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解説記事2022年04月25日 ニュース特集 総則6項適用事案、最高裁で原判決覆らず(2022年4月25日号・№928)

ニュース特集
路線価と実勢価格のかい離を用いた節税策に総則6項適用が続くおそれ
総則6項適用事案、最高裁で原判決覆らず


 不動産の相続税評価を巡り、財産評価基本通達に基づく評価額が総則6項により処分行政庁に否定され訴訟に発展していた事件(本誌914、841、813、802号参照)の最高裁判決が令和4年4月19日に下され、相続人側の敗訴が確定した。
 一審及び二審でも相続人側が敗訴していたが、令和4年3月15日に最高裁で弁論が開かれたことから、下級審の結論が覆るのではないかとして、専門家の注目が集まっていた。しかし、最高裁判所第三小法廷(長嶺安政裁判長)は、大方の予想に反して原判決を支持し、鑑定評価額に基づく原処分を適法とした。
 最高裁は、下級審が総則6項を適用する「特別の事情」の一つとした「鑑定評価額と通達評価額とのかい離」については、「実質的な租税負担の公平に反するというべき事情」ではないとして、下級審と異なる判断を示したものの、平等原則の観点から、租税負担の軽減をも意図した購入・借入れが行われた本件においては、評価通達による画一的な評価を行うことは他の納税者との租税負担の公平に反するとの見解を示した。
 この判決を受けて、露骨な租税回避を抑止するために総則6項が適用される事案が今後も続くおそれがある。本件のような課税処分が総則6項の趣旨に照らして適切なのか、実務家らの間で一層議論を呼ぶことになりそうだ。

相続直前の借入れで不動産を取得する節税スキームに総則6項適用

 不動産の相続税について、相続税法は「時価」に基づく算定を求めており、時価の算定基準として国税庁が定めた「財産評価基本通達」(以下、「評価通達」)により不動産評価が行われるのが原則とされている。
 しかし、評価通達に定められた路線価が実勢価格の8割程度であることなどから、高騰した不動産価格と相続税評価のかい離を用いた節税スキームが金融機関や不動産業者から富裕層向けに広く提案されてきた。特に国税当局に問題視されたのは、相続開始に近接した時期に被相続人が借入金により高騰した土地等を取得し(相続開始後に譲渡)、相続税申告に際して、当該土地等の通達評価額と借入金額との開差(借入金債務超過額)を他の相続財産から減殺し、課税価格を引き下げて相続税の負担を回避するケースだ。
 周知のとおり、評価通達に基づいて適法に評価した財産でも、「この通達の定めによって評価することが著しく不適当と認められる財産の価額は、国税庁長官の指示を受けて評価する」旨を定めた総則6項が存在しており、国税当局は、このような節税スキームを取り締まる手段として、“伝家の宝刀”とも言われる総則6項を適用し、評価通達とは異なる評価方法により財産を評価し、課税処分を行ってきた。
 しかし、総則6項を適用した課税処分を巡っては、「著しく不適当」の基準が明確でない、租税回避の意図の有無が客観的な評価額に影響するのは理屈が通らないなどの声が上がり、訴訟に発展するケースが後を絶たない。
 そのような中、まさに総則6項を適用して行われた課税処分の適否を最高裁が示すとして、令和4年3月15日に弁論が開かれたことから、課税処分を適法とした下級審の結論が覆るのではないかとして専門家の注目が集まっていた。

下級審は「鑑定評価額と通達評価額とのかい離」を問題視

 本件の概要は表1及びのとおり。

 被相続人は、90歳となっていた平成21年1月に信託銀行から6億3,000万円を借り入れ、賃貸用不動産の甲不動産(甲土地・甲建物)を8億3,700万円で購入。また、同年12月には、信託銀行及び共同相続人の1名からさらに合計4億2,500万円を借り入れ、賃貸用不動産の乙不動産(乙土地・乙建物)を5億5,000万円で購入した。
 その後、被相続人は平成24年6月に94歳で死亡し、共同相続人(5人)が両不動産の通達評価額に基づく時価により相続税申告を行った。当該申告では、小規模宅地等特例適用後の両不動産の課税価格(約3億3,000万円)と借入金債務総額(約10億円)との差額(約6億6,000万円)が他の相続財産から控除され、その結果、相続税の総額はゼロとなっていた。
 これに対し処分行政庁は、評価通達総則6項に基づき、同通達の定めによって評価することは著しく不適当と認められるから鑑定評価額をもって評価すべきであるとして、更正処分等を行った。相続人ら(上告人ら)はその取消しを求めて訴訟を提起した。
 なお、乙不動産を相続した相続人は、平成25年3月に、第三者に同不動産を5億1,500万円で譲渡している。
 一審、二審の判断は次頁表2のとおり。

