数が占める割合が100分の50を超えていたから、本件各子SPC事業年度において原告の外国関係会社に該当し、さらに、本件各子SPCは、主たる事務所の所在する地域であるケイマンにおいて、その所得に対して課される税の負担割合がいずれも0%であったから、原告の特定外国子会社等に該当する。
(2)本件各子SPCの本件各子SPC事業年度における課税対象金額
ア 前記前提事実(4)イによるとSPC②及びSPC①(本件各子SPC)は、平成27年6月30日、本件優先出資証券に係る出資金(前者につき3200億円、後者につき350億円)と配当金の額(前者につき76億4800万円、後者につき8億3650万円)との合計額(前者につき3276億4800万円、後者につき358億360万円)を持株SPCに送金して本件優先出資証券の償還を行い、これにより、持株SPCが保有する本件各子SPCの株式等(本件優先出資証券)は消滅し、その結果、本件各子SPC事業年度の終了日(平成27年12月3日)において本件各子SPCが発行する株式等は、原告が保有する普通株式(SPC②につき6410万株、SPC①につき1210万株)のみとなった。
イ 前記関係法令(1)エのとおり、タックス・へイブン対策税制において内国法人の収益の額とみなされる課税対象金額とは、適用対象金額に、当該特定外国子会社等の当該各事業年度終了時における発行済株式等のうちに当該各事業年度終了時における当該内国法人の有する当該特定外国子会社等の請求権勘案保有株式等の占める割合(請求権勘案保有株式等割合)を乗じて計算した金額をいうところ(措置法施行令39条の16第1項)、この請求権勘案保有株式等割合の算定の基礎となる請求権勘案保有株式等とは、内国法人が直接に有する外国法人の株式等の数又は金額等をいい、当該外国法人が請求権の内容が異なる株式等を発行している場合には、当該外国法人の発行済株式等に、当該内国法人が当該請求権に基づき受けることができる剰余金の配当等の額がその総額のうちに占める割合を乗じて計算した数又は金額をいうものとされている(同条2項1号)。
  このように、措置法施行令39条の16第1項は、課税対象金額の算定につき、当該特定外国子会社等の事業年度終了時を基準として、適用対象金額に同時点における請求権勘案保有株式等割合を乗じて算定すべきものとしているのであるから、同割合の算定の基礎となる請求権勘案保有株式等の数又は金額について規定する同条2項1号も、同時点の現況をもってその数又は金額を判断すべきことを前提としているものというべきであり、これらのことは、上記各規定の文理に照らして明らかである。
ウ そして、上記アのとおり、本件各子SPC事業年度の終了時(平成27年12月3日)においてSPC②が発行していた株式は、原告が保有する普通株式6410万株のみであったから、SPC②の請求権勘案保有株式等割合、すなわち、本件各子SPC事業年度終了時におけるSPC②の発行済株式数(6410万株)に占める原告の保有するしていたSPC②の株式数(6410万株)の割合は、100%となる。
  また、SPC①についても、上記アのとおり、本件各子SPC事業年度の終了時(平成27年12月3日)においてSPC①が発行していた株式は、原告が保有する普通株式1210万株のみであったから、SPC①の請求権勘案保有株式等割合も同様に100%となる。
  したがって、本件各子SPC事業年度におけるSPC②及びSPC①(本件各子SPC)の請求権勘案保有株式等割合(本件保有株式等割合)はいずれも100%であるから、同事業年度におけるSPC②の課税対象金額は、適用対象金額76億4673万8142円に本件保有株式等割合100%を乗じて算出した金額(76億4673万8142円)となり、SPC①の同事業年度における課税対象金額は、適用対象金額8億3605万1965円に本件保有株式等割合100%を乗じて算出した金額(8億3605万1965円)となる。
(3)小括
 以上のとおり、本件各子SPCは、いずれも原告の特定外国子会社等に該当し、本件保有株式等割合は100%であるから、本件各子SPCの適用対象金額の全額が本件各子SPC事業年度の課税対象金額となり、これに相当する金額は、原告の収益の額とみなして、本件各子SPC事業年度の終了日の翌日から2か月を経過する日を含む原告の事業年度(本件事業年度)の所得の金額の計算上、益金の額に算入されるべきものである。
3 原告の主張について
(1)ア 原告は、タックス・へイブン対策税制が租税回避の防止を目的とする立法である以上、措置法の規定は、かかる同法の目的に適合するように解釈されるべきであり、およそ租税回避の目的も実態もない場合には、これを適用することは許されないところ、本件資金調達スキームは、バーゼルⅡ(前提事実(3)ア)への対応として自己資本の調達等を目的とするものであり、租税回避の目的も実態もないから、タックス・へイブン対策税制の規定を適用することは許されない旨主張する。
