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解説記事2022年05月30日 税務マエストロ 令和4年度改正(2)(2022年5月30日号・№932)

税務マエストロ
令和4年度改正(2)
#274
 税理士 熊王征秀


略歴
学校法人大原学園に税理士科物品税法の講師として入社し、在職中に酒税法、消費税法の講座を創設。その後、会計事務所勤務を経て税理士登録、独立開業。『消費税法講義録』等、著書多数。
現在
東京税理士会会員相談室委員
東京地方税理士会税法研究所研究員
日本税務会計学会委員
大原大学院大学教授

マエストロの解説

 今回は、令和4年度の消費税改正のうち、公売特例や仕入明細書の取扱いなど、免税事業者の登録申請手続の他に手当てされたインボイス関係の改正内容を確認する。

Ⅰ 公売等の特例

1 公売による財産の処分

 公売等による財産の売却については、原則として譲渡人である滞納者がインボイスを交付し、買受人がそのインボイスを保存する必要があるが、「媒介者交付特例」を適用して、公売等の執行機関が滞納者に代わってインボイスを交付し、買受人がそのインボイスを保存することにより仕入税額控除を認めることとしている。
<参考>
 「媒介者交付特例」とは、次の①及び②の要件を満たすことにより、受託者の名称や登録番号などを記載したインボイスを、委託者に代って交付することができる制度である(次頁上図参照)。

① 委託者と受託者のいずれもが適格請求書発行事業者であること
② 書面又は契約書などにより、委託者が適格請求書発行事業者である旨を受託者に通知すること

(消令70の12・インボイス通達3−7、3−8・インボイスQ&A問39)

2 公売等の特例

 公売等により落札(購入)した財産について、買受人が滞納者から直接インボイスの交付を受けることや、公売等の執行機関(受託者)が「媒介者交付特例」の適用要件である「登録を受けている旨の通知」を滞納者(売手)から受けることは困難が伴うケースが多いものと思われる。
 そこで、適格請求書発行事業者である滞納者の財産が公売等により処分された場合には、執行機関が滞納者に代わってインボイスを発行することを認めることとしたものである(新消令70の12⑤〜⑦)。

Ⅱ 国外事業者に対する登録の拒否と取消し

1 国外事業者の定義

 非居住者である個人事業者と外国法人を「国外事業者」という(消法2①四の二)。
 国外事業者は、国内取引のための事務所などを日本国内に有するかどうかで次のように区分されている(消法57の2⑤)。

2 納税管理人の選定

 下記の国外事業者は、納税管理人を定めることが義務付けられている(国通法117①)。

・国内に住所も居所もない個人事業者
・国内に事務所も事業所もない外国法人

 個人事業者については、「居所」の定義から事務所及び事業所が除かれているため、国内に住所や居所がない場合でも、国内に事務所や事業所がある場合には納税管理人の定めが必要となる。
(注)法人については、国内に事務所や事業所がある場合には納税管理人の選定は不要となる。

3 問題点

 特定国外事業者については、税務代理人(納税管理人)の氏名や住所、事務所の名称と所在地を記載した登録申請書の提出が必要とされている(消法57の2②、消規26の2①二)。
 これに対し、特定国外事業者以外の国外事業者については、納税管理人の定めはあるものの、その選定と登録申請書への記載は登録要件とされていない(消法57の2②、消規26の2①三)。
 結果、納税管理人を選定しない国外事業者が、ホテルの一室や知人宅を事務所等として登録申請書を提出した場合であっても現行法では登録を拒否することができないため、登録をした国外事業者が、インボイスを発行した上で消費税の申告・納税をしないままに海外逃亡を企てるような脱税行為(ミッシングトレーダー)が想定される。

4 改正内容

 国内に住所等がない国外事業者が、国内に事務所等を設置して納税管理人を定めていない場合には登録を拒否できることとし、既に登録済の国外事業者については登録の取消しができることとした(改消法57の2⑤Ⅰイ・⑥Ⅰニ)。
 また、虚偽の記載により登録を受けた場合には、登録の取消しができることとされている(改消法57の2⑥Ⅰヘ)。

Ⅲ 仕入明細書等の取扱い

 個人事業者が家事用資産を売却しても課税の対象とはならない。よって、適格請求書発行事業者である個人事業者が家事用資産を売却してもインボイスを発行することができないため、購入資産を事業用に使用する場合であっても、購入者は仕入税額控除ができないことになる。
 一方で、買手側が下記①〜⑦の事項を記載した仕入明細書を作成し、その内容について売手側の確認を受けた場合には、その仕入明細書を法定書類として仕入税額控除が認められている(消令49④)。

① 仕入明細書の発行者の氏名又は名称
② 課税仕入れの相手方(売手側)の氏名又は名称
③ ②の登録番号
④ 取引年月日
⑤ 取引内容(軽減対象品目である場合にはその旨)
⑥ 税率区分ごとの支払金額と適用税率
⑦ ⑥に対する消費税額等

