解説記事2019年12月23日 税務マエストロ 軽減税率制度(11)(2019年12月23日号・№816)
税務マエストロ
軽減税率制度(11)
#240
熊王征秀(税理士)
略歴
学校法人大原学園に税理士科物品税法の講師として入社し、在職中に酒税法、消費税法の講座を創設。その後、会計事務所勤務を経て税理士登録、独立開業。『消費税トラブルの傾向と対策』等、著書多数。現在東京税理士会会員相談室委員東京税理士会調査研究部委員東京地方税理士会税法研究所研究員日本税務会計学会委員大原大学院大学教授
マエストロの解説
まったくもって納得できないところではあるが、週に2回以上発行する定期購読契約がされた新聞の譲渡には軽減税率が適用されることとなっている。今月は、軽減税率の適用対象となる「新聞の譲渡」について、国税庁のQ&Aをベースにその範囲を確認する。
1 国税庁Q&Aの検討
消費税の軽減税率制度に関する国税庁のQ&Aのうち、個別事例編の「Ⅴ「新聞の譲渡」の範囲等」について、その内容を検討する。
問 | 答(一部省略) |
(いわゆるスポーツ新聞や業界紙の販売) いわゆるスポーツ新聞や業界紙の販売は、軽減税率の適用対象となりますか(問97)。 |
軽減税率の適用対象となる「新聞」とは、定期購読契約が締結された週2回以上発行される、一定の題号を用い、政治、経済、社会、文化等に関する一般社会的事実を掲載するものです(改正法附則34①二)。 したがって、いわゆるスポーツ新聞や業界紙、日本語以外の新聞等についても、1週に2回以上発行される新聞で、定期購読契約に基づく譲渡であれば、軽減税率の適用対象となります。 |
<筆者コメント> 軽減税率の適用対象となる「新聞」とは、一定の題号を用い、政治、経済、社会、文化等に関する一般社会的事実を掲載する新聞とされている。したがって、野球の結果や競馬の予想、芸能人の色恋沙汰などを主に取り扱っているスポーツ新聞の譲渡には、軽減税率は適用できないようにも思えるところではあるが、国税庁のQ&Aには、いわゆるスポーツ新聞や業界紙、日本語以外の新聞等についても、1週に2回以上発行される新聞で、定期購読契約に基づく譲渡であれば、軽減税率の適用対象になると説明されている(軽減税率Q&A(個別事例編)問97)。 残念ながら、スポーツ新聞が一定の題号を用い、政治、経済、社会、文化等に関する一般社会的事実を掲載する新聞に該当する理由についての説明はされていない。 |
|
(「定期購読契約」に基づく新聞の範囲) コンビニエンスストアで販売する新聞は、軽減税率の適用対象となりますか(問98)。 |
「定期購読契約」とは、その新聞を購読しようとする者に対して、その新聞を定期的に継続して供給することを約する契約をいいます(改正法附則34①二)。 したがって、コンビニエンスストア等の新聞の販売は、定期購読契約に基づくものではないため軽減税率の適用対象となりません。 |
(1週に2回以上発行する新聞) 当社が販売する新聞は、通常週2回発行されていますが、休刊日により週に1回しか発行されない場合があります。この場合の新聞の販売は、軽減税率の適用対象となりますか(問99)。 |
「1週に2回以上発行する新聞」とは、通常の発行予定日が週2回以上とされている新聞をいいますので、国民の祝日及び通常の頻度で設けられている新聞休刊日によって発行が1週に1回以下となる週があっても「1週に2回以上発行する新聞」に該当します(改正法附則34①二、軽減通達14)。 したがって、ご質問の新聞が、定期購読契約に基づくものであれば、軽減税率の適用対象となります。 |
(ホテルに対して販売する新聞) 当社は、新聞販売店を経営しています。当社がホテルに販売する週2回以上発行される新聞は、ホテルが従業員の購読用とするもののほか、ロビーに設置するもの、そのホテルの宿泊客に無料で配布するものがあります。この場合、当社の新聞の販売は、軽減税率の適用対象となりますか。 なお、当社とホテルとの間では、定期購読契約に基づき毎日一定の固定部数を納品するほか、当日の宿泊客数に応じて追加部数を納品しています(問100)。 |