イ そこで検討すると、タックス・へイブン対策税制について規定する措置法66条の6は、内国法人が、法人の所得等に対する租税の負担がないか又は極端に低い国又は地域(タックス・ヘイブン)に子会社を設立して経済活動を行い、当該子会社に所得を留保することにより、我が国における租税の負担を回避しようとする事例が生ずるようになったことから、このような事例に対処して税負担の実質的な公平を図ることを目的として、一定の要件を満たす外国子会社を特定外国子会社等と規定し、その課税対象金額を内国法人の所得の計算上益金の額に算入することとしたものである。
  もっとも、措置法66条の6は、1項において、その適用要件を具体的に規定するとともに、他方で、特定外国子会社等であっても、独立企業としての実体を備え、その所在する国又は地域において事業活動を行うことにつき十分な経済合理性がある場合にまで上記のような益金算入の取扱いを及ぼすとすれば、我が国の民間企業の海外における正常かつ合理的な経済活動を阻害するおそれがあることから、3項において、事業基準等の具体的な適用除外要件を定めた上で、これらが全て満たされる場合には、1項の規定を適用しないこととしているものである(最高裁平成28年(行ヒ)第224号同29年10月24日第三小法廷判決・民集71巻8号1522頁参照)。そして、同条1項及び3項のいずれにおいても、租税回避の目的の有無や、税負担の不当な軽減となる実態の有無、あるいは特定外国会社等がその所在する国又は地域で事業を行うことの経済的合理性の有無は、同条1項の規定が適用され、あるいはその適用が除外される要件として規定されていない。
  そうであれば、タックス・へイブン対策税制を定める措置法66条の6の規定は、原告のいうとおり租税回避を防止することをその趣旨・目的とするものであるけれども、その具体的な適用に当たっては、同条1項に規定する適用要件及び同条3項に規定する適用除外要件の各該当性の有無により客観的に判断するものとし、このような各要件に係る判断を通じて上記趣旨・目的の実現を図ることとしたものと解するのが相当である。そして、租税については、租税法律主義の下、課税要件の明確性が強く求められ、租税法規を解釈するに当たっては、原則として文理解釈によるべきであって、みだりに規定の文言を離れて解釈すべきではないから、同条が明文で規定する各要件とは別に、租税回避の目的や実態の有無等が同条1項の適用又は適用除外の要件となるものとは解することができないというべきである(なお、このように解することが、タックス・へイブン対策税制の趣旨・目的に反するものではなく、違憲の問題を生じさせるものでもないことは、後記(2)、(3)のとおりである。)。
ウ 以上によれば、措置法66条の6第1項所定の要件を満たす場合には、同条3項所定の適用除外要件を満たす場合を除き、租税回避の目的・実態の有無や当該特定外国子会社等の所在国・地域における事業の経済的合理性の有無等にかかわらず、同条1項が適用されるというべきであり、本件において原告が主張するような、本件各子SPCを用いた本件資金調達スキームが租税回避を目的としたものでないことや、これと同様の資金調達スキームがバーゼルⅡに対応するための合理的な方法として邦銀において当時広く採用されていたことなどの事情は、仮にこれらの事情が認められるとしても、同条1項の適用の可否を左右するものではないというべきである。したがって、この点についての原告の主張は採用することができない。
(2)ア 原告は、本件各処分は典型的なオーバー・インクルージョン(過剰包摂)のケースといえるところ、平成17年税制改正が、オーバー・インクルージョンを除去することにより、タックス・へイブン対策税制の合理化を図ることをその趣旨・目的とするものであることからすると、課税対象金額の算定について規定する措置法施行令39条の16第1項、2項1号についても、オーバー・インクルージョンを防止することができるように目的論的解釈をする必要があり、具体的には、同号にいう「請求権の異なる株式等を発行している場合」に当たるためには、当該特定外国子会社等がその事業年度中のいずれかの時点において請求権の内容が異なる株式等を発行していれば足りると解すべきであると主張する。