(注)売手側が非登録事業者の場合には、③の登録番号の記載ができないので仕入明細書を発行することはできない。
 そこで、令和4年度改正では、仕入明細書による仕入税額控除は、売手側(課税仕入れの相手側)で課税されている場合に限り、認めることとした(改消法30⑨三)。結果、個人事業者の家事用資産の譲渡のように売手側で課税されていない取引(課税売上げとして申告していない取引)は、買手側でも仕入税額控除ができないこととなる。

 なお、中古自動車のような古物の販売業者が、サラリーマンなどの非登録事業者から購入する販売用の自動車など(古物)については、インボイスがなくても仕入税額控除が認められている(消令49①一ハ(1))。

Ⅳ 電子データによる区分記載請求書等の受領

 区分記載請求書には電子インボイスのような電子データによる保存を認める旨の規定がないことから、電子データによる保存は認められていなかった。
 そこで、「電子区分記載請求書」を保存する場合にも、令和5年10月1日から令和11年9月30日までの間に暫定的に認められている80%(50%)控除の仕入税額控除の経過措置を適用することとしたものである(新平成28年改正法附則52①、53①)。

Ⅴ 棚卸資産の税額調整

 免税事業者がインボイスの登録をして課税事業者になった場合の保有棚卸資産の税額調整は、令和5年10月1日から令和11年9月30日までの間に認められている80%(50%)控除の経過措置に関わらず、その全額を税額調整の対象とすることができる(新平成28年改正法附則52④、53④)。
 免税期間中の課税仕入れに係る棚卸資産について、申告義務がないにも関わらず、適格請求書発行事業者から仕入れたものと非登録事業者から仕入れたものに区分することは非現実的である。こういった理由から免税期間中の課税仕入れに係る棚卸資産については、その全額を仕入控除税額の計算に取り込むことにしたものと思われる。

Ⅵ 取戻し対象特定収入に対する仕入税額の加算調整

 消費税法別表第三に掲げられている公益法人などが、補助金などの特定収入により課税仕入れを行った場合、その特定収入に係る課税仕入れ等の税額については仕入税額控除が制限されている。
 ただし、特定収入に係る課税仕入れ等の税額には、非登録事業者からの課税仕入れも含まれることとなるため、仕入税額控除が制限される「特定収入に係る課税仕入れ等の税額」が過大に算出されることとなってしまう。

 そこで、法令や交付要綱により報告が義務付けられている文書などにおいて、使途特定収入を非登録事業者からの課税仕入れに充てたことが確認できる場合には、その確認できる課税期間において、過大に算出された税額を調整後の仕入税額に加算できることとなった(新消令75⑧⑨)。

1 要 件

 次頁上の割合が5%を超える場合には、取戻し対象特定収入に対する仕入税額を加算調整することができる。

(注)「控除対象外仕入れに係る支払対価の額」とは、非登録事業者から行った課税仕入れであることにより、仕入税額控除ができないこととなる課税仕入高をいう。
  また、「取戻し対象特定収入」とは、上記の割合が5%を超える場合のその使途特定収入をいう。

2 加算調整税額の計算

 控除対象仕入税額の計算では、調整前の仕入税額から特定収入に係る課税仕入れ等の税額を控除した後で下記の調整税額を加算することができる。

(注)加算調整税額は、取戻し対象特定収入のあった課税期間の「調整割合」により計算する。
  また、加算調整税額が、非登録事業者からの課税仕入れに対する経過措置の適用を受けるものである場合には、下表のそれぞれの期間に応じた税額を加算することになる(平成30年改正令附則22②、23②)。

<解説>
 使途不特定収入に対応する税額の計算では、控除対象外仕入れに対する税額(非登録事業者からの課税仕入れに充てられた税額)も調整前の税額からマイナスする。

 よって、「控除対象外仕入れに対する税額×調整割合」だけ、使途不特定収入に対応する税額が減少することになる。
 加算調整税額の計算は、控除対象外仕入れに対する税額から、この減少した「控除対象外仕入れに対する税額×調整割合」をマイナスする必要があるので、結果として「控除対象外仕入れに対する税額×(1−調整割合)」が、加算調整税額となるのである。
 この計算式の意味について、実際に数値を使って検証する。なお、いずれの計算例についても課税売上高は5億円以下で、かつ、課税売上割合が95%以上のケースである(円単位は省略表示)。

 使途特定収入に係る税額のうち、非登録事業者からの課税仕入れに充てられた税額(78)は、使途不特定収入に対応する税額の計算で、調整前の税額(390)からマイナスする((5)②の計算)。
 これにより、使途不特定収入に対応する税額が、「非登録事業者からの課税仕入れに充てられた税額×調整割合」だけ減少することになる。
 加算調整税額は、非登録事業者からの課税仕入れに充てられた税額(78)から「非登録事業者からの課税仕入れに充てられた税額×調整割合」(78×8.9%≒7)だけ減らす必要がある(78−7=71)ので、結果として「非登録事業者からの課税仕入れに充てられた税額×(1−調整割合)」の算式により計算することになるのである(78×(1−8.9%)≒71)。


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