軽減税率の適用対象である「新聞」は、定期購読契約に基づくものとされており、「定期購読契約」とは、その新聞を購読しようとする者に対して、その新聞を定期的に継続して供給することを約する契約をいいます(改正法附則34①二)。 ここでいう「購読」とは、「購入して読むこと」をいい、購入した者が「自らの事業に使用すること(再販売することは除きます。)」も含まれます。 このため、ご質問のように、ホテルの従業員の購読用とするもののほか、ホテルの宿泊客の閲覧用としてロビー等に設置するものや無料で配布するものも、ホテルが「自らの事業に使用すること」に含まれますので、ご質問の新聞の販売は、「購読」しようとする者であるホテルに対して販売するものに該当します。 また、毎日一定の固定部数を納品するものは「定期的に継続して供給する」ものに該当しますが、当日の宿泊客数に応じて追加で納品するものは、「定期的に継続して供給する」ものに該当しません。 したがって、ご質問の場合、毎日納品する固定部数部分については、軽減税率の適用対象となりますが、当日の宿泊客数に応じて納品する追加部数部分については、軽減税率の適用対象となりません。 (注)ホテルで再販売(ホテルの売店等での販売や、宿泊客から新聞代を徴して配布すること)するためのものとして新聞を販売する場合、ホテルは「購読」しようとする者には当たらないことから、軽減税率の適用対象となりません。 |
(電子版の新聞) インターネットを通じて配信する電子版の新聞は、軽減税率の適用対象となりますか(問101)。 |
「新聞の譲渡」とは、一定の題号を用い、政治、経済、社会、文化等に関する一般社会的事実を掲載する新聞(1週に2回以上発行する新聞に限ります。)の定期購読契約に基づく譲渡をいいます(改正法附則34①二)。 他方、インターネットを通じて配信する電子版の新聞は、電気通 信回線を介して行われる役務の提供である「電気通信利用役務の提供」に該当し、「新聞の譲渡」に該当しないことから、軽減税率の適用対象となりません(消法2①八の三)。 |
(紙の新聞と電子版の新聞のセット販売) 紙の新聞と電子版の新聞をセット販売していますが、軽減税率の適用対象となりますか。 これらの新聞は、定期購読契約が締結された週2回以上発行されるものです(問102)。 |
軽減税率の適用対象となる「新聞の譲渡」とは、一定の題号を用い、政治、経済、社会、文化等に関する一般社会的事実を掲載する新聞(1週に2回以上発行する新聞に限ります。)の定期購読契約に基づく譲渡をいいます(改正法附則34①二)。他方、インターネットを通じて配信する電子版の新聞は、電気通信回線を介して行われる役務の提供である「電気通信利用役務の提供」に該当し、「新聞の譲渡」に該当しないことから、軽減税率の適用対象となりません(消法2①八の三)。 このため、ご質問のように紙の新聞と電子版の新聞をセット販売している場合には、セット販売の対価の額を軽減税率の適用対象となる「紙の新聞」の金額と、軽減税率の適用対象とならない「電子版の新聞」の金額とに区分した上で、それぞれの税率が適用されることとなります。 (注)例えば、「紙の新聞」は新聞販売店、「電子版の新聞」は新聞本社が提供する契約となっている場合、それぞれ異なる取引として個別に課税されることになるため、対価の額は区分され、適用税率も取引ごとに判定されることとなります。 |