イ そこで検討すると、前記関係法令(3)のとおり、平成17年税制改正前においては、措置法及び措置法施行令上、特定外国子会社等が請求権の内容の異なる複数の種類の株式を発行している場合であっても、それが請求権のない株式等である場合を除き、そのような株式等の種類ごとの請求権の内容は、課税対象金額の算定において考慮されないものとされていたのに対し、平成17年税制改正後においては、課税対象金額の算定において当該特定外国子会社等が発行する株式等の請求権の内容が勘案されるべきことが明記されたものである(措置法66条の6第1項、措置法施行令39条の16)。
  このような平成17年税制改正の趣旨については、請求権の異なる株式等を発行することにより、特定外国子会社等の利益のうち持株割合を超える割合を内国法人に帰属させるような事態について、株式等の請求権の内容を勘案することによって対処しようとしたものと解することができ、このような意味において、内国法人が特定外国子会社等から実際に受領できる配当等の金額に相当する金額と課税対象金額との接近を指向するものであるということはできるとしても、そうであるからといって、同改正後の措置法及び措置法施行令の各規定が、原告が主張するような、規定の文言から離れた解釈を許容するものと解することはできず、当該特定外国子会社等が発行する株式等の請求権の内容の勘案を定めたこれら規定の適用を通じて、可及的に、課税対象金額と内国法人が特定外国子会社等から実際に受領できる配当等の金額に相当する金額との接近を図ることとしているものにすぎない。
ウ また、措置法の委任を受けて定められた措置法施行令39条の16第1項は、課税対象金額の算定の基礎となる請求権勘案保有株式等割合につき、当該特定外国子会社等の各事業年度終了時におけるものと定めているから、同条2項1号にいう請求権の内容が異なる株式等の発行についても、当該特定外国子会社等の各事業年度の終了時の現況をもってその発行の有無を判断すべきことを前提としていると解するのが、これらの規定の文理に忠実な解釈というべきである。一般に、複雑かつ多様な経済事象をその規律の対象としつつ、課税の公平及び徴税の適正等を確保するという租税法規の専門技術的性格を踏まえると、法律の委任を受けた政令その他の下位法令において、法律の定める基本事項の趣旨を損なわない範囲において技術的・細目的な規律を設けることも当然に許されるものというべきところ、課税対象金額の算定につき、当該特定外国子会社等が発行する株式等の請求権の内容を勘案すべきことなどの基本事項を定めた上で、その細目を政令に委任している措置法66条の6第1項についても、措置法施行令において、これらの基本事項の趣旨・目的に反しない範囲において技術的・細目的な規律を設けることを当然に許容しているものと解される。そして、上記のとおり、措置法施行令は、課税対象金額の算定において株式等の請求権の内容を勘案するに当たり、その基準時を当該特定外国子会社等の各事業年度の終了時に固定してこれを一律に判断すべきものとしているのであるが、このような措置法施行令の規定が、同項が規定する上記基本事項の趣旨・目的を損なうものであるということはできず、これに反しない範囲における技術的・細目的な定めとして、課税の公平及び徴税の適正等の確保の観点から課税の明確性・統一性を図るための規律を設けたものと解することができるから、同項の委任の範囲を逸脱するものではないというべきである。
エ 以上のとおりであるから、措置法施行令39条の16第1項、2項1号の規定をその文理どおりに解することが、平成17年税制改正の趣旨に反し、措置法66条の6第1項による委任の範囲を逸脱するということはできず、同号にいう「請求権の異なる株式等を発行している場合」につきオーバー・インクルージョンを防止するような目的論解釈をすべきとする原告の主張は採用することができない。
(3)ア 原告は、本件各子SPC事業年度において本件各子SPCが稼得した所得の源泉となる経済的利得は、その事業年度中に全て本件優先出資証券について配当され、原告には帰属しないことが確定しているから、本件においてタックス・へイブン対策税制の規定を適用することは、所得により表象される担税力のないところに課税を行うこととなり、憲法29条、14条1項に違反する旨主張する。
イ しかし、内国法人の法人税に係る所得の計算におけるのと同様に、課税対象金額の計算の基礎となる基準所得金額の計算においても、各事業年度の途中における配当等の資本等取引(法人税法22条5項)に相当する取引により当該特定外国子会社等の所得が流出したからといって、その流出した財産に相当する金額が基準所得金額から控除されることとなるものではないから(措置法施行令39条の15第1項1号、法人税法22条3項参照)、本件各子SPC事業年度の途中に行われた本件優先出資証券への配当により原告の担税力が失われたということはできない。
