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解説記事2020年01月20日 税理士のための相続法講座 相続法改正(9)―特別の寄与②(2020年1月20日号・№819)

税理士のための相続法講座
第54回
相続法改正(9)―特別の寄与②
 弁護士 間瀬まゆ子


2 特別の寄与の要件(つづき)
 前回(本誌815号)に引き続き、今回のテーマは特別寄与料の制度についてです。
 特別寄与料の請求が認められるための要件は以下のとおりです。

① 被相続人の親族であり、相続人でないこと
②  無償で療養看護、その他の労務を提供したこと
③  被相続人の財産の維持又は増加
④ ②と③の因果関係
⑤ 特別の寄与

 このうち、前回①と②についてお話ししました。今回は、③~⑤について説明していきます。
 まず、③と④については、相続人の寄与分の場合と同様、単に寄与行為をしたというだけでは足りず、その結果被相続人の財産を維持又は増加させているまで要求されます。
 財産を渡したという金銭等出資型の寄与分ならともかく(前回述べたとおり金銭等出資型の寄与行為につき特別寄与料の請求は認められません。相続人の寄与分と異なる点です。)、療養看護型の場合、この要件の解釈が難しい場合があります。
 例えば、献身的な療養看護がなされた場合に、被相続人が精神的に支えられたであろうことは容易に想像されます。しかし、残念ながら、それだけでは特別寄与料の請求は認められません。寄与行為が、財産の増加あるいは財産の減少の阻止につながっていないからです。
 療養看護型でこの要件が認められるためには、被相続人がヘルパーさん等に頼んで費用を支払うべきところ、相続人以外の親族が代わりに療養看護することで、その支払を免れたというような事実関係が必要になります。精神的な貢献では足りないのです。
※この点、立案担当者は、精神的な疾患を抱えた高齢者に長期間付き添いながら精神的な援助をしたという場合でも、本来負担すべきであった看護委託費用の出費を免れたと評価することができる場合には、被相続人の財産の維持又は増加に貢献したと評価できると言っています(堂薗幹一郎、神吉康二「概説改正相続法―平成30年民法等改正、遺言書保管法制定―」164ページ)。しかしながら、精神的な疾患について介護保険のような制度はなく、上記のような認定ができるのは限定的な場合であろうと思われます。
 続いて、⑤の要件について解説します。この「特別の寄与」に関しては、寄与分の要件としての「特別の寄与」とは求められる寄与の程度が異なると言われています。
寄与分の「特別の寄与」……寄与の程度が被相続人と相続人の身分関係に基づいて通常期待される程度の貢献を超えるものであることが必要
特別寄与料の「特別の寄与」……特別の寄与者の貢献に報いるのが相当と認められる程度の顕著な貢献(寄与分と異なり、寄与行為者と被相続人との関係が近いか遠いかといったことは問題にされません。)。
 抽象的な表現で分かりにくいかと思いますが、特別寄与料の「特別の寄与」の方が求められる程度が低い、つまり特別寄与料の場合の方が「特別の寄与」があったと認められやすいのです。
 ただ、前回も述べたとおり、元々寄与分が裁判所で認められるハードルが高く、特別寄与料についても同じ枠組みで運用されるため、寄与分と同様、請求する当事者の期待と裁判所の認識との間に相当のギャップが生じるのではないかと懸念しています。当事者間でスムーズに話し合いがまとまればよいのですが、寄与行為者が裁判所の判断を仰ぐ段になると、思いの他、厳しい現実に直面することになる可能性があるのです。
 具体的には、療養看護型の場合に特別の寄与と認められるためには、

・療養看護の必要性(単に高齢というだけでは足りない。また、病院や施設に入所している期間は原則として特別の寄与が認められない。)
・継続性(少なくとも1年以上の継続が必要。)
・専従性(仕事のかたわら通って介護した場合はダメ。)

といった要素を満たすことが必要とされるものと思われます。これだけ見ても、認められないケースが多く発生し得ることはお分かり頂けるのではないでしょうか。
 もちろん、これらを満たすような事実を主張することに加え、その裏付けとなる証拠資料の提出も求められます。

3 特別寄与料の額
 特別寄与料の額は、法律上一義的に定まるわけではなく、当事者間の話し合いにより決められることになります。ただ、上限については、被相続人が相続開始時に有していた財産の価額から遺贈の価額を控除した残額を超えることができないとの縛りがありますが(民法1050条4項)、その範囲であれば自由に決められます(税務上は、あまりに高額にすると過大であるとして、贈与の認定をされてしまう可能性があるかもしれませんが。)。
 当事者間で協議が成立せず、また協議ができない場合には、特別寄与者が家庭裁判所に対して協議に代わる処分を請求できることになっています(民法1050条2項)。家庭裁判所が決定する場合には、特別の寄与料の額を決めるにあたり、寄与の時期、方法や程度、相続財産の額その他一切の事情を考慮するとされています(民法1050条3項)。ここでいう一切の事情には、相続債務の額、被相続人による遺言の内容、各相続人の遺留分、特別寄与者が生前に受けた利益等が含まれると考えられています(片岡ほか前掲書167ページ)。
 このように多くの事情を考慮するとされてはいますが、実は、家庭裁判所における寄与分の額の算定方法は比較的定型化されており、特別寄与料についても同様の算定方式が用いられることになりそうです。具体的には、療養看護型の場合、

 介護報酬相当額×療養看護の日数×裁量割合(0.5~0.8)

という算定式により求められます。
 すなわち、介護や看護の事業者に依頼した場合にどの程度の報酬が発生するかをまず算出し、その上で寄与行為者は専門家でない等の事情を考慮し裁量割合として一定の減額をするのです。
 このような積み上げ方式で計算するため、療養看護型の特別寄与料は高くても数百万円にしかならないでしょう。被相続人の財産が数十億円もあったりすると、寄与行為者は高額の特別寄与料をもらえると期待するでしょうが、そうはならないのです。

4 特別寄与料を定める手続
 既に述べたとおり、当事者間で特別寄与料について協議が成立しない場合、寄与行為者は家庭裁判所に調停・審判を求めることができます。ところが、この権利行使が可能な期間(除斥期間)が、特別寄与者が相続の開始及び相続人を知った時から6か月以内又は相続開始の時から1年以内に限定されています(民法1050条2項)。最長で1年しかありませんから、多くの寄与行為者が期限を徒過してしまうことが考えられます。
 ただ、裁判所に請求できる期間を過ぎていても、当事者間で協議して決める限りは問題がありません。当事者間であれば、特別寄与料の要件や額の算定方法に関する裁判所の考え方に縛られずより柔軟な決定ができますので、本来はそのような解決が望ましいところです。
 なお、特別寄与料は各相続人が自らの相続分に応じて負担することになりますが(民法1050条5項)、請求する場合に、全員を相手方とする必要はありません。例えば、自分の配偶者や義理の親は除いて、配偶者の兄弟にのみ請求するということも可能です。

5 特別寄与料に係る税務
 特別寄与者が支払いを受けるべき特別寄与料の額が確定した場合には、特別寄与者が遺贈により当該金額を取得したものとみなして相続税が課税されることになります(相続税法4条2項)。
 一方、相続人の方では、支払うべき特別寄与料の額を、相続税の課税価格から控除することができ(相続税法13条4項)、更正の請求により差額分の還付を受けることができます(同法32条1項7号)。
 特別寄与料として支払う場合の課税は上記のとおりですが、元々特別寄与料は高額の請求が認められるようなものではなく、金額によっては、特別寄与料ではなく、相続人から特別寄与者への贈与としてしまった方が簡便かもしれません。

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