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解説記事2020年02月17日 第2特集 贈与税リスクを説明しなかった顧問税理士に対して損害賠償(2020年2月17日号・№823)

第2特集
東京地裁、信義則上の義務違反を認める
贈与税リスクを説明しなかった顧問税理士に対して損害賠償


 納税者(原告)の会社の前代表取締役であった父の未払退職金について、顧問税理士(被告)の進言に従い債務免除をしたところ、贈与税等が課せられたとして、税理士に約600万円の損害賠償を請求していた事件で、東京地方裁判所(杜下弘記裁判官)は令和元年10月15日、原告の主張を一部容認し、被告に約140万円の損害賠償請求を認める判決を下した。東京地裁は、確定申告業務に係る委任契約上の義務に直接的に違反するとはいえないとしたが、贈与税が課税される可能性について明確にしなかったことについて、信義則上の義務を履行しなかった過失があると判断した。なお、同事件は東京高裁に控訴されている。

税理士から債務免除による贈与税の課税リスクの説明なし

 本件は、納税者(原告)の会社の前代表取締役であった父の未払退職金(5,000万円)について、顧問税理士(被告)の進言に従い債務免除したところ、その後、税務署から同族会社の債務免除によるみなし贈与に該当(相法9条、相基通9-2)するとして、贈与税及び無申告加算税等が課せられたもの(表1参照)。原告は、税理士から債務免除によって贈与税が課税されることの説明がなかったことから、税理士に対して約600万円の損害賠償を求めた税賠事件である。

【表1】経緯

平成17年  被告(税理士)は、会社の前代表者である原告(納税者)の父に対し、相続時精算課税制度の利用を進言。贈与税について税務代理人として税務申告手続を行った。
平成19年  原告の父が会社の取締役を退任するに当たり、退職金として8,950万円の支給を決定。しかし、資金不足のため5,000万円が未払いであった。
平成23年  被告は会社の決算対策として、会社の代表取締役であった原告に対し、未払退職金について父が債務免除することを進言した。
 その後、平成23年12月期に3,000万円、平成24年12月期に2,000万円の未払退職金債務を免除した。
平成27年  父が死亡。
平成29年  相続税に関する税務調査により、原告に平成23年分及び平成24年分の贈与税の申告義務が発覚。

 原告は、債務免除によって贈与税を負担する必要がある旨の説明を受けていれば、債務免除の方法は選択していないとし、贈与税について何ら説明しないことは委任契約上の善管注意義務に違反するなどと主張した(表2参照)。

【表2】当事者の主張及び東京地裁の判断

原告(納税者)の主張 被告(税理士)の主張 裁判所の判断
(争点1)債務免除によって贈与税が課税されることの説明をしなかったことが委任契約上の善管注意義務に違反するか
・被告から債務免除によって原告が贈与税を負担する必要がある旨の説明を受けていれば、債務免除の方法は選択しない。
・被告は、原告個人との間で税務申告についての委任契約を締結していたところ、このような重要な事項について何ら説明しないことは、委任契約上の善管注意義務に違反する。
・訴外会社が同族会社であることから、被告は原告に対して、債務免除によって原告が保有する訴外会社の株式価値が増加する場合には、その分贈与税がかかることになる旨の説明をした。
・当時は業績の悪い訴外会社の決算対策が課題であったため、贈与税がかかるとの説明にそれほどの重点を置いていなかった可能性があるが、被告は原告に対して贈与税についての説明をしており、被告に委任契約上の善管注意義務違反はない。
・被告は税務代理人として、平成17年分から平成24年分までの被相続人及び原告の確定申告手続を行っていたが、その後は他の税理士に交代し、被相続人の相続税については、被告以外の税理士が申告手続を行っている。
・所得税に関して確定申告手続の依頼を受けて同手続について委任契約を締結した税理士が、税目の異なる贈与税についての申告業務を行うべき義務を負うということはできないことからすると、被告が原告に対して贈与税について説明しなかったとしても、原告との間で締結した確定申告業務に係る委任契約上の義務に直接的に違反するとまでいうことはできない。
(争点2)被告が原告に対して債務免除によって贈与税が課税されるとの説明をしなかったことが不法行為を構成するか
・被告は、債務免除によって原告に贈与税が課税されることを知りながら、その旨の説明をしなかったのであり、このような不法行為は高度の注意義務に違反する違法な行為である。 ・原告の主張を争う。 ・被告は、同族会社である訴外会社の顧問税理士として財務状況を把握する一方、経営者であり株主である被相続人及び原告の確定申告手続を受任し、同人らの所得の状況を把握する立場にあったということができる。しかし、被告は原告に対し、贈与税が課税される可能性について明確にすることなく、原告をして無申告のまま放置させるに任せたのであるから、少なくとも被告には信義則上の義務を履行しなかった過失があるというべきであり、被告による信義則上の義務違反は不法行為を構成する。
原告(納税者)の主張 被告(税理士)の主張 裁判所の判断
(争点3)原告の損害
・原告は、相続税、無申告加算税及び延滞税として合計357万9,000円の納税義務を負っただけでなく、税務調査において税務署から複数回の事情聴取を受けた上、脱税者扱いをされて多大な精神的苦痛を被っており、これを金銭に換算すると100万円を下らない。 ・原告の主張を争う。 ・原告は適時に申告していれば負担する必要がなかった無申告加算税及び延滞税を負担しており、これらの合計額である100万9,000円は被告の不法行為と因果関係のある損害と認められる。
・税務調査に対応するための原告の負担は、被告の不法行為と因果関係のある損害であるということができる。このような原告の有形無形の負担のうち精神的負担を金銭に換算すると、40万円をもって相当と認める。
(争点4)損益相殺
・債務免除の当時、訴外会社は経営難に陥っており、この状況においては被相続人の訴外会社に対する未払退職金に係る債権を低廉な価格で第三者に譲渡することにより、被相続人の相続財産を減少させ、相続税を減額することは容易であり、債務免除以外の方法により相続税の減額が可能である以上、被告の損益相殺の主張は認められない。 ・仮に被告に善管注意義務違反があるとしても、原告は債務免除によって相続税を249万9,000円減額する利益を受けており、原告に発生した損害は、この減額分の利益と相殺されるべきである。 ・本件においては、無申告加算税及び延滞税の額並びに精神的損害を金銭に換算した額をもって原告の損害と認めるから、被告の主張する相続税の減税額分について通算すべき対応関係は認められない。