ウ 原告の主張は、つまるところ、特定外国子会社等の事業年度の終了に先立ち、当該特定外国子会社等が行う配当等による財産の流出により、当該特定外国子会社等の当該事業年度における課税対象金額と、内国法人が当該特定外国子会社等から実際に受領できる配当等の金額との間にかい離が生じることの不当性をいうものと解される。
  しかしながら、租税法規の定立については、立法府の政策的・技術的な判断に委ねられるべきものであって、立法府は、租税法規の定立について広い裁量を有するものと解されるところ(最高裁昭和55年(行ツ)第15号同60年3月27日大法廷判決・民集39巻2号247頁参照)、タックス・へイブン対策税制についても、外国関係会社が得た所得につき、いかなる要件の下に内国法人の収益とみなすのかについては、立法政策上の問題として、上記のような立法府及びその委任を受けた行政府の広範な立法裁量に委ねられるべきものである。そして、前記(2)のとおり、平成17年税制改正後の措置法及び措置法施行令は、特定外国子会社等が発行する株式等の請求権の内容を勘案することにより可及的に課税対象金額を内国法人が実際に受領できる配当等の金額との接近を図る一方、内国法人の請求権勘案保有株式等割合につき、特定外国子会社等の各事業年度終了時の現況により判断すべきものと定めることにより、特定外国子会社等が各事業年度に獲得した所得(適用対象金額)の期中の一時点における実質的な帰属ないしこれに対する支配の程度と、基準時である当該特定外国子会社の事業年度終了時における請求権勘案保有株式等割合とがかい離する場合が生じ得ることも、当然に予定しているところ、このことが、直ちに、タックス・へイブン対策税制の趣旨・目的に照らして不合理であるとか、タックス・へイブン対策税制の全体としての合理性を損なうものであるということはできず、このような措置法及び措置法施行令の定めが立法府及び行政府に委ねられた立法裁量の範囲を逸脱するものということはできないし、本件保有株式等割合を100%として課税対象金額を算定した本件各処分が、憲法14条1項、29条に反するということもできない。
  以上のとおりであるから、この点についての原告の主張は採用することができない。
(4)原告は、措置法施行令39条の16第1項、2項1号を文理どおりに解釈すると、本件各子SPCに本件劣後ローンの発生期間の末日(平成27年6月29日)を終了日とする決算期を追加していれば、原告に対する課税はないことになるが、決算期の設定方法いかんにより課税関係が大きく変動するのは不合理であると主張する。
  しかし、措置法施行令39条の16が、課税の公平及び徴税の適正等の確保の見地から、請求権の内容が異なる株式等が発行されているか否かについては、当該特定外国子会社等の事業年度の終了時を基準時として一律に判定すべきものとし、もって課税の明確性・統一性を図ったものと解されることは、前記(2)において説示したとおりである。そうであれば、当該基準時における株式等の発行状況等が異なる場合には、租税法律関係も異なることとなることは当然であって、このことは、措置法施行令及びその根拠規定である措置法においても予定しているものというべきであり、決算期の定め(事業年度の終了時)が異なることにより租税法律関係に変動が生じることをもって不合理であるということはできない。したがって、この点についての原告の主張は採用することができない。
4 本件各処分の適法性について
 上記23によると、本件各子SPC事業年度に係る原告の本件保有株式等割合は100%となるから、本件各子SPCの同事業年度の適用対象金額はその全額が課税対象金額となるものであり、これを原告の本件事業年度の所得の金額の計算上益金の額に算入してした本件法人税更正処分につき、措置法66条の6第1項及び措置法施行令39条の16第1項、2項1号の解釈適用を誤ったものということはできず、他に本件法人税更正処分が違法であることをうかがわせる事情は認められないから、本件法人税更正処分は適法である。
 また、本件地方法人税更正処分及び本件法人税賦課決定処分は、いずれも本件法人税更正処分を前提とするものであり、本件地方法人税賦課決定処分は、本件地方法人税更正処分を前提とするものであるところ、本件法人税更正処分が適法であることは上記のとおりであって、地方法人税及び過少申告加算税の額の計算にも違法な点は認められないから、これらの各処分も適法である。
5 結論
 よって、本件各処分はいずれも適法であり、これらの全部又は一部の各取消しを求める原告の請求はいずれも理由がないからこれを棄却することとして、主文のとおり判決する。

東京地方裁判所民事第51部
裁判長裁判官 清水知恵子
   裁判官 川山泰弘
   裁判官 釜村健太

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