【表2】

東京地裁判決

・本件各通達評価額は、それぞれ、本件各鑑定評価額の約4分の1の額にとどまっている。そして、実際に本件被相続人らが本件各不動産を売買した際の価格(本件取引額)をみると、(中略)本件甲不動産通達評価額からのかい離の程度は、本件甲不動産鑑定評価額よりも更に大きいものであった。本件乙不動産に関しては、本件相続開始後の約9か月後の取引において、おおむね本件乙不動産鑑定評価額と同程度のものであった。


・これらに加え、①本件全証拠によっても、本件被相続人らの本件各不動産の売買につき、市場価格と比較して特別に高額又は低額な価格で売買が行われた旨をうかがわせる事情等が見当たらないことや、②本件各不動産は、いずれも約40戸の共同住宅等として利用されている建物及びその敷地であるところ、本件各鑑定評価は、いずれも、原価法による積算価格を参考にとどめ、収益還元法による収益価格を標準に鑑定評価額を求めたものであること、③不動産鑑定士が不動産鑑定評価基準に基づき算定する不動産の正常価格は、基本的に、当該不動産の客観的な交換価値を示すものと考えられることをも勘案すれば、本件各通達評価額が本件相続開始時における本件各不動産の客観的な交換価値を示していることについては、相応の疑義があるといわざるを得ない。


・本件各不動産が本件相続に係る相続財産に含まれることとなった経緯等に加え、M信託銀行が作成した各貸出稟議書の記載等にもよれば、本件被相続人及び原告らは、本件各不動産の購入及び本件各借入れを、本件被相続人及び〇〇社の事業承継の過程の一つと位置付けつつも、それらが近い将来発生することが予想される本件被相続人の相続において原告らの相続税の負担を減じ又は免れさせるものであることを知り、かつ、それを期待して、あえてそれらを企画して実行したと認められ、これを覆すに足りる証拠は見当たらない。


・以上にみた事実関係の下では、本件相続における本件各不動産については、評価通達の定める評価方法を形式的に全ての納税者に係る全ての財産の価額の評価において用いるという形式的な平等を貫くと、本件各不動産の購入及び本件各借入れに相当する行為を行わなかった他の納税者との間で、かえって租税負担の実質的な公平を著しく害することが明らかというべきであり、評価通達の定める評価方法以外の評価方法によって評価することが許されるというべきである。

東京高裁判決

・処分行政庁は、飽くまで、本件各通達評価額と本件各鑑定評価額との間の著しいかい離から、本件各不動産を評価通達の定めによって評価することが著しく不適当であるなどとして、本件各不動産を評価通達の定めによって評価しないものとしたのであって、単に税負担の軽減を結果としてもたらす行為を阻止するために評価通達6を適用したものとは認められない。


・本件における開差は、それ自体が大きなものと認められるし、それによって生ずる税額の差や、本件被相続人及び控訴人らが、あえて、本件各不動産の購入及び本件被相続人の本件相続開始時の残債務に係る各借入れ(本件各借入れ)が近い将来発生することが予想される本件被相続人の相続において控訴人らの相続税の負担を減じ又は免れさせるものであることを知り、かつ、それを期待して、本件各不動産の購入及び本件各借入れを企画して実行し、その結果、本件各借入れ及び本件不動産の購入がなければ、本件相続に係る課税価格は6億円を超えるものであったにもかかわらず、本件各通達評価額を前提とする本件各申告による課税価格は2826万1000円にとどまり、基礎控除により本件相続に係る相続税は課税されないことになることなどからすると、原判決で説示するとおり、本件各不動産については、評価通達の定める評価方法によっては適正な時価を適切に算定することができないものと認められ、評価通達の定める評価方法によって評価した価額を時価とすることは、かえって租税負担の実質的な公平を著しく害することが明らかであると認められる。

 一審の東京地裁は、本件各不動産の鑑定評価額と通達評価額とのかい離、租税負担の軽減を意図した本件の経緯等を考慮し、総則6項を適用する「特別の事情」があるものと認め、納税者の請求を棄却した。
 二審の東京高裁も、二審における納税者の主張に対する判断を追加したほかは、原審の判断とおおむね同様に総則6項の適用を認め、納税者の控訴を棄却した。