<筆者コメント> N新聞社では、宅配新聞と電子新聞をセットにした割引プランを実施しており、セット料金5,900円のうち、電子部分は1,000円と明記している。新聞の譲渡には、飲食料品の譲渡について適用される「一体資産」のような規定はないので、宅配新聞の料金4,900円に軽減税率、電子新聞の料金1,000円に標準税率が適用されることになる。 ※紙の新聞の価格(4,900円)がセット料金5,900円の3分の2以上を占めることから、「一体資産」の判定によりセット料金全体に軽減税率が適用されるものと誤解してはならない。 4,900÷5,900円≒83%≧66.6%(2/3) |
2 新聞販売店の取引
取 引 | 適用税率 |
① 朝夕に配達している新聞の購読料収入 | 週2回以上発行される日刊新聞などであれば、原則として軽減税率の対象となる。 |
② 日刊紙をコンビニに適当数配達し、販売された分だけ代金を回収する新聞代収入 | たとえ上記①と同種の新聞であっても、定期購読契約に基づくものでないことから、軽減税率の対象とはならない。 |
③ 日刊紙を店頭で小売りした際の新聞代収入 | |
④ 上記①の新聞に折り込んだ広告の折込代収入 | 新聞の売上高ではないことから、軽減税率の対象とはならない。 |
⑤ 市報の配達手数料収入 | |
⑥ 各新聞社からの新聞の仕入代金 | 定期購読契約に基づくものでないことから、軽減税率の対象とはならない。 |
⑦ 上記⑥の新聞の仕入時に各新聞社から受ける販売奨励金収入 | 「仕入れに係る対価の返還等」に該当する。なお、対象となった課税仕入れにつき標準税率が適用されることから、調整税額についても標準税率に基づいて計算する。 |
新聞販売店は、各新聞社から新聞を仕入れ、これを定期購読契約に基づいて顧客に配達し、新聞代を受領する。各新聞社による新聞販売店への新聞の譲渡は、たとえ顧客との定期購読用の新聞であっても、軽減税率の対象とはならないことに注意する必要がある。あくまでも定期購読契約を結ぶのは読者であり、各新聞社と新聞販売店の間に定期購読契約はないのである(図1参照)。
また、新聞販売店が新聞の仕入時に各新聞社から受ける販売奨励金については、「仕入れに係る対価の返還等」に該当する。販売奨励金の適用税率については、その対象となった課税仕入れの事実に基づいて判断するので、新聞社からの新聞の仕入代金には標準税率が適用されることから、収受する販売奨励金についても標準税率が適用されることになる。
ところで、新聞販売店については、新聞の仕入時に標準税率を適用して新聞代を支払い、その販売時に軽減税率を適用して代金を回収していくことになる。この結果、確定申告時の負担は少なくなるものの、月々の資金繰りは厳しくなることが予想されるので、令和元年10月以後の資金繰りには十分に注意する必要がありそうだ。
※参考文献:消費税率引上げ・軽減税率・インボイス 業種別 対応マニュアル(熊王征秀編著-日本法令)

記事に関連するお問い合わせ先
記事に関するお問い合わせは週刊「T&Amaster」編集部にお寄せください。執筆者に質問内容をお伝えいたします。
TEL:03-5281-0020 FAX:03-5281-0030 e-mail:ta@lotus21.co.jp
※なお、内容によっては回答いたしかねる場合がありますので、あらかじめご了承ください。
当ページの閲覧には、週刊T&Amasterの年間購読、
及び新日本法規WEB会員のご登録が必要です。
週刊T&Amaster 年間購読
新日本法規WEB会員
試読申し込みをいただくと、「【電子版】T&Amaster最新号1冊」と当データベースが2週間無料でお試しいただけます。
人気記事
人気商品
-
-
団体向け研修会開催を
ご検討の方へ弁護士会、税理士会、法人会ほか団体の研修会をご検討の際は、是非、新日本法規にご相談ください。講師をはじめ、事業に合わせて最適な研修会を企画・提案いたします。
研修会開催支援サービス -
Copyright (C) 2019
SHINNIPPON-HOKI PUBLISHING CO.,LTD.