申告が必要なら助言する信義則上の義務あり

 裁判所は、被告は債務免除の方策を説明するに際し、納税者に対して債務免除により会社の財務状況が改善され、推定相続人である原告にとっても相続税が減額されるメリットがあることについて説明したが、その一方では、会社の経理担当者に対し、原告の会社の株式価値が増加すれば、増加額に応じて贈与税が課税されることを認識しながら、原告個人に贈与税が課されるかどうかやその税額について具体的なシミュレーション、これに基づくアドバイスはしなかったと認定した。
 この点、被告は財務状況が芳しくない会社の株式価値がそれほど増加するとは考えていなかったとするが、担税力は株式価値の相対的増加に見いだされるものであり、会社に対する数千万円規模の債務免除により同社の株式価値が増加することは明らかであると指摘。この点を意識していれば税理士である被告にとって、原告個人に贈与税が課税される可能性が高いことも明らかであったとした。
確定申告の委任契約上の債務不履行はなし
 その上で本件についてみると、被告は税務代理人として、平成17年分から平成24年分までの被相続人及び原告の確定申告手続を行っていたが、その後は他の税理士に交代し、被相続人の相続税については、被告以外の税理士が申告手続を行っていると指摘。所得税に関して確定申告手続の依頼を受けて同手続について委任契約を締結した税理士が、税目の異なる贈与税についての申告業務を行うべき義務を負うということはできないことからすると、被告が原告に対して贈与税について説明しなかったとしても、原告との間で締結した確定申告業務に係る委任契約上の義務に直接的に違反したということはできないとし、委任契約上の債務不履行による損害賠償請求に基づく原告の請求は理由がないとの判断を示した。
説明しなかった点は不法行為を構成
 その一方で裁判所は、委任者は他の税目について申告の必要性を認識しなければ、そもそも税理士に申告業務を依頼しようとは考えないのに対し、申告業務について依頼を受けた税理士は、委任者の財産の状況から他の税目についての申告の必要性を把握することができる場合があり、当該税理士が他の税目について申告が必要となることが確実であると認識すべき場合には、委任者に対して説明し、委任者が申告の要否について判断することができるよう助言する信義則上の義務を負うと解するのが相当であるとした。
 本件では、被告は同族会社である会社の顧問税理士として財務状況を把握する一方、経営者であり株主である被相続人及び原告の確定申告手続を受任し、同人らの所得の状況を把握する立場にあったということができると指摘。被告は原告に対し、贈与税が課税される可能性について明確にすることなく、原告をして無申告のまま放置させるに任せたのであるから、少なくとも被告には信義則上の義務を履行しなかった過失があるというべきであり、被告による信義則上の義務違反は不法行為を構成するとした。
 したがって、被告が贈与税の申告の必要性について原告にしなかったことは原告に対する不法行為を構成し、これによる損害は140万9,000円と認めるのが相当であるとの判断を示した(表2参照)。

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