最高裁、租税負担軽減の意図踏まえ、通達評価は平等原則違反

 最高裁は、相続税法上の一般原則としての平等原則について、「課税庁が、特定の者の相続財産の価額についてのみ評価通達の定める方法により評価した価額を上回る価額によるものとすることは、たとえ当該価額が客観的な交換価値としての時価を上回らないとしても、合理的な理由がない限り、上記の平等原則に違反するものとして違法というべき」とした上で、「もっとも、(中略)相続税の課税価格に算入される財産の価額について、評価通達の定める方法による画一的な評価を行うことが実質的な租税負担の公平に反するというべき事情がある場合には、合理的な理由があると認められるから、当該財産の価額を評価通達の定める方法により評価した価額を上回る価額によるものとすることが上記の平等原則に違反するものではないと解するのが相当である。」との解釈を示した。
 そして、本件については、「本件各通達評価額と本件各鑑定評価額との間には大きなかい離があるということができるものの、このことをもって上記事情があるということはできない」との判断を示したものの、「被相続人及び上告人らは、本件購入・借入れが近い将来発生することが予想される被相続人からの相続において上告人らの相続税の負担を減じ又は免れさせるものであることを知り、かつ、これを期待して、あえて本件購入・借入れを企画して実行したというのであるから、租税負担の軽減をも意図してこれを行ったものといえる。そうすると、本件各不動産の価額について評価通達の定める方法による画一的な評価を行うことは、本件購入・借入れのような行為をせず、又はすることのできない他の納税者と上告人らとの間に看過し難い不均衡を生じさせ、実質的な租税負担の公平に反するというべきであるから、上記事情があるものということができる。」として、「本件各不動産の価額を評価通達の定める方法により評価した価額を上回る価額によるものとすることが上記の平等原則に違反するということはできない」との結論を下し、課税処分を適法とした。
 なお、最高裁は、上告人の「原判決には相続税法22条等の法令の解釈適用を誤った違法がある」との主張に対しては、「相続税法22条は、相続等により取得した財産の価額を当該財産の取得の時における時価によるとするが、ここにいう時価とは当該財産の客観的な交換価値をいうものと解される。そして、評価通達は、上記の意味における時価の評価方法を定めたものであるが、上級行政機関が下級行政機関の職務権限の行使を指揮するために発した通達にすぎず、これが国民に対し直接の法的効力を有するというべき根拠は見当たらない。そうすると、相続税の課税価格に算入される財産の価額は、当該財産の取得の時における客観的な交換価値としての時価を上回らない限り、同条に違反するものではなく、このことは、当該価額が評価通達の定める方法により評価した価額を上回るか否かによって左右されないというべきである。そうであるところ、本件各更正処分に係る課税価格に算入された本件各鑑定評価額は、本件各不動産の客観的な交換価値としての時価であると認められるというのであるから、これが本件各通達評価額を上回るからといって、相続税法22条に違反するものということはできない」として、その主張を斥けた。

租税回避の抑止策としての総則6項の適用に専門家から懸念の声

 最高裁は、下級審が総則6項を適用する「特別の事情」の一つとした「鑑定評価額と通達評価額とのかい離」については、「実質的な租税負担の公平に反するというべき事情」ではないとして、下級審と異なる判断を示したものの、平等原則の観点から、租税負担の軽減をも意図して行った本件購入・借入れが行われた本件においては、評価通達による画一的な評価を行うことは他の納税者との租税負担の公平に反するとの見解を示した。
 国税庁は、最高裁判決を受けて、「現時点では、判決の具体的内容を十分把握していませんが、これまで国として主張してきたことが認められたものと考えております。なお、判決の内容にかかわらず、今後とも適正・公平な課税に努めてまいります」とコメントしている。このコメントを踏まえると、今後も露骨な租税回避スキームに対しては総則6項が適用される事案が続くおそれがある。一方、実務家の間では、総則6項の趣旨に照らして適切なのかどうかを疑問視する声が一層高まることになりそうだ。
 また、そもそも通達評価額と実勢価格とのかい離が大きいという評価通達の仕組み自体に問題があるのではないかとの声もかねてからあり、最高裁で原判決が覆る可能性は低いと見ていた実務家らの間でも、「評価通達の仕組みの見直しが迫られるのではないか」との予測や「これまで曖昧だった総則6項に何らかの適用基準が示されるのではないか」「その基準は、節税の意図などの内心によるものではなく客観的な情報のみを考慮すべき」など、総則6項に対し最高裁から何らかの踏み込んだ見解が示されることへの期待が高まっていた。しかし、最高裁からこれらに関する見解は示されなかったため、実務家らからは早速落胆の声が上がっている。

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